部屋と廊下を仕切るふすまの前で、かれこれ30分以上はこうして突っ立ったままだ。
 何も好き好んでこんなことをしているはずもない。むしろこんなまどろっこしいことは大嫌いの部類に入る。だが銀時はこのふすまを開くことができずにいた。
 すでに何度も話しかけて、その全てが拒絶の言葉で返された。頑なでまっすぐな心は、若さ故に折れやすく、脆い。責任の一端が自分にあることに、少し罪悪感も感じていた。別段、銀時が何かやらかしたわけでもないのだが、その場の雰囲気でそう思わざるを得ない流れになってしまっていたのだ。
 ふすまの向こうの部屋で、小さくうずくまっているだろう様子が安易に想像できる。小動物を怯えさせてしまったときに似た気まずさで、銀時は帰れないでいる。
「……いつまでそこにいたって、変わりませんよ」
 中から聞こえてきた声は拒絶しか含まない硬さで、今までのやんわりとした説得も全くムダだったことを思い知る。
「もう、帰ってください……すみません」
「…新八……」
 この拒絶が怒りでないことは分かっている。その心には悲しみと絶望で満たされて、例え彼が大切に思っている誰の言葉であろうとも、今は聞き入れられるような状態ではないということも。
「……勝手をして、本当にごめんなさい。……少し、時間を下さい」

 

 

 

 

 話は少し戻る。
 3日前の午後、万事屋に久々の依頼人が訪れた。
 前回引き受けた犬屋敷から大量に放たれた犬を探す仕事から、もうふた月以上は収入のない状態が続いている。あのときは毎日一日中全力疾走で疲労困憊といった風だったが、思い返せば収入もよかったし、結果としては悪くはなかった。……それも、銀時がパチンコと呑み屋通いであっという間に使い果たしてしまったのだが……。
 新八が常々、金銭感覚ゼロの銀時から必死に守っているへそくりから、そして時には自分の小遣いを削りながら大江戸ストアの大安売りで買い置きしておいた食材も限界が近づいていたこの時期の、言わば救世主と言っても過言ではない。
 依頼人は、今年ちょうど18歳だと言う少々派手だが可愛い部類の女性で、ストーカー被害から守ってほしいというものだった。普通、こんなことは警察に行って対処してもらうものなのだろうが、いわゆる家庭の事情で事を大きくしたくないらしく、彼女は自称「勇気を振り絞って」ここへ来たのだそうだ。
 被害に遭っているのはここ数週間のことで、5日後には家族と一緒にどこだかいう星へと移り住むらしいが、その残された数日間、なんとか守ってほしいという内容だった。
 話を聞いて、正直銀時は乗り気ではなかった。そもそも、それほど深刻な雰囲気でもなく、知らない男からつけ回されていると言っている割には怯えた様子もない。万事屋なぞに依頼されるような内容と言えば、どんなものでも大なり小なり面倒事なのだが、別の意味でやっかいだと感じていた。
 支払いは言い値でいいなどと、若い娘にしては大きな口を…とも思いはしたが、それもこの切羽詰まった財政難を乗り切るには仕方のないことなのだろうと、しぶしぶ重い腰を上げたのだった。

 

 

 それからまず1日は、彼女を連れて江戸の街中をふらふらと歩き回った。大勢で行くわけにもいかないので、銀時が一人で護衛をする形を取ったが、
「恋人っぽくしたほうが掴まえやすくなります!」
 という意見のまま、終始腕組み密着の姿勢でうろつくことになった。
 腕に柔らかな胸が当たっていたり、女性特有の柔らかな香りに包まれて、最初は渋っていた銀時もまんざらではないなどと思い始めていた。強引な女は趣味ではないが、たまにはこんな役得もあっていいんじゃね? くらいの軽い気持ちで、時折見知った者にひやかされながら江戸の街を闊歩した。
 そうこうしているうちに日も暮れてきて、そろそろ引き返すつもりで知った裏道へと入ると、急に腕を引かれ、引き留められた。
 立ち止まり、すがるように絡められた腕に何事かと見上げた先に、きわどいピンク色の看板が目に入った。
 いわゆる、休憩したり、宿泊したりするような場所である。
 かぶき町の裏通りなど、この手の店は腐るほどある。どうせなら同じ道ではない通りを歩こうと思ったのだが、普段あまりお世話になるような場所ではないだけに、どんな店が連なった通りなのかまでは気にしていなかったのだ。
「………ダメ、ですか?」
 必死に腕にしがみつき、見上げる瞳はネオンのせいか潤んで見える。濃いめの口紅がやけに艶めいて震えていた。
 分かっていてこの場所に引き留めたのだと知ると、さすがに少しばかり焦る。
「ダメって…」
「……好きなんです」
 ずっと前に、この街であなたを見てから……切ない掠れた声でそう告げられて、銀時は事の次第を悟った。
 そこで銀時は、何かといろいろと考えた。据え膳と取るか、依頼人として距離を置くか、はたまたとりあえず中に入ってから考えるか。
「……つっても、俺所持金217円よ?」
「……あの……私が」
 考えられないくらいの好待遇の据え膳である。しかし銀時は、そこに相手の本気の好意が伺えて、却って冷静になった。
 脳裏に、ちらりと万事屋に残してきた二人の顔が浮かぶ。さすがに依頼人としっぽりいって帰ってきたとなると、何となくいたたまれなくなりそうだ。
「いや、やっぱムリだから。俺、そーゆーのアレなんで…」
 なんとかこの場から立ち去ろうと視線を逸らしてみるが、腕は緩むどころかますます締め付けられた。もはや、胸が当たって気持ちいいというレベルではなくなっていた。
「じゃあ、少しだけ! 休憩していくだけですから! ちょっとお話するだけですから!!」
「おまえそれウソだろ?! そうやって部屋連れ込んで俺を襲うつもりだろ?!」
「そんなことしません!! 絶対、お話するだけですから!!!」 
「俺はだまされねぇぞ! それ連れ込みの常套手段だから!! 連れ込まれたら最後、あの手この手で丸め込まれて、結局おいしくいただかれちゃうから!!」
「お願〜い! ほんの数時間でいいんです〜! ね? 銀さんお願い!」
 可愛くお願いされても、銀時には貞操の危機しか感じなかった。というか、本当の意味で貞操の危機は彼女なのだが、目が本気すぎてかなり怖い。しっぽりなどという表現では収まりそうもない勢いだった。
 このまま店の前で押し問答をしていても埒があかないと、あくまでも抵抗する依頼人を文字通り引きずって、神楽が押し入れに入るような時刻になった頃、何とか万事屋まで帰り着くことができたのだった。
 さりとて女性を夜に一人帰すわけにもいかず、奥の部屋で寝ている様子の二人を起こさぬようスクーターの鍵だけを取りに戻ると、後ろに乗せて家まで送り届けた。そして当然、家の前でも寄っていけだの何だのと一悶着あったのだが、相当強引に振り切って取って返した。
 いっそ何か…えいりあんかなんかと乱闘にでもなったほうがよっぽど気が楽だと思いつつ、精神を削り取られた思いで万事屋にたどり着くなり記憶が飛んでいた銀時だった。気がつくとソファで寝ていて、頭から毛布がかけられていた。

 

 

 依頼人は翌朝、万事屋の面々が朝食をちょうど終えたころ、機嫌良く訪れた。
 昨日の顛末を口にするのも億劫で、結局銀時しか苦労を知らないままになっていた。子供の教育上、あまりよろしくない展開だったので別に話さなくてもいいかとは思っていたが、何も知らない新八は、大金を落とすはずであろう依頼人を快く事務所へと招き入れていて、やっぱり彼にだけでも一言言っておくべきだったかと少しばかり後悔する。
 昨日と同じようにまた街を歩けと言うのだが、あれをまた繰り返すのかと思うと本当は二度とやりたくない。いっそあれか? やっちまったらスッキリして落ち着くか? イヤイヤイヤ、一瞬スッキリするのは俺であって、なんかますます泥沼的な状況に陥りかねん。……などと、万事屋の中をうろうろと見回る依頼人を目で追いながらいらぬ考えを巡らせていた銀時だった。
 事務所での依頼人と銀時のやりとりをしばらく無言で見ていた神楽は、「出かけてくるアル。銀ちゃんだけでその女は満足ネ」などと、少女ながらに女の勘とは恐ろしいと思わせる発言と共に定春を連れて遊びに出かけてしまった。
 ねだる仕草で表へと誘うも、銀時が全く動こうとしないのに焦れたのか、依頼人は周りを味方につける作戦に出たようだった。朝食の後片付けに勤しむ新八にターゲットを変え、台所へと向かっていってしまう。
 この時点で、銀時は彼女の依頼内容の嘘を確信していた。昨日の一件…一件どころではない疲労感だったが、その諸々で、依頼人は最初から銀時だけが目的で、依頼にかこつけて関係を迫ろうとしていたのだということも分かっていた。
 だが、前回の仕事からあっという間に消えてしまった生活費は、自分のパチンコと飲み代に消えている罪悪感から、今更依頼を破棄しようとは言いだしにくかったのだ。新八が管理してくれているという安心感からか、つい景気よく使いすぎてしまい、米もそろそろ尽きようという経済状況の中では、自分さえあと何日か乗り切れば、何かと言いくるめていくらかはせしめることができるのでは……という打算が働いていた。
 依頼人は新八と何やらぼそぼそと話をしていた。内容までは聞こえてこないが、時々新八が驚いた風な声を上げ、そしてまた潜めた声での会話を続けている。昨日の依頼人の行動を見ていると、あることないことを吹き込んでいる可能性もないわけではなく、銀時は内心気が気ではなかった。
 すると突然、件の台所で派手な音が響いた。茶碗か何かが床に落ちたようで、依頼人がきゃあと声を上げていた。銀時はよくない予感が的中したのだと、重い腰を上げた。
「どーした新八ぃ。怪我ねーか?」
 のっそりと台所を覗くと、依頼人は廊下に避難し、新八が小さな声で謝りながら割れた破片を拾っているところだった。
 割れたのは茶碗ではなく、新八本人の湯飲みだった。
 少し前、大江戸ストアの特売日の帰り、陶器の出店を見つけたので神楽の提案でお揃いの湯飲みを買ったのだ。それは色違いで、銀時は白、神楽は桃色、新八は青を選んだ。本当は5客セットだったが、そこまで買う金がなく、店番の親父に頼み込み、わざわざばらして売って貰ったものだ。それほど高いものではなかったが、それらを一番大切にしていたのが新八だったので、気軽に慰めるような言葉も見つからなかった。
 神楽がいなくてよかったと、銀時は思う。この湯飲みが割れて、ショックを受けるのは彼女も同じだろう。勢い余って依頼人に無茶を働く可能性もあった。
「けっこう細かい破片が散らばってますから、二人とも出ててくださいね」
 淡々と拾いながらそう言う新八は、しかし一度も顔を上げようとはしなかった。
 銀時は無性に胸のむかつきを覚え、依頼人の腕を掴むと事務所へと引きずるように戻した。先ほどの二人の会話に、新八が滅多にしないようなミスをするような内容が含まれていたことは明白で、この件で我慢などする必要がないことを悟らせた。
「……わりーけど、この依頼、断るわ。どーせストーカーなんて元からいなかったんだからいいだろ。ウチの助手に何吹き込んだかは知らねーけど、引っかき回すのは勘弁してくれ」
 単に自分と寝たなどという内容では、驚きはするもののあれほど動揺はすまい。過去、酔った勢いでしでかした数々の爛れた所行など、新八にはほとんどばれている。今更関係した女の一人や二人増えたところで、白い目で見られることはあっても、ショックを受けることはないだろう。
「……お金は出すって言ってるんだから、あと少し付き合うくらい構わないでしょ?」
 悪びれた中に少しの困惑を滲ませて、彼女は強気の姿勢を崩さず答える。
「嫌だね。大体、昨日のことで俺ぁもうこりごりなんだよ。あんたがやってることはな、単なる男漁りだ。恋愛の思い出作りでも何でもねぇよ。嘘付いて金で男釣って、挙げ句孕みでもしたら取り返しつかねぇぞ」
「別にいいわよ。あなたの子供なら産んでも」
「そうじゃなくてェ! ……あーもー、疲れた。帰ってくれ。もうこの話はナシだ。依頼はキャンセル! あんたももう来んな!」
 根本的な価値観の違いに疲れ果てた銀時は、それ以上の説得は無駄だと、強引に彼女を玄関口へと押しやった。履き物を持たせて外へ出し、目の前で扉をぴしゃりと閉める。
 玄関先で大声で騒ぎたてるかと思っていたが、予想外に依頼人は黙って立ちつくしていた。すぐに嗚咽らしき声が聞こえてきたが、同情する気は全く起きなかった。むしろ、台所で割れた欠片を一生懸命拾っている助手にどんな言葉をかければいいものか、そのほうがよほど重要なことだった。
 台所をそっと覗くと、新八はこちらに背中を向けて床を雑巾で拭いていた。その姿がいつもにも増して小さく、頼りなく見える。この程度の後始末なら、いつもの彼ならば今頃さっさと終えてしまっている頃だというのに、今は近づくことに危機感を感じそうなほどの重い空気が台所を支配し、その中心で黙々と床を拭き続けていた。
 ちらりと見えた雑巾は、僅かに赤く染まっていた。恐らく破片で手を切ってしまったのだろう。銀時は見ていられず、後ろから覆い被さると忙しなく動く雑巾を取り上げた。
「……もういい。掃除機で吸やぁいいだろ」
 新八からの返答はない。このままでは埒があかないと、銀時は押し入れから掃除機を取り出してきて、台所をきれいに掃除した。台所から廊下へと追い出された新八は、その様子をただじっと見ているだけで、その場から動こうとしない。雑巾をゴミ箱にに捨てるついでとばかりにその腕を取り、洗面所に連れて行った。手を洗わせ、軽く手当も済ませると、その間ずっと目を合わせようとしない新八が座る向かいのソファにどっかりと腰を下ろした。
「……おまえ、何言われたの」
 詰問するような強い口調になってしまったのは、新八に対する怒りでは決してない。だがそれは彼をびくつかせるには十分だった。
「言っとくけど銀さん、今回は別にお前に白い目で見られるようなことしてないからね。そもそも、あーいう積極的で強引な女ってどーも…」
「…違います。そういうんじゃなくて……」
 俯いたまま、新八は答えた。
「すいません。今日は、帰らせてもらっていいすか。ちょっと…気分がよくなくて」
「そりゃ構わねーけど……」
「……すいません」
 その声があまりにか細くて、ずきりと痛む胸に銀時は僅かに目を細めた。
 普段の新八は、何かと生傷の絶えない稼業のせいか、幼い頃からの苦労の賜か、どういう状況に遭っても割合すぐに立ち直る。泣いていたかと思うと、いくらもしないうちにケロリとして「銀さん、今日の夕飯何にします?」などと聞いてきたりする。神楽も同じような傾向があるので、銀時は思春期の少年少女と寝食を共にしている割にはメンタル面でかなり気楽に過ごせているといっていいだろう。そんな放任状態で見守っていればいいだけだった少年が踏まされた地雷とは、一体どれほどのものなのか想像もつかない。家族のことか、家のことか、個人的な…容姿や性格のことか。思い当たるものはどれもなく、やはり直接訊かなければ彼の様子はずっとこのままのような気がしていた。
 外には、既に依頼人の姿はなかった。泣いていたようだが、とりあえずは諦めて帰ったようだと知ると、銀時はもたもたと草履を履く新八を先に玄関を出て待っていた。そのおどおどした仕草が一人で帰りたいのだと全身で訴えていたが、そんなことは知ったことかと内心うそぶく。彼にやつあたりするのはお門違いだが、苛立ちと胸の痛みが同居した中途半端なむかつきが銀時を不機嫌にさせていた。
 有無を言わせずヘルメットをかぶせ、後ろへと乗せるとスクーターを走らせる。このまま一人で帰すのは無理だった。何を思ってふさいでしまったのかは聞けなかったが、一人きりになどできるような状態ではないことだけは分かる。
 後ろからしがみつかれる感触で、銀時の胸の痛みは少しばかり治まった。

 

 

 家には妙がいたので、銀時はそれ以上居座る言い訳も見つけられず、後ろ髪を引かれる思いで恒道館道場を後にした。彼にずっとついてやっていても、穏やかに話を聞いてやるような余裕は到底ない。部外者である姉と一緒にいたほうが気楽かもしれないとも思う。
 全てが彼といることの居心地悪さからの逃げであることも分かっていたが、会話が成立しないのだがらどうしようもなかった。

 

 

 

 

 そして翌日……今日に至る。
 誰にも起こされぬ朝はいまいち具合が悪かった。大体、起きても朝食ができていないし、どの部屋もどこか寒々としている。一人でいるときには全く感じなかったことだっただけに、ここ最近の1日のスタートがかなり居心地のよいものだったのだと思い知る。
 事務所のソファに、神楽がぽつんと座って酢昆布を囓っていた。銀時が起きたと分かると、寂しそうな顔を一転させて食ってかかった。
「銀ちゃん、新八来てないヨ! …お腹空いたアル」
 何かいつもと違う空気を敏感に察したか、普段よりは幾分抑えめに怒りをぶつけてくる。

 昨日、昼になって帰ってきた神楽に、新八は具合が悪くなったので帰ったと説明すると、心配するでもなく、文句を言うでもなく、ただ「ふーん」と興味なさげな返事をした。神楽は底抜けに明るく何も考えていないようで、人の心の浮き沈みを敏感に感じ取る。経験ではなく感性というか、本能なのだろう。戦闘民族として、こういった些細な気の流れのようなものを察する能力が備わっているのではないかと銀時は思っている。
 小さな子供の無邪気さで食ってかかられて、分かりもしない新八の心の内を想像で補った説明をするのも嫌だったので、触れないでいてくれるのはありがたい。そうして曖昧にしたまま新八がやってくるのを待ち、また以前の温い生活を続けていくのが一番楽な道なのだが、物事には日々に埋没させてよいことと悪いことがあることくらい、面倒くさがりな銀時とて痛いほど理解していた。

 

 

 
 神楽のために、炊飯器いっぱいのご飯を炊いた。贅沢なことはできないが、いろいろと節約するメニューを考えることすら億劫で、とりあえずありったけの卵で目玉焼きを作って一緒に食べた。
 いつも新八がしているはずの買い物は、銀時が代わってすることになった。神楽では言われたものすらろくに買ってくることができないうえ、金を握らせると酢昆布に走ってしまう。自分とて甘い菓子コーナーに吸い寄せられてしまってよく叱られるのだが、今回はさすがにそんな気分にはならなかった。
 いつもの引き出しに入っていた金は、米を買えるほどは残っていなかった。ありったけでありったけの食材を買ったが、量はそれほど多くない。戸棚の金が全てなくなったことを知れば新八はまた怒り狂うかもしれない……咄嗟にそう思ったが、もしかしたらそんな日はもう帰ってこないのではないかという不安もよぎる。底が見えないだけに、何かと事を大きく考えすぎだと自分に言い聞かせ、スクーターに荷物を載せると恒道館道場へと向かった。
 昼過ぎだったので、妙は起きていた。ただ、銀時の顔を見るなりにっこりと浮かべた笑みが恐ろしく、反射的に数歩後ずさった。
「……いらっしゃい銀さん」
 蛇に睨まれたカエルという表現がこれほど似合うシチュエーションはない。妙が不機嫌なのは明白で、それも多分、新八が理由なのだということも分かっていたので、身の危険を感じつつも引き返すわけにはいかなかった。
 居間に通されると、向かいに座った妙に事情を訊かれた。怒りの中に心配を滲ませている雰囲気から察するに、新八はまだ立ち直ってはいないらしい。誰も理由が分からないために行動を起こすこともできず、妙もどうしていいのか分からないと頭を抱えているようだった。
「あの子があんなに酷く落ち込むことなんて、そうそうないわ。その女によっぽど酷いことを言われたのね……」
 今にも殴り込みに行かんとばかりに、ゆらりと立ち上がる妙を慌てて止め、全て自分に任せてほしいと告げた。

 

 

 新八の部屋は静まりかえっていた。ずっと部屋に籠もりきりだという話だったので、恐らく中にいるのだろうし、廊下を歩く足音がここまで聞こえてきたのだから、銀時と特定はできなくても誰かがこの場にいることは分かるはずだ。
 銀時は耳をすまし、中の様子を伺った。物音はしないが、確かに新八の気配を感じる。寝ているというわけではなく、むしろぴりぴりとした緊張感が漂ってくるのだから、ここにいるのが銀時であることも分かっているのかもしれない。
「……新八ぃ。無断欠勤はいけませんよー。銀さんはお前をそんな助手に育てた覚えはありませんよー」
「開けないでください」
 ふすまを開けようと手をかけると、小さいながらも固い声が聞こえた。
「…すみません、勝手に休んじゃって……」
 聞いたことのない類の声色だった。確かに妙の言うとおり、こんなに憔悴した新八は初めてかもしれない。かつて、妙が借金を理由に天人に連れて行かれたときも、昔のしがらみから柳生家に行ってしまったときも、落ち込みながらもしっかりと前を見つめる強さを持っていた。負けまいとあがいている魂が見て取れた。剣の腕は未熟だが、銀時は様々な出来事を共に経験していくうち、新八の中に確かに侍を見た。のんべんだらりとも言えるような日々にあっても、知らぬうちに成長していた彼を頼もしくさえ感じていたのだ。
 あの依頼人に、どれほどのことを言われればこんな落ち込み方をするのか見当もつかない。これはもう、単なる罵倒などではないのではないか…何か、彼の根本を覆すようなことを指摘されでもしたのか……ここへ来る道すがら、そんな予想を銀時は立てていた。
「明日は行きますから……今日まで、お休みください」
 事情は知らない、だが事情を訊けないこの状況でどんな言葉をかけたところで、所詮は上辺だけのものだ。彼がそんなものを望んでいるわけではないだろうし、銀時も言っても仕方のない慰めの言葉などかけたくはない。
「でもさぁー、神楽がお前連れて戻るまで家入れねぇっつってんのよ。あの依頼も結局蹴ったしさ、地球出るっつってるあの女にももう会うこたねぇだろうよ。いいから一回戻ってくれよ。それにさー、お前がいねーと、あっという間に飢え死にだよ? 今日だって買い物行ってきたけど、もうすっからかんでジャンプも買えねーしさー。仕事も入ってねーし、どうにかしてくれよー」
「とりあえずジャンプやめろよ」
 きっちりツッコミは入れるものの、覇気はない。
「なー、新八ぃー」
「……すみません」
 この後、同じような問答を何度か繰り返した。しかし、新八は謝罪を述べるばかりで事情を話すことはなかったし、顔を見ることさえ許さなかった。
 結局、1時間ほど粘ったところで妙がやってきて、役立たずだと外へ蹴り出された。傍目から見ても無駄な押し問答だったことに業を煮やしたのだろう。明日の様子次第ではまた来ることを告げ、仕方なくスクーターに跨る。
「……どーすっかなぁ」
 思いがけず大きくなってしまった事態に、重い溜息が出た。

 

 

 

 

「けーったぞー。かーぐらー」
 玄関を開け、声をかけても返事はおろか、物音一つしなかった。出かけたのかとも思ったが、彼女のお気に入りのブーツは三和土にある。他にも妙のお古だったり、新八が何かのときに買ったりしたものもあるにはあるが、それらは彼女曰く「勝負靴」であるために普段から出してくることはない。銀時同様、ぼろぼろのブーツをいつまでの履き続けている。
 そういえば、と、乱雑に並ぶ小さな靴を見ながら銀時はいつだったかの新八が言った台詞を思い出した。
「神楽ちゃんって、どんどんあんたに似てきてますよね。女の子がそんなんじゃ、この先不安でしょうがないですよ」
 そのときは確か、神楽の言葉遣いが乱暴になってきただのという話をしていたのだが、指摘されるまでは全く気がつかなかった。基本的に事を穏便に済まそうとする新八に比べ、神楽は自分と同様、腕っ節で片を付けようとする傾向がある。そこは元々の質なのだと銀時は思うのだが、新八が言うには、出会った頃に比べてその粗雑さ加減は酷くなる一方なのらしい。
 新八を戻すまで帰ってくるなと言われた、というのは方便だが、そのような雰囲気であったことは事実だ。何も行動を起こさない神楽にも、きっとストレスが溜まっている。本当は妙同様、原因であるあの依頼人の家を突き止めて殴り込みたいところなのだろう。いつもならそれでうまくいく場合も多い。それで新八が以前のように万事屋に通ってくるようになるならば銀時も止めはしない。だが今回のこれは、どうにも勝手が違うような気がしてならないのだ。
 買ってきたものを乱雑に冷蔵庫へ押し込み、しんと静まりかえった事務所の扉を開けると、ソファには神楽が座っていた。銀時の方に顔も向けず、散らかしたテーブルに顎を乗せて『それ』じっと見つめている。
「……お前、それ」
 神楽がテーブルの上に散らかしているものに、銀時は心当たりがあった。
 それは、青い陶器の欠片だった。昨日、新八が台所で割ってしまった湯飲みは、大きな欠片は拾われ、ビニール袋の中に入れられていた。彼がゴミ箱に捨てたそれを、神楽が発見してしまったのだ。
「お揃いだったネ……新八のだけ、なくなったアル」
 湯飲みのことを言っているだろうに、それがもっと重たいもののように感じられた。
「あの女が壊したアルか? …銀ちゃん。あの女が壊したアルか?」
「……神楽」
 同じように壊れた湯飲みに目をやると、欠片の一つに赤黒いものがついていることに気づく。全体的に真っ青だったそれにはない色だったので、やけに生々しく目立っていた。決して銀時を見ようとせずに俯き、指を濡らした赤。あのときのものなのだと思うと、護ってやれなかった自分の至らなさに胸がぎゅっと縮むように痛んだ。
「…銀ちゃん。なんで連れて帰らなかったアルか? なんで無理矢理にでも引きずって来なかったアルか?」
「明日は来るって言ってたんだから、待ってりゃいいじゃねーか」
 連れ戻せなかった苛立ちのままに返すと、神楽はむくれた顔をして欠けた湯飲みを指でつついた。
「……銀ちゃん、バカアルな。全然分かってないネ」
 銀時は一方的な台詞にムッとして、テーブルの足を軽く蹴った。欠片ががしゃりと音を立て、さすがに驚いた神楽はきつくにらみ上げる。
「うるせーよ。今日は来ねーっつってんだからしょうがねーだろ」
「今日の夕ご飯、新八の当番ネ! 銀ちゃんのご飯、コッテリすぎて胃にもたれるアル。たまにメガネのあっさりさっぱりご飯食べないと朝調子悪いネ」
「鋼鉄の胃袋のやつが何オッサンみてーなこと言ってんだよ。いーからお前はお茶漬けでも食ってろ。当番は明日から当分あいつにやらしゃーいい」
 銀時は、頭をがしがしと掻くと、背中を丸めてくるりと踵を返した。知らずと、気の抜けた溜息が出る。
「……ちっと出てくるわ。机、片しとけよ」
 一回り程も年の離れた少女にバカだの分かってないだのと言われて、このまま引き下がるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

  屋敷に近づくと、慌ただしく何台かのトラックが停まって荷物の積み込み作業をしているのが見えた。出発は明日だと言っていたが、おおまかな家財道具などは前日に積み込みを終わらせておかねば間に合わないのだろう。けっこうな数の人間が屋敷の門を忙しなく行き来しているが、時間に追われているのか、その門をくぐった銀時に声をかけるものは誰もいなかった。
 玄関を横目に見ながら縁側のほうへと回り、家の様子を眺める。一度ここへ来たときは、門の前での押し問答の末に逃げ去ったため、中に入ることはなかったので間取りは全く分からない。銀時はせかせかと動き回る人々を横目に、のんびりと歩を進めた。
 縁側沿いにずっと続く庭園は綺麗に整えられ、使用人の几帳面さを物語っていた。しかしこの見事な庭も、明日になれば無用のものとなるのだろう。その生真面目で洗練された家屋の様子は、依頼人の人となりからは全く想像のできないもので、そのギャップに銀時は少々驚いていた。
 母屋をぐるりと半周すると、離れが現れた。そこにも何人かの男が荷物を運び出しているが、その奥に見覚えのある姿を認めて足を止める。
 少し俯き、引っ越し業者と思しき男と二言三言会話を交わして軽く頭を下げる。箱を持ったその男が銀時とすれ違うと、彼女も顔を上げてそれをちらりと見やった。
「……銀さん」
「引っ越しにかこつけて踏み倒されちゃ困るんでね。あんたに散々連れ回された1日分、タダとは言わせねーぜ」

 

 

 依頼人のものと思しき部屋の障子を開けると、純白が飛び込んできた。
 既におおかたのものが運び出された他の部屋と同じく、がらんとした部屋であるにも関わらず、その白の存在感は異様に部屋を狭く苦しくさせていた。幸せの象徴でもあるであろうそれに対してこんな印象を受けること自体がおかしなことであるのに、銀時は息苦しさしか覚えなかった。
「……白無垢? 結婚でもすんのか」
 美しく施された刺繍が光を浴びて美しく輝く。重量感のある絹の光沢が、普通に生活を送っている人間が簡単に手に入れられるような代物ではないことを物語っていた。
「結婚控えてるお嬢さんが、かぶき町で男漁りですか。何? 結婚する前に遊んどきたかったってか? それこそガキでもできりゃ大事だったんじゃねーのかよ。よくそんなあぶねーことできんな、あんた」
 女は、何も言わずに少し俯いて銀時の罵倒とも取れる台詞を聞いていた。万事屋に来たときの気の強さは欠片も見つからず、化粧などもしていないせいか、まるで別人のように印象が違っている。
 結婚を控えた女というものを銀時は過去に何度か目にしたことがあったが、目の前の姿はそのどれとも違っていた。女の幸せ、生涯の中で一番の晴れ舞台…そう言われて憚らないはずの儀式を控えているというのに、表情から滲み出るのは疲労と諦念からくる苦い笑みだけだ。
「とにかく、言い値でいいっつったんだから、その辺きっちりしてくれよ。あの日、嘘つかれた挙げ句、歩き回ってすんげー疲れたのよ。あれはタダ働きにはできねーなぁ」
 雰囲気に引きずられまいと、銀時は苛立ち紛れに言い放つ。依頼人は無言ですっと立ち上がり、部屋の奥にある小さな箪笥の中から包みを取り出した。再び銀時の向かいに座ると、それをそっと目の前に置いた。
「……とりあえず、いまはこれだけしか出せません。足りなければ後日、振り込みますから」
 言われて、持ち上げた包みは予想外に重かった。
「な、何…いくら入ってんのコレ」
「…100万あります」
 想像以上の金額に絶句する。さすがにあの1日でこの金額はやりすぎだが、言い値で、などと吹っかけた以上、多すぎると断るのももったいない。第一、これだけあれば新八も少しは自分の自堕落な生活を多めに見てくれるだろう……思考の行き着く先にあったもので、銀時は我に返った。
「ま、まぁ…だ、妥当な値段だと思うぜ。けっこう大変だったからな、うん」
「……そう、ですか」
「それより、ウチの助手、あれから出勤してこねーのよ。一体どんなデカい爆弾落としてくれたんだ。滅多なことじゃあんなに凹まねーヤツなのよ? あいつ。何言ったらそこまで絶望させられんのか、俺は知りたいね。っていうか、言えよコラ」
 自分の力でどうにもできない状況がもどかしいうえに、じめじめとした展開は銀時を転げ回りたいくらい苛つかせている。神楽の言うとおり、無理にでも家から引きずり出して万事屋に連れ帰ればよかったとも思う。けれど……と、結局は頭の中で堂々巡りをするだけで、動かない事態に何もできなくてあがいているだけだ。俯いたままの女の返事を待ってやれる時間もそう幾らもないくらい、暴れだしたいむずむず感と苛立ちは最高潮に達していた。

 

 

「……私の家は商人で、他の星との貿易も盛んです。父が一人で築き上げた商売もようやく軌道に乗ってきたんですが……ここにきてなぜか、急にほとんどの大口契約が次々と切られてしまって……」
「なんかミスでもやらかしちまったか」
「いえ、何度調べても、こちらの落ち度はありませんでした。突然、一方的に向こうから取引先を乗り換えるって言われて……。そのうち、どうもウチが麻薬の密売に荷担しているという噂があるということが分かりました」
 実際、警察にも何度か立ち入り調査に踏み込まれていると言う。元々存在しないものが見つかるわけもなく、疑われつつも潔白は証明されている。しかし、それが商売となると話は別だ。取引は信用が第一……悪い噂の立った所にわざわざ仕事を持ち込むものなどありはしなかった。
「……そんなときに、見合い話が舞い込んできたんです。家がこんな状態だから、父は私だけでも外に出して幸せにしようと思ったらしいんですが」
「……明らかにおかしいんじゃねーの。タイミングよすぎだろ」
「ええ。……契約の乗り換えは、彼らの仕業でした。なんでも、跡継ぎが私を気に入ったらしくて、ウチ諸共吸収するつもりなんです。父はそれを知って、婚約を取り消そうとしたのですが、そんなことをしてしまえば私たち親子だけじゃなく、従業員たちも路頭に迷わせることになってしまうし…何より、父が血の滲むような努力をして作り上げたものが、私の結婚一つで壊されてしまうのは辛かったんです…」
 女は涙こそ見せなかったが、微かに唇を振るわせていた。
「だから……私が、例えば余所で子供でもできてしまえば、私のことは諦めてくれるかもしれないと思ったんです。派手な服を着て、濃く化粧をして、あの町に行けば…そう思ったんです」
「俺をラブホに誘ったのも、俺っていうか、子種目当てかよ。それこそ勘弁してくれよ」
「……すみません」
 赤面し、視線を逸らす姿は素直にかわいいと思えた。最初からコレならなー、などとも頭の端でちらりと考える。
「でも、家のためと思ってもやっぱり怖くて…。町でいろいろ話を聞いていくうちに、万事屋のことを知って、ここなら私があの人たちに見張られているか調べてもらえるし、その…どなたかと仲良くしているところを見られて、向こうの耳にでも入ればと思ったんです」
 銀時は、ややこしい話になったものだとばりばり頭を掻いた。
「地球の人でもなく、ヒトの形でもない……ましてや、好きだとも欠片も思っていないところへ嫁いでいかなければいけないと思うと…………彼には、酷い言い方をしてしまいました」
「そこでなんで新八よ? あいつ、なんかあんたの気に障るようなことでも言ったの?」
 苦笑を浮かべ、緩く首を振ると女は目を伏せた。
「彼が、羨ましかったんです、きっと…。純粋に、自由に、まっすぐに……一人だけを追ってる彼が、今の私とは正反対で、なぜ私だけが、と……妬ましくなってしまったんです」
「……あいつが? 一人だけって…アレか? お通ちゃん?」
 銀時にはそれくらいしか心当たりがない。あの情熱はまさしく「一人だけを追ってる」にふさわしいし、他に誰か好いた女がいるという話も聞いたことがなかったのだ。
 女は、それには笑みを深くしただけで答えることはなかった。

 

 

  その日、銀時が帰宅したのは朝方だった。
 怠い体をのたのたと動かして放るようにブーツを三和土に転がすと、汗ばんで蒸れた足で足跡をつけながら廊下を歩く。また叱られる、とも思ったが、それがなんだか心地よいとさえ感じるのが不思議だ。
 事務所の扉を開けると、神楽は珍しくソファで寝ていた。
「…ったく、風邪引くぞ。誰もいねーからってちゃんと布団入って寝…」
 すーすーと心地よさげな寝息を立てる神楽がいるソファ、その隣にあるテーブルに目をやると、銀時はそこから目を逸らせなくなった。
 どこから持ち出したものか、平べったくなってほぼ中身のなくなってしまった接着剤のチューブが一つ、それから、不格好になんとか形を成している青い湯飲みが一つ。
 触れると崩れてしまいそうなそれは、昨日、神楽がここに広げていたものだ。小さな欠片は掃除機で吸ってしまったので、所々穴が空いている。接着剤で付けたところで、使えるものではないと彼女も分かっていただろう。
 細かい作業の嫌いな神楽が、どれほど苦労してこれを完成させたのだろうだとか、達成感を滲ませた幸せそうな顔で眠っている顔だとかを見ていると、ここにいないものの存在が意外に大きなものだったのだと再確認させられる。
「……へったくそ。動かせねーじゃねーか、これじゃ」
 しかし、修正してやる気にはならなかった。銀時は、熟睡している神楽をそっと抱え上げると、彼女の布団まで運んで寝かせてやった。

 

 

 
 もうじき日が昇る。このままソファで寝ころんでいれば、じきに玄関のドアが開いて元気な挨拶が聞こえるだろう。
 あいつは、きっと来る。銀時は確信していた。
 こんなことで折れるヤツじゃない。凹んでもすぐに元に戻るのは若者の特権ではないか。どれほど酷い言葉を投げつけられようと、体を痛めつけられようと、あいつは絶対にここへやってくる。
 でも……と銀時は思う。
「あいつが誰を好きなのかくらいは訊いときてーなァ。…、やっべ、神楽だったらどーしよ。また俺過去の二の舞? また銀さん独りぼっち? ……やっぱ訊くのよそうかな…」

 

 

  そうして眠りの奥深くへと引き込まれていこうとする頃、カンカンと、リズミカルに階段を上る音が聞こえてきたような気がした。

 

 

-end-



 

 

 

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