「なぁー、新八ぃー」
 気の抜けた声で、銀さんが僕を呼んだ。
 銀さんは事務所のソファに寝転がりながらジャンプを読んでいる。そこから目は離さず、手探りでテーブルに置いてある煎餅の皿から一枚取ってばりばり食べた。
「ちょっと、寝ながら食べるのやめてくださいよ! 神楽ちゃんが真似したらどうするんですか!」
 当の神楽ちゃんは、恐ろしいスピードで煎餅を口に放り込みながらテレビに夢中だ。奥さんが家事の手を止めた休憩時間に見るような女性向けの報道番組が大好きで、神楽ちゃんには正直、まだ早い内容だとも思うんだけど、僕も彼女のテレビ番ばかりやってられないっていうか、ぶっちゃけかなり忙しい。

 

 

 

 

 少し前、ある仕事を依頼した女性とのトラブルで、僕は1日、無断欠勤をした。
 その依頼は蹴ったと言いながらも結局銀さんが一人でこなしたようで、万事屋の懐もかなり潤った。なぜか少しおどおどした様子の銀さんの懐から50万ポンと出てきたのは衝撃的だったけど、その晩は激安の肉を大量に買い込んで鍋パーティーをして、みんな大満足だった。あと、家賃の借金は少しだけ返した。残りは貯金。だってこの先、仕事がない生活が何ヶ月続くか分かったもんじゃないからね。
 それはともかく、その無断欠勤の罰として、僕はそれからひと月の間、ずっと食事当番を仰せつかった。酷な罰だと訴えたけど、二人がかりで却下された。僕がいなかったあの日、二人の間に何があったのかは分からないけど、とにかく心配をかけてしまったらしい。この万事屋で、僕を必要と思ってくれているのかと思うと、大変だけど仕方がないかと、逆に頬が緩んでしまうのだから、僕も大概二人に甘い。
 食事当番に加え、雑用もしなければならない。掃除や二人分の洗濯、あれして、これして、などの要求に応えつつ、買い物にも行かなければならない。大体、雑用なんてものは気がついたほうが負けなんだ。我慢できなくなったほうが負けなんだ。普段から家で家事もやってる分、身の回りの些細なことに気づくことが慣れっこになってしまっている僕には、当然回ってくるだろう役割だった。
 本当は、銀さんだって気づいているだろうことでも、僕は率先してやる。もっと別の方法だってあるのかもしれないけど、万事屋というものに僕が関わることができるのなら、これでもいいのかなと思えるんだ。
 

 

 


 銀さんは、僕を呼んでおきながら、しばらく煎餅をぼりぼりやるだけで、何か話し出す素振りを見せなかった。呼んだのは煎餅の皿をもっと引き寄せろとか、あそこのアレを取ってとか、そういうことだったんだろうか……声をかけた理由をあれこれと考えていると、
「……あ〜…あのさァ、新八」
 ジャンプを広げて顔を見せない銀さんが、ものすごくためらいがちにまた僕を呼んだ。
「何ですか?」
「お前のさァ…好きなヤツって、誰」

 

 

 銀さんが、僕の地雷を踏んだ。

 

 

 僕は一瞬頭が真っ白になったが、すぐに気を取り直して、なんでもないふうの声を作った。
「い、いきなり何言ってんすか銀さん。僕が好きっていったらお通ちゃん以外いませんよ。お通ちゃんの可愛さ、その中にあるか弱さと、何があってもへこたれない芯の強さ! 全てが最高ですよ! 曲だけでなく、彼女そのものの生き様に、何度勇気を貰ったことか……!! そういえば、こないだ出たミニアルバムがまたいいんですよ! 銀さん聴いたことあります? 中でも7曲目のボーナストラックが最高なんです! 親衛隊のみんなも感動でしばらく何も手に付かなかったって評判ですよ。あ、それと…」
「……銀ちゃん、オタクメガネがうるさいアル。テレビ聞こえないネ」
「あー、悪かった悪かった! 銀さんが聞いたのが悪かったー! 新八ィー、もういい分かった。それ以上は心の中で語っとけー」
 お通ちゃんのすばらしさをあれこれと言いながら、僕は不自然にならないように台所へと移動した。大丈夫、いつもと同じパターンだ。
 事務所の二人が、何か別の話題に移ったことを確認すると、台所の壁にへたり込んだ。あんなことを銀さんが言うなんて思いもしなかったからもの凄く焦ってしまったけど、二人には気づかれてなかったみたいだ。
 あの依頼の件で僕が激しく凹んでしまった理由は、結局銀さんには知られていないようだった。僕としてはそうでなくては困るんだけど、もしかして、それっぽいことに感づいているんだろうか……あの人、変に鼻がきくっていうか、普段何にも考えてないように見えて、意外といろんなことに目を光らせてるから、依頼者の女性とのやりとりで何か気づいてるのかもしれない。

 

 

 僕は、銀さんが好きだ。

 

 

 尊敬とか、憧憬とか、そういうものかと思ってたこともあった。だけど、今はもうそれが違っていることを知っている。そんな綺麗なものじゃなくて、もっと汚くて、生々しくて、おぞましい欲だ。知られたら、いくら物事にこだわらない銀さんだって引くだろう。避けられたり、気持ち悪いものを見るような目で見られるかもしれない。
 自覚したときもかなりショックだったけど、その先が暗闇でしかないことにも絶望した。だけど、そんな個人の理由でいつまでも凹んでいても仕方がないし、僕が万事屋に入ったそもそもの目的が既に銀さんだったんだから、今更といえば今更だ。隠す必要がある想いなら押し殺せばいい。侍としての僕を磨くために、僕は万事屋を出て行くつもりはなかった。
 そんなふうに覆い隠していたはずの想いは、いとも容易く、しかも見ず知らずの他人に暴かれた。件の依頼人は、銀さんが気に入った様子で、彼がつれなくなると今度は僕のほうへとやってきた。彼女にとって僕では役不足だったのか、同じような接し方ではなく、むしろその逆……敵意をむき出しにしていた。

 

 

『あなた、男のくせに銀さんが好きなの?』

 

 

 信じられなかった。銀さんに対してそんな特別な接し方はしていなかったはずなのに、なんでバレたんだって叫び出しそうになった。

 

 

『なにソレ。気持ち悪い…』

 

 

 
 自分で常々思っていたことだった。だけど、他人の口から言われることが、これほどまでに破壊力があるなんて思いもしなかった。
 時間をかけて自分の心を騙し騙し覆っていたものが一瞬にして取り去られ、本音だけが曝された瞬間、僕はかつてないくらいの衝撃を受けた。

 

 

 僕は男の銀さんが好き。
 銀さんの唇に、体に触れたい。
 あの人の男の部分を感じたい。
 僕は、

 

 

 僕は、なんて気持ちの悪い人間なんだ。

 

 

 それからの僕は、呆然として何をやっているのか自分でも分からなかった。気がつくと、原チャリに乗って銀さんの腰にしがみついていた。
 涙が出そうだった。
 こんなことを考えてる気持ち悪い僕を、銀さんは知らずにこうやって後ろに乗せてくれている。あなたに触りたくて、抱かれたくてたまらない僕に、優しくしてくれている。そのことがすごく申し訳なくて、まともに顔を見ることもできなかった。
 家に送り届けてくれた翌日、万事屋に連絡するなんてとても考えられなくて、無断欠勤をした。昼過ぎに銀さんが来てくれて、襖の向こうから声をかけてくれたけど、顔すら見られたくなかった。
 僕は、時間がいろんな気持ちを薄めてくれるのを知っている。だから、1日だけ誰とも顔を合わせずに過ごした。姉上には申し訳なかったけど、自分の中の毒を薄めるには、独りでうずくまってるのが一番いい。そうすれば、いずれは心が落ち込むことに飽きて浮上し始める。僕はそれを待った。
 
 次の日、前日のことを二人にどう謝ろうかと万事屋を訪れたとき、僕は知ったんだ。
 僕は、ここにいてもいいんだって。こんな僕でも、二人はここにいていいんだって言ってくれてる。勿論、言葉なんかじゃない。神楽ちゃんは、僕の壊れた湯飲みを一生懸命直してくれていた。彼女の傷なんかあっという間に塞がっちゃうから分からなかったけど、指の一つも怪我したかもしれない。パズルもどきの作業なんて、もしかしたら初めてやったかもしれない。大切にしていたこのお揃いの湯飲みが壊れてしまったのは残念だったけど、前以上にこれは僕の大切な宝物になった。
 銀さんはいつも通りだったけど、僕がいない間に依頼をこなしたとかで、所々着流しの袖が破れていた。そうでなくても何かに引っかけたりで本人も知らずに破れていたり、遠目には気にならなくても、実際は無惨に修繕されまくった銀さんの着物は、捨てられることなく日々身につけられている。貧乏を差し置いても、どうやら替える気はないらしい。自分が直したほうが綺麗に縫えるくせに、必ず僕に渡す。不器用ながらに直してかけておけば、何も言わずにまた着るんだ。
 
 変わらない日常が始められる幸運を、僕は他でもない、この二人に感謝したい。

 

 

 

 

 台所に逃げた僕は、何もしないというわけにもいかず、取りあえず今日の買い物に向けての在庫確認でも始めようかと冷蔵庫を開けた。
 万事屋の冷蔵庫は、姉上と二人暮らしの僕の家よりもがらんとしている。銀さんのお陰で金欠は一端脱したものの、食料は日々信じられないスピードで消費されていく。僕が毎日買い込むその袋いっぱいの食べ物が、まさか僕より年下の女の子の胃袋にガンガン放り込まれているだなんて、店員も、道行く人々も、言っても誰も信じないだろう。悲しい現実だけど、お腹いっぱいになって幸せそうにしている神楽ちゃんを見てると、節食なんかより、もっとみんなでいっぱい働いて稼がなくちゃと思ってしまう。
 お肉なんてほとんど買えないので、どうしても野菜中心の食事になってしまうんだけど、僕のレパートリーじゃひと月の間に何度も同じメニューが食卓に並ぶ。文句は出ないけど、正直作ってるほうが飽きてくる。銀さんほどなんて高望みはしないけど、もうちょっと器用なら、何かとアレンジして創作料理…なんて洒落たこともできるんだろうけど、そういった発想ができない僕はありきたりのメニューしか作れない。
 あれもいる、これもいるとぶつぶつ言いながら冷蔵庫の中を覗いていると、不意に僕の背後に大きな影ができた。
「買い物今からなら原チャリ出してもいいぞー」
 僕が人の気配に鈍感なのか、銀さんがそっと近づいてきたのか、とにかくすごく驚いて、あからさまに体がびくついた。
「う、うわ! びっくりしたァ! 人が考え事してるときにこっそり近づかないで下さいよ!」
「別にこっそりじゃねーよォ。…あ、パシリ代はパフェでよろしく」
「そんなもの食べませんよ。ちょっとお金入ったからって贅沢はダメです! むしろこれから先のことを考えて、少しでも残高を長持ちさせる方向で行かないと。っていうか、あんたの体のためにダメです!」
「新ちゃん冷たい〜」
 冷蔵庫を閉めて立ち上がろうとしたとき、背後から銀さんがおんぶよろしく覆い被さってきた。僕はよろけて、しがみつきついでに冷蔵庫で額を強かにぶつけた。
「ぎゃ!」
「しーんちゃ〜ん。なー、パフェ食べようよー。銀さんさー、ここ最近全っ然ファミレス行ってねーのよ。そろそろ新作も出る頃だしさー、今ならまだ懐あったかいからー、何なら俺がおごるからー」
「オッサンがなに甘えてんだよ、この糖尿予備軍がァ!! ああもう、どいてくださいよ!」
 僕は色々いっぱいいっぱいだった。背中にのしかかった銀さんの重みとか体温とか息づかいとか匂いとかで、重たいからという理由でなく、もはや立ち上がれなくなっていた。
 当然ながら自覚のない銀さんの執拗なおねだりが耳元で続くうち、くらくらと貧血のような目眩に襲われた。腕と額で冷蔵庫にしがみついているこの姿勢も辛かったけど、思うように体に力が入らなかった。
「銀ちゃん、新八ホントに辛そうネ」
 台所の入り口で、ぽつりと告げられた神楽ちゃんの助け船で、銀さんは慌てて僕から退いてくれた。
「新八、具合悪そうアル。顔真っ赤ネ」
「ああ、ごめん神楽ちゃん。大丈夫、ホント大丈夫。銀さんも、もういいですから。買い物は僕一人で行きますから」
 だから、しばらく一人にしてほしい。
 出かかった言葉はこの状況ではとても不自然だったので止めた。
 僕は二人に見られないように背を向けて立ち上がり、冷蔵庫の上に常備してあるチラシを切って作ったメモ用紙に買い物リストを書き始めた。
 二人の物言いたげな視線を背中に感じたけど、心身共に大変な状態の今の僕にフォローする言葉なんか出てくるはずもない。一刻も早く冷静にならなくてはと、メモ用紙を食べ物の名前で埋めていった。
 ぶつ切られたノリに気が削がれたのか、まず銀さんがのったりと事務所に戻っていく。神楽ちゃんもそれに続くかと思っていたのに、彼女はずっと廊下で僕を見ていた。
 メモを書き終える頃には僕の体もどうにか見た目では分からない程度には治まってきていて、いい加減無言でじっとこっちを見ているだけの神楽ちゃんが気になって振り向いた。
「どうかしたの?」
「……なんでスキ言わないアルか?」
「……な、なに言ってんの?!」
 僕はあからさまにうろたえた。銀さんだけでなく、神楽ちゃんまでが予想の範疇を超えた発言をする。今日は何の日だ? 仏滅? 星占い最下位? 
 っていうか、なんでそんなこと知ってるの?
「スキならはっきり言うネ。スキなら結婚する、キライなら殺す」
「いや、それ極端すぎるから!」
「夜兎はみんなそうネ。スキだから結婚して子供作る。キライになったら殺して終わり。はっきりしてて分かりやすいアル。単純ソーカイネ」
「爽快じゃなくて単純明快。っていうか、その考え地球人にはムリだから!」
 夜兎族は絶滅寸前だという話だけど、もともと戦闘を好む人種なうえに根底の倫理観がまさに今、神楽ちゃんの言ったようなものだというのが理由の一つなのかもしれないな、と感じた。いろんなものの価値観が違うから、僕がそこで神楽ちゃんの考えをどうこう言えることではないんだけど、そういう単純明快さを神楽ちゃんが持っているのは少し悲しいなとは思う。人の思いって、そんな白か黒かで済ませられるものじゃないし、真ん中の灰色の部分だって、いろんな濃さの灰色がある。神楽ちゃんは基本的に優しい子だから、今は理解できなくても、そのうちきっと分かってくれる……例え産まれた星が違っても、気持ちは繋がれると僕は信じたい。
 とはいえ、こういう微妙な気持ちというのはうまく説明できない。ただ、ここしばらくの万事屋のよくない雰囲気の原因が僕にあることは明白で、それを彼女なりになんとかしようとしてくれてるのは分かった。
「…ごめんね、神楽ちゃん。今はまだ、無理だよ。もしかしたら、ずっと無理かもしれない……」
「なんでアルか? 結婚できないからアルか? 結婚式なら万事屋ですればいいヨ! 今だって半分結婚してるようなもんネ。今更ネ」
「あのね、そうじゃなくて……」
 一言で片付けられるほど、まだ僕の中で気持ちの整理がついていない。告白するとか、そんな大それたことよりも前に、感情ばっかりが先走って、これから先僕はどうしたらいいのかさえ見えていないんだ。
「なんて言ったらいいんだろう……。嫌な思いをさせたくないっていうか、困らせたくないっていうか…そういうのに近いかな。とにかく、秘密にしときたいんだ。だから、ごめんね、神楽ちゃん」
「……地球人、分からないアル」
 万事屋を大事にしてる神楽ちゃんには本当に悪いと思ってる。3人の雰囲気を壊してしまったことも、みんな僕のせいだってことも自覚してる。だけど、僕はまだ2人と一緒にいたいんだ。こんな気持ち抱えても、2人と一緒にここで働いていたい。
「我が儘で、ごめん。……ありがとう」
「……お前ら、どっちもバカアルな」
 僕はその言葉に、苦笑を零すことしかできなかった。

 

 

「おーい、新八ぃ! 原チャリ出してっからすぐ来いよー」
 僕と神楽ちゃんの間に落ちた沈黙は、玄関の扉の開く音と共に聞こえてきた銀さんの声で破られた。
「ちょ、銀さん! 買い物は僕一人で行くって…!」
 しんみりとした雰囲気から一転、僕は慌てて顔を上げた。既に階段の音は下へと降りていき、僕の声なんて届いてないことを知る。
「あーもう…困るんだよバカ天パ! ちょっとは察しろよ!」
 僕は乱暴に頭を掻きむしった。今から原チャリの後ろに乗れって?! あんたの腰にしがみつけって?! あり得ない要求すんじゃねーよ!
 しかも、一刻も早く行かないと、確実に機嫌が悪くなる。いいって言ってるのに自分から原チャリ出すって言った手前、やめるとは言わないだろうけど、乗ってる間中ぶちぶち文句言った挙げ句、きっと甘い菓子をねだられる。
 溜息をついてメモを懐に入れると、横で神楽ちゃんも大きな溜息をついていた。
「……自分のことになると信じられないくらい鈍いアル」
「ホントに分かってないのかな……」
「とりあえず、寸止め料、酢昆布割り増しでヨロシクネ」
「……寸止めじゃなくて、口止め。了解しました工場長。2箱増量で行って参ります」
 偉そうにふんぞり返って頷く神楽ちゃんに、僕は笑みを零した。

 

 

 

 

 階段を下り、原チャリを出して待っている背中に近づくと、振り向いた銀さんは何故かちょっとしょんぼりしていた。遅いとイラついているならまだ分かるけど、なんだか凹んだ風だ。
「……銀さん、どうかしたんですか?」
 僕を待っている間に何かあったのかと思ってそう訊くと、銀さんは乱暴に僕にヘルメットを被せ、原チャリに跨るとエンジンをかけた。
「あの、銀さん…?」
「いや! もうみなまで言うな。お前の気持ちは分かった。大丈夫、銀さんは大丈夫だからね! むしろ大歓迎だから!」
 銀さんの台詞に、僕は顔を真っ赤にして固まってしまった。
 聞かれてた。神楽ちゃんとの会話を聞かれていたんだ。僕のおぞましい想いを知ってしまったんだ…。
 血が上って火照った顔は、すぐにさあっと青白くなった。貧血のような目眩と、手足のしびれを覚える。
「……あ、あの、銀さん…。ご、ごめん、なさい……僕」
 謝ってどうにかなる問題でもないけど、とにかく慌てて、何か言わなくちゃと必死だった。だけど銀さんは振り向かずに、後ろに乗れと手を振るだけだ。
 仕方なく、僕は原チャリの後ろに跨った。血の気のなくなった震える手で、銀さんの腰に手を回す。
「おい、もっとしっかり掴まれよ。落ちても知らねーぞ」
「あ…はっ、はいっ! すみません!」
 慌ててぎゅっとしがみつくと、銀さんは満足げに僕の腕をぽんと叩いた。
「…あのよー、おめーら、確かにまだガキだから結婚とかできねーけど…っていうか、むしろあのハゲがお前のこと殺しに来るかもしんねーけど、銀さんおめーらのことちゃんと護ってやっから! 独りぼっちになっても寂しくなんかねーから! 大丈夫だからね!」

 

 

 え…?

 

 

 何言ってんの? この人。

 

 

「……え、ちょっ……な、何言っ…」
「ガキが大人に遠慮なんてしなくていいんだよ! 大人は独りでも生きて行けんだ! 独りでもね!」
 やけくそのように急発進した原チャリから振り落とされそうになり、慌てて腕に力を込める。
 なんか銀さん、めちゃめちゃ誤解したうえに、めちゃめちゃ凹んでるんだけど。
「ちょっと銀さん! あんた、さっきの僕らの会話聞いてたんじゃなかったの?!」
「あー、そうとも! 聞いちゃったんだよ! お前が俺に神楽とのことを切り出せなくて凹んでたってことも知っちゃったんだよ! いいんだよ俺は! 男はみんな一匹狼さ!」
「銀さん、それ違っ…!!」
 僕の反論を許さないかのように、原チャリは猛スピードで突き進む。

 一番隠しておきたい本心は知られなかったものの、代わりにとんでもない誤解をしてくれたものだ。神楽ちゃんの怒った顔が目に浮かぶ。
「……帰ったら殺される」

 

 

 
 すっかり思いこんで突っ走ってしまってる銀さんの誤解をどう解いたらいいのか、広い背中に頬を押し当ててぐるぐると考える。
 大江戸ストアまであと少し。それまでになんとか納得してくれそうな言い訳を考えなければ。

 

 

-end-




 

 

 

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