あはれとも……






 そこは神に支配された国だった。山に住み、神託を下す神の力は唯一絶対で、逆らうことは出来ない。その代わり神を崇め続ける限り、その国はいつまでも豊かであった。
 神は山に棲む。一年を通して緑の茂るその山は、神の支配する土地を見下ろすように聳え立っていた。麓には白い大きな社が立ち、そこでは神官たちが山を守るために働いており、人々は彼らを通して神との対面を許される。その神官たちとは、神に直接仕えることを只一人許された神子の、かつての候補たちだった。そしてまた、この社には現在の神子候補である子供たちが住み暮らしている。彼等は今現在居る神子が何某かの理由によって損なわれたとき、変わりに神の棲む寝殿へと上がる。そして只一人、神と直接対話をすることの出来る神子として命を受け、人と神を繋ぐのだった。ただし、何人も居る候補の中から選ばれるのは只一人。そして神子となった者は永遠の若さを手に入れるため、なかなか代替わりすることは無い。特に今回の神子は神に側仕えしてすでに百年を経過するという。異例の長さのその少年に会うために、今日この国の権力者たちが山へと上がって行ったのだった。





 朱塗りの鳥居を頭上に過ぎ、男たちは山へと上がって行った。麓の社で禊を済ませ、神聖な山に入るとそこはすでに神の領域である。本来ならば半日はかかるであろう登山も、数百の鳥居の構える階段を上がってゆくと、何故か半刻ほどで神の住まう屋敷へと辿り着ける。それもまた神のなせる技であろう。寝殿造りの広い屋敷の周りでは、季節に関係なく常に色とりどりの花が咲き誇っていた。
 今日此処へ土地の豪族である彼らが上がってきたのは、神託を受けるためである。屋敷の正面にある一際大きな鳥居の下の入り口から入ったそこは、御簾越しの謁見をするための神殿となっている。不思議な香りの香を焚きしめた空間は、灯も無いのに薄明るかった。
 中に入ると年上のものから順に御簾の近くの席に着いた。と言っても磨き上げられた床の上に直接座るだけである。本来尊い人と話をするときは冠を被り石帯を帯び平緒を着けるが、通いの道がいくら短いとは云え山道であるから、皆直衣に指貫、そして烏帽子という軽装を許されている。しかし誰もが額に冷や汗を浮かべ、平伏して神を待った。そうして寿命の縮む思いをする中、左奥の御簾が上がって、一人の水干姿の少年が姿を現したのだった。
 本来水干姿であるならば髪は長いはずだが、その少年は違っていた。緑の黒髪は何故か短く切り揃えられており、細い項に良く映える。すでに百を越えているはずだが、彼は今を持って尚若く美しかった。いや、それどころか年を経るごとに妖艶に、そして淫靡な美しさを増してゆくようだ。その少年は自分を見つめる視線になど気付かぬ様子で御簾に向かって頭を垂れた。それが合図だった……。





   漆喰の白壁が四方を囲む部屋の中、広い寝所の中で先ほどの少年が白銀の髪の男と交わっていた。先ほどの冷然とした姿勢は何処へやら、煩いほどに喘ぎ声を上げ、身をくねらせてよがっては、潤んだ眸で枕元の人物を見上げた。そこに居るのは神だった。白く長い髪を垂らし、美しい口唇に魅力的な微笑をたたえ、自分に仕える少年の痴態を肴に酒を味わっている。胸元をはだけた白い着物はゆったりとしていて、脇息に体重を預け、寛いだ様子で乱れる少年を眺めていた。

「あ、ああ、大君……」

 少年は別の男に抱かれながらも彼の神を呼ぶ。潤んだ眸は当然のように神だけを映し、男のことなどまるで眼中に無い。例えそのことに男が胸の内で傷ついていたとしても、彼には関係の無いことである。しっとりと濡れた腕を伸ばし、神の着物の裾を引いた。すると神も微笑んでその手を取り、杯を置くと白い小さな手に口付ける。少年も微笑み、褥から身体を上げて神に向かって両手を伸ばした。





 その日の夕暮れどき、男は一人山を降りた。彼は土地の豪族の中でも一際若いく、すらりとした長身の精悍だが秀麗な顔立ちの青年であった。高貴な身分でありながら自分の領地の人間と気さくに会話をし、若いながら出来た領主との評判も高い。幼い頃から農民の子供と一緒になって遊んだり、野良仕事を教わったりしたので、未だに時折下々の者に混じって田畑を耕したりすることを楽しんでいた。そのせいか彼の肌は他の豪族たちに比べ健康的に日焼けをして浅黒く、精悍さを寄り一層増していた。その彼が珍しくとぼとぼと気落ちした様子で石段を下るのは、先ほどの神子との情交のせいだった。
 この国を治める神は神子以外の者と直接会話をしない。例外として神子が変わるときにのみ麓の社の最高位の神官に神託を下すだけで、他は全て神子が仲介役を果たす。その神子は男でも女でも構わない。ただ神が選んだ者だけがその地位を得、寝殿へと上がる。神は神子を寵愛し、神子は神託を伺いに上がってくる豪族たちにそれを伝えるのだった。そして豪族たちは神の言葉に従って領地を治め、年貢を社に収める。そうしてこの国は成り立っていた。
 豪族は三月に一度寝殿へ上がる。そのときは誰もが皆萎縮し、神の前に己の小ささを実感させられた。しかし一度神の機嫌を損ねれば、一族もろとも只では済まされない。本来寛容な神は、しかし一度逆鱗に触れると誰も制止することは出来なかった。それは裏を返せば絶対服従である。そして彼は神の命で神子を抱いた。
 多分それは単なる暇つぶしであったのだろう。水干姿の少年に後に残るよう言いつけられ、年長の長達が気の毒そうな視線をよこしながら次々と寝殿を後にする中、彼は途方に暮れていた。別に急ぎの仕事があるわけではないが、出来れば早く辞退したかった。だが他の者が全て寝殿を去った後再び現れた少年に連れられて母屋に向かい、案内されたのは寝所だった。
 少年は神の言葉を告げた。余興に自分を抱くように、と。戸惑う彼を嘲るように神は落着き払って寛ぎ、酒を嗜む。少年は無表情で着物を脱ぎ捨て、彼にしか聞こえない神の声に言われるままに青年に抱かれた。その間少年は一度として彼の方を見なかった。いや、それどころか自分を抱いている相手が青年だと意識している様子も無かった。少年は美しい黒髪を乱しながら、只神を呼び続けた。絶頂に達するときでさえ青年の存在になど気付かぬ様子で神を見つめていた。少年にとって神がこの世の全てなのだ。それを改めて思い知らされた。
 青年は社を出ると、愛馬に跨って領地へと急いだ。彼の領地は山の南側に当たる。今日はとにかく早く休みたかった。一人になりたかった。そして青年は道を急いだ。





 青年がその美しい神子を初めて見たのはもう十年近く前になる。領主であった父親が突然の病に倒れ、彼が領地を継ぐとすぐに父は亡くなった。そして初めて山へ行き、寝殿に上がった。そこで彼は話に聞く美貌の神子を目の当たりにしたのだった。
 神子となってすでに百年以上経つその少年はあまりに美しく、青年の心を奪った。だが相手は神の僕。敬う他にどうすることもできない。未だかつて無いほどの年月を神子として過ごしている少年は、よほど神に気に入られているらしい。その少年をどうこうするなど、出来るわけが無いのだ。もちろんそんなことは解っていたので、彼も三月に一度少年を見ることが出来るだけで自分を満足させようとしていた。相手は神子。その小さな身体に神の寵愛の全て受ける尊い人物。尊敬こそすれ、邪な考えを持つものではない。それでも少年を見た日には必ずと言っていいほど彼は、生命を賭してもあの少年を自分のものにしたいと思った。女のように自分の腕に抱かれる少年を想ったものだ。それがどうだろうか。彼は神によって少年を抱く機会を与えられた。だが少年の紫がかった青い眸は彼を見ることは無く、ただ自分の存在の意味の無さを実感させられただけだった。それどころか、月に一度寝殿へ上がるように言い渡されてしまった。それで何をするかと言うと、また少年を抱くのだ。花の咲く庭を眺めながら広庇の上で、広い寝所の中で……。
 そのときのことを思い出すだけで青年の頬は生娘のように朱く染まってしまう。少年の蝋のように滑らかな肌や、甘やかな息遣いが自分だけのものであったならどんなに嬉しいだろうか。だがそれは叶わぬ夢。青年は重い息をつき、寝殿の大鳥居をくぐった。
 神の作った『式』と言う呪いらしい狐の面をつけた幽霊のような女官に青年は寝所に案内された。黒漆塗りの引き戸は開け放たれており、振り返るとすでにそこに女官の姿は無かった。仕方なく青年は室内に足を踏み入れる。御簾の下ろされた寝所の中から、少年の喘ぐ声が聞こえた。

「………………」

 所在無げに戸口に佇む青年に、振り返った神が冷酷そうな微笑を向けた。白い長い髪を垂らした美しい男。眸の色もほとんど白に近い。少年と同じ様に白い肌をし、口唇だけが血に濡れたように赤い。その口唇を歪めて笑い、自分の下腹部に顔を埋める少年の髪を愛しげに撫でた。それに少年は顔を上げ、表情の欠落した眸で青年を見た。そして隙の無い動作で立ち上がると、青年の元へやって来た。
 青年は引かれるままに褥へ赴き、少年の手で着物を脱がされた。その間神はいつものように酒を嗜みながら、二人の痴態を楽しんでいた。少年は自ら香油を体内に塗りこみ、青年の上で腰を振る。相変わらず神を呼びながら……。
 二人が果て、青年は複雑な気持ちで身体を離した。此処がもし彼の屋敷で、二人きりであるなら、青年は何よりも少年を気遣ったことだろう。自ら身体を拭いてやり、安心して寝付くまで髪を撫でてやったろう。だが少年は果てるとすぐに神の膝元に縋って接吻をねだった。神も微笑んで少年を膝に乗せ、接吻をしてやる。それから不意に神は少年を抱き上げ、褥に足を踏み入れた。
 初めてのことに青年が狼狽える中、神は少年を褥に下ろし、口唇を吸った。脚を開かせ、長く優美な指で少年を犯す。

「大君、あ……もっと……」

 身体に漲る歓喜に打ち震える少年に接吻をし、愛しげに髪を梳く。

「……え?」

 少年は神を見つめ、頷いた。身体を捻り、神の膝の上から下りると青年に向き直った。そしてやはり感情に欠けた眸で青年を見、何の恥じらいも無く彼の下腹部に顔を埋めた。それに驚く青年などまるで気にしていない。少年は一糸纏わぬ姿で淫靡な音を立てながら舌を使った。そしてその少年を背後から神が抱く。全く、倒錯的な光景に青年は頭がおかしくなりそうであった。





 青年が疲れ果てて去った後も、少年は神と交わっていた。彼等は永遠に若く、無尽蔵の体力がある。用の無い限り二人はそうして交わっている。それが神と神子をより近くする行為であった。だがそんなことを青年は知らない。だから常に自分の常識を超える者との行為に疲れ果ててしまうのだった。この天と地の間には己の哲学の及ばぬことがあるとはよく言ったもので、ましてや相手が神や神子では更なるものだろう。彼は抱くほどに自分の矮小さを思い知り、離れる度に神子のことを恋焦がれた。あの少年を自分だけのものにしたい、という思いは日増しに強くなり、青年を支配した。それでも少年は神だけを見つめている。青年に声をかけるのは神の言葉を伝えるときだけ。それ以外の言葉は、喘ぎ声でさえも神に向けられたものだった。

「……あの神子は美しいが、魔性と紙一重だ」

 と年長の長たちは言った。今までにも何度か神子の相手として誰かが寝殿に呼ばれたことがあったそうだが、全員が不幸な最期を遂げたと言う。それもまた神の暇つぶしであった。ある者は自殺し、ある者は神に消された。また中睦まじい夫婦であったのに、神子のことが忘れられずに妻を離縁した者もあったという。前者の轍は踏むなという忠告であったが、もう遅かった。青年はあるときついに思い余り、少年を攫ってしまったのだった。





 山は聖域であり、社を抜ける道を使わずに入ると、必ず道に迷って山から出られることは無かった。そのことを知っていたので青年は神子のことを諦めるつもりであったのだが、不幸にも社が空に近い状態になり、尚且つ少年が一人になる機会がやってきてしまった。それはある夏祭りの夜のことだった。
 祭りは一昼夜を通して行われ、神官たちはその指揮を取るために総出で祭事場に赴く。その日は丁度寝殿に上がる日でもあり、青年は重い足取りで石段を上がった。そしていつも通り青年は神子を抱き、日が落ちた。
 だがいつも通りなのはそこまでだった。神子は湯殿を使うのではなく、何故かこの日は屋敷から少し離れた場所にある泉で禊をすると言い出した。それに対し、青年は同行するように仰せつかった。本当は祭りに顔を出さねばならないのでできれば辞退したかったのだが、神の命は絶対である。そうして彼は言われるままに神子の後に従ったのだった。
 禊の泉は幻想的な場所であった。湧き出す清水はどこまでも澄んでいて、清冽な印象が強い。その泉の淵に立って、青年は神子が着物を脱ぎ捨て泉に入るのを眺めていた。月明かりの中晒された肌は白く、何かの危険な罠に嵌められたように青年は神子を凝視した。頭の中で理性が警告を発するが、その声は欲望にかき消された。彼は泉から上がった神子を無理矢理犯し、気絶した少年を担いで山を降りた。社に人は居らず、誰に邪魔されることも無く彼は神子を自分の屋敷の離れ
へと連れ帰った。  青年は塗籠に神子を閉じ込め、人を近づけなかった。未だに意識を取り戻さぬ少年を蹂躙し、思いのままに征服する。あの神の痕跡が何一つ残らぬように身体中余す所無く愛でると、何が起きても離さぬようにしっかりと腕に抱いて眠りに着いたのだった。





 何てことをしてしまったのかと青年が後悔したのは次の日のことだった。昨夜から目を覚まさぬ少年を案じてはみるものの、彼が目を覚ますのもまた恐ろしかった。きっと今ごろ社を中心に大変なことになっていることだろう。そう思っただけで後悔に押しつぶされそうになった。だが意外なことに、青年が恐る恐る屋敷の外に出てみても、変わった様子は何も無かった。さり気無く家の者などに訊いてみても、昨日の祭りの成功を祝うばかりで神子のことが話題に上ることは無かった。それで彼は一つの機会を逃してしまったのだ。思いは遂げたのだから、少年を山へ帰し、自分は社に出頭すべきであったのだが、彼にはそれが出来なかった。まだ気付かれていないのなら、もう少しこうしていてもいいではないかと思ってしまったのだ。そうして青年は想い人の褥に戻り、添い寝をした。抱き寄せた身体は細く、とても頼り無げだった……。
 ふと少年は目を覚ました。薄暗い部屋の中で、誰かに抱かれている自分を感じ、少年は焦点の合わない眸で添い寝をする相手を見た。薄暗い中でもそれとわかる白い髪。大君、と声をかけようとして何かがおかしいのに気が付いた。少年は違和感の原因を確かめようとして身を起こし、静かに寝息を立てる相手を見下ろした。確かにその相手の髪は白かったが、少年の求める相手に比べて遥かに短かった。
 思考を取り戻した少年は眸を見開き、悲鳴をあげたのだった。





 思いを遂げたはずであるのに、青年の心は重かった。少年は彼を罵り、話を聞こうともしない。また、少年をこの離れに閉じ込めてからすでに十日が経とうというのに、青年の罪は今を持って発覚していなかった。
 青年はとぼとぼと離れへの道を辿る。少年は塗籠に閉じ込めたままで、家人も近寄らせないようにしている。一人、口の利くことの出来ぬ老婆が世話をしているだけだ。だがどうせ神子は不老の身。別に食事をしなくとも生きてゆける。首を刎ねさえしなければ、死ぬことは無い。それでも青年は神子に食事を与え、塗籠に閉じ込めている以外最高級の礼を取った。それどころか、別荘へ連れて来た日以来、一度とて触れてさえいない。青年を罵倒し、神子が何よりも嫌悪感を露に拒絶するから、ずっと我慢してきた。本当はすぐにでも寝殿へ帰さねばならないのは解っているのだが、今をもって全く問題が発覚していないことが彼の決断を鈍らせていた。それが一体何故なのかはわからない。だが罪が暴かれるまで、青年は神子と一緒にいたかった。そして彼はけして自分を受け入れてくれない神子の元へと向かうのだった。
 その日結局青年は再び神子を抱いた。塗籠で神を呼びながら自慰をする少年に出くわしてしまったことが彼の欲望を再び暴走させた。もちろん神子は抵抗したし、悲鳴じみた声で彼を罵ったが、その程度で止められるほど彼の想いは弱くなかった。ましてや少年の身体はすでに濡れきっている。もうどうすることもできない。そうして二人の感情は完全に寸断され、意思の疎通も叶わぬままに時は経っていった。
 甘い焚き物の香りがたちこめる中、美しい少年と精悍な青年が絡み合っている。口内に布を押しこまれ苦しそうに眉根を寄せた少年は、しかし身体に与えられる快感に酔っているようにも見える。紅く細い縄で後ろ手に縛られ、青年に突き上げられる度に身体が動く。両足首もまた
小さな鈴のついた同じ様な紅い紐が一つづつかけられている。そして白濁とした蜜を滲ませる少年自身の根元にも、やはり紅い細い紐が巻きついていた。
 青年は自分が達すると少年の口内に詰めた布を取り払った。そして喘ぐ口唇に接吻し、掌に収まる少年自身を愛撫してやる。

「う……くっ……」

 神子は悩ましげに顔を顰め、身体を仰け反らす。晒された咽喉に口付けながら、青年は側にあった別の縄を手に取った。

「あ……い、いや」

 首を振る少年になど構わず自身を引き抜き、その代わりに縄目を短い間隔で沢山作った縄を神子の体内にゆっくりと埋め込んでゆく。今まで散々男を受け入れてきた場所である。今更痛くはないであろう。そしてすっかり最後の縄目まで銜え込ませると、脚を開かせたままゆっくりと縄を引いた。

「あっ、あっ……」

 少年は身をくねらせながらよがり声を上げた。勃ち上がった自身からは蜜が溢れ出す。紅い縄を両脚の間に生やした少年の淫靡さに、青年は恍惚とした微笑を浮かべた。この倒錯的な光景を作り出したことが満足であるような表情だった。
 青年は優しく口で神子の欲望の化身を愛撫した。ゆっくりと縄を引き出しながら、音を立てて少年を愛撫する。媚薬入りの香油にすっかり酔った少年は、涙を溜めた目で天井を見上げていた。それは単に目の焦点が合っていないだけだろう。青年は身体を起こし、少年自身を戒めている細い縄を解いた。そしてもう一度柔らかな口内で神子を愛撫してやりながら、すっかり縄を引き抜いた。その快感に少年は悲鳴ともつかぬ嬌声を上げながら青年の口内に達した。まろやかな欲望を飲み下すと、青年は意識を手放した少年の小さく愛らしい口唇に接吻を贈った。
 青年は優しく丁寧に神子の身体を拭ってやり、数度の情交に赤くなってしまった部分にそっと薬を塗ってやった。そして小さな神子の身体を女物の着物に包むと、塗籠の隣にある寝所へと運んで休ませた。
 湯浴みを済ませ、青年は神子の元へと戻ってきた。塗籠の掃除を済ませた老婆に酒を所望し、正体無く眠る神子の寝顔を肴に一杯ひっかけた。多分15、6歳で成長の止まってしまったのだろう神子は、あどけない表情で眠っている。どうやら神は、自分の愛しい者の成長を楽しもうとは思わなかったらしい。青年にしてみればこの美しい神子がどんな大人になるのか見てみたくてたまらない。だがそれは叶わぬ夢である。
 青年は手を伸ばして神子の髪を優しく梳いた。流れ落ちる絹のような光沢のある髪は美しく、伸ばした姿もさぞや美しかろう。だが神子の身体は完全に成長が止まっており、背はおろか髪や爪ですらも伸びることは無い。それが良いことなのか悪いことなのか彼には判断がつかなかったが、残念であることに違いは無い。どうして神はこの少年に人並みの幸せを教えてやらなかったのだろうか。誰かに抱かれずには居られないような身体にしたのだろうか。
 青年は手を引き、杯を口に運んだ。少年はその容姿からは考えられないほど貪欲に男を求めた。嫌がるので手を触れないでいれば、狂ったように自慰に耽る。そのくせ彼に抱かれることは拒絶し、涙を流しながら神を呼ぶ。仕方なく薬を盛って寝付かせても、熱に浮かされたようにうなされるばかり。ならば媚薬でも盛って正体を不明にした後抱いてやるしかない。そうすると神子は素直に青年に抱かれた。それは多分青年の白銀の髪に自分の愛しい相手を重ねているのだろう。また、青年の眸は非常に淡い蒼色をしていた。薄暗い中で見たら、神のあの眸の色に似ているかもしれない。そして少年は彼の神を呼ぶのだった。
 杯はすぐに空となった。青年は老婆を呼び、銚子をもう一本追加させる。彼は酒豪と呼ばれてもおかしくないほど酒が強かったので、あと数本飲んだところで屋敷に帰るのに差し支えは無い。彼は毎日神子の元へ通っていたが、生活の基本は母屋の方に置いていた。仕事を終え、食事を済ますと離れの方へやって来て神子を抱く。日に一度くらい抱いてやらないと少年は様子がおかしくなった。そしてその内自慰に耽るようになる。理性も羞恥も無く、彼の前ですらそれを行うのだ。先ほどの縄目をつけた縄も、神子が自分で作ったものだ。本当はあまりに神子が気でも違ったように自慰に耽るので、止めさせようと手足をゆるく戒めていた縄である。落ち着いたようなので解いてやり、そのままにしていたら何時の間にか淫具へと変貌していた。そして多分、神子はあれが一番気に入っているらしい。香油を塗り込み、自分で楽しんでいることがよくあった。

「…………ん……」

 神子はむずかるように鼻を鳴らし、寝返りを打った。外見年齢に相応の可愛らしい表情で眠る姿を、青年は愛しげに目を細めて見つめた。これで少年が一度でも彼のことを呼ぶなり見るなりしてくれれば、いつでも山へ帰してやるのに。そう思って青年は重いため息をついた。神子を攫ってからすでに二ヶ月が経つが、寝殿からも社からも何の音沙汰も無い。一度神官が来訪したが、言われたのは神子のことではなく今月から寝殿に上がらなくていいという命だった。どういう訳だか、神子が行方不明になったという事件は発覚していない。それにかまけて青年は未だに神子を離れに閉じ込めている。だが神子は山へ帰せとは言うものの、逃げ出そうとはあまりしなかった。それは単に青年の屋敷が広大であるからだろうし、それ以上に道がわからないからだろう。逃げている途中に誰か野蛮な連中にでも見つかったら、何をされるか解らない。いくら彼が不老で無尽蔵の体力があるからといって、力が上がるわけでも走る速度が速くなるわけでもない。不老と体力以外は普通の少年と変わらないのだ。それでもけして青年は神子をこの二ヶ月の間ずっと此処に閉じ込めていたわけではない。車に乗せて遠出したり、蛍狩りに連れて行ったりした。少年が喜ぶように珍しい品々を贈ったり、芝居を見せたりもしたが、神子が微笑うことはなかった。
 せめてもう少し神以外を見てくれてもいいのに、と青年は嘆息した。自分が憎まれるのは当然だし、許してもらえるなどとは思っていない。だがせめて山以外にも世界があり、神以外にも少年を愛している相手がいることを知って欲しかったのだが、神子は頑なにそれを拒絶した。確かに青年は神子の正体がばれないように女物の着物を着せ、長い髪の鬘を着けさせたし、逃亡してもわかるように足首に鈴をつけたりしたが、そんなものは外そうと思えばいつでも出来るだろう。いや、ひょっとしたらそれ自体が屈辱であったのかもしれない。少年は自分を辱めた相手を『蛮人』と呼んだ。だがそれも初めのうちだけで、今では青年のことなどまるで無視している。言葉をかけることも無く、あの美しい紫がかった青い眸が青年を見ることも無かった。そして青年は若く整った顔に苦悩の表情を浮かべるのだった。





 更に一月が経ち、すっかり秋の気配が夏を追い出した頃、青年と神子の関係には微妙な変化が生まれていた。神子は前ほど情交を欲さなくなり、落ち着いた様子で日を送ることが多くなった。それに伴い青年も神子を抱く回数を減らし、身体を合わせるよりもただ寄り添うことを好んだ。相変わらず少年は無表情であったが、髪を撫でても指先を絡めても、もう抵抗はしなかった。共に食事を取って、たまには添い寝もしたりした。神子はやはり口を利かなかったが、抱かれることを嫌がりもしなくなった。きっと諦めたのだろう。青年はそう思い、今まで以上に神子を可愛がり、また気遣うようになったのだった。
 ある月の明るい晩のこと、神子が青年を塗籠に誘った。普段ただ寝るにはもう寝所を使っているから、つまり抱けと言うことだろう。青年が引き戸を後ろ手に閉めると、神子は褥の上で薄物一枚になって彼を待っていた。脱ぎ捨てられた女物の着物は薄暗い中でも艶やかに見える。青年も着物を脱ぎ、褥に座る神子を抱き寄せた。小袖の擦れる音がし、少年が褥に横になった。口唇を吸い、青年は割り開かれた神子の白く細い脚の間に顔を埋めた。

「あ、……ああ」

 悩ましげな吐息を漏らし、少年は達する。口内に放たれたものを飲み下し、青年は顔を上げた。荒い息に上下する胸に口付け、ほんのりと朱に染まった少年の顔を見る。

「……大丈夫か?」

 額に張り付いた髪を指の背でのけながら尋ねると、少年は薄く目を開いて頷いた。久し振りなので、やはり気が逸る。だがそれをどうにか押さえ込み、青年は接吻を贈った。

「ん……」

 柔らかな口唇を味わい、顔を離すと、少年と目が合った。すると驚いたことに、ほんの幽かだが、確かに神子が微笑んだのだった。あまりのことに吃驚して目を見開く青年の前で、神子は目を閉じる。そして恐る恐る腕を青年の背に回した。そのことがあまりに嬉しくて、青年は神子を抱きしめた。今まで神子がこんな風に青年と抱き合ったことは一度も無い。身体が落ちないように抱き付くことはあっても、こんな風に恋人のように抱き合ったことは無かった。
 あまりの喜びに、青年は自分の目に涙が滲むのを感じた。微笑んで神子に接吻を贈り、甘やかな口唇を味わった。口唇をついばみ、舌を差し入れると神子もそれに答えるように舌を絡めた。優しい接吻を交わしながら神子は片手で青年の背を撫でる。もう片方の手はどこかに伸ばし、すぐに同じ様に青年の背を撫でた。愛情の篭った接吻を交わしながら、青年は何かの音を背後に聞いた。そして青年の背を衝撃が襲った。
 何が起こったのか解らずに、青年は振り返った。焼け付くような感覚が背中にあるが、それでも尚青年は神子に体重をかけないように気を配って身体を起こし、背中を振り返った。そこには見慣れぬ何かが生えていた。赤い布の巻かれた、金属のようだ。青年は振り返り、自分の身体の下から這い出た神子を見つめた。彼は蔑んだような眸で青年を見上げており、その表情は冷酷で憎悪を漲らせていた。

「………………」

 青年は口を開いたが、どうしてとは言えなかった。少年が彼を憎むのは当然のことだ。それなのに微笑んで欲しいなどと、厚かましいことを彼が勝手に考えていただけのことだ。
 青年の身体が力を失って褥に倒れ込む。背中に生やした刀から血がじわじわと滲んでゆくのが自分でもわかった。
 青年はどうにか力を振り絞って彼の愛しい相手を見上げた。表情の欠落した少年は冷厳な眸で青年を見下ろしていた。だが幽かに肩が震えているのが見て取れた。やはり人を刺したことが恐ろしいのだろう。可哀相に、と青年はあの愛らしい少年にこんなことをさせるに至らしめた自分を責めた。そして急速に狭まる視界の中、もしもう一度目を覚ますことがあったら、彼の愛しい少年を寝殿へ送ってゆこうと思った……。





 暫く経って、少年は立ち上がった。目を開いたまま青年は微動だにしない。死んだのだろう。少年はそれを確認するために恐る恐る手を伸ばし、刀を引き抜いた。だがやはり青年は動かなかった。
 少年は短刀を持ちかえ、青年の側に立った。その刀は青年が腰に佩いていた大小の一つだった。そして刀を両手で持つと、再び青年の背に向けて振り下ろした。微かな抵抗の後、すんなりと短刀は青年の身体に吸い込まれた。それを引き抜き、更に振り下ろす。自分を今まで散々辱め、陵辱してきた男をめちゃくちゃに切り刻まねば気がすまなかった。青年の肩を掴み、身体を仰向けにさせ、少年は更に刃を突き立てた。短刀の刃が使い物にならなくなるまで、何度も何度も……。





 夜陰にまぎれて少年は慣れない土地を駆けた。例え道がわからなくとも、山を目指せばそれでいい。幸い天には月が出ており、懐かしい山ははっきりとその姿を晒していた。
 今少年は憎い敵の着物を纏い、片手には大刀を握り締めていた。気の済むまで青年を刺した後、汚してしまったからと言って老婆に青年の新しい着物を用意させ、それを纏って逃げてきた。部屋には強く香が焚き染めてあるし、死体に少年の着ていた女物の着物をかけてきた。一目では単に眠っているように見えるだろう。ましてやあの家にいるのは口の利けない老婆が一人。発見された所で、騒ぎになるのはかなり遅いだろう。そう踏んで彼は屋敷から逃げてきたのだ。
 脚の鈴はとうに外し、もう山まですぐそこだった。大刀を持っているので、暴漢も怖くない。ただ社を抜けねばならないため、山を迂回せねばならない。そして早く彼の神の元へ帰るのだ。ただそれだけを考えて少年は夜道を走り続けた。心臓がどうにかなってしまいそうだったが、一刻も早く神に会いたくて、懸命に走り続けた。きっと神は彼のことを案じているだろうから。神は山にいる相手ならすぐにでも害することが出来る。だが山を出た相手にはあまり力を使うことは出来ないのだ。それは山を出ると個人にではなく、その者の一族にまで災厄をもたらすからだ。思慮深い神は個人の咎を一族に償わせることを良しとしない。だから今まであの男に罰を下さなかったのだろう。そして少年の帰りを待ちわびていることだろう。もう百年も寄り添い続けた彼なのだ、身を切る思いで待っていてくれるだろう。そう思うと少年の眸には涙が浮かんだ。彼は不幸な子供だった。それがどうにか神子の候補になれ、そして神に選ばれた。無条件に彼を慈しんでくれるのは神だけだった。だから彼にとって神はこの世の全てであり、自分の存在をかけたただ一人の相手だった。
 神は彼のために何でもしてくれた。一年中庭に少年の好きな花を咲かせ、片時も離れず側にいてくれた。少年に酷いことをした相手には残らず罰を下してくれたし、何か失敗をしても常に笑って許してくれた。少年が怪我でもしようものなら一日中側に居て甘えさせてくれた。常に少年を愛してくれ、何よりも大事に扱ってくれた。だから少年も自分の全てを神に捧げ、神のためだけに生きることを誓ったのだ。それがどうだろう。あの野蛮な男のせいで、彼は神から引き離された。前にも彼を奪おうとした野蛮な男がいたが、その男は神が消してくれた。そのとき神は言ったのだ。

「お前が手を汚すことは無い。お前は私のものだから、私だけを見ておいで。お前を不幸にするものは、全て私が消してあげるから……」

 そして神は少年に口付けてくれた。神を『大君』と呼べるのは世界にただ一人、自分だけなのだとそのときはっきりと悟った。だから早く寝殿へ帰らなければならない。そして神に抱いてもらうのだ。あの男に汚された部分を、全て浄化してもらうのだ。
 そして少年は道を駆け、白い社に駆け込んだ。

「いけません。此処をお通しするわけにはいかないのです」

 そう言って神官が少年の前に立ちはだかった。少年は苛立ちを隠そうともせずに神官を睨み上げる。

「何故だ。私は大君の元ヘ帰るのだ。貴様ごときに止められるいわれは無い」

 ですが、と言って神官たちは困ったように顔を見合わせた。全く、無駄に年を取っただけ頭が悪くなったらしいと少年は舌打ちした。それから右手にしていた大刀を振り翳し、

「殺されたくなければ、そこをどけ!」

 少年が駆け出すと、神官たちは逃げ惑って道を開けた。全く、腑抜が図体だけでかくなりやがって、と少年は年下の老人たちを軽蔑の篭った視線で一瞥すると、軽やかに寝殿へと続く石段を駆け上っていった。
 数百の鳥居を頭上に過ぎ、少年は息を切らしながら寝殿を目指した。あと少しで神に会える。そう思うと少年の気分は高揚した。残り数段の階段を上り、寝殿へ駆け込む。そうすれば神が彼を待っている。抱きしめて、慰めてくれるだろう。涙が出そうになるのをどうにか堪えながら、少年は寝殿に駆け込んだ。
 少年は懐かしい空気に包まれて、落ち着きを取り戻した。そして自分が泥だらけであることに気が付いた。そうすると久し振りに大君に会うのに、こんな格好ではと急に羞恥心が働いた。それで彼は裏に回り、庭を流れる小川のせせらぎで顔と手足を洗った。ただでさえあの男に汚されているのだ、せめて見た目ぐらい整えておきたい。そう思い髪にあの男が贈った櫛を通し、乱れた服装を整えた。そして漸く寝殿に向かう。履物を脱ぎ、そっと階段に足を乗せる。高鳴る胸を抑え、わざとゆっくりと歩を進めた。そして母屋に向かい、この時間ならばまずそこに神はいるであろう寝所に向かった。
 少年は寝所のすぐ側で足を止めた。いつも通り戸は開け放たれており、中の明りが漏れている。懐かしい焚き物の香りがし、本来なら居ても立ってもいられなくなって駆け込んだだろうに、少年の足は床に吸い付いたように動かなかった。
 少年は自分の心臓の音が煩いくらいに聞こえるのに苛立った。今聞きたいのはその音ではない。寝所の中から聞こえる音だ。少年はどうにか足を床から引き剥がし、恐る恐る寝所に踏み込んだ。
 薄紫の紗のかかった几帳の向こう、広い褥に人影が見える。少年は我知らず足音を立てないように几帳を迂回していた。そして少年は見た。白く長い髪の彼の大君と、明るい色の髪の見たことも無い少年が睦んでいるのを。
 少年は目の前の光景に眩暈を覚え、たたらを踏んだ。その肩に当たって几帳が倒れ、褥で乱れる二人が漸く少年を見上げた。

「あ……。大君、これは……」

 少年は血の気の引いた様子でどうにか彼の愛しい神を見つめた。傷ついた少年を抱きとめて、慰めてくれるはずの腕は今、別の誰かを抱いている。だが一体何故だろう。この世に神が愛するのは、彼一人のはずなのに……。
 神は何も言わずに目を細めて少年を見つめた。冷酷な、興味などまるで無いかのような視線。そして神はつまらなさそうに身体を起こした。

「……誰?」

 漸く言葉を発したのは半裸の子供だった。明るい色の髪をした、だが少年よりは年上に見える。彼は不審そうに少年を一瞥した後、神を振り返った。

「……え? そうなのですか?」

 子供は驚いた様に言い、少年を振り返った。そして哀れむような視線で少年を見た。
 少年は自分が空っぽになるのを感じた。今、多分神は何か言ったのだろう。神子にしか聞こえぬ声で。だが少年にはそれが聞こえなかった。しかしあの子供には聞こえたのだ。そして少年は悟る。自分はもう神子ではないのだと。何故神官たちが自分を止めたのか、漸く解った。百年も寄り添った結果が、これだった……。

「……そこを、どけ」

 少年は身体中に怒りが満ちるのを感じ、未だ半裸のままの子供を睨みつけた。そこは貴様の居る場所ではない、今すぐ消え失せろと冷ややかな声で怒鳴り、一歩踏み出す。子供は少年の殺気に気圧されたのか、ひっと短く叫んで神に抱き付いた。

「大君……」

 泣きそうな声で言ったその言葉に少年の怒りが爆発した。

「その名を呼んでいいのは私だけだ!」

 少年は大刀を振り翳し、子供めがけて走った。走ろうとした。だがそれは叶わず、少年の身体は後ろに吹き飛び、壁に当たって床に落ちた。ずるずると背で壁を下り、人形のように少年は床に力無く座った。ごぼごぼと首から血が流れ出すのが自分でもわかり、少年は血を吐いた。本当は何か言いたかったのかもしれないが、それも叶わぬまま少年は息絶えた。ただ最後に、その大きく美しい紫がかった青い眸から、血の混じった涙が零れ落ちて着物に吸い込まれた。
 少年が動かなくなると、怯えていた子供は恐る恐る神に訊いた。

「……死んだのですか?」

 神は微笑んで頷き、子供の額に口付ける。新しい神子もまた少年で、前ほどではないがそれなりに美しい顔立ちをしていた。その子供を神は褥に寝かせ、脚を開かせた。

「あ……」
 漸く神との情交に慣れた子供は頬を染めて声を漏らした。そうして二人は暫くの間快楽を共にし、お互い果てると褥に横になった。すると神子が何かに気付いたように声を上げた。

「血が、褥に……」

 神子は振り返り、困ったように神を見た。大君、と言って身体を寄せる。不浄の血に汚されては困る。神は頷くと神子を後ろ手に前に出た。

「お前が手を汚すことは無い。お前は私のものだから、私だけを見ておいで。お前を不幸にするものは、全て私が消してあげるから……」

 神子に微笑みかけ、それから神は死体に向かって息を吹きかけた。するとどうしたことか、見る見るうちに死体は灰と化し、風に乗って何処かへ運ばれて行った。後には血の一滴すらも残らない。そうして神と神子は再び褥に横になり、睦み合う。灰は風に乗って南の方角へ飛んでゆき、そして山には静寂が戻ったのだった……。





〔終幕〕





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