休日の過ごし方






 毎朝リーマスが起き出す頃にはシリウスは起きていて、朝食の準備をしているのが常だった。最近はベーコンをいかにカリっと上手く焼くかにシリウスは燃えていて、フライパンに真剣な眼差しを注いでいる。パンの焼け具合にも気を遣い、焦げ目がしっかりとつくくらいが好みのリーマスのために、焼けすぎだとか何とか文句を言いながらも、自分のよりも少し長めに焼いてくれたりする。しこたま呑んで酔いつぶれた次の朝も、調理の要らないハムやチーズを用意しているような男だ。食事の支度に関しては主夫のごとく抜かりがない。
 だが、今朝はパンやベーコンの焼けるいい匂いがしないばかりか、人の動く気配すらない。
 階段を下りると一階は、カーテンも開けられず薄暗いままだ。もちろん窓も開いていないので、空気は未だ夜の気配を纏っている。
 リーマスはとりあえずリビングの窓を開けて回った。遅い朝の光が差し、初夏の、暑くなるギリギリ手前の風が入り込み、一気に空気が起き出す。
 明るさになれた眼を室内に戻すと、一角に黒いカタマリ。

「おはよう、シリウス」

 声を掛けると、パッドフットは大きい躰をお気に入りのソファにだらりと預け、頭をサイドのアームレストに乗せたまま、一度だけ鼻を鳴らした。

「今日はご飯ないの」

 家事は当然シリウスの仕事だと思っているリーマスは訊く。
 パッドフットはふさふさのしっぽを持ち上げ、そのまま力なくぱさりと下ろした。
 仕方がない、とリーマスはキッチンに行き、戸棚をガサガサ漁ってシリウスがいつも買い置きしてくれるチョコレートを見つけ出してリビングに戻る。

「君も食べる?」

 しっぽが今度はそのまま左右に振られた。
 シリウスは食生活には五月蝿い。基本が体育会系だから、お前が貧血気味なのはチョコばっかり食ってるからだ、とか、もっと肉を食え、などと指導をして下さる。なのに今日は何も言わない。
 ここにきていよいよ様子がおかしいと思ったリーマスは、パッドフットに近づいた。ソファは一匹で一杯になっているので、床に座り込む。

「どうしたのさ」

 一時期に比べ生活状況が格段に良くなったおかげで、つやつやの毛並みを撫でる。耳の後ろをくすぐると、しっぽが揺れるので体調が悪いわけではないようだ。だいたい、体調が悪かったらアニメーガスなんかしない。
 パッドフットになっているのは、つまるところ家事をする気がないということで、何やらシリウスはご機嫌斜めなご様子だとリーマスは判断した。
 そうとわかれば心配などする必要はない。彼らの間では、ご機嫌をとったり宥めたりという行為は、何か都合の悪いことを取り繕う場合を除いて行われない。
 大体、何が気に喰わないのかわからないのに、機嫌のとりようもないし、原因を究明するのも面倒だ。
 大きな黒いカタマリをそのまま放置してリーマスは、お湯を沸かしてコーヒーを淹れ、チョコと一緒に持って居室に戻ることにした。






 シリウスが拗ねるのは学生のころから結構よくあることなので、リーマスは慣れっこになっている。結局、育ちがいいからなんだろう。拗ねたら周りが気を遣ってくれて、甘やかされて育ってきた証拠だ。
 ハリーがおじさんと呼ぶだとか、ハリーと暮らしたかったのにだとか、パッドフット姿で散歩に出掛けたら小さい子どもに泣かれただとか、いちいち相手をしていたらこちらが疲れるだけだ。
 自分で淹れたコーヒーを一口飲んで、やはりシリウスは主夫の才能がある、と溜息をつく。
 今日は久々にすることもないので、昨日遅くまで読んでいて結局睡魔に負けて読み切れなかった本を開いた。
 しばらく集中して本を読んでいると、ガチャガチャと器用に前足でノブを回してパッドフットが入ってきた。

「ノック」

 振り返りもせず投げ掛けられた言葉に、内側に開いたドアをカツカツと前足で叩く。
 それでそのまま何もせず、ドア付近で寝そべった。
 図体の大きなものが背後にいる気配は、少し、否かなり鬱陶しいものがあったが、あともう少しで読み終わるという一番いいところだったので、リーマスは読書を続ける。シリウスごときに邪魔されたくない。
 またもうしばらく読書に集中したあと、読み終わった満足感と共に伸びをする。
 さて、と立ち上がって、邪魔な物体を乗り越え部屋を出ると、パッドフットものそりと起き上がりあとをついて階段を下りてきた。
 まずリーマスはキッチンに向かい、流しにカップを置いた。
 彼は、洗いものは溜めてからするタイプだ。対して、シリウスは放っておくと気になるので毎回毎回すぐに洗う。だからいつもリーマスは自分で洗わなくて済むのだ。
 今日もカップはそのままに今度はリビングに向かう。ついて来ていたパッドフットは、やはり気になるようで流しを振り返り振り返りリーマスに続く。
 届いていた新聞を広げながら、さっきは占領されていたソファに座る。パッドフットが今度は足許に寝そべった。
 リーマスが新聞を読んでいる間、たまに耳が動くくらいでパッドフットはじっとしている。
 いったい何がしたいのか、訳がわからない。
 もうすぐお昼。
 窓の外は良いお天気だ。
 そろそろお腹が空いてきた。お昼は我慢できても、夜までこの調子だと少しばかり困る。
 甘いなあ、と溜息をつきながら、リーマスは立ち上がる。

「ついておいで」

 声を掛けるとぴくりと耳を動かしながら顔を上げ、パッドフットは大きな躰を起こした。
 先に歩いて外に出ると、太陽の光が寝不足気味の脳に少しキツイ。
 パッドフットは足取りも軽く走り出てきて、リーマスの足許にまとわりつく。
 もう一度溜息をついて、リーマスはパッドフットの頭を撫でた。






 散歩をしてから、水浴びをさせて躰を洗い、丁寧にタオルドライしてからブラッシングまでしてやったら、パッドフットは朝とは打って変わってゴキゲンになり、ふさふさのしっぽをぶんぶん振った。
 家に入って人型に戻ると、シリウスはまずリーマスのカップを洗い、それから食事の支度に取り掛かった。鼻歌を歌いながらキッチンに向かう背中を見ながら、リーマスは溜息をつく。
 なんだ、結局かまって欲しかっただけか。
 折角空いた日にシリウスに振り回されて、疲れきったリーマスは、それでもたまにはこんな休日も良いか、と欠伸をした。
 きっと、食卓にはリーマスの好きなものばかりが並ぶのだろう。






〔END〕





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我が愛しの八坂さんよりぷれぜんつv
的確な言葉が超ラブです。
少ない台詞で完璧に著されてるリーマスがしゅごい。
シリウスに至っては台詞は一つもないのに、
パッドフットとシリウスの両方が見事に書分けられておりまする。
ああ、しつこくしてほんっと良かった(感涙)!
ありがとう、ありがとう八坂さ〜ん!!
このお礼はいつか必ず☆






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