ゼミ生向け/産業組織の経済学

第10章 技術進歩と研究開発競争

 こんにちは。第10章の前半部分の本文の要約を担当する、寺です。
いつものように、要点だけをまとめたものを載せておきます。因みに、これは
ゼミの時間に皆さんに配るプリントと同じ内容のものです。
なお、図1とか図2とか出てきますが、これは、皆さんに配るプリント
に載せてある図のことを意味していますので(私が勝手に図を作ったので)
気にしないで下さい。

1 技術進歩と研究開発

1.1 技術進歩と産業の技術革新

 経済成長の源泉は技術進歩と経済資源の利用の増加であり、特に技術進歩が
主たる地位を占めている。 経済資源とは、資本や労働のことである。技術進歩とは、同じ経済資源を
利用してより多くの製品あるいはより良い品質の製品を供給するために新しい
生産工程の導入、新しい経営組織の導入などを行うことである。技術進歩の要因として、
技術革新(イノベーション)がある。技術革新とは、新製品の開発、
新生産技術の開発などを指す。  企業が新しい製品を作り出すことをプロダクト・イノベーション、新しい
生産方法を作り出すことをプロセス・イノベーションという。
プロダクト・イノベーションはさらに、既存の製品の品質の改良と
製品の多様性の拡大に分けることができる。

 日米の主要な企業の研究開発費を業種別に示したとき、研究開発費の支出規模
でみると、電気・電子・通信機械産業、輸送機械産業、医薬品を含む化学産業
などの産業で大きい。日本では、この三つの産業で全産業の研究開発費の約7割
を占める(確認。図1を参照。電気・電子・通信機械産業は34%で、
輸送機械産業は14%で、医薬品・健康・その他化学産業は17%。
34+14+17は65で、一桁目を四捨五入すると、70%)。
 また、日本の各産業で業種平均の研究開発集中度(研究開発費対売上高比率)と
主要企業の同じ比率を比較すると、後者の方がかなり高いので、規模の大きな企業が
集中的に研究開発をしていることも分かる(確認。図2を参照。例示として、
医薬品・健康産業。業種平均の研究開発集中度は7.8%だが、主要企業の
研究開発集中度はいずれもそれよりかなり高い)。

1.2 知識の財としての特徴

 科学的知識、技術などの知識は通常の財と異なった二つの特徴を有している。
一つ目の特徴は消費の非競合性があることで、二つ目の特徴は知識利用の排除可能性が
弱いことである。消費の非競合性とは、ある知識を特定の目的に利用することが企業内の
他の用途への利用を全く阻害しないことで、その結果、企業が入手した知識を利用する
範囲を拡大しても追加的なコストがかからなくなる。排除可能性とは、金の払えない人を
排除できることである(首藤先生の「社会政策論」の講義より)。知識としての財は
排除可能性が弱い。つまり新しい知識が、それを開発した企業のものだけ、
というふうにはなりにくい。例えば、ある企業が開発した新製品が市場に出回れば、
その製品を分解して他の企業が新しい知識を得ることができてしまう。
そのように技術知識が対価の支払いを伴わないで他の企業に利用されるようになることを、
技術のスピルオーバーという。

1.3 技術の利用へのインセンティブ

 利潤動機から、企業は新技術導入への強いインセンティブを有している。
例えば、技術進歩の要因である技術革新を見てみても、プロセス・イノベーション、
プロダクト・イノベーション双方に利潤の増加をもたらす効果がある。要するに
新技術を導入するともうかるので、企業は新技術導入に積極的になるということ。
 また利潤動機と関連して、企業間競争は技術の導入を促す。例えばある技術革新が
劇的であった場合、その技術を開発した企業はぼろもうけすることができるが、
他の企業は市場シェアと利潤の低下を経験することになる。だから、企業は技術革新に
一生懸命になり、新技術の導入に強いインセンティブを持つ。

2 需要面からみた研究開発へのインセンティブ

 技術的成果の専有可能性、置き換え効果(アロー効果)、研究開発の競争が技術
または市場の先取りを可能にする「早い者勝ち」である度合い、が高ければ高いほど、
研究開発へのインセンティブは高くなる。
 (技術的成果の)専有可能性とは、そのままの意味で、新技術を専有できる可能性のこと。
ライバル企業に模倣されるまでの一時的な独占期間の長さ、知的財産権の強さ、
ライセンシング(ライセンスの供与)の可能性、さらに技術を商業化する能力など
によって決定される。
 置き換え効果(アロー効果)とは、既存技術から企業が得ている利潤が、新技術の
導入によってより高い利潤に置き換えられる効果のこと。置き換え効果は、企業間の
市場シェアの序列が逆転する現象の重要な要因である(ボックス10.1参照)。
 先取りとは、そのままの意味で、先に新技術を開発した企業が有利な立場に立つこと。
例えば、特許の取得や、大きな生産能力を早期に構築して市場シェアを拡大することなど。

3 技術機会、研究開発と市場構造

3.1 研究開発の供給要因

 技術機会とは、新しい技術を応用できる機会(分野)のこと。科学的な進歩あるいは
産業での技術の進歩によって新しい技術機会が発生すれば、それを利用した産業の
研究開発も活発になる。例えば、最近の遺伝子組換え技術の発達という技術進歩が、
新しい医薬品の開発という技術機会を発生させ、オーダーメード薬品の開発に結びついて
いる。  技術機会が豊富な産業では研究開発が高水準になる。

3.2 研究開発と市場構造

 数式のバーを使って数式とかを入力するのは、非常にめんどうなので、手書きの
プリントを用意しました。  読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。適当なところで区切りますので、
質問があればどうぞ。

4 研究開発と経済厚生

 「研究開発は技術革新を促進するので、一般に経済厚生を高める効果がある。
しかし、企業が行う研究開発の水準が社会的にみて最適になる保証はない。研究開発の
水準が過小になる要因としては、技術の専有可能性の限定がある。逆に研究開発の
水準が過大になる要因としては、技術や市場を先取りして他の企業から顧客をシフト
する動機がある。多くの実証的な結果によると、平均的にみれば研究開発投資は過小に
なる傾向がある。  研究開発の効率性の検討にあたってもう一つ考慮が必要なのは、研究開発の成果である
知識の利用には競合性(お互いにせりあう性質)がないので、企業が重複した研究をする
ことを避けた方が資源の効率的な利用を促進するという点である。共同研究開発は
そのための一つの重要な手段である。ただし、競争が研究開発への重要な動機であるので、
共同研究開発が研究開発の独占をもたらすと研究への誘因を弱める危険もある。」

ボックス10.1 半導体産業(DRAM)の製品開発競争

 半導体産業は研究開発集中度(研究開発費対売上高比率)が高い。日本産業で10%
から15%となっている。  また、半導体産業では習熟曲線効果も大きい。習熟曲線効果とは、生産経験の蓄積に
よって品質管理と工程管理技術が向上し、生産コストが低下していく効果のことである。
 研究開発の比重が高く、習熟曲線が重要であることは、先行産業の競争上の有利性が
高いことを意味している。しかしながら、半導体産業の市場の集中度は比較的低く、
特定の企業が持続的に高いシェアを有することもない。その要因には二つある。
一つ目は習熟曲線効果が各世代で頭打ちになり、次世代の半導体生産ではほぼ新規
まき直しになることである。二つ目はある世代で高いシェアを獲得した企業が、
置き換え効果によって次世代のメモリーの導入による価格低下によって最も大きな損害を
受けることである。

質問・その他

  • 自分で作成したページを読んでみました。改行しないと読みづらいことがわかったので、
    適当なところで改行してみました。入力した文字数が多いので、間違いが沢山あるかも
    しれません。(寺10/2)

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-11-11 (金) 16:23:40 (4548d)

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze