第7章 カルテルと合併演習問題1. 同質財を生産する二つの企業が価格で競争している。市場には多数の消費者がいる。各消費者は財の価格が1000円以下ならば価格が安い方の企業から1単位の財を購入し、価格が1000円を超えると何も購入しない。両企業の価格が同じなら、消費者の半数は企業1から、残り半数は企業2から財を買う。両企業とも生産・販売費用はゼロとする。 (1) 販売が1回きりで終わる場合のベルトラン価格競争の均衡を求めよ。 (解説) (2) 販売が無限に繰り返されるとする。ディスカウント・ファクターをδとすると、両企業が価格カルテル(両企業とも永久に1000円の価格をつける)を維持するには、トリガー戦略はどのような形になるか。また、トリガー戦略によってカルテルを維持するためには、ディスカウント・ファクターδはどのような条件を満たしていなければならないだろうか。 (解説) 2. N社の企業が、ゼロの限界費用で同一の財を生産しているとする。需要曲線はP=1-Qであるとする。 (1) N-1社がカルテルに従って生産すると予想されるとき、第N社だけがカルテル違反して増産するなら、違反者はqN=1/2単位生産し、違反することによって得られる今期の利潤は1/4-1/(4N)であることを示せ。 (解答・解説) 全企業がカルテルに従う(財の価格がちょうど独占価格1/2と一致)とき、各企業の生産量は1/(2N)。第N企業の生産量をqNで表すと、他の企業が1/(2N)だけ生産するときの第N企業の利潤は πN = [1-(N-1)/(2N)-qN] * qN となる。これを最大化するようなqNを求めると qN = (N+1)/(4N) となり(問題文と異なるが気にしないことにしよう)、このときの第N企業の利潤は πN = (N+1)(N-1)/(16N2) となる。 π = 1/2 * 1/(2N) = 1/(4N) となるので、その差は πN - π = (N+1)(N-1)/(16N2) - 1/(4N) となる。これでも略解とは異なる。そもそも、値下げしたとき「利益は約1/4」なんて略解に書いてる時点でどうかと(計算したらちゃんと出るのに)。 (2) カルテルに違反することによって将来失う利潤の現在価値はδ/{(1-δ)4N}であることを示せ。 (解答・解説) そもそも、どんな戦略をとるのか事前に指定されていない((3)ではじめてトリガー戦略だとわかる)ので、将来どうなるかなんてわからん。 と言ってしまっては身も蓋もないので、トリガー戦略(裏切らないときは1/(2N)、裏切ったらone-shotのクールノー・ナッシュ)の時にどうなるか考える。 クールノー・ゲームでの各企業の生産量はqC=1/(N+1)、そのときの利潤は1/(N+1)2である。よって、第N企業がカルテルに違反する(第0期にqNだけ生産し、それ以降はqC)ときの第N企業の第1期以降の利潤の現在価値は δ/(1-δ) * 1/(N+1)2 また、トリガー戦略に従ったときの第1期以降の利潤の現在価値は δ/(1-δ) * 1/(4N) である。従って、この2つの差は δ/(1-δ) * [1/(4N) - 1/(N+1)2] = δ/(1-δ) * (N-1)2/4N(N+1)2 (3) (解答・解説) (1)で求めた (N+1)(N-1)/(16N2) - 1/(4N) ・・・(A) が大きいほど、カルテルを破るインセンティブは大きくなる。また、(2)で求めた δ/(1-δ) * (N-1)2/4N(N+1)2 ・・・(B) が大きいほど、カルテルを守るインセンティブは大きくなる。Nが大きくなるにつれて(A)は大きくなり(B)は小さくなる((A)は展開すればすぐわかるし、(B)は分子がN2で分母がN3だから)ため、Nが大きくなるにつれてカルテルを守るインセンティブは大きくなる。 3. は略解の通り。 |