消費者行動と需要曲線

需要曲線は財の価格に対する買い手(消費者)の反応を表したものである。ここでは買い手の行動をもう少し詳しく見るとともに、どのようにして需要曲線が出来るのかを見る。

無差別曲線による分析*1

2軒のスーパーの広告が朝刊に入っていた。その内容は以下の通りである。

スーパーAの広告

主婦のaさんがスーパーAで買い物をした。それと同じ買い物をスーパーBで行うと400円も高かった。

スーパーBの広告

主婦のbさんがスーパーBで買い物をした。それと同じ買い物をスーパーAで行うと400円も高かった。

さて、こんなことがあり得るのだろうか?

議論を単純にするため、牛乳と肉の2財のみが存在しているとする。また、支出金額は一定であるとする。ここで使う道具は以下の2つである。

  • 予算線:一定の金額で購入可能な財の組み合わせを表す線。
  • 無差別曲線:(ある人にとって)同程度に望ましい財の組み合わせをつなげた線。

これらを用いて上の広告が両方とも正しくなる場合があることを見てみよう。この場合の予算線は

(牛乳の価格)×(牛乳の量)+(肉の価格)×(肉の量)=(予算)

のようになる。

予算線の変化

予算線は財の価格や予算が変化することによって変化する。

(1)財の価格が変化する場合
 肉の価格が変化すると下図のように予算線は変化する。

(2)予算が変化する場合
 予算が増加すると下図のように予算線は右上にシフトする。

次に、無差別曲線は下図のようになる。

無差別曲線の一般的性質*2

  1. 右下がり
  2. 右上に位置する無差別曲線ほどその人にとって望ましい
  3. 原点の方にふくらんだ形をしている(「限界代替率逓減の法則」)
  4. 望ましさの度合いが異なる無差別曲線は交わらない

消費の組み合わせの決定*3

予算線上とそれより左下の領域*4では買い手はその財の組み合わせを購入可能であるが、最も望ましい(実際にこの人が購入する)のはどのような組み合わせとなるのだろう?

上で挙げた無差別曲線の性質から

予算線と無差別曲線がちょうど接するようなところ

で購入するのが買い手にとって最も望ましい。このような点を「最適消費(ベクトル)」と言う。

最適消費(及びそれ以外の点)では何が起きているか?

限界代替率:2財間で、片方の財を増加させたときに望ましさが変化しないようにするにはもう一方の財を減らす必要があるが、その交換比率

第1財(上の例では肉)の第2財(牛乳)で測った限界代替率 =(-1)×(無差別曲線の接線の傾き)

この概念を用いて上の条件を書き直すと

(限界代替率)=(2財の価格比)

となる。この2つの財の交換比率が異なる場合、買い手は消費を変化させることでより望ましい状態を達成可能である。

Case 1:(限界代替率)<(価格比)

例えば、肉(横軸)と牛乳(縦軸)の間で限界代替率=1/2、価格比=2/1となっている場合を考えよう。限界代替率=1/2であるから、「今の消費の組を考えているこの買い手にとって、肉2単位と牛乳1単位の価値は等しい」。そこで肉1単位を買うことをあきらめ、その代わりに牛乳0.5単位を追加購入してみる。これは価格比=2/1であるから購入可能である(肉の方が高い)。しかも、この買い手にとっては変更前と比べて望ましさは変化しないにもかかわらず、牛乳1.5単位分予算が余ったことになる。予算が余っている以上、最も望ましい状態とは言えない。

Case 2:(限界代替率)>(価格比)

Case 1の逆なので、牛乳をあきらめて代わりに肉を購入すればこの買い手にとって、より望ましい状態が達成できる(練習してみよう)。

この条件は一体何だ?
⇒結局のところ、限界代替率とは我々の心の中での財の交換比率を表している。それと市場での交換比率(=価格比)が一致するところで各消費者の財の消費が行われるというのが、この条件の意味するところである。

ちょっと応用
ある人が住宅を購入した。それからあまりたたないうちに、住宅の価格が上がった。このとき、その人の暮らし向きはよくなっただろうか?また、住宅価格が下落した場合はどうだろうか?

需要の所得弾力性

最適消費(x1*, x2*)はそれぞれp1, p2, Iの関数。これらをIで偏微分したものが需要の所得弾力性。

需要曲線の導出

価格を変化させると予算線が変化し、結果として最適消費も動く。これをプロットしていくと「(ある一人の買い手の)個別需要曲線」を描くことができる。「市場全体の需要曲線」は個別需要曲線を「横に」足しあわせていくと出来る。

効用

上で述べたように、望ましさの度合いに応じて異なる無差別曲線が存在する。そこで、この望ましさの度合いに数値を割り当てる(より望ましくなったら大きい数値を)。そうすると、各消費の組み合わせに対してある数値が割り当てられることになる(同じ無差別曲線上では同じ数値)。この割当規則を「効用関数」といい、その数値を効用という。すると、無差別曲線は効用関数の「等高線」と解釈できる。

世の中にある価格比

上の議論で価格比(一般的には「相対価格」という)が重要であることがわかった。我々はこのような考え方を実はもう学んでいる。比較優位がそれである。それ以外にも(この講義で触れる機会はないが)よく目にする相対価格としては、

  • 利子率((1+r)の方が適切か):現在消費と将来消費の交換比率
  • 物価:貨幣と財一般との交換比率
  • 為替レート:異なる貨幣間(円とドルとか)の交換比率

が挙げられる。

物価と相対価格

原油価格が上がるとインフレを心配する人が多くいる*5が、この2つが直ちに結びつくわけではない。上でも述べたように、物価上昇とはすべての財の価格が上昇することである。また、インフレ(正確にはインフレーション)とは物価の継続的な上昇のことである(デフレ(デフレーション)は物価の継続的な下落である)。理論的にはどう考えればいいだろうか。
 上の分析を使うと、肉と牛乳両方の価格が上がるので予算線が左下にシフトすると考えるかもしれない。しかし、そうはいかない。予算はどこから来るかというと、通常は労働の対価としての賃金が元になる。労働も財の一つであるから物価が上昇するときにはその価格である賃金率も上昇する。つまり、理想的?な物価上昇や下落は予算線を変化させない*6。もちろん、実際には全ての財の価格がいっせいに上昇・下落することは考えにくく、タイムラグがあったりする*7。原油価格の上昇はここで言うと肉の価格のみが上昇した場合に相当する。これは予算線をシフトさせてはいない。そのとき変わるのは肉と牛乳の相対価格である。もちろん、原油は多くの財にとって生産要素の一つであり、製品価格に転嫁されるかもしれない。しかし、全ての財の生産要素ではないし、上昇分が全て製品価格に転嫁されるわけでもない(価格弾力性の議論を思い出そう)。その点では、原油より重要な財がある。それは労働である。少なくともある種のサービスは原油が「直接」生産には関係なさそうだが、人の全く関与しない財の生産は考えにくい。


*1 ここでの話は デイビッド・フリードマン『日常生活を経済学する』による。
*2 両方の財とも消費量が増えた方が望ましい(英語でgood(s)である)場合。ゴミ・公害など(bad(s))の場合には少ない方がいいため、適当に修正する必要がある。
*3 ここでは無差別曲線が角張っていたりしない(もう少し言うと微分可能である)ことが前提となっている。また、内点解(財の購入・消費量がプラス)も仮定される。
*4 厳密には購入できる財の数量は0以上なので、予算線と縦横軸で囲まれる三角形の中
*5 これは社会科の教科書を書いている人 or 高校までの社会科の教員のいずれかに責任の一端がありそうな気がしないでもない。
*6 矢野誠 著『ミクロ経済学の基礎』(P.158-159)を参照。
*7 このあたりの話については、大竹文雄氏のWeb掲載記事「デフレはどうして悪いのか」を参照。

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Last-modified: 2014-06-29 (日) 15:56:10 (3582d)

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