「Prologue」 あたしはあさみ。妹のきぬよと一緒に服のお店をやっています。毎日毎日、朝早く起きては夜遅くまでミシンをかけ、服を作っています。そう…毎日毎日…。 でも、別につらくはないんよ。こうして自分の夢やったお店を開けたんやし、何より働いていることが、あたしがあたしであるということ。それにきぬちゃんもいるし…。 だけどな、明日ばっかりはそんな自分を少しだけ変えてみたくなるんよ。 …明日が何の日かって? うふふ…明日はクリスマス・イブですよ。みんな心待ちにしてるやないですか。 え?あたしはどうするかって? 別にクリスマスでも何でも、1日お仕事やっておしまい。それだけですよ。そう、いつものように… そういえば知ってます?クリスマスには一つだけ願いが叶うって話があるんやって。みんなは何を考えてるんやろ…。 え?あたしの願いは何かって? …あたしは……あのひとと一緒にいれれば、それが今一番幸せなんやけど… でも、そんなこと期待したらバチがあたりそうだわ…おーこわ。 そうやってまた1日が終わる。そう思ってました…。 12/24(土) 雪 「いつもの朝」 いつものようにあさみの部屋の目覚まし時計が鳴りだした。あさみは目を覚まし、目覚まし時計に手をかけ、立ち上がった。そして一伸び。 「う〜ん…あいたた…。」 この頃肩こりが体に染み渡るように痛むようになってきた。これも彼女の歳のせいだろうか。 「歳はとりたくないもんやねぇ…。」 独り言をつぶやいてカーテンを開けると、粉雪が降っていた。朝焼けが雲の間から粉雪を照らし、金色に輝いて空から地へ舞っていった。 そんな幻想的な風景も、あさみにとっては雪は歩くとき邪魔になるし、雪かきもしなきゃいけなくなる。仕事も増えるなぁ。とため息が出るだけだった。 「さぁ、きぬちゃんを起こさなきゃ…。」 そして部屋を後にした。いつもの生活が始まったのだった。 あさみはきぬよを起こした後、朝食を済ませて、寝間着から作業用のエプロンに着替える。そしてお店の鍵を開けお店の暖房に火をつけた。 今日の仕事で使う生地が店の中に置いてあった。気付いて見ると赤や緑など色鮮やかな生地が少し多い。そして既製品のアクセサリーに目をやると、三角帽子やトナカイの赤鼻がある。そこであさみは、今日がクリスマス・イブということを改めて思い出したのであった。 「早いもんやねぇ…。」 しみじみしていると、まだ眠たそうなきぬよが店に入ってきた。 「う〜ん…おねーちゃん…眠いよ〜…。」 「ほらほらきぬちゃん、シャキッとしなさい。」 「まだおきゃくさん来ないから別にだいじょーぶよー…」 「なんでそんなに眠そうなんよ?」 「いや…『淡い恋物語2』を最初から見ちゃってさぁ…実は寝たの夜中の2時なんよ…」 「もー…ほらきぬちゃん!そこの服を並べて!」 「はーい…」 渋々と返事をするきぬよ。それでも一度お店に客が入ると絶対明るくにこやかになる。そんな自分には出来ない面を持ってるきぬよがあさみは羨ましかった。 そう、あさみは内向的で人見知りが激しい。なので打ち解けて話をする人と言えば妹のきぬよ、幼なじみのたぬきち、村長さん、それと「彼」くらいだった…。 「おねーちゃん!!大変!!」突然きぬよが叫ぶ。あさみは驚いてミシンの針を床にばらまいてしまった。 「どうしたんよ?急に…」あさみが尋ねると… 「そういえば今日はクリスマスやん!」 「え…えぇ…そうやけど…?」 「おねーちゃんは何のお願いしたんよ?!ウチなんにも考えてなかったわ!!」 「なんや…そんなことでイチイチ驚かんでちょーだいよ…。」 「あはは…カンニンね。」 あさみはミシン針を拾いながら考えてた。 『あたしのお願いかぁ…あたしは…あのひととおしゃべりしたりするだけで全然幸せなんやけど…もーちょっとなんかあるといいんやけどなぁ…』と、彼女の頭が「彼」の事でいっぱいになっていった。 『でも…あたしも忙しいし…彼も忙しい身だし…何よりあのひととあたしが釣り合うハズがないわ…あたしなんか女らしいところなんか全然ないし…』 あさみはつい作業をやめてぼーっとしてしまった。 「…おねーちゃん?おねーちゃんたら。」きぬよがミシンの針を持ったまま固まってるあさみに声をかけた。 「え?あ、うん、何でもないんよ。あいたッ!!」 話しかけられ突然我に帰ったあさみは手元が狂いミシンの針を拾った時針を指に刺してしまった。 「もー…おねーちゃんもヒトのコト言えないやん…。 あ!もしかしておねーちゃんまたあのひとの事考えてたんでしょー?」 「ななな、ち、違うわよ、変なコト言わんといてな!」 見る見る紅潮する姉は図星なんだな。ときぬよは一発で分かった。 「あ〜!おねーちゃんのお願い、わかっちゃった♪あのひととデートとかしたいんでしょー?」意地悪そうにきぬよが茶化した。 「………う…ぅ…。」完璧な図星に反論が出来なかった。あんまりにも自分の仄かな願望がストレートに形にされたため軽い目眩さえ覚えた。 「あはは!!叶うかもしれないよ?今日は何て言ったってクリス…「はいはい!!おしゃべりはもうおしまい!!お店開けるよ!!」 顔が熱くなったあさみは自分を冷静にする為に外の『Closed』の表札を『Open』に変えた。 『そうなったら…いや、そんなことあるわけない、きっと…。』 AM8:00 淡い願いを乗せてエイブルシスターズが今日も始まったのであった…。 戻る |