彼と「恋人」という関係になって、一月ほど過ぎた。 といっても、具体的に何かあったわけではない。ただ、気持ちを確かめあっただけ。 だから、意識はカレとカノジョだったとしても、実際はただ一緒にご飯を食べたり、互いの家に遊びにいったり・・・、仲の良いお友達とそう大差ない。 実際お友達から進展していったわけだから、仕方ないのかもしれないけれど・・・時々、本当に「恋人」なのか、不安になる。 だって彼ったら、いつも筋肉と釣の話しかしないんだもの。 一度だけ言ってくれた「好きだ」なんていう告白めいた言葉だって、単に友達としての意味だったんじゃないのかしら・・・。 いつも通りのお昼過ぎの、いつも通りの会話。 「オマエは腹筋と背筋どっちが好きだ?」 なんて聞いてくるから、とりあえず「腹筋」と答えたら、そのまま腹筋がいかにすばらしいかという話に展開。 ついに彼は、自分の腹筋を披露し始めたのだ。 それがあまりにも強烈で、あまりにも見事だったものだから、私はつい「触らせて」と彼にお願いしてしまった。 「いいぞ〜、好きなだけ触れ〜」 勿論彼は快諾。マッチョな人って、自分の筋肉見られたり触られたりするの好きって聞いたことあるけど、本当だったんだ・・・。 そう思いながらも、初めて目にした見事な割れ具合に、私はゆっくりと手を這わせてみる。 「わぁ・・・ほんとに硬いね〜」 当たり前だけど、感触や手触りも私とは全然違う。 「そりゃそうだ。日頃のトレーニングが生み出したオイラの最高傑作だからな!」 素直な私の賞賛の声に、彼は得意気に胸をはった。 「ねえ、前に言ってた上腕二頭筋ってどこ?」 男の人の体なんて触るのは、初めてのことだった。他はどうなっているのかな・・・なんて興味がわいてきて、私は彼に問いかけた。 「あー、それはここだ。ここ、二の腕の上の部分」 「ふーん・・・じゃあ、三角筋ってのは?」 普段の彼との会話ですっかり詳しくなった筋肉名称を聞きながら、実際この目と感触で確かめてみる。 じっくりと触ってみると、それはどこもがっしりと硬くて、でも弾力があって・・・本当に鍛えてるんだと分かる。結構面白くて、私は次第に夢中になっていった。 揚々とウンチクを披露していた彼は、時間が経つにつれて、だんだんと口少なくなっていった。 「・・・なぁ、そろそろやめようぜ」 丁度、大胸筋から広背筋のあたりを辿っていた時、彼はとても弱々しい声でそう言った。 いつもお日様みたいに笑っている人だから、私はびっくりして彼を見る。 彼は顔を真っ赤にさせてうつむいていた。 そんな姿に、私は、自分がものすごく大胆なことをしでかしているのにようやく気がついた。 「ごめん・・・嫌だった?」 彼はちらっとこっちを見て、またすぐに目をそらす。 「嫌じゃないけど・・・」 うやむやに語尾を濁らせる彼の表情を見ていると、私の頬も自然と赤くなってくるのが分かる。 こんな顔、今までお互いに見せたことがなかった。 私がこのままこの手をやめれば、きっと何も起こらない。お互いちょっと照れ笑いして、またもとのオシャベリに戻るのだろう。 ・・・でも、それで本当にいいの? 私は自分自身に問いかけていた。 だって、とってもドキドキしているのに。 彼だって、こんなにドキドキしているのに。 「・・・嫌じゃないなら、いいじゃない」 私の指は彼の脇腹を降りて、太股へと向かった。 「おいっ、やめろって・・・」 「やめない」 弱腰の制止を無視して、そのままてのひらを這わせていく。 外側から、内側へ。膝からに向けて移動すると、彼の体が緊張するのが分かった。 やんわりと内股の筋を指先で押すと、彼はきゅっと唇を噛みしめる。 けれど、堪えきれなかった吐息の音は私の耳にしっかりと届き、その熱さに、私も小さく唇をふるわせる。 さらに上・・・彼の中心は、服の上からでも分かる位に膨れあがっていた。 私の視線がその一点に集中していることに、彼も気づいたのだろう。 慌てて壁際に後ずさったけれど、私はそれを追いかけて、彼に寄りかかるように、体を密着させる。 彼は小さな声で私の名前を呼んだ。もう抵抗しようとはしなかった。 さっきよりもずっと大きくなった彼自身が脈打つ感触が、私の指先に伝わってくる。 ゆっくりと、私は彼自身にふれた。服の上からふれただけなのに、とても熱い。 興奮しているんだな・・・そう思うだけで、私は自分が急速に濡れてくるのが分かった。 ずっと感じたかった彼を、今この手で感じている。 今まで、欲しくて・・・でもあまりにも彼がそういう空気とかけはなれた人だから、口にも態度にも出せなかった。 でも、今ならいいよね? 伺うように彼の瞳をのぞくと、彼はあいかわらず困った様子で目を泳がせていた。 でも、時々かよう視線には、興奮と欲望が入り交じっている。 私はゆっくりと頭を彼の下腹部へと埋めた。 片手をゆっくりと彼の服の中へと滑り込ませながら、目の前の腹筋に舌を這わせてみる。 「うっ・・」 彼の体が跳ねた。それと同時に熱さを増していく素直な欲求が面白くて、私はさらに舌先を押し当てる。 「ここも・・ん、鍛えなきゃね・・・」 張りつめた彼自身を、ゆっくりと引き出しながら、腹筋から下腹部に、ゆっくりと舌を這わせていく。 荒い息を隠せなくなっていく彼に、私も興奮する。 そのまま根本から先端へと一気に舐めあげて、反応する部分を重点的に責める。 彼の息が上がると同時に、だんだんと、口の中に苦い味が広がっていくのが分かった。 それは決しておいしいというものではなかったけれど、彼が興奮している証なのだと思うと、もっともっと味わってみたくなる。 先端を唇で包み込むようにしながら、そのまま頬張った。 口の中でのそれは、目で見るよりもずっと大きくて、私は何度もむせかえりそうになった。 それでも歯を立てないように注意しながら、彼の感じる部分を探しては、舌を強く押し当てる。 びちゃびちゃとした水音の合間に、彼と私の苦しそうな喘ぎ声が響く。 私は本当にとても苦しくて、でも何故だか気持ちよくて、夢中で彼を頬張り続けていた。 「う・・・あ、もう・・・!」 一際大きく痙攣したかと思うと、彼は私の頭を両手でがっとつかんできた。 それが、私を引き離そうとしての行為なのか、それとも引き離しまいとしての行為なのか、分からなかった。 私は夢中で両腕を彼の腰へと回し、しがみついていた。 彼は何度か呻いて、その度に腰を痙攣させた。 口の中にじわりと熱いモノが広がる。そのまま唇をすぼめて強く吸い上げると、彼はドクンと波打って、一気に果てた。 私は彼のすべてを受け止めることができなかった。 気がつくと、目の前をぽたぽたと白い液体つたい落ちていっていた。 解放された口で大きく息を吸い込んでようやく、意識がはっきりとしてきたようだ。 まだ少しもやがかかった視界に、荒い息づかいに揺れる彼の胸が映っている。 体に力が入らなかった。それでもゆっくりと身を起こすと、彼の腕が私の肩を強く引き寄せてきた。 そのまま腕の中に・・・と思ったら、彼は体制を変えて私の両腕を捕らえ、そのまま床へと押し倒してきた。 フローリングの上に敷いてあるラグが衝撃を和らげてくれたけれど、身を打つ感触に思わず悲鳴を上げる。 「ずるいぞ、オマエ・・・」 耳元で響いたのは、いつもとは違う、とても低い声。 目を開けると、少し怒っているような・・・というよりは、拗ねているような表情の彼がいる。 その距離の近さを今更のように実感して、私は緊張して小さく息をのんだ。 彼の声が強い調子だから、ひょっとして、実はものすごく嫌だったのかも・・・なんて、不安になる。 けれど、「ずるい」なんて言われることをしたつもりはない。 だって、別に無理矢理じゃないもの。 ・・・私たち、恋人だもの。 「ずるいって・・?」 「だって、ずるいじゃんか!」 「だから、何がよ!」 あまりにも頑なな彼に、私もつい、いつもの調子で声を荒げてしまう。 これじゃ、いつものケンカと一緒だ。さっきの行為とこの体制でムードの欠片もでないなんて、悲しい。自分が情けない。 「オマエ、さっきからオレのキンニクばっか触りやがって!」 「だってアレは・・・」 あなたがいいって言うから・・・ そう続けようとしたけれど、私の反論は喘ぎ声にすり変わってしまった。 肩をつかんでいた彼の手は、いつの間にか私の服の中へと割り入ってきた。 さっきの行為で敏感になっている感覚は、その感触・・・体毛が軽くふれただけでも、びくっと震えてしまう。 ああ、そういうことか・・・と、再び朦朧とし始める意識の中、私はようやく理解した。 「・・・たっぷりお返してやる」 彼が小さく笑う気配がした。 戻る |