夕方、マスターの顔を見に喫茶店に寄るのは、あたしの日課だ。
だから今日、たぬきちさんのお店の帰り道に『はとのす』に寄ったのは…いつもと同じ、日課、だったんだけど…。


マスターの真ん前、カウンターの端の席は、いつものあたしの指定席。
けど、今日はその隣に誰か座ってる。
お客さんの少ないこのお店には珍しいなあ、なんて思いながらその人の顔を見たら、
「あ……うんてんしゅさん」
そう、あたしがこの村に引っ越して来る時に乗った、タクシーの運転手さん。
ちょっと陰気臭くて、その後時々ここで顔を会わせても、あんまり会話もしてなかったんだよね。
「おお〜、ひさしぶりだっぺな。ずいぶんあか抜けたでねえか」
そんなワケないでしょ。
都会にいるのが面倒になって、こんな田舎の村に引っ越して来たんだから。
『あか抜けた』って言葉の意味、わかってて使ってるワケ?
でも、そんな気持ちはおくびにも出さずに、ただにっこり微笑む。
この村の人達と気まずくなりたくないもん。
ここはとっても居心地がいいんだから。
マスターが、いつものブレンドを目の前にスッと出して来てくれる。
良い香り…酸味とコクがちょうど良くて、ほんとに飽きの来ない味。
カップを見つめてうっとりしてると、横から運転手さんが顔を覗き込んで来る。
「なあ、おめぇ、シャンプー変えただか?」
……はぁ?
シャンプーの香りを覚えられるほど、この人と親しくした覚えなんて、ない。
思わずまじまじと運転手さんの顔を見返すと、照れたように笑いながら
「…そんなに見つめねぇでくんろ。おらぁ、吸い込まれちまいそうだぁ」
なんて言ってくる。何なんだろう。おかしな人。…冗談のつもりなのかな?
「おら、むかしは海の男ってことで鳴らしてただ。サーフボード抱えて波に乗ったりしてよぉ」
あらら。昔話が始まっちゃった。
でもまあ、これをおとなしく聞いておくのも、人付き合いだもんね。
にこにこして、カップを傾けながら話を聞く。
運転手さんはなんだか顔を紅潮させて、身ぶり手ぶりまで交えて興奮して話してる。
無理もないかな。ここや周りの村を行ったり来たりしてるだけじゃ、あんまり話し相手もいないのかも。
「なんだおめぇ?おらの歌でも聞きてぇってか?」
ぼ〜っと話を聞いてる内に、そんな流れになってたみたい。
ちょっと…酔っ払ってるの?この人。この静かな喫茶店で、歌を歌うなんてありえない。
苦笑しながら
「別に…」
と返すと、あたしが遠慮してるとでも思ったのかな。
「いつか気が向いた時には、おめぇの為に聞かせてやるだ」
ニヤニヤしながら、カウンターの下であたしの太ももに指を這わせて来る。
「とろけるような…ランバダをよぉ…」
びっくりして身を引いたら、運転手さんはやっと席を立った。あたしの耳に
「なんだ、おめぇ?テレてんのか?」
そう、囁きを残して。
お店から出て行った運転手さんの後ろ姿に、あたしが呆然としていると。
「……」
カウンターの向こうから、マスターの無表情な視線が注がれている。
いつもと変わらずにカップを磨いているけど、もしかしたら変に思われたのかも。
あたしはちょっといたたまれなくなって、席を立った。
「…ありがとうございます」
いつもの声。少しだけ、ホッとする。
運転手さんは、きっといつもあんな感じの、ちょっと変な人なんだ。
あたしが悪いわけじゃ、ない。……きっと。
博物館を出て、足早に家へと急ぐ。
空には夕闇が迫っていて、辺りは薄暗くなり始めていた。
近道を通ろうと、博物館の脇を抜けようとしたら。
「……きゃっ!」
木立の中に、すごい力で引きずり込まれてしまった。
とっさに出た悲鳴は、冷たい手に塞がれて、小さいまま口の中で消えた。
「あんなふうに期待させといてよぉ…何を狙ってるだ?うん?」
耳の後ろから聞こえて来たのは、押し殺した運転手さんの声。
期待なんてさせてないよ!何の事よぉ…!
そう言い返したかったけど、運転手さんの手が邪魔で、くぐもった呻きになるだけ。
「こいつを狙ってるんだっぺな…?」
そう言いながら、腰をすり寄せて来る。あ…もう硬くなってる…。
喫茶店での粘ついた視線も、いやらしい物言いも、気のせいじゃなかったんだ。
空いた方の手が、服の上から身体のラインをまさぐっていく。
背筋を、ゾクゾクと何かが駆け抜けた。
……や、だ……。
見悶えると、耳に甘く噛みつかれる。
「んあぁ〜…この香り…おら、もう…たまんねぇだ…」
囁きと一緒に耳朶を舐められて、腰が砕けてしまう。
抵抗する気力が、あっと言う間に失せていく。
ああ、もう…!こういう、男の人の勘違いとかが煩わしくて、こんな田舎に来たのに…!
無意識の内に、お尻を運転手さんに擦り付けてる自分に笑っちゃう。
この村に来てからずっと誰にも触れられてなかった身体が、意思に反して敏感に反応する。
服の上から胸を揉み上げられて、気持ちよさに首がのけぞった。
やだよぅ…息が苦しいよ…。
口を塞ぐ手をどけて欲しくて、唇の隙間から舌を出す。
丹念に運転手さんの手を舐めていると、背後から聞こえる息が荒くなった。
「お、おめぇ…そうやっておらに気のあるふりか…?その手は食わねぇだよ…」
そう言いながらも、口から手をどけてくれる。
やっと大きく息を吸い込む。排気ガス臭くない、この村の清浄な空気。
でもあたしは今、その片隅でこんな恥ずかしい事をされている。
いつ、村の誰かが通りかからないとも限らない場所で。
大声を上げれば、フータさんにも聞こえてしまうような場所で。
嫌ならば、悲鳴を上げればこの男は逃げて行くだろう。
でも。
欲望の溜まりまくった、今のあたしの身体は。
こんな中途半端で済ませられるわけ、ない。
「……ん、やぁ…」
口ではそう言いながら、身体を運転手さんに擦り付けてやる。
嫌なのは、されてる事じゃなくて、ここでやめられちゃう事。
ホントはこんな冴えないオッサンに、易々とやらせるようなあたしじゃないけど。
今は、欲しい。
涙目で振り返りながら、もう一度「やだぁ…」と呟くと、
運転手さんは一気に頭に血が上ったみたいだった。
あたしの身体をぐるっと反転させて、樹の幹に押し付ける。ざわざわと葉っぱが鳴った。
なのはなのボレロの、胸元のボタンがちぎられる。
「や…ひどぃ……」
甘えるみたいに呟いてみても、聞こえてないみたい。お気に入りの服なのに…。
運転手さんの目は、ボレロの合わせ目からのぞくあたしの胸に釘付けだ。
「あー、すんげえ…イイおっぱいだぁ…」
そう繰り返しながら、直に胸を揉む。
緑色の指の間から、真っ白なあたしの胸がぐにぐにと形を変えてのぞいてる。
自分で見ててもコーフンしてくる…。
「細っこいカラダしてるクセによぉ…生意気なおっぱいしやがって」
強弱をつけて揉みながら、乳首の周りを舌でねぶる。
「ん、あぁ…やぁ……」
あたしの胸を舐め回すその頭を、つい抱え込んでしまう。
きもちいいよぉ…。
乳首を舐め回されて、吸い上げられて、どうしようもなくて喘いじゃう。
あたしが胸に気を取られてる隙に、運転手さんの手はスカートをまくり上げていた。
「やッ、アッ…!」
下着の上から割れ目の辺りを撫で上げられ、恥ずかしさに足を閉じた。
だって、そこは…
「なんだ?おめぇ?……ずいぶん、濡れてるでねぇか」
自分でもわかるくらい、ぐちゅぐちゅに濡れちゃってる。
「やぁ…言っちゃ…ダメ…」
消え入りそうな声でそう囁くと、運転手さんの顔がニヤリと歪んだ。
「おめぇも、コドモじゃねぇって事だぁなぁ」
下着から片足を抜かれ、確かめるみたいにソコに指を這わされる。
硬くなったあたしの核を柔らかくこね回されて、高い喘ぎが洩れた。
「あぁ…ッ…」
もう入れて、お願いだから。
そんなあたしの心の声が届いたわけじゃないだろうけど、運転手さんがズボンの前を寛げた。
ガチガチになったソレから先走りを零しながら、あたしの片足を抱え上げる。
そんな体勢、ムリだよぉ…。
そう思いながらも、早くソレが欲しくて。
あたしは腰を煽り上げるようにして運転手さんを迎え入れた。
「ああぁ…ん、んん…ぅ」
入って来るソレを、息を吐きながら味わう。目を閉じて、自分の唇を舐め回す。
ああ…そう、これ…美味しいよぉ…。
無意識に、自分から腰を振っちゃうのが止められない。
あう、うかつだった…。
ちょっとリセットさんとこに怒られにいってくる。
「う、おっ?」
慌てたのか、運転手さんが焦った声を出す。
「なんだ?おめぇ?せっきょくてきだなぁ」
その言葉にうっすらと目を開けると、快楽に歪んだ運転手さんの顔が、夕闇の中に浮かんでいる。
気持ちよくて、もっと欲しくて、抱えられた足を運転手さんの腰に絡ませた。
「ああ〜…すげぇ、おお、う、おっ」
運転手さんの抑えた呻き声が耳に忍び込む。
「あん、あ、あ、んん…っ!」
気持ちいい。でも、足りない。
「やだ、もっとぉ…もっと、うんてんしゅさん…!」
そう泣き声を上げると、運転手さんがあたしの中からズルリとソレを抜き出してしまった。
「や…っ!ひどい…!」
「ひどくねえだよ、ちょっと待つっぺよ」
上擦った声でそう言いながら、運転手さんは力の抜けたあたしの身体を樹の幹にすがらせる。
それからあたしの腰骨をつかむと、もう一度、今度は後ろからあたしの中に突き入れて来た。
「ん…ああっ!」
運転手さんの太いソレが、あたしの中をグチャグチャと音を立ててかき回してる。
耳から聞こえるそれと、身体の中から響くそれとで、もうあたしはワケがわからない。
ただもう、幹にすがりついて運転手さんに揺さぶられてるだけ。
「あっアッ…んっ、いい…ァッ…」
「おめぇのココは…ッ…何でも食っちま…う…だな…ンッ」
片手で腰骨を、もう片手で胸を揉みしだいてる運転手さんの声が、どこか遠くで聞こえる。
頭上から落ちてくる葉っぱも、大事に育ててたパンジーが踏み付けられてグシャグシャになってるのも。
今のあたしには、どうでもいい事。
「あぁっ!ん…はぁん…ッあぁぁぁッ!」
ただ、今、気持ちよければ……もう、何でもいい。


あ〜あ…清らかな暮らしを求めてこの村に来たのに。
……禁欲も、ほどほどにしなきゃダメって事なのかなあ。
しばらくは運転手さんとも顔を合わせないように、気をつけようと思います。



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