1.

「あたしはポーラって言うの、あなたの名前は?」

僕がこの森に引越して一番最初に尋ねたのが彼女だった。
僕の家から一番近かったから。ただそれだけだった。

ポーラと僕はすぐに親しくなった。
面倒見の良い姉御肌のポーラは、この村のイベントやルールについて、色んな事を教えてくれた。
寝床と机さえあれば十分だと思ってた僕の為に、たくさんの家具を送ってくれた。
イベントがある時は、約束してた友達急に来られなくなって。と言って毎回僕を誘ってくれた。
そしてまだ一人暮らしに慣れていない僕の為に、多く作りすぎちゃったの。と言って毎日夕食を運んでくれた。

そんな僕らが恋人同士となるのに、そんなに時間は掛からなかった。
僕達は互いの時間の多くを共有しあった。
朝、目が覚めて朝食を済ませると、どちらかの家で落ち合い、
一緒に魚を釣りに行ったり、昆虫採集に行ったり、芸術鑑賞に行ったり、
果樹園を作ったり、ただ何となく散歩しに行ったり。
夜はどうせ同じものを食べるのだからという理由で、毎晩彼女の家で食べた。
僕が洗った食器を彼女が受け取って、丁寧に拭いてから食器棚に戻す。
その繰り返し。
毎日毎日その繰り返しだった。

ただ、ねぇポーラ...僕達もう付き合い始めて1年が経つよ。
僕達そろそろいいんぢゃないかな。


2.

−2006年6月10日
しとしとと雨が降る夕暮れ。
春から夏に変わるこの時期は、毎日雨ばかり。
この村で今流行りの、艶やかなピンクの傘があちこちで目立っていた。

僕はポーラから貰ったお気に入りの水色の傘をさして、彼女の家に向かった。
飛び切りの笑顔で迎えてくれた彼女に、今日の獲物を差し出す。
彼女はそれを自慢の腕でさっと料理して、既に用意してあった副菜と一緒にテーブルに並べた。
いつもの様にいただきますと挨拶をして食べ始める。
僕の胃袋に納まるサカナは、僕の釣ってきたものであり、彼女が捌いてくれたものなのだ。
何だか満ち足りた気分になる。

そしていつもの様に僕が洗った食器を彼女が受け取り丁寧に拭く。
僕は僕の仕事を終わらせ、ソファにもたれ掛かってテレビの電源を入れた。
いそいそと僕の隣に座った彼女は、何か面白いものはないかとチャンネルを回す。
僕はそんな彼女自身を、改めて見つめてみた。
白い肌、赤い頬、丸いつぶらな瞳、ぽてっとした肉体、ふさふさしたしっぽ。
僕は思わず、そのしっぽに手を伸ばしてしまった。

「ちょっと、やだ、そんな所触らないでょ」
「...ごめん、うっかりだよ。ついうっかり」
「前もそう言ってなかった?気をつけてよねぇ」
「うん、ごめん気をつけるよ」

うっかりなどではないのだ。
これは僕自身の欲望。彼女に触れたいという僕の想い。
何度ぶつけてきただろうか。その度に僕の儚い想いは砕かれていく。
ある日僕は彼女に聞いた。僕のこと愛してないの?僕達って恋人同士ぢゃないの?
何を言ってるの。あなたのこと、心から愛しているわ。
それなのに今僕達は、手をつなぐのがやっとだ。
彼女はそれ以上進ませてくれない。
照れているのだろうか、無知なのだろうか、分からない。
でも僕の思いは僕の中から溢れ出て今にも爆発しそうだった。

僕はテレビのチャンネルを消した。

「君に話があるんだ」
「偶然ね。私もあなたに話しがあるの」
「なんだい?」
「私ね、この村を出ようと思って」
「...なんで?」
「いつもと同じ毎日がつまらなくなったって言うか...」

それでも僕の思いは僕の中から溢れ出て今にも爆発しそうだったんだ。


3.

雨は止む所を知らず、ざあざあと涼しい音を立てる。
ただその雨音だけが部屋の中に響いた。
うつむいた彼女の伏せたまつげが、綺麗だった。
そう感じることで、不思議と冷静になってる自分に気がついた。

「僕と過ごす毎日がつまらなかったの...?」
「違う!違うの...あなたと過ごす毎日は楽しかったゎ...」
「ならどうして...」
「お願い、理由は聞かないで...ただあなたと笑顔で別れたいの...」
「...ポーラ...」
「...ごめんなさい」

彼女は一筋の涙を流した。
それは頬を伝って彼女の服を濡らした。
彼女にとってもこの別れは唐突だったのだろうか。
唇をかんで、ふるふると身体を震わせるその姿は、あまりにも痛々しかった。
僕は震える彼女のその肩に、優しく手をかけた。
悲しまないで僕の可愛いポーラ。何があったんだい。
その時だった。
ぱちんと高い音が響いて、僕の手が振り払われる。
何が起こったのか、流石に理解できなかった。
ポーラはまるで僕を避けるかのように、ソファの端に移動する。
相変わらず俯いたまま、沈黙を保つ。
僕の手は宙に浮いたまま完全に行き場を失っていた。

つまり彼女は僕のことを嫌いになったのだ。
この状況はそれを表している。
毎日の生活に飽きたと言うのも嘘で、僕と過ごす毎日が楽しかったと言うのも嘘。
ただ嫌いになったから別れたい。別れて新天地で新しい生活がしたい。
しかし1年間続いた僕との生活を、汚いものにはしたくない。
彼女はそれを美しい思い出にしたいのだ。
笑顔で最後を飾りたいのだ。
穢れることのなかったその身体で。

僕は勝手にそう解釈すると、体の芯から怒りが込み上げて来るのを感じた。
この村に引っ越してから腹が立ったり、苛々することは滅多になかった。
村が平和だったから、そしてポーラが優しかったから。
僕も出来るだけ優しく接してきた。
彼女は僕のために、僕は彼女のために。そうやって過ごしてきた。
それなのに、この仕打ちは何だろう。

雷が鳴った。
それと同時に僕は、ソファの隣にあった背の高いランプを手に取り、力の限り床に叩き付けた。
ガラスの破片がキラキラと飛び散る。
自分で起こした行動に驚いたけど、一度始めてしまえば後はもう感情任せだった。
僕は柄だけになったランプのコンセントを引き抜くと、そのままテーブルに叩き付ける。
そのテーブルをひっくり返して持ち上げ、窓に投げ付けた。
タンスの上にあった花瓶は、片端から壁に投げ付けた。
さっき洗った食器も手当たり次第床に叩き付けた。
雷の轟音でガラスの割れる音が掻き消える。


豹変した僕にすっかり怯えてしまったポーラは、おろおろするばかりだった。
逃げ出そうにも僕がドア側にいるために近づく事が出来ない。
割れた窓の周りにはガラスが飛び散っている為やはり近づけない。
しまいにポーラは奥のベッドの下に頭を突っ込んで隠れてしまった。
頭の上に両手を乗せて、隠れているつもりなのだろうが、しっぽとおしりが丸見えで、 頭隠して尻隠さずとはこういう事なのだと思った。

僕も豹変した僕自身にびっくりした。
十数年間生きてきて今までこのような事はした事がなかった。
でももう自分を抑える事が出来ない。
心で焦りを感じながら、身体で快感を求めていた。
今以上の快感を求めていた。

僕はポーラの隠れているベッドに近づくと、尻尾を掴んで彼女を引き摺り出した。
ポーラは両手の上に頭を置いたまま、うつ伏せの状態で震えていた。
僕がぎゅっと力を込めて尻尾を握ると、身体をびくっと震わせてからこっちを向いた。
恐怖で青ざめた彼女の横顔。
眉をひそめてとても悲しい顔をしていた。
大きく見開かれた瞳からは絶え間なく涙が流れている。
それでも頬の赤みは増して、何処か色っぽく、それが僕を欲情させた。

「...お願い、やめて...一体......どうしたのょ...」

僕はその問いに答えなかった。答えられなかった。
一体どうしたんだろう。どうしてこんな事をしているんだろう。
いいや、知らないはずない。分かっている。
僕は彼女を自分のものにしたい。初めて出会った時からそうだったんだ。
初めて出会った時から僕の想いは......

僕は持っていたランプの柄からコンセントを引き抜いて、ポーラの左手を取り、 グルグルと巻きつけてベッドの柱にしっかりとくくり付けた。
左手で彼女の右手を押さえつけ、彼女の下腹部にまたがり動きを封じる。
そして左手で乱雑に衣服を剥ぎ取ると、彼女の白い肌があらわとなった。

「お願い、ほんとに...やめて...嫌よこんなの...」

割れた窓から6月の生暖かい風が差し込む。
既に雷は遠のき、何処か遠くのほうで音だけが響いた。
それでも雨だけはざあざあと降り続ける。
ポーラの家の近くにある電灯が灯り、暗い部屋の中に白い光が差し込んだ。
その光が僕とポーラを照らし出す。
暗い所が怖いという彼女のために僕が設置した電灯。
それも今は、ただ彼女を辱めるだけなのだった。


4.

僕はポーラの上にまたがったまま、剥き出しになった胸を鷲掴みにした。
指の間から肉がはみ出ている。
決して形が良いとは言えないその弛んだ胸は、仰向けになる事で更にだらしなく見えた。
それでも弾力のある肌は心地よくて、小さなピンク色の突起は愛らしかった。
ポーラの顔は僕に見られている事で更に赤みを増し、眉をひそめて本当に悲しい顔だった。
僕はポーラの瞳を捕らえたまま、その右の突起を口に含む。
びくっと身体を震わせて、彼女の体から吐息が漏れた。
彼女の瞳に僕はどう映っているのだろう。
獲物に喰らい付く肉食動物そのものだろうか。
僕は突起を舌で転がしながら、右手でもう片方の乳房をもてあそんだ。

「...ふっ...っく...あふっ......やめて」

ポーラは時間が経って少し恐怖が和らいだのか、抵抗し始めた。
起き上がろうと腹筋に力を込める。
しかし僕は右手でその首根っこを押さえつけて、無理矢理口付けした。
口付けと言ってもポーラはペンギンなので、そのくちばしの間と間の隙間を舌でなぞってみた。
そうしてそのまま舌を首筋へと這わせ、乳首を通過し腹部へと移動する。
真っ白なつるんとしたお腹は、電灯の光を受けて光沢を帯びていた。
僕はその美しさに見とれて、思わず頬擦りをする。
その間に僕は右手を彼女の首から離して、彼女の足の間へと持って行った。
ゆっくりとその秘部に触れ、彼女の花びらを摘み、穴の位置を確認した。

「...ぃやあっ!恥ずかしいぃ!!」

ポーラは僕の手を振り解いて、起き上がろうとした。
しかし僕はその手で彼女の右足を掴み、右手で左足を掴んで持ち上げる。
彼女は起き上がる事が出来ずに、軽く後頭部を床に打ち付けた。
僕はゆっくりと彼女の秘部に顔を埋めて、舌で花芯を舐めあげる。
びくびくっと電気が走ったように彼女は痙攣し、身をよじった。

「あっ、あはっ、いやぁ...やめて、お願い...恥ずかしい...ねぇ...あんっ」
「可愛いよ...ポーラ」
「何で...こんな事するの...んんっあはっ...くふっ...恥ずかしぃ」
「ずっとこうしたかったんだ。君の事愛していたから」
「いやぁっ、んんっ...お願い許して。もうやめて...」
「でもポーラ、もう濡れてるよ。感じてるんじゃないの」
「...っち、違う...あっああっ...くふ...はぁ...はぁ」

僕は彼女の両足を下ろすと、ズボンのジッパーをも下ろして、トランクスの中からもう既に腫れ上がったものを取り出した。
それを彼女の秘部にあてがうと、ゆっくりと押し込んでいった。
やはり処女なのか随分と入りづらかった。
ポーラの中はとてもきつくて、少し気を抜くとあっという間にイってしまいそうだった。
当のポーラはあまりの痛みに涙を流していた。
それでも悲鳴を上げることはせず、声を押し殺して痛みと羞恥に耐えている様に見えた。
僕は出来るだけゆっくりとポーラの中に入っていったが、彼女は本当に痛そうに身体をくねらせた。

「んんっ...くぅっ...はぅ...あっつぃょ...熱くて痛い」

僕はこれ以上奥には入らないと判断して、ゆっくりと腰を振り始めた。
仰け反るポーラの体。上に上にと身体をくねらせて、痛みから逃れようとする。
僕はさせるまいと彼女の腰をがっちりと掴むと、更に腰を振った。
ポーラの中はとても温かく本当に気持ちよかった。
彼女はこんなにも痛がっているのに、僕はもうほとんど快感で限界だった。
それでもまだ彼女と繋がっていたいと感じ、何とか耐えつつ腰を振り続けた。
部屋の中に肉と肉がぶつかり合ういやらしい音が響く。
ポーラの秘部は彼女の意識とは違う所で感じ始め、すっかり濡れていた。
その為に僕は根元まで彼女の中に沈める事が出来た。

「はぁあぅっ...熱いよぉ...もぅ嫌だ...ぬいてぇ」
「どうして...こんなに濡れているのに」
「あっあっ、いたっ痛いの...とっても、痛いの...んくっ...」
「ごめんね...僕は...とっても気持ちいいんだ」

僕はそう言ってポーラに覆いかぶさった。
そうしてきゅうと抱きしめた。
ポーラは相変わらず顔を真っ赤にしながら涙を流している。
その涙は電灯に照らされてキラキラ光っていた。
雨は小雨に変わり、ぱらぱらと屋根を叩く。
窓から入った雨が僕の足元に流れて、僕のひざを濡らしている。
そこら中が雨と、雨の匂いと、彼女の声で満ちていた。


5.

僕は身体を動かしながら、今起きている現実を再確認した。
昨日まで彼女は僕に触られるのを過度に拒否していたのだ。
海辺で夕日を見ながら彼女の肩にかけた手も、 熱っぽいと言った彼女の、そのおでこに当てた手も、 キスをしてみようと思い切って、顎にかけた手も、全てが拒否された。
ある日僕自身が拒否されたような気がして、ちょっとがっかりして床に座り込んで拗ねて見せると、 彼女はあたしに触れようなんて、100年早いんだからねっと言って笑った。
そうして僕に手を差し伸べてくれるたのだった。
僕が触って良いのは彼女の手だけ。それも極たまに。
それが今はどうだろう。この現実。

僕はぐっぐっと彼女の奥まで突いてみる。
彼女はビクンビクンと痙攣して、無意識に僕のものを締め付けた。
最高に気持ちが良かった。
ものすごい肉圧だった。僕は更に腰を早く振った。

「ああっ、あはっ、ああんっ」
「...ポーラ...感じるの...」
「分からなぃ...んんっ...何か...変になりそぉ」
「気持ちいい?」
「...あはっ、はぁっ...ああっ...何かすご、あんっ、ぃ」
「ああっ、ダメだ。僕もう...」

僕はポーラの中にびくんびくんと白濁職の液体を放った。
ポーラは熱さと痛みとよく理解出来ない感覚に苦しんでるようだった。
僕は全てを出し切ると、しばし余韻に浸ってしまった。

これこそが僕が望んでいたこと。
何度も夢見たこと。
彼女の身体が欲しくて欲しくて、僕は二日に一度淫らな妄想をしては、 ゴミ箱をティッシュでいっぱいにしていた。
それをうっかり片付けずに彼女に見つかった時、風邪を引いてるんだと言い訳をしたら、 ポーラは特効薬だといって蜂蜜を採って来てくれた。
のどと鼻にイイのよ。と言った彼女の腕には、蜂に刺された後があった。
なのに、ごめんよポーラ。
本当はこんな事する積もりぢゃあ無かったんだ。

僕はゆっくりとポーラから僕自身を抜き出す。
痛みから解放された彼女は、何だか気の抜けた顔をしていた。
少し腫れた瞳、しっとり濡れたまつげ、半開きの口、頬には涙の後。
引き裂かれた衣服、汗で濡れた身体...足の間は白く汚れている。
僕は目の前が眩んだ。
ちょっとした疲れと、途方も無い後悔で。
あんなに身体に触られる事を嫌がった彼女を、こんな風にしてしまった。
彼女はこれからどうするだろうか。
警察に届けでも出すのだろうか。
それとも僕の最低最悪で卑劣な行為を、村の皆に触れ回った挙句に、 やはり出て行くのだろうか。
どの道僕は彼女を失う。
僕はこんな事をしなくても、彼女を失っていたのだけれど。

僕はズボンのチャックを引き上げて、おもむろに立ち上がった。
その拍子に彼女と眼が合う。
僕は反射的に、飛んでくる罵声に身を固めた。
しかし、彼女は涙目でこう語り始めた。

ねぇ、あたしの身体、失望したかな...
あたし...こう言うの怖かったんだ...
半年前くらいから、だんだん貴方があたしの身体に触る様になってきて、 最終的に貴方とあたしとはえっちな事するんだろうって思えてきて、 でも...あたし空も飛べないただの太った鳥だし..
. こんな...恥ずかしい身体...貴方に失望されたら嫌だなって思って...
でも...貴方はどんどんあたしを欲しがってるように見えて...
もう...どうしたらいいか...分からなくて...
だから...だから...

だから、別れようと言い出したのだ。
彼女は再び泣き出して、縛られてない方の手で顔を覆った。
僕は手を出すのではなく、口で説明してあげれば良かったのかもしれない。
僕は再び立ち眩みに襲われた。
しかし倒れる訳にはいかない。
これから彼女を介抱しなくちゃいけない。
たくさん彼女に謝らなくちゃいけない。
そして割れた窓を壊れた家具を濡れた床をなんとかいなくちゃいけない。

それからでも遅くは無い。
どんなに君が魅力的かってことを伝えるのは。





                           END



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