私、噂大好きのグルミン。
今日も、どっかに楽しい噂が無いか、村を偵察中!
それにしても、毎日が同じで退屈な村だわ。
そろそろ引っ越そうかしら?キュル
あら? あそこを走っているのは、メリヤスじゃないの?
何しているのかしら?
「おーい」って、普通の人なら呼び止めるじゃない?
でもね、私の直感ってのが、ビビって来ちゃったのよ。
だからね、こっそり後を付けたワケよ。
まん丸にまとまったモコモコ毛を、フワフワ揺らしながら、
メリヤスが、夢中で走っているのよ。
あのメリヤスよ。
おとなしくって無口な。
でもね、私と違って周りを気にしなさすぎだわ。
ご覧なさいよ。ちっともこっちに気が付いていない。
お陰で、私も後を付けやすかったけど、甘いわね。
それじゃあ、直ぐに、悪い人に捕まっちゃうよ。
時々、木の陰に隠れたりするだけで、
後は、私の軽やかな足で小走りで走るだけで、良かったわ。
この前、あの子の後を追いかけた時は、大変だったわ。
あの子ったら、普段あっけらかんとしているくせに、
コソコソ、ビクビクしながら、ロボと会ってんのよ。
少し歩いては振り返って、周りキョロキョロするものだから、
さすがの私も疲れたわ。
ま、何とか、二人が手をつないで、
カッペイのタクシーに乗ったところまで、確認したわ。
二人ったら、何処に行ったのかしらね?
カッペイに聞いても、答えてはくれなかったわ。
「お客さんの、ぷらいばし~だっぺ」とか言っていたわ。
あ~ん、もう! ケチよね!!
こんど、絶対に突き止めてやる!

とか、思い出しているうちに、メリヤスったら、役所の裏に、
向かったようね。
もちろん私も、後を付けたわ。
役場の裏は、一年中日が当たらないため、そこの空気だけ、別世界のように、
ヒンヤリとしていたわ。
私は、慌てて、近くのシゲミに身を潜めたわ。
そこは、余計に冷たく、私の緊張感を高めさせたわ。

しばらく、メリヤスの息を整えようとする咳払いに似た呼吸が、聞こえていたわ。

「ふぅ、ふぅ……あの。引っ越すって、本当ですか!?」

え? 何? 本当にメリヤスの声?
あの子、こんなに、声大きかった??
最初は小さな声だったけど、語尾が、物凄く大きくなっていたわ。

「おいおい。そっちから呼び出して、何だその質問は?」

え? 誰? 男の声?
低い男の声の主を見るため、私は、シゲミから少し身を乗り出そうとしたけど、
男の鋭いような、気配に、私は身を動かすことは出来なかったわ。
少しでも動いたら、明らかに、あの男は、私に気づく。
それぐらい、姿が見えなくても、私の勘で、分かるわ。

「行かないでください! ロボさん!!」

うええええ!
ロボ!?
今、ロボって言った!?

「私、前からロボさんのことが……」

だめよ、メリヤス! ロボはね……。

「前にも言ったが、オレにはあの子が……」

ああ! そんなハッキリと! 何て男だロボめ!

「……」

ああ、メリヤスが泣き出しそうな雰囲気だよ。

「ちょっと! 何してんのよ!」

突然の乱入者に、さすがの私も身が縮まったわ。
だって、シゲミの真後ろから声がするんだもの。

「ごめんなさい!」

って、喉まで出掛かったけど、直ぐに言わなくて正解だったわ。
だって、声の主は私に気が付いていなかったから。

「オマエ!」
「あなたは!?」

同時に、驚く二人の声が聞こえたわ!
メリヤスの声は、明らかに涙声だった。
あの子は、私の潜むシゲミの横を通り、二人に向かったわ。
彼女の踏む草の音の一歩一歩に、私はビクビクしていた。
足音に、様々な念が込められているように、感じられたから。

「ちょっと、何してんのよ! メリヤス!」
「……あ、あの」

メリヤスの小さな声が聞こえた後、しばらく無言が続いたわ。
さっきまでのロボの、鋭い気配も、あの子の女の念に、
かき消されてしまっていたわ。

「おい、オマエ」

堪らなくなったロボが、声を上げたわ。
それに続くように、メリヤスが、わっと泣き出したわ。

「 わあああ。ごめんなさい! ごめんなさい!」
「な、なによ!?」

さすがのあの子も、驚いているみたいだわ。
にしても、私の体が震えっぱなしだわ!

「す、すみません! 二人が、その、お付き合いしているのに、 ……ヒック、でしゃばってしまいまして……。わあああああ!」
「あー! もう! 分かったわよ!」

あの子が、困ったように怒鳴ったわ。
じたばたと足を踏み鳴らしている音が聞こえるわ。

「し、失礼します!」

メリヤスが、私のシゲミの方へ走って来たわ。

「ちょっと待って!」

引き止めるあの子の声に、シゲミの真横で、メリヤスの足が止まったわ。
葉の間から、メリヤスのモコモコ毛が間近で見えたわ。
バレやしないかと、私の心臓の音が、いつもより激しく打ち続けているわ。ドックン……。ドックン……。

「ねぇ。メリヤス……」

ドックン……。

「私の、ロボなんだよ」

ドックン……。

「だからね……」

ドックン……。

「夜に、ロボのこと考えながら、するの、もうやめてよね」

頭が真っ白になったわ。
私、多分一瞬気を失っていた……。
一度、あの世を見たかも。

メリヤスは、そのまま何も言わずに走り去った。
私は泣きそうだった。
もうろうとしている意識の中で、二人の会話が聞こえて来た。

「何て、こと言うんだオマエ!」
「何よ! じゃあ、ロボのこと考えながら、 されてんの、うれしかったの!?」
「そうじゃねーよ!」

ああ、明日引っ越そうかな……。
と、その時は思ったんだけど、私よりも、あの子とロボの方が、
引っ越すのが早かったわ。
夜中になる前に、二人は姿を消していたわ。
メリヤスは、その次の日に、姿を消していたわ。
たぶん、三人はバラバラの村ね。
人間がいなくなった村で、私は、ただ、草むしりをする日々を送っているわ。
引っ越そうかとも思ったけど、
また、どこかであの三人に会うのは怖かった。
ここの村にいれば、もう会わずに済むと思っているもの。

あら? ちょっと待って。
タクシーが村に止まったわ。
誰か来るみたい。

ようこそ。私の住む村へ。



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