「んぅ……」
首筋にすこし痛みを伴うキスをされて、沙柚梨は呻く。
上に被さるようにしている月夜は片手で自分の体を支え、片手で沙柚梨の服を脱がしていく。
儚い抵抗もむなしく、ただ服が乱れていく。
覚悟はしていた、ずっと前から。
すこし怖い今だって、月夜になら痛い思いをさせられても大丈夫だと思っている。
「沙柚梨、大丈夫か?」
気遣うような月夜の優しい声に涙腺が刺激される。
ここでないては逆効果になると思い、こくりとうなずく。
吐息は荒く、切羽詰っている状態であっても自分の事を考えてくれるのが嬉しい。
沙柚梨の承諾を得たにも関わらず、少し遠慮げに月夜は沙柚梨を見つめる。
そんな月夜がもどかしくて、触ってほしくて、沙柚梨からその背中に手を這わせる。
「つーちゃん、大好き」
「……っ、お前っ……こーゆー時に言うかなー」
はにかんだような笑顔でいった言葉をそういわれて、少し沙柚梨は怪訝な顔をする。
そんな沙柚梨の顔をみて、苦笑すると、耳元で月夜が囁いた。
「手加減、できなくなる」
***
部屋の熱気に酔いそうだった。
優しい愛撫が沙柚梨を追い詰めていく。
甘い声が沙柚梨の意思とは関係なく零れ、助けを求めるように爪を立てた月夜の背中はきっと血を流しているだろう。
「あっ、……や、っ……つぅ、ちゃぁ」
短い悲鳴のような嬌声、月夜の名前さえ満足に言えない。
頭に霧がかかったかのようだ、熱に浮かされている。
太ももから体の中心を這うように、月夜の手が移動すると、また小さく悲鳴をあげた。
「ぁあっ、つぅ……っ」
快感が押し寄せ、頬を伝い涙がシーツの海ではじける。
目の前がただ真っ白になると、体から力が抜ける。
朦朧とした意識の中で、月夜がただ鮮やかにキスの雨を降らせる。
「可愛い、沙柚梨。悪い、我慢できない」
「っ……ひぁっ……!」
急に体の中心に押し付けられた熱に、体に力が入る。
怖気づき、後退しようとするが、腰を固定している月夜の腕がそれを赦さない。
「力を抜いて、沙柚梨」
「ふぅっ……ぅ」
すがるように月夜の背中に腕を回す。
痛みを伴うソレが、この世で一番愛している人だということが信じられない。
引きつるような痛みに泣きそうになる沙柚梨を、優しく月夜が慰める。
ようやく月夜を収めた頃に、そっと息を吐く。
月夜もそれ以上動こうとはしていない。
まるで本当に皮膚という境界がなくなった気さえする。
溶け合えたら、どんなにいいのか。
「動くぞ」
「んっ……」
余裕がないのか、荒々しい動きに痛みに耐えながらついていく。
眉根を寄せる月夜を見、自分が月夜にこんな風に影響を与えることが嬉しくて、痛みを忘れた。
「あぁっ、やぁ、つぅっ……!」
「沙柚、梨っ」
さっきとは非にならないほどの快感の波に、沙柚梨は意識をゆだねる。
耳元で、月夜が何かをつぶやいた気がしたが、熱にうかれて聞き取れなかった。
***
目が覚めると、ホテルの天井だった。
起き上がろうとすると、下肢が痛みそのままベッドに逆戻りする。
(あ、そっか……。沙柚梨……つーちゃんと)
思わず最中のことまで思い出しそうになり、自分の意識を現実に戻す。
すっかり真っ赤になってしまった、顔を手で仰ぐ。
「沙柚梨?」
「〜〜〜〜っ」
シャワーから出てきたばかりの月夜が心配そうに沙柚梨に近寄る。
おでこに手を当てると、熱はないよな?といっている。
「大丈夫っ、沙柚梨大丈夫だよっ」
またもや慌てて起き上がろうとして、急な痛みに音をたててベッドに倒れる。
「……、もう少し寝とけ」
「やー、体べとべとするぅ〜」
「……」
「お風呂入るー」
「分かった」
そういうとシーツにくるんだまま、沙柚梨をお姫様抱っこする。
急な月夜の行動に沙柚梨は驚き月夜をとめようとする。
「良いから、オレも昨夜は手加減してなかったし」
「んぅ〜〜〜」
体を洗ってやろうか?という月夜の提案に首が引きちぎれるほどふって却下させると、シャワーを浴び始める。
下肢に鈍い痛みは残っているが、我慢できないほどではない。
ボディータオルで体を洗っていく。
鏡にうつる自分は抱かれる前と何も変わらないように思える。
ただ、少し
幸せについ笑顔が零れているだけだ。
16/Aug/05