朝見た天気予報は一日中晴れ、それを裏付けるかのように朝から雲ひとつない天気だった。
「と!……恢都!」
「!……ンだよ、月夜、ビックリさせンなよ」
耳元で己の名前を叫ばれ、恢都は体を震わせて呼んだ友人をにらむ。
友人は悪びれた様子もなく、ようやく自分の世界から帰ってきた恢都に向かって口を開く。
「お前がボーっとしてたのが悪い……お前今日どうする?」
「あー、パス……」
「?……珍しいな」
「ゆあが、来る日なんだ……」
「ああ、ゆあちゃんが?……お前らまじで仲良いな」
「お前と沙柚梨ちゃんにはかなわねーよ」
「バカいえ!……沙柚梨は妹じゃねーよ」
沙柚梨、という名がこの友人のポーカーフェイスを崩れさす唯一の言葉だと知っている。
月夜を知らない人物が彼らの姿を見てもすぐにわかるだろう、あんな、慈しむような瞳で見つめていれば。
そんな友人を微笑ましく思う反面、少々憎くもある。
それは、ただの嫉妬だ、ダレも悪くない。
「じゃ、オレもう帰るわな。蒼間先輩にもヨロシク♪って言っといて」
「ああ」
ひらひら、と片手をふって月夜に別れを言うと鞄を片手に教室をでる。
ゆあが着くのは夕方ぐらいだ、それまであと二時間ほどある。
大学から恢都の住んでいるマンションは地下鉄で二駅のところにある。
規則的に電車に揺られながら、恢都はぼんやりと外を見る。
揺れる景色に、恢都は吐き気に似たなにかが込みあがってくるのを感じる。
人の波に押されるように外にでて、ゆったりとした足並みで帰路に着く。
マンションの鍵をポケットから取り出し、ビルに入ろうと顔をあげ、恢都はその足を止めた。
「お兄ちゃんっ」
「……ゆあ」
無邪気な声と共に見慣れた少女が恢都の傍へと寄ってくる。
ふわり、と柔らかそうな髪が揺れる、大きな瞳が恢都を見上げる。
抱きしめれば、この体が柔らかくしなる事を恢都は知っている。
目の前の少女はまったくもって恢都とは異質なのだ。
気を取り直して、恢都は距離をとりつつ、目の前の妹を見やる。
「お前、夕方に来るンじゃ」
「学校早退しちゃった……へへ」
「バカか!お前、高3なんだぞ!進学の事も考えてろ!」
「大丈夫だよ。大学なら推薦入学できそうだし……」
「母さんはなんて?」
「私が、言って来たと思う?」
「後で怒られるのはオレなんだぞ」
「うん、ごめんね、お兄ちゃん」
まったく謝罪の気持ちなんてはいってないような声色でゆあが言う。
恢都はため息をつくと、ゆあが持っている大きなボストンバッグに視線を落とす。
こんな大きな荷物を持ってゆあが恢都を訪ねてきたことは、一度もない。
意図がいまいちとれず、恢都はとりあえずソレを指差す。
「…………なんだ、コレ」
「お泊りセット」
「………………はァ!?」
「お願いねぇ、可愛い妹のお願い聞いてよ」
いたずらっ子のような笑顔を浮かべながら、ゆあが恢都を見上げる。
恢都は二度目のため息をつくとボストンバッグを手にゆあをマンションへと招き入れる。
(……あとで、母さんに連絡しとかねーと)
部屋に入るとゆあが勝手知るといった様子で荷物をアンパックし始めた。
二人とも、それ以降は無言だ。
椅子に座り、恢都は読みかけの本を手に取る。
ぱらぱらと文字を目で追うが、どうにも内容は頭に入ってこない、眺めているといった方が正しいと思う。
と、突然その本が他社の手で奪い取られる。
犯人はその細く白い手ですぐにわかる、呆れたような瞳でゆあの方を振り向くと、彼女は笑みを浮かべる。
無邪気な笑みとは違う、魅惑的な笑みを。
そうして覗き込むようにして近づけられた唇が恢都のソレに触れる。
「ゆあ」
咎めるように名前を呼ぶと、ゆあが面白そうに外を指差す。
その指に誘われるように窓の外を見やる。
まだ五時前だというのにずいぶんと暗い外を不思議に思うとゆあが一言、雨だよ、と言った。
恢都は朝見たお天気キャスターに文句を言いたい気分になりながら、自分に張り付いてくるゆあの手を剥ぎ取る。
「やっぱりお前、帰れ」
雨が降り出す前に。
「いや」
「いやって、お前なぁ」
「なんで追い出すの?雨が降ったら、私はここに居て良いんでしょ?」
「まだ振ってない」
「振るよ、いつもそうでしょ?私がここにくると……雨がふるの」
その言葉を裏付けるかのように、視界の隅で静かに雨が降り出す。
まだ小雨だ、傘をさせば平気だ。
それでも、気丈に見上げてくるその瞳にそれ以上何もいえなくなってくる。
「お母さんに、連絡した?」
「まだ」
「あの人、怒るよ。……段々疑ってる、ゆあと……お兄ちゃんの関係を」
「だったら帰ればいいだろう!」
初めて、その唇に触れたのはたしかまだ高校生の時だった。
それから大学の為に一人暮らしを始めて、時折ゆあが訪ねてくる。
雨が降れば、少しだけ家に閉じこもって。
照れたように手を伸ばして、キスをする。
そんな関係で居られると、思っていた。
たとえば、密接すぎる兄妹に母親が疑いを抱いているだとか、ゆあが純粋な妹から、妖艶な女に代わりつつあるとかが、問題なんじゃない。
問題は、身に巣食う己のゆあへの気持ちの変貌にあるのだ。
好きだ、というひとつの感情じゃない。
手を伸ばして、その身に触れたいと思う、引き裂いて傷つけたいとも願う。
愛しいとおもうと同時に、壊したい、とも願うのだ。
たしかに最初その感情をあらわにキスをしたとき、ゆあは不安げに恢都を見た。
そうして呼んだのだ、恢都、と。
『恢都』
「恢都」
記憶の中でダブった声に、恢都は一瞬にして現実に戻される。
「追い出さないで。怖くないよ、ゆあは……」
「ゆあ」
ゆあの細い手が恢都の胸を通り、背中へと回される。
密着した体からはゆあの甘い匂いが鼻につく。
「恢都」
「ゆあ、離せ」
「意気地なしの振りなんて、しないで」
引き金を引いたのは、ゆあだ。
確かに溜まっていた劣情はそのまま衝動となり、ゆあの腕を乱暴に握ると引き寄せて口付けをした。
噛み付くように舌を絡まらせるとゆあが苦しそうに喘いだ。
だがそれすらも目に入らずに、床へと押し付ける。
拒絶も、何もいえないように長い口付けを施す。
時折唇を離しながら、一枚一枚ゆあを覆っている衣服を剥ぎ取っていく。
ゆあの白い手が同じように恢都のシャツに手をかける。
(オレは、何をしているんだろう)
冷静な理性がそう告げるが、一度その柔らかい肌に手をうずめてしまえば、もっと触れたいと思う欲望を収めるのは困難だ。
肌と肌が触れる、この心地よさ。
「かい、と……」
初めて触れる柔らかい双方のふくらみに、強弱をつけて刺激を与えれば、ゆあの口から甘い吐息がもれる。
先ほどの大胆さは消え、今は少し恥ずかしそうに恢都をみあげ、どうにか声を抑えようと手を添えている。
その手を無理やり顔の前からはずすと、ゆあのもう片方の手もとって頭上で固定する。
そんな恢都の動作にゆあは不安げに恢都を見上げる。
自由な手をゆあの顔の前にもっていく、人差し指と中指で無理やりゆあの口をあけさせる。
「なめて」
ゆあはその言葉に、一瞬恢都を見上げて、もう少し口をあける。
生暖かい舌がゆあより太く長い指をなめあげる。
「んぅっ」
ぐ、と奥に差し込まれると、苦しさに喘ぐが、すぐに指ははずされ、すぐに柔らかな唇が振ってくる。
濡れた指でゆあの太ももをなでて、誰にも触れられたことのないソコを下着の上から触れる。
邪魔な布切れを剥ぎ取ると、まだ十分に用意が整っているとはいえないソコに指を這わす。
ゆあの唾液で濡れているとはいえ、進入しようとする指は引きつるような痛みを与えるだろう。
それが可哀想だと思う前に、ゆあと一つになりたいという欲望の方が勝った。
いったん指を離すと、唇にキスを落とす。
そして、首筋、鎖骨、胸、おなか、とどんんどん下に下がる。
いやでもゆあにも恢都の意図は分かっただろう。
恢都、と少々焦ったような声をだす。
強引なやり方だとは思ったが、ゆあの敏感なソコに下を這わせる。
「ぁあっ……やぁっ、ん」
敏感なその突飛を刺激すれば、徐々に奥からしめっていくのがわかる。
「恢都ぉ……、恢都っ……おにいちゃんっ」
「ゆあ……」
ゆあの白い手が恢都の頭をつかむと乱暴にソコから引き離す。
「痛っ!髪の毛!」
「ハゲちゃえ、バカ」
はぁ、と蒸気した頬に潤んだ瞳のまま恢都をにらみ上げる。
「はやく、痛くしてもいいよ。はやく、欲しいよ」
吐息まじりにそんな事を言うゆあに、本当に理性なんて吹き飛んでしまう。
きつくその体を抱きしめる。
なるべくゆっくりと進入しようと試みるが、どうにも上手くいえない。
欲望が衝動になって、多少無理やり押し入る。
悲鳴にもよくにたするどい声が、ゆあの口から漏れる。
入り込んでしまえば、震えるゆあの体を抱きこんで二人とも息を整えようと少し無言になる。
「いいのかよ」
もうヤってしまった後だが、つい口にでる。
「いいよ」
「お前の兄貴だけど」
「知ってるよ、ずっと」
「お前もオレの妹だよな」
「だから、傍にいれたんじゃん。お兄ちゃん」
「あーあ、バレたらオレ、母さんに殺される」
「そしたら、さ」
「ん?」
「ゆあと、逃げよっか?」
「どこに?」
「遠く、遠く……雨が振ってなくても、抱き合える所」
その答えに、ちら、と恢都は外を見る。
外は、土砂降りの雨。
(ああ、くそ、あの天気予報もう当てになんねーじゃねーか)
ノイズによくにた音が、隠してくれる。
もしも、そのノイズを飛び越えてこの関係が傷つけられそうになったら。
「そうだな、逃げようか。バレたらさ」
「うん、恢都って、けっこういくじなしだもんね」
「うっせー、バカ」
「あは」
「ところでさ」
「んー?」
「動くぞ?」
聞かないで、バカ、と言われると、みあの手が恢都の顔をぐっと近づける。
柔らかい、昔から変わらない、優しいキス。
(まだ残ってる)
幼い頃からもっている、純粋な『好き』の気持ちを。
***
「なんて?」
親との電話を終えたゆあがリビングへとやってくる。
恢都のT-シャツ一枚だけという格好だ、恢都もジーンズだけで上は裸のままだが。
「ちょぉ怒ってた!……お兄ちゃんの勉強の邪魔をするなって!あ☆でも泊まっていいって☆遅いから」
「…………あれ?オレらの事疑ってンじゃねーの」
「あ……」
「お前………」
「だって!恢都って雰囲気がないとダメじゃん!」
だから!と逆に怒ったようにゆあが言う。
そんな妹の言葉に少々図星をつかれて、恢都ははぁ、と何度目かのため息をつく。
「バレるのも時間がかかりそうだなー」
「早く、逃げたいの?恢都」
「早く、晴れた日にヤりたいだけ」
なげやりに言った言葉だが、ゆあは顔に笑みを浮かべる。
「じゃあ、ヒントでも残しとく?」
「いや……それは……なぁ?」
「……いくじなし」
「あー、はいはい」
「でも、好きだよ」
「………それは、どーも」
「なんで、恢都は言ってくれないの!」
「オレの場合はな、こう言葉より、態度で接するというか」
「言葉で、欲しいよ」
「…………また、な」
煮え切らない恢都の態度に、ゆあは少し悲しそうに、それでも笑みを浮かべて何度目の言葉をつぶやいた。
「いくじなし」
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表にもいるけど。ちょっと話し方とかはいろいろ変わってます。
お得意な兄妹(笑
この兄弟はいつも、兄視点なんですよー。
妹ちゃん視点も書いてみたいわ