僕の恋は、殺意と共に始まる。

別に相手の苦しむ顔を見たいとかそんな理由ではなく、ただ殺意が沸くのだ。

憎しみからわく殺意ではなく、愛情ですらないし、僕はしたい愛好家でもない。

だから、この殺意はどこまで純粋な殺意なのだ。

だが僕は知っている、本能のまま彼女を傷つける事は赦されていない事を。

 

人を殺すなと、人が決めたルールを忠実に守る僕は、確実なる人である。

明確な意思を持ち、同じ『人』を殺せるのは、地球上で『人』だけだ。

皮肉にもその事実は僕に僕が『人』であると言う事実を分からせてくれる。

 

幸い僕は僕自身の欲望を抑える自信はあり、女が欲しくなれば困らない程度に周りに女も居て、多分一生働かなくていい位のお金もある。

暖かで裕福な家庭で育った僕のたった一つ手に入らないもの―それが恋である。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の恋愛事情

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を見たのは行き着けのバーだった。

暗闇の中、彼女の真っ赤な唇だけが浮かび上がっている。

酒をちびちびと飲みながら、僕は彼女を「見」る事しかできない。

そうして、彼女の人生を僕なりに想像する。

 

多分彼女の家も裕福で、親の目を盗んではこうやって遊びに来ているのだろう、独身、もしかしたら前に結婚した経験もあるのかもしれない。けれど今は絶対に独身だ。子供は居ないだろうな、あのプロポーションだと。恋人は居るのかもしれない、居たとしてもきっと何もしらないお坊ちゃまだろう。恋人は居なくとも、男は尽きないだろう。太陽の下で見てもきっと素通りするが、真っ暗な中で淡いランプに照らされる彼女はとんでもなくセクシーだ。きっと彼女もソレを知っている、だから昼間はあまり出歩かないのかもしれない。

 

ついでに僕は彼女がどんな風に男に抱かれるのかも想像してみる。

けして、顔には出さずだが。

 

下手な男とは寝ないだろうな。年下の情熱にもたまには乗るけど、いつもじゃない。駆け引きのできる男が好きなはずだ、恋愛をゲームに仕立てる事ができる。奉仕はしないか、とんでもなく巧いかのどちらかだろう。マグロになんてならない、男を食い尽くすかのようにセックスをするのだろう。喘ぎ声は笑うように、けして醜い声なんてださない。キスは好きじゃない。じゃないとあの赤い口紅が落ちてしまう。あの赤は彼女の美しさの象徴だ。

 

氷も解け、すっかり生ぬるくなってしまった酒を喉に流す。

生来酒に強くもない、ショットは好きじゃない、人が言うように熱くは感じないが、その代わり喉にぬめりが残る気がして、気持ち悪い。

ビールも、コロナしか飲めない。

きわめてお子様な僕の下は、あの苦さを美味しいと感じる事は出来ないのだ。

ライムが黄金色の液体の中沈んで行く様を見るのが好きなのだ。

軽い酩酊感を味わいながら、ふと視線を彼女に戻すと、ソコにはもう居なかった。

ドコに行ったのだろうと、目をキョロキョロさせて探すと、上から声がかかった。

 

「誰かお探し?」

 

真っ赤なルージュがねっとりと動く。

初めて聞いた彼女の声は、美しくも有り、老婆のようにも消えた。

明るい方へはよらず、僕の隣から少し離れた場所に腰を下ろす。

赤い唇が割られ、中からまた赤い舌が見える。

まるで蛇のような女だと僕は思った。

 

「いいえ、僕一人ですよ」

「そう、あたしもなの」

「あなたのような美しい女性が?ご冗談を」

「あら、お世辞が上手いのね」

 

ふふ、と妖艶に微笑む彼女に僕はいい女だと再認識する。

彼女は自分の器量を知っている、だから調子に乗ったりはしない。

そして、もう一つ、細い彼女の足が、僕を挑発している。

 

ねぇ、と耳に残る声で彼女が僕を呼ぶ。

少し近づいてきた彼女の白い首筋が見える。

 

あぁ、首を掻っ切ってやりたい!

 

じわじわと本能が僕の頭に押し寄せる。

でもその本能を抑える事なんて、僕には朝飯まえだ。

その代わり僕は彼女の姿を記憶する、その髪の毛から、足先まで。

 

赤い唇が僕の唇に触れる前に、僕はすばやく立つ。

あん、と不満げに、だが少し笑って彼女は立った僕は見上げた。

僕は彼女の仕掛けたゲームを離脱したのだ。

 

「それじゃ、またどこかで」

「えぇ、またね」

 

その言葉は永遠の別離であり、僕たちがどこかで逢い、愛を深めるような事は絶対にない。

彼女は僕のほかにゲームの相手を見つけて、楽しむだろうし。

僕は僕で安全な相手を彼女に見立てて、女の柔肌に安らぎを求める。

 

赤の口紅が必要だ。

この時間帯だとどこに売ってあるのだろうか。

 

声は口をふさげばいい。

長い黒髪はコンタクトをはずせばいい。

それでもあの強烈な赤は―コンタクトをはずしても見えてしまうから。

 

僕は今夜、見知らぬ女の部屋で、女に赤のルージュを塗り、空っぽな愛を囁いて、その肌に触れるのだろう。

頭の中で何回も彼女が死ぬところを想像して、空虚に果てるのだ。

 

そうしてやっと、僕の不毛な恋は終わりを告げる。

 

 

 

 

セックスの後の僕は、愛情も殺意も性欲もなく。

もはや、人間ですらないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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31st/Aug/05

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