「……もう別居?」

 

みつが呆れたように、机に突っ伏している悠美に対してそう言う。

悠美は今、貴一の従妹である蜜のマンションの一室にいる。

ここは蜜と蜂の兄弟が住んでいるマンションなのだが、昨夜から悠美はお世話になっているのだ。

理由は……。

 

「恥ずかしいってのが理由でも、私わかんないよ」

「だって!……好きって本当に気づく前はそうじゃなかったの。でもなんか気づいたら触れるのもはずかしいというか。なんというか……ねぇ?」

「ねぇって……好きって気づいた方が触れたい、とか思わないの?ゆーみん変わってる」

 

純粋に、恥ずかしいのだ。

高校の時、貴一も悠美が好きで、悠美も貴一が好きで、ただたんに悠美のわがままに付き合って貴一は『付き合う』事をしなかったのだ。

そういえば何回も告白してくるな、とは思っていたのだ。

結局始めて、終わるのが怖かった、臆病な悠美の所為で両想いになるのがこんなにも遅かった……と、言うわけである。

なんとなく好きだな、とは思うものの本当にお互いが両思いで世間で言うところの恋人同士に当てはまると考えたところで急に気恥ずかしくなってしまったのだ。

 

「で、家出?」

「きーちゃんにはちゃんと言ってる」

「だから、はちも帰ってこないんだ」

「え?」

「きー兄がゆーみんが居る家に自分以外の男の侵入を許せるわけないじゃん。飄々としてて絶対きー兄って嫉妬深いよぉー」

「そーなの」

「絶対そうだって、ゆーみんが気づかない所で色々牽制してそうだもん」

 

けらけらと明るく笑いながら蜜が言う。

 

「ってことは、私がここにいるから、蜂君帰ってこれないの?」

「うん」

「え、え、じゃあ私帰る!」

「いいよ、どうせあっちの家に居るんだと思うし。今夜も泊まっちゃえば?……ゆーみん、あんま溜め込まない方がいいよ。こうやって逃げる方がきー兄には堪えると思うしさ」

「うん………ごめんね」

「責めてるわけじゃないって。私だっていっつも食事は蜂とだけだから、ゆーみんと一緒にご飯食べれて嬉しいよっ」

 

慰めてくれているであろう蜜の言葉は嬉しかったが、かなり年下の女の子に恋愛の事で泣きついてしまった自分が恥ずかしく思える。

 

(……なんだか恥ずかしい思い出だけが、増えてく気がする……)

 

「蜜ちゃんは、彼氏とか居るの?」

 

なんとか話題を変えようと思い、そう質問すると蜜は首を横に振った。

 

「居ないよー。皆、蜂が怖いンだから」

「え?なんで?」

「蜂が裏で牽制してる事、蜂は私が知らないって思ってるけど、知ってるの。あの子、結構シスコンなのよねー……」

 

悠美が一度見た蜂は、飄々としていて、クールという形容詞が似合うような男の子だった。

どちらかと言うと感情豊かなのは蜜の方で、蜂はいつも蜜をからかっている。

 

「いいの?それで?」

「だって、蜂は私の為にやってくれてるんだもん。蜂くらいは超えてもらわなきゃ♪」

「ソレ、結構大変だと思うよー」

「そぉ?」

「うん……いいな、大事にされてるの」

「大事にされるなら、私彼氏にされたいけどなー」

 

ため息交じりにそういう蜜が可愛くて、悠美は微笑ましい気分になった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

蜜と食事を共にした後、タクシーで伊藤家の前まで帰ってきた。

巨大すぎる扉を前に、今ひとつ開ける勇気がでない。

本来ならば車で中まで入るのだが、ちょっと頭を冷やそうと扉の前で降りたのだ。

ソコまではよかったが……。

 

(どうやって、扉開けてもらおう……)

 

いつもなら車が来れば、付いている監視カメラに自分の姿が写れば開けてもらえる。

でも一人で立ってる状態でも写るのだろうか?実はそのカメラの存在が確実にどこにあるか暗闇の中では見えないのだ。

うーん、と悩んでいると、突然目の前の扉がゆっくりと開く。

 

「こんばんは、悠美さん」

「あ、蜂君」

 

急に門が開いたかとおもうと、中から蜂が出てくる。

少しだけ苦笑のようなものを浮かべている。

 

「ごめんね、やっぱココに居たんだ」

「うん。貴一さん待ってるよ」

「……うん、ありがと」

「玄関まで、送ろうか?」

「大丈夫、あるけるよ」

 

そう、と言って蜂はとめてあったバイクにまたがると、颯爽と去っていった。

ぼんやりと歩きながら空を見る。

丸一日の家出なんて、家出と数えていいのかわからない。

ただいまー、と家に入る。

 

「お帰りなさいませ」

「……今、貴一ドコにいるか知ってる?」

「先ほどはオフィスにいましたが?」

「そっか、ありがと」

 

そこらへんにいたメイドの一人を捕まえると、貴一の居場所を聞き出す。

階段を上り、貴一のオフィスの前まで来る。

何を言えばいいんだろうか?事後報告で蜜の所に居た事は知っているのだ。

とりあえず只今、だけ言おうかな、と思いゆっくりと扉を開ける。

と、

 

「??……いない?」

 

扉を開けてまっすぐ見れば貴一の机があるのに、そこには誰も居ない。

部屋に帰ったのだろうか、と思うと突然隣から声がした。

 

「お帰り」

「わ!……なんでそんな所居るの?」

「いや、そろそろ来るかな、って思って」

 

扉の横の壁に寄りかかるようにして貴一がいたのだ。

こんな近くに居て気づかなかった自分もそうだが……なんだか忍者みたいだ。

不機嫌そうな顔をして貴一は悠美を部屋にひっぱる、扉を乱暴に閉めると二人、向き合うかのような格好になる。

 

「……えと、只今」

「お帰り。で、ナンだったの?」

「何が?」

「まぁ、蜜の所だから浮気ではないだろうけど」

「!浮気なんてしないよ!」

「うん、ソコらへんは信用してる」

「…………笑わない?」

「内容による」

「だったら、言いたくない」

「言って」

 

いつも優しくて、悠美の気持ちを軽くしてくれる貴一だが今回は、少し怒っているように思える。

ごめんなさい、とか色々言い訳をいって許してもらいたい気持ちと、気恥ずかしい気持ちがぶつかる。

 

「………」

「言えるように、しようか?」

「え?」

 

ひょい、と悠美を肩に担ぐと貴一が歩き出す。

何かイヤな予感がするが、こういう時の貴一を刺激してはいけないのは身にしみてわかっていた。

ごろん、と転がされた先は机だった。

先ほどまであった書類たちは全部遠くへと避難させられている。

すぐに貴一が覆いかぶさって、悠美に口付けを落とす。

突然の貴一にの行動に驚いてどうにか貴一をのけようと手で肩を押すが、逆に手を包みこまれてしまう。

触れるだけ口付けがだんだんと深いものに変わると、抵抗する力も弱まってくる。

熱と恥ずかしさで瞳が潤んでくる。

こんな寝室でもない所で押し倒されて……本当に最後までやったら、悠美は二度とこの部屋には恥ずかしさで入れなくなるだろう。

だったら……理由を言った方がいいかな、と思い悠美は、言う言うっ、と叫んだ。

 

「だって、恥ずかしかったの」

「え?」

「……見るたんびに好きだなぁって思って、なんか、それだけで満ち足りるって言うか……はじめてした時よりずっとずっときーちゃんに触れるのが、ドキドキするの」

 

貴一は包んでいた悠美の手を、己の胸に押し当てる。

どうしたんだろう、と思うと、規則正しい貴一の胸の音が手から伝わってくる。

 

「オレも一緒。ドキドキするけど、オレはもっと触れたいと思うけどね」

「ひゃっ」

 

するり、とトップスと肌の間に貴一の手が滑り込む。

骨ばった、悠美とは骨格からして違う手、わき腹を撫でられると背が跳ねた。

 

「やっ……つーちゃん、ココでは」

「大丈夫、恥ずかしいなんて思ってらんなくなるから」

 

そう宣言するなり貴一はこれ以上反論できないように悠美の唇をふさぐ。

抵抗しようと身じろぎするたびに一枚一枚服が剥ぎ取られていく、一体どんな魔法を使っているのだろうかと思うくらいの早業だ。

服が剥ぎ取られて床に落ちる音が耳元で聞こえるようだ、ぼんやりとしていたら急に貴一に耳を舐められる。

 

「ひゃああっみ、耳っ」

「ちゃんと集中」

 

耳元で吐息と共に吐かれた言葉のあと、耳を甘噛みされる。

すでに下着だけの姿で何一つ乱れのない貴一に押し倒されている。

 

「きーちゃんも脱いでっ……ずるぃ……」

「じゃあ、ゆっちゃんが脱がしてよ」

 

その言葉に悠美はぎょっとなり貴一を見る、だが貴一はいたって真剣だ。

なんども体を重ねた事はあるが、いつも貴一がリードして、悠美が貴一に奉仕をする事は少なかったのだ。

迷いながらも震える手つきで貴一のシャツのボタンに手をかける。

一つ一つはずすたびに、コレから起こるであろう事が頭の中でよぎる。

ボタンを全部はずし終わった頃には悠美の顔は真っ赤に染まっていた。

シャツを肩からはずすと、均整な筋肉のついた上半身が現れる。

こんなまじまじと見たのは初めてで、悠美は視線を逸らせない。

 

「下は?」

「し、しっ……きーちゃっ……お願い」

「じゃあ、マタ今度してもらおう」

「いやーっ///」

「オレはゆっちゃんの服を脱がすのは楽しいけどね」

 

何時までも初心な小娘のような反応をする悠美が可愛くて仕方がない貴一はよくできました、と言わんばかりに額にキスをした。

滑らかな肌を通り、胸を下着の上から優しく揉み解す。

ブラのホックをはずすとその頂に舌を這わせる。

声を我慢しているであろう悠美のうめき声が聞こえる、歯を立てて少し乱暴な愛撫をほどこすと、あっ、という漏れた声が聞こえる。

 

「我慢、する余裕があるんだ?」

「っやぁ……きっぃ、ちゃっ……」

「ゆっちゃんってちょっとM入ってるよね、乱暴なのが好き?」

「バカバカバカバカぁーっっ」

 

抵抗しようにも、ココは机の上、十分に暴れるスペースはないのだ。

と、背中に手が回されたかと思ったら、体を強制的に反転させられてしまう。

腰を固定されて、ちょうど机が切れる所で体を折り曲げられる。

机にしがみ付くような格好になり、後ろから貴一の手が下腹に触れる。

じわじわと降りていくその手に、悠美は叫びたいほど恥ずかしくなる。

意識を奪ってくれるくらい激しくしてくれる方がまだマシだった。

足の付け根と下着の間に手を入れ、悠美の最後の砦はあっさりと足の下におちてしまう。

 

「んぅっ……ふぅっ…ンっ……もっ、ダメっ……」

 

秘所に入り込んだ貴一の手が中へと往復するたびに卑猥な水温が耳につく。

焦らすような単調な愛撫では決定的な快感は得られず、体に溜まっていく熱が悠美の意識をどんどん奪っていく。

 

「お願っ……もっ……」

 

懇願の言葉が言い終わる前に、貴一が悠美の中に進入する。

息をつくとすぐにゆっくりと律動を開始する、これは悠美がなれるまでの貴一の優しさだ。

そのうち貴一も余裕がなくなり、悠美の腰を抑え欲望のままその体を蹂躙する。

 

「あっ―……ぁあっ……っ」

「ゆっちゃん、好きだよ」

「ぁあっ……ンっ」

 

熱の篭った言葉と共に高みへと突き上げられる。

堪えたいのに口からでるのは嬌声だけで、好き、と言おうとした所で頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ひどい」

「何が……?」

「だってこんな所で……オフィス……片付けなきゃ」

「後でオレがやっとくって?ね?」

「ん……」

 

そう言って悠美は気だるげに喜一の裸胸によりかかる。

貴一のシャツ一枚だけ羽織った状態で、瞳はまだトロンとなっている。

貴一もズボンをはいているだけで、もし誰かに張ってこられたら弁解の余地もない。

 

「きーちゃん」

「ん?」

「キス」

「ん」

 

ちゅ、と小さく口付けをする。

悠美がこんな風に甘えてくる時のキスはまるで子供のようなキスだ。

甘い甘い砂糖菓子のようなキスを時折悠美はねだってくる。

 

「……結局、きーちゃんのペース」

「まさかぁ」

「だって……いつも勝てないもん」

「ゆっちゃん、それは違う」

 

自信ありげに貴一が悠美に笑いかける。

 

「もしオレのペースだったら今頃ゆっちゃん子供何人目だと思ってるの?」

「っっ!!」

「それとも欲しい?」

 

衝撃に言葉の出ない悠美を押し倒すと羽織っていたシャツを肌蹴さす。

 

「ヤっ、きーちゃんっっ」

「がんばってみる?ゆっちゃん」

 

魅惑的な笑顔が今は悪魔の微笑みに見える。

でも結局行為が始まれば抵抗できなくなるのは自分でも分かっているのだ。

恨めしそうに自分を見上げる悠美に微笑みかけ、貴一は額にキスを落とした。

 

 

 

 

 

Fin

 

 


 

 

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10th/May/06

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