明るくて、幼い外見と言動は本当に子供のように見えるというのが貴一の、悠美への第一印象だった。

気づくと、その少女はよく貴一の視界に居た、が、それだけだった。

 

自分の顔が一般的にウケル事はいやというほど分かっていた、だから女に不自由した事もない。

だからといって、よくあるようなトラウマなんかじゃない、女の子は全員好きなんだと思う。

だから、自分の顔の良さは神様からの贈り物なのだ。

そのため少々派手目なグループと一緒にいた貴一と悠美はクラスが一緒でも挨拶しかしない知り合いだった。

接点など、何もなかった。

 

あの日まで。

 

夕焼けが校舎を緋色に染める。

誰も居なくなったクラスの隅に貴一は座っていた。

こんな時間までこんな所に居るなんて、自分でもわからない。

ただ、忘れ物を取りに来て、いつもと表情の違う教室に見惚れていただけなのかもしれない。

誰からか隠れるようにカーテンに包まると、ぼぅっとしていた。

と、教室の扉が重々しい音と共に開かれる。

先生だったら事情を言って帰ろう、と思ったが、その場に立っていたのは少女だった。

 

同じくクラスの悠美だと気づいたのは少し立ってからだった。

いつも笑顔で、友達と騒いでいるイメージの悠美と、今目の前のいる少女は、まったく違っていた。

 

緋色に染められた少女に、表情はなく。

それでも不機嫌といった様子ではない、本当に表情を動かすのが面倒くさいといった風だ。

 

笑っているときより、格段に大人びて見え、貴一は正直度肝を抜かれた。

 

「……、上杉……?」

「っっ?!」

 

貴一の搾り出すような声に、大げさとも言えるリアクションで悠美が驚く。

そしてすぐに、いつもの幼い悠美に戻る。

その変化はとても自然で、一瞬自分が見た悠美が幻だったのではないかと思うほどだ。

 

「伊藤君、ビックリしたぁ、何してるの?」

 

笑顔で、愛想がよくて、幼い、悠美。

クラスで見かける悠美がソコにいた。

 

「上杉こそ、何してンの?」

「私、は、ちょっとね。……なんで?」

「上杉って、思ったより、大人びてるよね」

「わかんない、でも皆は私に『子供』っぽく居て欲しいんだと思う」

「だから、そんな風にしてンの?」

「わかんない」

「ソレ、オレに言っちゃってもいいの?」

「………わかんない」

「わかんなぃ、だけ、なんだ」

「うん」

 

お互いまったく会話がかみ合っていないように感じられたが、貴一はこの少女に好感を抱いた。

面白い少女だ、それだけで仲良くするメリットはある。

 

「上杉、悠美だよね?」

「うん、そうだけど?」

「ヨロシク、ゆっちゃん」

 

そう言って、ぽんぽん、と頭を撫でると、悠美がぷ、と笑う。

つい数時間前まではこんな風に話せる中ではなかったというのに、世の中は面白く出来ている。

 

悠美がいたずらっ子のような瞳で貴一をみて、ねぇ、と貴一を呼ぶ。

ねぇ、と言った響きは幼い悠美が言うと、淫靡に聞こえ、貴一は少しどもりながら返事をする。

 

「伊藤くんは、きーちゃん、ね」

「ちゃん付け……」

「イヤ?」

「いーよ。そっちの方が昼間のキミにはあってる気がする」

「……あれも、私なんだと思う。だって、私甘ったれだもん」

「じゃあ、只単に今のキミを出さないだけなんだ?」

「そー……なの?」

「そーなんじゃん」

「……伊藤君って思ったより、面白い人なんだね」

「違うっしょ」

「え?」

「きーちゃんじゃなかった?今キミが決めた名前」

「本気?」

「マジ」

 

自分で決めておいて、悠美は少し困った顔をする。

 

「きー……ちゃん?」

「はい、なに、ゆっちゃん」

 

半分悠美を反応を面白がっているであろう貴一は、上機嫌である。

悠美も悪い気はしないのか、微笑む。

秘密の友達の出来上がり、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そういえば、きーちゃんとはそーやってであったんだっけ)

 

ベッドの中でぼんやりとしながら悠美は二人の出会いを思い出していた。

目の前には無防備に眠っている貴一がいる。

 

(結婚する、なんて思ってなかったし……)

 

あの後、急に仲良くなった貴一と悠美をからかう声は少々で、女子は一人として悠美がライバルになるとは思ってなかったらしい。

少々嫌がらせはあったものの、二人の様子があまりに色気ナシだったので、そのうちなくなっていた。

 

(影では、きーちゃんと……してたけど)

 

今、好きだといってくれる、ならば貴一は学生時代の悠美の何を気に入ってくれたのだろう?

いつか教えてくれるのかな、と思いながら悠美は貴一に少し近づくと、もう一眠りする事に決めた。

 

(まだ、朝まで時間あるもの)

 

朝がくるのが惜しい、と今はただ思う。

 

 

 

 

 

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14th/Oct/05


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