ばれないようにしようと決めていたのに、その時はすぐに来てしまった。

偶然会った友人に左手に律儀にはめている指輪を見られてしまったのだ。

いつもは少し抜けているのに、こんな時はすばやい友人を少し恨む。

 

「え!?悠美ゆみいつ結婚したの!?」

「えーっと、先月?」

「高校から『結婚してもおしえなーい』とかって言ってたけど、ほんとにそうするなんて」

「だって、驚いた?」

「驚いたどころじゃないよー、えー、相手はぁー?」

 

どうにかしてこの場を抜けれないか悠美は頭で考えるがいい考えはない。

できるなら、みなみに教えるのは最後にしたかった、悠美の高校時代の親友で、南は高校時代貴一の事が好きだったのだ。

 

「……ぁーっとォ……」

「えーっ!もったいぶんないでよ!!誰誰!?」

「あー…………きーちゃん」

「………………………へ!?」

 

長い沈黙のあと驚いたように南が悠美を見る。

悠美は悪いやら恥ずかしいやらで南が見れない。

沈黙の後、南が口を開いた。

 

(もう、時効だよね?)

 

恐る恐る南の反応を待つ。

 

「ぃやー、あの頃みんなで金持ちの貴一の愛人になりたいって話してたけど、正妻じゃん!」

「あははー、あははー」

「えー、すごぉーい!」

「いやー、私もビックリ」

「そぅ?私、そこまでびっくりしなかったかも」

「なんで?」

 

南の意外な言葉に、悠美は一瞬びっくりする。

もしかして、高校時代の二人の関係を知っているのだろうか?―だとしたら憤死決定である。

 

「なんか、二人で居るのが自然っていうの?二人とも笑顔の裏に境界線があってお互いだけがソレを超えれるって感じだもん」

「なにそれ?」

「貴一君って意外にシャイで、結局私にもあまり懐かなかったけど、異常に仲良かったモンね。もしかして、その頃から?」

「付き合った事は、一度もないよ」

 

その言葉に高校じゃないのかー、と南が一人ごちる。

たしかに、付き合って、はいないので、嘘を言っているわけではない。

それでも本当の事を言って南を傷つける必要はないと思う。

 

「でも、悠美、高校から貴一の事好きだったっしょー?」

「―え?」

「だって、私が貴一好きって言ったときも手伝ってくれたけどなんとなく元気なかったし」

(それは、私が南の知らない所できーちゃんと関係してたの!)

「すっごい、安心して貴一に甘えてたし」

(…………だって……ねぇ?)

「貴一だってさ、遊び人って噂のわりに悠美には手ェだしたりしないで、誠実だったし」

(………………ぅう)

「だから、よかったじゃん!」

 

ナニがよいのかは分からないが、悠美はとりあえず笑顔を返しておく。

南はそんな悠美の笑顔に安心したのか、それ以上何も言ってこなかった。

人の感情を読むのが巧い南だから、悠美がこれ以上突っ込んだ事を言われるのがいやな事がわかったのだろう。

 

「……ま、折角あったんだから……どっかで食べてかない?」

「うん、そーする」

 

その後は、大学やら、今の仕事やらの話に女二人でもりあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいえば、今日。南に逢ったよ」

「へー……。ゆっちゃんと同じクラスだった子だよね」

「忘れたの??」

「なんとなく覚えてるけど」

 

ゆっちゃん以外忘れたよ、と言葉が続けられたが嘘だとすぐにわかる。

そんなわけないのだから。

 

ばれちゃった、と言葉を続けると、あらら、と返事が返ってきた。

別に慌てる様子はなく、来たときが来たといった風な感じだ。

そんな貴一の様子に、悠美は少し面白くないと感じる。

 

「南ね、きーちゃんが私に対して誠実だったー、とか、二人で居て自然だったーとかい言ってたよ」

「あってるんじゃない?」

「そ〜ぉ?」

「だって、オレゆっちゃんの傍が一番居心地よかったもん」

「………えー、私と寝てたからじゃない?」

「でもオレ、誠実だったよ、ゆっちゃん以外と寝てなかったし」

「なんで?」

 

真顔でそう聞くと、かなり呆れたような顔で貴一が悠美を見つめる。

見慣れたはずなのに、時折ドキドキする。

 

「好きだからじゃん?」

「………―はい?」

 

理解するのに数十秒かかり、そういうのがやっとだった。

えーっと、と頭をぽりぽりかくと、真意を問うかのように貴一を見る。

 

「オレは、好きだよ、ゆっちゃんの事、今も昔も」

「………」

「だから付き合いたかったな、ま、結婚はオーケーだったし、よかったけど」

 

ふと遠くを見るような瞳で、悠美にそう告げる。

知らなかったはずなのに、好きだよ、という言葉はストンの悠美の心に落ち着く。

 

「なんでゆっちゃんは結婚オッケーだったの?本気でイヤだったら付き合ってっていったときみたいに拒否するっしょ?」

「……好き、だからかなァ……?」

 

キスされても、触れられても貴一なら嬉しい、そーゆーのが好き、って言うならば、貴一が好きである。

多分、あの高校時代で一番好きだったのは貴一で、だからこそ体の関係を赦したのだ。

でも、貴一が自分の事を好きだとは知らなかった、というか、遊びなんだと思っていた。

だから、付き合うのがいやだった、どうせ長く続くわけではないし。

付き合うという事は、終わりが訪れるということだ、その点、貴一と悠美の関係に『終わり』は必要なかった。

 

(………私、きーちゃんと離れるのがイヤだったから、付き合わなかったの、かな……)

 

と言う事は、高校時代に貴一の事、ものすごく好きだった、という事ではないだろうか。

南の言ったとおりになってしまった、好きだからつきあわなかったのだ。

 

(うわっ、恥ずかしいぃっ)

 

「ゆっちゃん?」

 

急に悠美が顔を手で隠すと、貴一が訝しがるように悠美の肩に触れる。

その熱にドキドキしながら、悠美は考える。

 

(結婚してから、気づいてどーするンだろっ……)

 

「ゆっちゃぁーん」

「ほ、ホントに、私の事、好き??」

「好きじゃなかったら、結婚しないっしょ」

 

少し呆れたように貴一が悠美に言う。

 

「ホントにきーちゃんが私の事好きだったんなら、付き合っとけばよかった……」

「信じてなかったの?……今更後悔しても遅いって……まぁ」

 

貴一は優しく悠美の手を取ると、悠美の額に音を立ててキスをする。

 

「結婚してから、恋愛しても、いいんじゃないかな?」

 

真っ赤になって照れる悠美に、貴一は何が悲しくて結婚してから両想いに気づくんだろう、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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16th/Sep/07

 

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