ある日の買い物の帰り道、鹿沼葉子は駅前のベンチに座る少年の姿を見た。
 少年は頭と肩の上に積もる雪も気にせずに、時計を眺めながら誰かを待つようにずっとベンチに座って、まるで風景の一部のように周囲に溶け込んでいる。
 誰を待っているのだろう。
 家族だろうか、友人だろうか、それとも恋人だろうか。
 何故か気になって、その理由が知りたくて自分の借りている部屋に帰る途中歩きながらずっと考えて漸く思い至った。
 彼の持つ雰囲気が似ていたのだ。
 母親を失って、神の教えに縋った過去の自分に。





    雨に濡れた日は


らいたー  水亭帯人






 バタン、という音を立てて葉子は玄関のドアを閉めた。
 外は突然の大雨で、傘を持っていなかった彼女は両手に下げた買い物袋も含めて全身ずぶ濡れの状態で、彼女の美しい金髪は雨水をたっぷりと吸い込んでその先端からぽたぽたと水滴を落とす。
「おかえり、葉子さん」
 リビングから声が聞こえてそちらの方に目を向けると、学校から帰ってきたばかりらしく家の中だというのに制服を着ている祐一が、こちらも濡れた格好で葉子のほうを見ていた。
「ただいま、祐一さん」
「ん、ちょっとだけ待ってて」
 ずぶ濡れた格好の葉子を見て、祐一は一旦部屋の中に引っ込む。
 次に顔を出したときは乾いたタオルを右手に持ってリビングから現れた。
「これで髪の毛拭いて」
 そう言って祐一は葉子の下げた買い物袋とタオルの交換を求める。
「はい」
 祐一から受け取ったタオルは、雨に濡れて身体が冷えていたせいか温かく感じられた。
「それと、今お湯張ってあるから。もうすぐ沸くと思う」
 祐一は風呂場のほうを指差しながら、髪の毛をごしごし拭く葉子に喋る。
「私はいいですから、先に祐一さんが入ってください」
 濡れているのは祐一も同じことだし、風呂を沸かしていたのは祐一だ。
 ここは祐一が先に入るのが道理だろう。
 そう考えた葉子は祐一に先に入るよう促すが祐一はそれをやんわりと拒否する。
「女の子が身体冷やしちゃいけないから」
 成人した女性を五歳年下の未成人が女の子扱いするのはどうかと葉子は思うが、そこまで言われて自分の意見を通すのは流石に気が引けた。
 女の子扱いされて嬉しいというのが本音だが。
「でも……」
 それでも一応粘るのが鹿沼葉子という人間の長所でもあり短所でもあった。
 そして今回はそれが短所として発揮された。
「じゃあ、こうしよう」
 祐一はそう言って、にやりと笑った。


「……」
 鹿沼葉子というのは時々、プライベートでは特に子供っぽい言動の目立つ女性である。
 それは彼女が箱入り育ちであったためというのももちろんあるが、彼女自身が大人の女性という定義を持たず、そしてそれがどのようなものなのか知らないというのが原因として大きい。
 そんな彼女だから、浴槽に浸かって水面に顔下半分を沈めて口からブクブクやったとしても祐一にとってそれはさほど意外な出来事ではなかった。
「ぶくぶくぶく」
 葉子が口から気泡を吐きながらちらりと半眼で横を見ると、熱いシャワーを浴びている一糸纏わぬ祐一の肢体がそこにある。


 祐一の提案とは一緒に風呂に入るということだった。
 もちろん葉子は提案の棄却を求めたのだが、あれよあれよという間に祐一の話術にすっかり丸め込まれてしまった。
「葉子さん、ホントは俺のこと嫌いなんだ……?」
 男優賞ものの演技力で潤んだ眼差しと共に言われたこのセリフが特に効いた。
 何に対して、そしてどこら辺にその効果が現れたのかは彼女の名誉のために伏せておくが。


「見たいなら堂々と見ればいいのに」
 葉子の視線を平然と受け止めて、祐一がシャワーを浴びたまま口を開いた。
「違います」
「葉子さんってお風呂に浸かるとき、三角座りするんだ」
「何、見てるんですかっ」
 三角座りのまま顔だけを上げ、非難の声を祐一に向けながら葉子は身を固くする。
 その顔が赤いのはお湯にのぼせているからではない。
「いや、浴槽の中に二人一緒に入れないかなー、と思って」
「……入りますか?」
 自分だけ湯の張った浴槽に浸かっているという引け目があるのか、葉子は幾分声のトーンを落として呟く。
 葉子が住ませて貰っている家の浴槽は、余裕で二人浸かれるほど大きくはなかった。
 それでも無理すればなんとかなるかもしれないと考えて、その身体を後ろに退き祐一が入れるくらいのスペースを一応作ってみる。
「でも葉子さん、足伸ばして入りたいだろ?」
「ちょっとくらい我慢します」
「それじゃ、ちょっとだけ、他の我慢してくれる?」
 葉子からは見えないように意地の悪い笑みを浮かべながら、祐一は平静を装って葉子に言葉を掛けた。
「? いいですけど……」
「じゃあ、ちょっと立って?」
「……」
 葉子はしばし口を閉ざし考えた。
 どういうことだろう、何故立たなければいけないんだろう。
 そんな疑問が渦を巻く。
 もしかして恋人は、何かよからぬことを考えているのではないだろうか。


『立ちました……』
 胸元と陰部を両手で隠して浴槽に足を浸けたまま立ち上がる葉子。
 その表情は羞恥の色に染まっている。
『手を退けて……』
 祐一が言った。
 抵抗はあったものの、恋人である彼の言葉を葉子は無碍に出来ない。
『……はい』
 震える声で肯定の言葉を返し、そろそろと両手を腹部の位置に当てて隠していた部位を祐一に見えるようにする。
『じゃあ、後ろを向いて手を壁に付けて』
 先ほどまで抱いていた推測が確信に変わる。
 これから何をされるのか理解しながらも、抗う術を持たない葉子に出来ることは恋人に従うことのみ。
 彼女が言われる通りにすると、祐一は葉子と同じように浴槽に足を浸け、彼女の腰に手で当てて一息に引き寄せる。


「前戯も無かったというのに私は祐一さんを抵抗なく受け入れて、けれどそんなことに気を取られる暇もなく祐一さんが腰を動かし始める。淫らな水音と浴室に響く自分の嬌声が私の興奮を煽り、私は自分が堕ちたことを悟って。けれどそれすらも快感となって私は――」
「葉子さん、鼻血出てる」
 祐一の一言で葉子は我に返った。
「……ごめんなさい、少しのぼせてしまったみたいで。でも大丈夫ですから私ええ本当に」
 少し間を置いてから鼻血を拭きつつ葉子はもっともらしい理由を挙げる。
 彼女は自分が妄想の内容を口走っていたことに気付いていなかった。
「みたいだな」
 祐一は騙された振りをして頷く。
 百万石の武士の情けだった。
「じゃあ、立ちます」
「うん」
 恥ずかしそうに、けれど何処となく何かを期待しているような目で祐一のことを見ながら葉子は浴槽に足を浸けたまま言葉通りにする。
 期待している、というのは或いは祐一の考え過ぎかもしれないが。
「じゃあ、俺も入るから」
 そう簡潔に言って、祐一は浴槽に足を浸けてそのまま首から下をお湯に沈める。
「……」
 予想とは違う展開に戸惑いを隠せない葉子。
 これから何をされるのだろう、何をさせられるのだろう。
 疑問と不安を新たにする葉子だったが、祐一はそれに構わず彼女の手を握って自分の方に葉子の身体を引き寄せた。
 取り敢えずそれに任せることにした葉子はされるがままになって、結果的に祐一の足の上に座る形で落ち着いた。


「こうしたら二人で入っても足を伸ばせるだろ」
「……そうですね」
 少しばかり拍子抜けした葉子が若干気の抜けた返事を返す。
「拍子抜けした?」
 相手の内心を見透かした祐一が、葉子の真後ろから彼女の身体を両手で抱き締めて訊ねた。
「知りません」
 彼女の“知りません”は大抵の場合そのまま肯定の意味でもある。
 それを知っていて、気を良くした祐一は両手を葉子の胸に這わせた。
「っ、祐一さん」
 葉子が祐一をたしなめたが、彼女は抵抗らしい抵抗をしなかった。
「葉子さんくらいのサイズだと浮くんだな」
 軽口を叩きながらそこにある突起物を掌で転がすようにして、祐一は胸に置いた手をゆっくりと動かす。
「っあ、ぁぅ」
 手の動きに合わせて葉子の口から切なげな、甘い吐息が漏れた。
「葉子さんの胸って、柔らかくて気持ち良いよ」
 手を動かしたまま、まるで天気の話をするようななんでもない口調で祐一が葉子に話しかける。
「祐一さん、あの……」
「何、葉子さん?」
 一層激しく手を動かしながら、葉子の言おうとしたことを祐一は訊ねた。
「ぅ……、はぁ、祐一さん、その、祐一さんのが、当たってます」
 葉子が自制心を総動員して喋る。
 状況は言葉通りだ。
「葉子さんが魅力的だからな」
 しれっと調子の良いことを言う。
「それで、その……」
 何時になく期待に高まっている目をして祐一の方を向きながら、葉子がおずおずと切り出そうとする。
 ロマンも何もない端的な言い方をすれば、鹿沼葉子は相沢祐一に欲情していた。
「ダメ」
 しかし未だに言葉になっていない申し出に対し、祐一は葉子にとっては予想外の答えを返す。
 少なくとも半分くらいは。
「風呂を上がってからにしよう♪」
 ふっふっふっ、と祐一は時代劇の悪代官のようなわざとらしい笑みを浮かべた。


 浴室で散々焦らされてから身体をタオルで拭き、家にあったバスローブを身に着けた葉子は、Tシャツとズボンだけというラフな格好の祐一に、廊下の壁に手を付いて、着ているものの腰の部分だけを捲られ、背後から前戯無しで貫かれていた。


 お互い一応服を着ているのは湯冷めしないように、という配慮から。バスローブの方が燃える(萌えるでも可、むしろ推奨)というの祐一の要望もさり気なく込められている。
 そして廊下なのは溢れんばかりの祐一の冒険心と、これ以上我慢できなかった葉子の実情が複雑に絡み合う前に決定した事柄。結果が両者にとって異存のないものなのはひとえに愛の力である。そうだと言ったらそうなのだ。
 体位のセレクトは葉子の希望。浴室での妄想シチュエーションを多少引き摺っていると邪推してはいけない。真実と遊園地の耳の丸いネズミの着ぐるみは皆の心の中に一つずつある、それでいいではないか。
 前戯がなかったのは、必要が無かったためである。既に準備万端とも言う。皆も人から見られたくない行為に及ぶときはドアの鍵など指差しチェックを怠ってはならない。油断は即、社会的な死に繋がる。ゆめゆめ忘れるな。
 閑話休題。


 背後から祐一に貫かれた葉子は壁に手を付いて、自分の腰を小刻みに、前後左右に動かす。
「んあっ、あ、あ、ぁん、あっ、あッ」
 葉子は二人の結合部から来る快感を貪欲に貪りながら甲高い嬌声を上げた。
 それでも人に聞かれたくないという思いからか、一応声の大きさは抑えられていた。
「葉子さん、声、もっと出しても、いいよ」
 祐一はそう言うが、イヤイヤと首を振って葉子は拒否の意を示す。
「ほら、雨、降ってるから」
 だから声がそこそこ大きくても平気だと、暗にそう伝えると葉子の自制心が少し緩んだのか声が少しだけ大きくなる。
「でもッ、あぁ、あぁ、あぁぁッ――!」
 ビクビクと葉子の膣内が震えた。
 長々と焦らしたせいか、祐一を置いて一足先に達してしまったようだ。
「……ご、ごめんなさい、祐一さん」
 なんとなく気まずそうに謝る葉子。
「それと、その……もうちょっとお願いします」
 更に要求付き。
 どうやら足りていないらしい。
「ん」
 それは祐一も同じだったので彼は葉子の中に入ったまま一旦休めていた行為を再開させる。
「あうッ」
 祐一は少し動いただけというのに先ほどまでより一際大きな声が彼女の口から漏れた。
「葉子さんのココ、敏感になってるの、分かる?」
“ココ”を指で軽く撫でながら祐一が葉子に問う。
「そんなこと、言わないでッ、ぁあ、ぁあッ」
「さっきより濡れてる、凄く」
「だから、はぅっ、はぅ、はぁ、はっ」
 文句が嬌声に遮られて文句にならなかった。
 葉子は諦めて、快感に身を任せ直すことにする。
「あッ、あッ、あぁぅッ、ああッぁ」
 再び葉子の絶頂が近付いていた。
「……葉子さん、俺も」
「はい、今度は、一緒に、はぁ、ぁは、はぁっ」
 祐一の動きが激しくなって、葉子もそれに合わせる。
「ぁあ、祐一さん、祐一さんッ」
「っ――」
 そして二人同時に達した。


 二人は示し合わせるでもなく、ゆっくりと廊下に座り込む。
「祐一さん、好き」
 事の余韻に浸りながら、葉子が祐一の唇に口付けし小声で囁いた。
「もう一回聞きたいな。それに雨の音が邪魔だし」
 祐一は微笑みながらそんなことを言う。




 鹿沼葉子はもう一度囁く。
「祐一さん、好き」
 相沢祐一は微笑んだまま頷いた。








 周りを内心で気にしつつ、ここまで読んでくれた人に感謝の心を込めて贈るあとがき

 思えば18禁展開でパジャマコスチュームを使用するケースって少ない。
 間違いなく萌えると思うのに。
 というわけで次はパジャマだッ。

 ××××な○○○を△△して、更には……嗚呼ッ、そんなことまでッ!? な感じに仕上がったらいいなあ。

 感想のメール、引き続き求めます。
 でも、もうちょっと話数稼がないと駄目かなぁ。


Shadow Moonより

『逝け逝け・葉子さん!!』 第二弾!
葉子さんと一緒にお風呂だなんて、もう燃え萌えなシチュですね
祐一君に感化されたのか、葉子さんの想像力はたくましくなってきてるご様子(笑)。
次回の二人のラブラブシチュエーションも愉しみにしてたいます。

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