なんとなく今日も彼は待っているのではないかと考えて、少しスパイみたいな気分を味わいながらどきどきして駅前を通りかかる。
 そうしたら、昨日と同じように彼は駅前のベンチに座っていた。
 誰を待っているのだろう。
 昨日と同じ疑問を抱きながら眺めていると、少年はいきなり立ち上がる。
 彼の視線の先にあるものを目で追うと午後3時であることを主張する時計があった。
 街の雑踏の中に紛れ込んで消えていく少年を見えなくなるまで眺めて、見えなくなってから思った。
 もし明日も彼が座っていたら声を掛けてみようかな。





    爽やかな朝


らいたー  水亭帯人






「……ぅん」
 葉子はベッドの上でうっすらと目を開けて、次に部屋の中に大量に存在する目覚まし時計のうち一つを手に取って時刻を確認した。
 そこまではいつも通りだった。
「ろくじ……」
 呂律の回らない舌で文字盤の示す事柄を口にし、それの意味するところを理解してから一瞬だけ身体の動きを止めてばっと飛び上がって起きる。
「……六時、凄いです。大人の時間に起きれました」
 感嘆の声を漏らす葉子。
 彼女にとって夜の十時から朝の六時半は所謂“大人の時間帯”だった。
 何故なら夜の十時からは大人向けのニュースステーションがあって、朝の六時半は子供向けのラジオ体操の始まる時間だからだ。
 夜の十時以降は祐一とその、ごにょごにょ、なことをしたりするので(ここら辺も大人の時間)起きていることもしょっちゅうあるのだが、朝起きるのはいつもなら早くても七時。
 祐一が登校した後に目が覚めることも多々ある。
 ここだけの話、料理を含めた大抵の家事は祐一がやっていた。
 理由は彼のほうが上手いからである。
 葉子が下手であるとも言う。
「祐一さんはまだ起きてませんよね……」
 年下の恋人が登校前にする家事は朝食を二人分作ることだけだ。
 だから少しでも長く寝ていたいと思っているであろう彼の起床はもう少し先になる。
「……」
 葉子は考える。
 祐一を起こしてびっくりさせてやろうか。
 それとも、意外と子供っぽい寝顔を見てやろうか。
「よいしょ」
 どちらにせよ祐一の部屋に行かなければ実行できない。
 葉子はベッドの上から降りて、パジャマの格好のまま自分に宛がわれた部屋を出た。
 板張りの廊下を音が立たないように歩きながら、祐一の部屋の前で一度立ち止まる。
「祐一さん、起きてますか?」
 ドアの向こうで眠っている相手に聞こえないように出来る限りの小声で言ってから、葉子はドアを開けた。
「――ぅ、すぅ――、」
 カエル型の目覚まし時計を枕元に置いて、祐一は起きているときは滅多に見せないあどけない表情をしてベッドの上で眠っている。
「……」
 起こすのは勿体無い気がして、葉子は祐一の寝顔をじっくりと眺めることにした。
「ふふ」
 じっと見ているうちに、葉子の顔から思わず笑みがこぼれる。
 普段は意地が悪かったり、こちらが困るほど優しかったり、大人ぶったりする祐一も眠ってしまえばただの少年だ。
 調子に乗って、葉子はその頬を指で軽く突っついてみた。
 柔らかい感触が返って来ると同時に、祐一が微かに身じろぎする。
「ぅうん――」
 一瞬、祐一が起きたのかと思ったが、どうも単に身体を動かしただけらしい。
 再び穏やかな寝息が立ち始める。
「年上の私をびっくりさせるなんて、祐一さんにはお仕置きが必要ですね」
 相手が起きそうにないのをいいことに、気を大きくした葉子は祐一の頬を更に指で何度も突っつく。
 つんつんつん。
 ぷにぷにぷに。
「柔らかいですね」
「んぅうん――」
 眠ったまま、なんだか困ったような表情になる祐一。
「ふふふ……なんだか祐一さん、可愛いです」
 日頃、祐一にされるがままの葉子は、江戸の仇を長崎で討たんとばかりに意気込んで、勢いに任せて祐一の唇に自分のそれを押し当てた。
 それと同時に祐一の両目がぱちりと開く。
「……」
「……」
 カチ、という音が鳴って目覚ましがその存在を主張し始めた。
『朝〜、朝だよ〜』
 各々その動きを止めてキスをする恋人同士と、眠気を誘うような気の抜けた声の目覚まし。
 そのときの部屋の中の光景はシュールの一言に尽きた。
「……その、なんで起きちゃうんですか」
 祐一の唇から離れた葉子の第一声がそれだった。
 彼女の表情は困ったり赤面したりと実に忙しい。
「そりゃ、起きるって」
 呆れつつも眠そうな声で言葉を返し、祐一はカパカパと口を開けるカエルの頭を叩く。
「ぁふ……というわけで、おはよう、葉子さん」
 欠伸を一つしてからはっきりと頭が覚醒した表情になって、祐一が恒例の朝の挨拶をした。
 何も言わないのは失礼なので、葉子も取り敢えず、事態に流されるままに挨拶を返すことにする。
「おはようございます、祐一さん」
「うん。というわけで……」
 何が“というわけ”なのか全く理解できなかったが、葉子は祐一に突然抱き寄せられてしまった。
 さっき寝ている相手の唇を奪ったことがなんだか気恥ずかしくて、葉子は真っ直ぐに祐一の顔を見れない。
「寝てるのをいいことに、年下の俺にイタズラする葉子さんにはお仕置きが必要だな」
 葉子が先ほど祐一に言った言葉と同じような言い回しだった。
「っ、起きてたんですか?」
「夢心地の中で聞いてた。というわけで罪と罰の相互関係をベッドの上で葉子さんに教えてあげよう」
 起き抜けで祐一は少しハイな状態になっていた。


 これからすることに対し、葉子が抵抗できないように、祐一はまず彼女の両手首を左手で握る。
 それは決して強い力ではなかったが、態度で相手に反抗を許さないといったことを暗に示していた。
 そして祐一は葉子の上半身を掛け布団の上にゆっくりと押し倒し、仰向けにさせたまま唇を軽く重ねる。
「……祐一さん」
 唇を離すと葉子が祐一の名を呼んだ。
「何?」
「その、どうするんですか?」
「気になる? これから何をされるか」
 葉子の顔が赤く染まる。
「秘密」
 葉子の表情から質問に対する肯定を読み取った祐一は軽い口調でそう言って、恋人の頬を何度も舐めるように啄ばみながら自由に動く右手をゆっくりと葉子の下腹部の方へ運んだ。
 そして葉子の着ているパジャマのズボンを二十センチほど下にずらす。
 昨夜葉子が風呂上りに履いた、デフォルメされたハムスターの絵のプリントされている木綿のパンツが祐一の目に入った。
「今日は子供っぽいパンツなんだ?」
 揶揄するような祐一の言葉が葉子の顔を余計に赤くさせる。
「そんなこと言わないで、……やぁっ」
 葉子が言葉を言い終わらないうちに、祐一は彼女の花弁を木綿越しに指で突付き始める。
 強過ぎない程度の刺激の連続と、木綿越しとはいえ触られているという事実に対する羞恥心から葉子は小さな悲鳴を漏らした。
「柔らかいな」
 祐一が楽しそうに何度も繰り返し突付きながら呟く。
 葉子の其処は突付くたびに軽い弾力を以って祐一の指を返した。
「それに、ちょっと濡れてきてる」
 祐一の言葉通り、薄っすらとだが湿り気を帯び始めた下着はわずかに透けて、指で周りを弄られるたびにクチュクチュと小さな水音を立てる。
「葉子さん、もしかしてこうなること期待してた? それであんなことしたんだ?」
 あくまで明るい口調でそんなことを言いながら、今度はパンツを十センチほどそっとずらした。
「前々からそうじゃないかと思ってたけど、もしかして葉子さんって凄くエッチなんだ?」
 本気でそう思っているわけではなくて、所謂言葉責めというやつだ。
 葉子は嫌がるが、そういうのが割と弱いのである。
「違い、んむぅ――」
 反論しようとする葉子の唇を自分のそれで塞ぎ更に舌を入れながら、祐一は露わになった彼女の秘所を右手の人差し指だけを使って弄る。
 けれど先ほどと同じように突付いて返って来る弾力を楽しんだり、半ば勃っているクリトリスをとんとんと叩いたりするだけで、花弁の中を直接弄ったりすることはしない。
 弱くはないのだが、強くもない刺激を何度も繰り返す。
「――はぁ、ふぅ……、はぁ」
 口付けから解放された葉子は祐一を見詰めながら切なげな息を漏らした。
「ん、葉子さん。どうして欲しい?」
 祐一はリクエストの要望を求めるが、葉子は頬を赤く染めるだけだった。
 いつもなら多少恥ずかしくても『優しくしてください』『もっと欲しいです』などといった要求が来るのだが、今朝の葉子は何かを我慢しているような表情でじっと黙りこくっている。
「……もしかして、“凄くエッチ”って言ったこと気にしてる?」
 沈黙の理由に思い当たって祐一が訊ねると、葉子の視線に力がこもった。
 祐一を軽く睨んでいることから見て、どうやら図星らしい。
「私は、そんなんじゃありません」
「冗談だよ、冗談。でも……そんな表情をしてる葉子さんも可愛いな」
「……」
 可愛い、という単語に反応して葉子は再び赤くなる。
「それで、どうして欲しい?」
「……その、ほんのちょっとでもいいから、その」
 珍しく歯切れの悪い口調だった。
 余程抵抗があるのか、それとも恥ずかしい内容なのか。
「うん?」
「舐めて、欲しいんです」


 ズボンとパンツをずらした状態で履かせたままの両足を葉子に持ち上げさせて、彼女の股間を完全に露わにする。
 そして祐一はゆっくりと舌で割れ目をなぞった。
 思えば今までは舐めることがあっても軽く舌が触れる程度だった。
「はぁ、はぁぁぁ……」
 祐一の舌が上から下に、下から上に往復するたび、葉子は目を閉じたまま甘い吐息を漏らす。
 目を閉じる必要はないと祐一は思うのだが、鏡を使わないと見ることの出来ない身体の陰部を祐一に丸々見せていることが恥ずかしいようだ。
 葉子の要望通りに祐一はしているだけなのだが、それとこれは話が別らしい。
「こっちも?」
 祐一は小声で訊ねてながら葉子の陰核に舌を這わせた。
「っっ……」
 恥ずかしそうにしながらも頷いて、葉子は祐一にされるのを任せる。
 祐一はそれを確認してから舌を使って皮を剥いた。
 そして皮の剥かれた突起物を舌の先で転がす。
「っ、っ、っっ……」
 剥かれた上に、既に充血した敏感な陰核を柔らかい舌で弄られて葉子は何度も漏れそうになる声を必死で堪える。
 それに合わせて秘所もヒクヒクと動き、蜜を溢れさせ始めた。
「……祐一さん、そろそろ……」
 恋人を受け入れられる状態になったことを感じた葉子が、頬を上気させて祐一にそう話しかけたが祐一は聞かずに舌を花弁に挿し入れる。
「、あっ」
 本来性器を入れる筈の箇所に柔らかい舌を入れられて、葉子は思わず声を漏らした。
 男根に比べれば小さなそれは、性器とは違った動きと感触で入り口の壁に触れる。
 祐一が舌を動かすと共に発するクチャクチャクチャという淫靡な水音が室内に響いた。
 まるで“祐一が欲しい”と訴えている、何かの鳴き声のようだ。
「祐一さん……」
 さっきよりも切なげに求める葉子の声を聞いて祐一は、両足を持ち上げて陰部を祐一に向けて露出させている彼女の身体に覆い被さる。
 けれど葉子の花弁を何度も撫でるだけだった。
「祐一さん、祐一さんを早く下さい」
 ほとんど生殺しに近い状態に耐えられなくなった葉子が改めて祐一を求める。
 実はその文句を葉子の口から聞きたかった祐一は、今度は素直に葉子の言葉に従った。


「ああぁっ、ああぁっ」
 一定のリズムで祐一が葉子の中に沈めたり引き上げたりすることから秘肉の壁が感じ取る刺激で葉子は声を漏らす。
 二人の結合部からは葉子の出す愛液が溢れ、動くたびにベッドのシーツを汚した。
 軽くずらされただけの下着も少し汚れている。
「はぁっはぁっ、はぁっはぁっ、」
 葉子の声の間隔が段々短くなってくる。
 お互い一応服は着ているのだが、それがいつもとは違うパジャマの格好であることが潜在的に二人を興奮させていた。
「祐一さん、私、もう駄目です、出してください」
 絶頂を間近に感じ取った葉子はそう言って、祐一を不意にきつく締め上げる。
 堪らず祐一が葉子の中で果てて膣内を精液で満たした。
「熱い、ああぁっ――」
 自分の中を恋人が満たしたもので葉子も果てて、更に強く締め付けた膣が祐一の残りの精を全て搾り取った。


「今朝の葉子さん、なんだかエッチっぽかった」
「……知りません」
 急いで作った朝食の席で祐一が葉子の顔を真っ直ぐに見ながら思ったことを口にすると、葉子はいつものように“知りません”コールをする。
「でもいい感じだった」
「……知りません」
「褒めてるのに」
「知りません」
「言葉責め多かったからご機嫌斜め?」
「知りません」
「葉子さんは気持ち良かった?」
「知りません」
「パジャマもたまにはいいな」
「知りません」
「葉子さん、大好き」
「……ずるいです、そんなこと言うのは」
 そう呟いて葉子は不満気に拗ね顔を作った。




「……そう言えばシーツ汚しちゃいましたね」
「葉子さんのだから気にしないよ」
「……また、そういうこと言う」








 水亭からはその内面を想像することの出来ない読者に向けて贈るあとがき

 一つ聞かせて貰うなら、どうなのだろう、このssは?
 萌えなのか? 本当に萌えなのか?
 苦情が来ないところから見て、大丈夫かな……などと弱気ちっくに思いつつも、メールが来ないという現実が今にも胸に突き刺さらんばかりの私の精神の内側には読者の評価に対する不安の材料が尽きない。
 そして人間の内的世界は宇宙よりも暗く、広大であることの証明ではないだろうか、それは。
 疑惑の念は一度抱いてしまえば、二度と離れることがないのだろうか。
 まるで自分で自分に掛ける呪いである。
 いと恐ろしや。


 まぁ、そんな難しいっぽい実のない話は置いておいて、正直読者がコレを読んでどう思っているか全く分からないのです。(管理人さんを除く)
 それでも、思えばこのssは18禁であるのだから、感想書くほうもチェリー君には恥ずかしいのかもなぁ、などと不遜っぽく考えてみたりもする。
 そんなわけで、もしコレを読んでいる勇気ある人がいたら迷わず感想のメールを送って下さい。


 勇者の誕生を心待ちにしてます。


Shadow Moonより

確かに18禁SSに感想を書くのは勇気がいりますね(苦笑)。
でも安心してください。 カウンターはバンバン回ってます(爆)。
さてさて、今回の葉子さんは予告通り、パジャマで いや〜ん
しかも全部脱がさず、途中で足に引っ掛けておく所がポイント高し!(核爆)
祐一君、朝っぱらから熱血してるなぁ(笑)。
冒頭の、駅前のベンチに座っている少年(w の話も気になりますね。

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