「雪、積もってますよ」
 翌日、思い切って少年に声をかけた。
 彼は一瞬だけ、まるで物凄いことが起きたような驚いた表情になって、顔を上げる。
「……ゴメン、俺の知り合い?」
 しばらく私の顔をじっくりと見てから、少年は申し訳なさそうにそんなことを言った。
「いいえ。ただ、此処で貴方のこと良く見かけるな、と思って」
「俺、見られてたんだ?」
 何処かからかうような口調で言いながら、彼は私に笑顔を見せた。
 私は見ていたことを軽く謝罪してから、その隣に腰掛ける。
 ずっと黙り込んでいた私のことを、彼は大して気にした様子もなかった。
 そしてその日から午後三時までの奇妙な逢瀬が始まった。





    恋人のいない時間


らいたー  水亭帯人






「祐一さん、入りますよ」
 部屋の前で入室の許可を求める言葉を口にして、葉子は相手の返事を待たずにドアを開けた。
 祐一の自室には誰もいない。
 それもそのはず、今の時刻は午後二時半。
 葉子の恋人は学校で授業を受けている真っ最中だ。
 それでも一応声を掛ける葉子はいつも祐一から、几帳面だ、などと言われている。
 彼女からすれば声を掛けることこそ当然で、むしろ声を掛けない方が落ち着かない。
 実質的には無断で相手のテリトリーに侵入するという事実に対し、葉子が後ろめたく感じているからかもしれない。
 だとすれば葉子の相手がいなくても声を掛けるという行為は、本人の自覚ある無しに関わらず、おそらく免罪符的なものなのだろう。
 閑話休題。
 主のいない部屋に入った葉子は、その足をゆっくりとベッドの側まで運ぶ。
 それから恋人の使用する寝床へと、緩やかな動作で倒れるようにダイブした。
「……えい」
 倒れ込む寸前の掛け声の後に、ぼふっ、という音がする。
 ベッドの上に寝転んだ格好で布団を抱き枕のように抱き締めると、祐一の匂いがした。
 心の勢いに任せて布団に頬擦りする。
「ふふ……」
 祐一には見せられないような事を祐一の部屋の中でしている矛盾が少し可笑しくて、葉子は思わず笑みを浮かべた。
 祐一が寝るだけでなく、二人の情事に用いられることもしばしばある其処は祐一の匂いの中に葉子の匂いもほんの僅かだが混じっている。
 自分の匂いをより強いものにしようと、葉子は布団に顔を擦り付けた。
 その行動は動物が自分のナワバリを主張するのに己の匂いを付けることと似ている。
 例え匂いだけでも彼が自分を感じながら眠っていることが、なんとなく嬉しかった。
「ゆういちさん」
 なんとなく、愛しい恋人の名前を呼ぶ。
「ゆういちさん」
 もう一度呼んでみた。
「ゆーうーいーちさぁん」
 今度は足をバタバタさせながら呼んでみた。
「ゆういちさん、ゆういちさぁん」
 更に二回呼びながら今度はベッドの上でごろごろ転がってみた。
「……んむ」
 うつ伏せになりながら布団の端の角を咥える。
 特に理由があったわけではなくて、なんとなくそうしたかったからだ。
 涎が付くかもしれないと一瞬思ったが、後で拭けば良いとも考えて気にしないことにした。
「……んむぅ」
 はむはむと歯を使わずに唇だけを使って噛む。
「……」
 葉子は祐一を性器以外で慰めてあげたことがない。
 もっと具体的に言えば、手でしたり口でしたことがなかった。
 疎い葉子も友人に借りた本やビデオから仕入れた性交渉の知識がある。
 男性がそういった行為に興味を持っているのも知っていた。
 そして普段から自分は、前戯として舐めて貰ったり撫でて貰ったりしているのだから少し申し訳ない気もしてくる。
 ただ、祐一は自分からそういった要望をしてこない。
 下手だと思われているのだろうか。
 やったことが無いのでそれこそ自信はないが、好きな相手に遠慮されているのは悔しい。
「……ゆういちさん」
 祐一から性器を舐められたときの感触が、不意に脳内で甦った。
「――ぅ」
 咥えていた布団の端をぎゅっと強く噛み締める。
 葉子は今この瞬間に恋人から己の秘所を舌慰められている錯覚を覚えていた。
「――は、――はぁ」
 妄想の念は頭の中から払われること無く、その場所に居座り続ける。
 何かに触られているわけでもないのに、葉子の下着はじんわりと湿り気を帯び始めた。
 腰を上げて、思わずそろそろと指を下腹部に運ぼうとしたが、そのことが祐一に対する裏切りのように感じられて葉子は結局自慰をするには至らなかった。
 それに祐一ほど上手く触れる自信も技術も無い。
「――っ」
 今度は祐一に貫かれている情景が思い浮かんだ。
「ぁ、ぁあ……」
 何度も脳内で快感の記憶がリフレインする。
 或いはリフレインさせているのか、自分が。
 どちらなのか分からないまま、葉子は無意識の内に記憶の中にある祐一の動きに合わせて腰を動かし始めた。
 それを自覚した途端顔が薄っすらと火照る。
 何時の間にか出ていた蜜が下着を濡らしているのがはっきりと分かった。
(祐一さんがいない間に祐一さんの部屋で、私がこんなになっていることを祐一さんが知ったら……)
 寂しかったのだと解釈して、優しく抱き締めてくれたりするのだろうか。
 そしてあれやらこれやら葉子の要望を聞いてくれるんだろうか。
 だとすると少し嬉しい。
 無神経に笑い飛ばすだろうか。
 それは無性に悔しい。
(それとも……)
 幻滅されるだろうか。
 幻滅されてしまうのだろうか。
 あまつさえ軽蔑の眼差しで見られたり、色々な要求を無理矢理呑まされたり、言葉で責められたり、意地悪されたり、激しくされたり、寝かせてくれなかったり休憩タイムがなかったり連続だったり真昼間からだったり、果てに冒険しちゃって野外とか露出とか首輪とか――。
(……なんで濡れてきてるんですか、私は)
 気が付くとパンツは、ぐっしょり濡れていた。
 続きは祐一が帰ってきてからにすることにして、葉子は妄想を振り切るために頭をぶんぶんと振る。
 ちょっと期待していたという鹿沼葉子的にはS級トップシークレットを、自覚してしまう前に心の広大な海の底へとコンクリ詰めにして放り込む。
 残った物は蜜を吸って重さを増した下着だけだ。
 シミが出来てしまうかもしれない。




 祐一が帰ってきたとき葉子は祐一のベッドの上で涎を布団に垂らしながら眠っていた。
「……」
 部屋に入って第一発見者となった相沢祐一は自分の恋人の寝姿を見てしばらく呆けていたが、やがてベッドに腰掛けて葉子の金色の髪の毛を優しく愛しげに手櫛で梳く。
「うぅん……」
 葉子が軽く身動ぎする。
「なんだかこれって、据え膳っぽいな」
 恋人の見ていないその顔は喜色でもなく哀しみの色でもない、無色透明な表情だった。








 生殺しっぽい結末に、なんだか残念な気分に包まれているかもしれない読者に贈るあとがき

 今回は自慰行為未満の話です。
 ソフトよりも更にソフトな感じに。
 18歳未満の方でも見れるくらいソフトな感じに。
 そのうち郁未も出そうかな、そんで○○な展開とか。
 全ては我が戯言だけれど。


 どうでもいいけどデモベ面白い。
 アルがいいね。
 スパロボに出て欲しいと真剣に思う。


 祐一×郁未、なんだか人気が凄いので、来週には書き上げる予定。
 皆、長くした首を洗って待て ←何故か偉そう


Shadow Moonより

はいっ、首をろくろ首のように長くして待っています(爆)。
今回の葉子さんは、ちょっと大人し目でしたね。
でもなんだか、祐一君にいじめられるのを楽しみにしてる感じが(笑)。
野外とか露出とか首輪とかの冒険をする葉子さんも見てみたかったり
しかし、郁未さんも出てきたら凄い事になるんだろうな(わくわく)。

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