「鹿沼葉子といいます」
奇妙な逢瀬が始まって数日、少年に自分の名前を教えたくなった私はそれを実行した。
話をするわけでもなく、いつもただ隣に座るだけの相手から何の脈絡もなく名乗られた彼は大して気にもせずに、小さく頷いてから私に名乗り返す。
「俺は相沢祐一」
「祐一さんって呼んでいいですか」
「いいよ。その代わり、俺も葉子さんって呼ぶから」
「はい」
私たちは以前よりもほんの少し、話をするようになっていく。
コヒフミ
らいたー 水亭帯人
下駄箱を開けると、そこには手紙が入っていた。
それを見た瞬間、相沢祐一の動きは時が止まったかのようにぴたりと静止する。
便箋。
ハートマークのシール付き。
便箋に書かれた文字、相沢祐一さんへ。
贈る相手を間違えたなどというベタなオチは一片の隙も無く存在しなかった。
祐一は頭の中で自分の置かれている状況というものを演算処理する。
電気信号とかシナプスとかが頑張った挙句、導き出した結論を彼は便箋をまじまじと見詰めてからポツリと呟いた。
「流石、雪国……」
関係ないだろ、そんなツッコミを祐一はしばらく待ったが、待ち焦がれた瞬間は遂に訪れなかった。
「お帰りなさい、祐一さん」
ベッドの上でお出迎え。
祐一が家に帰って2階に上がり自室に戻ると、祐一のベッドの上にちょこんと座っていた鹿沼葉子が彼に声を掛けた。
「ただいま、葉子さん」
言葉を返すついでに、葉子の身体を抱き寄せてその唇に軽く口付ける。
「……」
「……」
キスを交わしている間、お互いがじっと見つめ合い、しばらくしてから葉子はゆっくり目を閉じて、身体を祐一に任せようとした。
大好きな人が自分と肌を重ねることを要求することを葉子は期待する。
けれど、
「……ん」
優しく――動作こそ、あくまで優しかったけれど祐一は唇を、そして葉子の身体を離す。
いつもなら葉子の制止を押し切ってでも前戯を始める状況なのに。
「ぁ――」
自分の口から漏れた不満そうな呟きに、思わず頬が赤くなった。
これでは鹿沼葉子という人間が酷く淫乱であると、その真偽がどうであれ祐一に教えているようなものだ。
「我慢できない?」
案の定、祐一が訊ねる。
しかも腹立たしいことに、祐一の表情にはいやらしさの欠片も無い。
「熱があるの?」と訊ねる時と同じくらい、至って平然とした表情で葉子の顔色を窺っている。
「知りません」
いささか憮然としながら答えを返す。
しかし顔を赤くさせながらそんなことを言ってもまるっきり説得力は無い。
祐一は取り合わずに、微かに笑いを浮かべながら制服の上着を脱ぎ始める。
「制服が汚れると拙いから、着替えてからな?」
「……」
まるで母親が夕飯を急かす子供に「ご飯もうすぐ出来るから待っててね」と諭すようなニュアンスで話しかけられて、葉子はなんだか自尊心が大きく傷付けられたように感じた。
そんなことを考えていると、
――かさ。
「……?」
着替えている祐一の足下に一通の手紙が落ちたのを見て、葉子は訝しげな表情を作った。
「あ、それは――」
少し慌てる祐一を他所に、葉子はそれを迷わず拾い上げて、見た。
便箋。
ハートマークのシール付き。
便箋に書かれた文字、相沢祐一さんへ。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………何です、これは」
訊かなくても分かっていた。
葉子が生まれて初めて見るそれは、ラブレターと世間一般では呼ばれている。
「……えーと、何て言うか」
心にやましいことは何も無かったため必要以上に慌てることは無かったが、祐一は説明に困った。
「(じーっ)」
「そのー……」
「(じーっ)」
「ラブレター……かな」
「そのままじゃないですか」
祐一の苦し紛れの弁解に、葉子が的確なタイミングで突っ込んだ。
「いや、でも他にどんな説明をしろと?」
「(じーっ)」
葉子は無言で祐一を半ば睨むようにして見ていたが、やがてぷいっと顔を背けるとぱたぱたと足音を立てながら、祐一の部屋から出て行った。
「葉子さん……?」
恋人の思惑が分からずに祐一は顔にハテナを浮かべるが、そうしたところで解答が与えらることはない。
とりあえず先に着替えを完了させることにした。
「確かこの辺りに……あ、やっぱりありました」
部屋のタンスをごそごそと漁って、目当ての物を見つけた葉子は喜色の混じった声をあげる。
勢い良くタンスの中から引っ張り出されたそれは、祐一の学校の女子用の制服だった。
何回も着て洗ってあるせいか、新品のような純白感は無いが清潔感は充分にあった。
何故、祐一が一人で住んでいた家に女物の制服(中古)があるのかはあえて考えない。
葉子が使っている部屋の中に不必要なほど沢山の目覚まし時計があったのと同じくらい謎だ。
「葉子さ――え?」
葉子の部屋に入った祐一は思わず固まってしまった。
「どうですか、祐一さん?」
床の上で髪の毛をかき上げるポーズを取って座りつつ、葉子は部屋に入ってきた祐一を上目遣いに見上げてみた。
「――コスプレ?」
がんっ。
「あだっ!?」
目覚まし時計が誰の手も触れていないのに、物理学を無視して祐一の頭にぶつかった。
「???」
床に落ちた目覚まし時計を拾い上げながら、痛そうに頭を押さえつつ不可解そうな表情を作る祐一。
「……なんで目覚ましが?」
「そんなことより祐一さん、私が恥を忍んでこういう格好をしたんですから、もう少しこう、違ったことを言おうとか思わないんですか」
ポルターガイスト現象によって怪我を被った自分にこそ葉子から掛けられるべき言葉があるんじゃないかと思ったが、祐一はひとまずこの場に最適と思われる言葉を葉子に掛けた。
「えっと、似合うよ葉子さん……?」
「微妙な疑問系の語尾は何ですか」
「いや、だって――なんでそんな格好してるんだ?」
葉子は祐一の学校の制服を着ていた。
ケープのリボンが赤いことからそれが祐一と同じ学年のものだと分かる。
着ている葉子が美人でスタイルが良いこともあって、年齢にそぐわないものの似合っていることは似合っているのだが、それを着ている理由が祐一には見当たらない。
「家の中にあったから着てみたんですけど、着ちゃダメですか?」
葉子の質問に祐一はしばらく考える素振りを見せたが、やがて合点が行ったとばかりに納得の表情を作り、葉子の顔を間近に寄せてその頬を右手で優しく撫でた。
「葉子さん、俺にラブレターくれた相手に嫉妬してるんだ」
「知りません」
「それでこんな格好して、誘ってるんだ?」
「……」
肯定も否定もせずに、葉子は祐一の顔から目を背けようとして、唇を塞がれた。
一瞬だけ目を見開いたが、やがてゆっくりと目を閉じて祐一がしたいように任せる。
口の中に舌が挿し込まれて、葉子はそれに応えようと自分の舌をそれに絡ませた。
祐一の唾液が舌を伝って口内に入って来たのでそれを呑み込むと、祐一は重なり合っていた唇を離す。
舌と舌の間で唾液が糸を引く。
「俺が夢中なのは葉子さんだけだって」
「ホントですか?」
「うん」
「ホントにホント?」
肯定の言葉が聞きたくて、もう一度訊ねる。
祐一が返したのは当然、葉子の望むものだった。
「重く、ないですか……?」
椅子に座りながら、葉子を自分のひざの上に跨がらせている祐一に、葉子は恐る恐る訊いた。
「……そんなことないぞ」
ホントはちょっと重かった。
「その微妙な間が気になります」
「気のせいだ」
葉子の言葉をさらりと流して、祐一は制服姿の葉子を至近距離からじっくり見る。
「…………あの?」
ただ眺められて、葉子は少し居心地の悪そうな表情を作る。
「いや、流石に葉子さんが女子高生っていうのは無理があるな、って」
「何ですか、失礼ですね」
ちょっと拗ね顔になる葉子に苦笑しながら、祐一は制服の上から葉子の胸を両手でそれぞれ掴んだ。
「ひゃんっ」
「だって葉子さん、スタイル良くて、胸も充分過ぎるほどあるだろ。女子高生でそれだけ魅力的な女の子は滅多にいないよ」
調子の良いことを言う祐一。
「……若い子の方が良いって思わないんですか?」
「歳なんて関係ないよ。俺は葉子さんが好きなんだから」
そう言われて、葉子としても悪い気はしない。
「じゃあ、しようか」
「あ、服……」
「折角だから、制服は着たままで」
「……なんだか、この格好だと、ちょっとドキドキします」
はにかみながら、葉子はスカートの中に手を入れて、着けている下着をゆっくりとずらそうとする。
「何かリクエストある?」
祐一の質問に葉子は少し考えてから頷いた。
「ちょっとだけ、じっとしててください」
「?」
葉子の意図が読めずに疑問を抱く祐一を他所に、葉子は祐一のズボンに手をかけ、チャックを外した。
「触りますよ」
わざわざ宣言してから、葉子は祐一のそれを両手で包み込むように触れる。
そのまま軽く握るように力を込めて、優しく丁寧な動きでしごく。
「いつも私ばっかりだったから……前からしてあげたかったんですけど……祐一さん、痛くありませんか?」
「いや、気持ち良いよ」
言葉を裏付けるように、葉子の手の中の物は熱をいっそう帯び始める。
されてばかりでは不公平なので、祐一も葉子の腰に手を回し、卵型の尻を軽く愛撫する。
「ふぁ……」
ふるっ、と身体を震わせる葉子。それでも手を休めようとはせずに祐一に奉仕を続けようとする。
そんな恋人の姿が可愛くて、思わず口元に笑みを作りながら、祐一は葉子の秘部に指を伸ばす。
「っぁ……」
そのまま人差し指と中指を割れ目にゆっくりと挿し込む。
「っぁ……ふぁっ……」
第二関節まで肉に埋まると今度は引き抜いた。
そして再び、挿れる。引き抜く。それの繰り返し。
葉子はそれでも手の動きを止めなかったが、秘裂からはぽたぽたと愛液が垂れ始めて、祐一のひざを濡らした。
「気持ち良い?」
「はい……」
深い溜め息を呑み込むような声で、葉子は肯定の返事をする。
秘裂に挿し込んだ指を抜いて、祐一は葉子の足を自分の両肩にかけるように持ち上げた。
「っ」
少し姿勢がぐらついて、倒れそうになった葉子は思わず祐一の腕にしがみ付く。
「っとごめん……じゃあ、挿れるよ?」
「はい……」
葉子が倒れそうになったことについて謝罪しながら、祐一は葉子の腰を両手で浮かして、ペニスを愛液の滴っている場所にあてがう。
「ん……はぁぁぁあっ」
自身の重みで、祐一のそれを自分の中に根元まで埋まらせて、葉子は深く息を吐いた。
「はぁっはあっはあっ、あぁっはあっ」
祐一が葉子の腰を手で持ち上げて揺らすたびに、葉子が声を上げる。
二人分の体重のかかった椅子のぎしぎしと軋んだ。
「あぁっ…………ぅあっ」
一際深く突かれて、葉子が身体をくねらせる。
祐一は葉子の胸を左手で制服の上から強めの力で揉みしだいた。
「祐一さん、早くっ……っ」
昂る興奮をそろそろ抑えきれなくなって、葉子が祐一の名前を呼んだ。
同様だった祐一も、葉子の腰を動かすのを早くする。
「ああぁ、はぁぅっ、はっはぁ」
葉子は短い間隔で何度も苦しげな喘ぎ声を漏らした。
徐々に下腹部に込められた力が強くなって、祐一を吸い込むように締め付ける。
「ぁあ、私いき、いきそう……ぁあっ」
「っ葉子さんっ……」
一気に締め付けがきつくなって、それに促されるようにして、祐一は葉子の中に放った。
「ところでこれ、どうするんですか?」
ラブレターを右手で摘んでひらひらさせながら葉子が問い掛けると、祐一は笑って答えた。
「どうもしない。差出人にきちんと断りに行くよ」
「……」
ラブレターなんて貰ったことのない葉子には、それがなんだか勿体無く思えた。
もっとも、葉子的には祐一が断らないと困るのだが。
そこら辺、微妙に複雑だ。
「何?」
「いえ、その……祐一さんって、学校ではどんな風なのかな、と思って」
「普通だと思うけど。なんだったら、忍び込んでみる?」
「…………」
「いや、冗談だから真剣に考えられても困るけど」
「スーツを着て女教師。とか、どうでしょうか?」
「……無理じゃないかな」
最近サボりがちなのは個人的都合ってやつです。
あとなんだかちょっとだるいけど、まぁ気にするな。
10月くらいにはスト錬の更新も再開したいなー、なんて。
まあ、そういうわけなので9月があけるのをゆるりと待ってください。
Shadow Moonより
やきもちを焼く葉子さん…… ぷ、ぷりてぃだ(笑)。
けど、Kanonの制服を葉子さんが着るには、流石に歳が――ゲフン、ゲフン(爆)。
今回も焦らして催促をうながし、葉子さんを恥ずかしがらせる祐一君。 これって一種の羞恥プレイ?(核爆)
祐一君と葉子さん以外 誰もいない水瀬家と、ラブレターの差出人がとても気になります(w
夏はちょっとだるくなりますからね(苦笑)。 秋からのスト錬再開、楽しみにしています。
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