彼の傍にいる限り、思うことがある。

 自分が幸せになっても良いのかと。





天沢家・6月8日午後2時32分


らいたー  水亭帯人







「郁未。今日の講義サボっただろ」

 合鍵を使って家のドアを開けた恋人の第一声がそれだった。

 せめて「お邪魔します」とか、あるいは家族チックに「ただいま」とか最低ワンクッションを置いてからそういうことは言って欲しい。

 いや、サボったのは事実で悪いのは自分なのだから、とやかく言えることじゃないのかもしれないけれど。

「だってぇ……めんどかったんだもん」

 パジャマを着たままの格好でリビングのソファの上に寝そべりながら玄関にいるであろう祐一に向けて身動き一つせずに答えた。

 実は私こと天沢郁未は、今朝から着替えてなかったりする。

「……げ。まだパジャマなのか、お前」

 リビングに入ってきた祐一が私の姿を一目見て「まずいところに来た」と言わんばかりに表情を曇らせた。

 それは良いとして、恋人の寝巻き姿を見て「げ」はないと思う。

 ……でも今回は不問にしてあげよう。

 なんだか理由も無くえっちな気分になっていて、丁度おなにーの1発でもしようかと考えていたところだったのだ。

 まさしく渡りに船。

 祐一が視界に納まってパンツも良い感じに湿ってきている。

「お帰り、ゆーいちー」

 ソファからずるずると這いずり落ちながら姿勢を変えて、正座を崩した格好でフローリングの床の上にぺたんと尻餅をついた。

 ちなみに「お帰り」なのは、祐一と私がいわゆる半「同棲」状態で、しょっちゅうお互いの家で一緒に寝泊りしているからだ。

「だるそうだな。……ひょっとして休んだ理由は風邪か?」

「んーん、至って健康体。大学はちょっと気乗りしなかっただけだから」

「だからって休むな」

「そんなことより。えっちしようよ」

 傍まで来た祐一を見上げつつ、我ながら歯に衣着せぬ物言いをする。

 ついでにパジャマのズボンも脱いだ。

「……はぁ」

 もはや呆れることにも疲れた表情で溜め息を吐く祐一。

「お前の将来が時々心配になるよ、郁未」

「へーき。素敵な恋人がいるから」

 えへん、と胸を張って言うと、苦笑を浮かべた祐一が私の頬に軽く口付けをして上着のボタンを上から一つずつ丁寧に外してくれた。

 あっと言う間にピンク色のブラジャーとそれに包まれた胸が外気に晒される。

「全部脱いだ方が良いのかな?」

「どっちでも。最後までするつもりないし」

「けち」

 言った途端、後ろから胸に手のひらを当てられて、右の耳元を舌でくすぐられた。

「っぅん」

 声が漏れる。自分で恥ずかしいくらい可愛い声だった。

 それで調子がついたのか祐一は首筋にも舌の先を移動させる。

「こっちもちゃんと触って」

 胸に置かれた手を掴んで、下腹部の更に下に導いた。

「脱がすぞ」

「うん」

 宣告通りにずるずるとパンツを下ろす。

 既にシミが出来ているそれは私の場所から糸を引いていた。

「エロいな」

「エロいよ」

 開き直って、セクハラに唇を重ねることで応える。

 それからてらてらと光を反射する体液に濡れた場所へ祐一の指をあてがった。

「ね、ほら」

 早く動かして、と言外に伝えて、それでも堪え切れなかったから祐一の手に自分の手を重ねて動かす。

 クレバスの表面を何度もなぞられるだけで、いやらしい水音がリビング内に充満した。

「ぁ――はぁ」

 祐一が自分に触っている、自分が祐一に触られている、そう感じるだけで止めようもなく愛液が滴る場所は都合が良いと解釈するべきか、それともお手軽と解釈するべきなのか。

「――ぁ、ぁ! ぁふ、ふ、はぁ!」

 下らない思考を下半身の内側から来る疼きが溶かす。

 何を置いても今は抱いて欲しかった。入れて欲しかった。注いで欲しかった。

 堪えきれなくなって、緩慢な動作で身体を前に倒し、その場で四つん這いになる。

 迎えたい。一つになりたい。融けてしまいたい。

 もし首から下にもう一つ口があったなら絶対にそんなことを言いそうな気がする。

「ぁは……」

 自分の考えたことに思わず笑ってしまった。

 恋人の前に突き出した「口」が、祐一が欲しいと言わんばかりにたらたらと涎をこぼしている。

 浅ましい、性に流される自分の場所が熱に浮かされたような自分の眼の先にあった。

 そして、祐一のズボンが張っているのも見える。

「勃ってるんでしょ? ねぇ……けちなこと言わないで早く入れてよぅ」

 セリフと共に腰を左右に動かすと、ぽたぽたと涎が床の上に滴った。

「ちょっとは我慢しろ、ばか」

「ばかってなひゃぅ!」

 なんで、と訊こうとすると突き出したお尻に祐一の舌と指が触れた。

「わ、そんなトコまでっきゃ!」

 汚い方の場所にも構わず舌を這わせてくる今日の祐一はいつもに比べて積極的だ。

 女の場所に軽く中指を出し入れされながら、ぺちゃぺちゃと音を立てて祐一に菊座を舐められるのは快感と同時にちょっとした至福だった。

「汚いよ、そこ。でも―――もっとやって」

 指で触られた下半身を本能に任せて小さく動かしながら、喜色の混じった声で続きをねだる。

 こういうときの祐一のリアクションには2通りあって、呆れて止めるか呆れて続けるかのどっちかだ。

 ちなみに今回は

「……はぁ」

 なんて呆れのこもった溜め息を吐きつつ舌を離してきた。

「ん、ぁ――!」

 と思ったら、ズちゅ、という感触を伴って空いていた方の手の親指をそっちに入れられる。

「イキナリ、あ、あ――凄い、気持ち良い」

 中を第一関節まで入った親指で少し乱暴にいじられて、女の方から火であぶられた蝋燭みたいに熔けてしまうんじゃないかと思った。

「ぁ、そっか。今日はそっち、なんだ?」

 そっちはまだ未開発、いわゆる処女状態なのでそれを祐一にこれから捧げるのかと思うとそれだけで期待に胸が膨らんだ。

 だというのに祐一は「違う」と更に呆れた声で短く呟いて、指はそのままでヒップに吸い付いてキスマークを付ける。

「じゃ、本格的に生殺し?」

「ん、……条件次第かな」

「何? 何でも言って」

「病気とかで休むのは良い。でも、もう今日みたいに講義をサボんな」

「いいけど、なんで?」

 理由を訊ねると祐一はちょっと言葉に詰まって見せた。

 ……こういうときは大抵、恥ずかしい理由だったりする。

 多分今回もそうなのだろう。例えば、

「大学で一人なのが寂しいとか」

「…………」

 無言で目つきを悪くする。

 これは拗ねているのだ。そして、私の言ったことが図星だという証明でもある。

「……悪いか?」

 自分の考えが見抜かれていることが分かっているのだろう。

 開き直ったようなことを言って、今度は太腿にキスマークを付ける。

「これが甘えだって分かってる……けど郁未がいないとダメだ。お前が近くにいないと凄く不安になる」

「ううん、良いよ。いくらでも甘えて」

 ……そろそろ限界だった。

 私は回れ右をして、祐一のズボンとトランクスを下ろし、既に硬くなった彼の竿の部分を手でしごきながら先っぽを口に含んで準備を整える。







「ぁ、ぁっ!」

 すっかり滑りの良くなった女性に男性を迎えて、堪えきれず嬌声を上げた。

「は、は――」

「こっちも」

 勃起したものが完全に入ってから、祐一はヒップを手のひらで掴んだまま丸出しになっている菊座の方に再び親指を押し入れる。

「ぁ。ぁ、ぁーー!」

 今度は指の付け根まで入って、中をぐりぐりと指圧された。

「郁未、自分で動くか?」

「うん、うん」

 意味もなく2度頷いて腰を前後に振り始める。

 後はいつも通り、本能のままにこの作業を続けていればいいのだが……今回は少し様子が違った。

「――! ぁ、はぁ、は……」

 5、6回前後に動かしただけで疲れてしまった。

 いや、疲れたというのは語弊がある。

 いつになく後ろを押さえられたせいか、簡単に体中から力が抜けてしまった。要するに達した。

「……早いな」

 驚きの混じった眼で見られているのが分かる。

 ――――不覚。まさか自分が後ろにこんなに弱かったなんて思いも寄らなかった。

「ま、まだ――!」

 不屈の闘志で立ち上がる。四つん這いで。

「……はぅー」

 気合を入れると同時に気合が抜けた。要するにまた達した。

 イメージは穴の空いた風船。空気を入れる度にそこから抜けていく。

 ひょっとしたらいつもより感じ易くなっているのかもしれない。

 今なら祐一が達するまでに10回は軽く達してしまいそうだ。

「ぁっ。ぁ、ぁー……」

 しまいに身体が弛緩してしまって、動きたいのに動けなくなってしまった。

「……ゆーいち、私の分も動いて」

 仕方が無いので祐一に頼むことにする。

 2回も逝っといてなんだけど、まだまだ濡れるし逝けそうだった。

「じゃ、動くぞ」

「あっ!」

 早速動かれて、すぐに頭の中が漂白される。

「は、は、はっ! ぁ、ぁあ! ぁっ」

 何度も出し入れを繰り返されて、真っ白になった頭の中は室内に広がるいやらしい水音と膣内や直腸から来る快感、触れている祐一の体温とかで一杯だった。

「――どうだ?」

「うん、凄――あ、イクっ、あっ!」

 声を上げて意識を繋ぎとめておきながら、祐一の限界も近いことを感じる。

「ね、ね、今日は中で良いから、だから出して、ね、出して?」

 思い切り汚して欲しくて、だから膣内に欲しくて祐一にねだった。

「あ、あ、ぁ、は――」

 どうせなら同じタイミングでイキたい。

 そう思って、また達しそうになるのを懸命に我慢する。

「――あ、郁未っ!」

「あ。は、はぁ――は、ぁ……っ!」

 名前を呼ばれるのと同時に一際強く腰を引かれて、膣内に精を放たれ頭の中が白を通り越して黒になった。







「……ねぇ、祐一」

 視線をぼんやりと宙に向けながら、祐一の身体にもたれかかって囁く。

 ここまで疲れることは滅多になかったが、それでも心地良い疲れだったので、気を抜くと今にも眠ってしまいそうだった。

「何」

「さっきの祐一が出した条件、私からも交換条件出していい?」

「……ものによるけど」

「うん。朝とか夜とか、出来る限り祐一には私の傍にいて欲しい。そしたらサボる気も起きないと思うの。私も時々不安になるから」

 晴香はお兄さんを。

 由依はお姉さんを。

 二人とも、それぞれ大事な人を失くしてしまった。

 私だって例外じゃない。

 けれど、同じような痛みを背負っている相手を数ヶ月経たないうちにパートナーとして得られた私はその中でも恵まれていると思う。

 だから、つい考え込んでしまう。

 決してそんなことで僻んだり妬んだりしないだろう彼女たちに対して申し訳なくて。

 そして名前も知らないアイツ。

 祐一を得たことによって、あのときの感情が刹那のものだったのか、それとも恒久のものだったのか私は判断できなくなってしまった。

 どちらにせよアイツの願いは私の想いを得ることじゃなかったし、死んでしまった今ではそもそも救いようがない。

 そんな風に考えて気持ちが沈む度、身勝手な後ろめたさが溢れて何もする気が起きなくなってしまう。

 あなただけどうしてそんな幸せに浸っていられるの、ともう一人の私に耳元で囁かれているような気がして。

「ダメかな?」

 だから、同じような痛みを背負う祐一から必要とされたい、いつもそう願っている。

 必要とされる度に罪悪感から解放して欲しい。

「さっきも言ったろ。お前がいないと俺はダメになるって」

「うん。……ん」

 だから傍にいると、優しく言ってくれる彼の唇に自分のそれを重ねた。







 彼が傍にいる限り、思うことがある。

 自分が幸せになっても良いのだと。










   ミズのちょっと“どうでも”いい話

 前回の「1月13日〜」の続編。
「祐×郁」にせよ「葉子さん」にせよエロはもう少し先になりそうだし、郁未のエロも良く考えるとまだ書いてなかったのでここで郁未エロ分を補給。
 というか「祐×郁」最初のエロがまこぴーとはどういうことなのか。
 そんな今更な疑問等を胸に秘めながら書いたのが今回。
 短時間で作っただけに…………出来が微妙な気もするけど、大目に見て。お願い。

 あと、メールくれた皆さん、ありがとうございます。
 申し訳ないですけど返信はもうちょっと待っててください。


Shadow Moonより

大発見、郁未さんは後ろに弱かった(核爆)。
今回もすごくえっちで魅力的なお話でしたが、郁未さんの悩みも垣間見えましたね。
人は不安な時、温もりを求めてしまうものです。 そんななか、自分を必要としてくれる祐一君がいる郁未さんは本当に幸せかも。
二人には、これからもお互いに支え合って幸せになってほしいです。
次回も愉快でえっちなお話、愉しみにしております(w

水亭帯人様へのメールはこちらへ。


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