堂上篤という男は無駄な事が嫌いらしい。









図書隊に入隊後すぐに編成された教育隊の担当教官だった男であり、今現在配属された図書特殊部隊・堂上班班長を務めている。――――つまり、郁の直属の上官に当たるのだ。
その班長はと言えば、新人の目から見ても無駄を削ぎ落としたような上官である。
仕事に真摯なのは、上から目線で恐縮だが認めよう。特殊部隊の雑用係が長いせいか、気配りもほぼ完璧だ(文句を言ってなければ満点なのに、惜しい)。
そして最大の特徴は隙がない。
しかしそれって、裏を返せば面白味がない男って事ではなかろうか?

むむ、と眉間にシワを寄らせていると、横から紙の束で頭を殴られた。
札束ならもっと!と言ったかもしれないが、あいにく代わりの紙束は仕事の書類その他である。全く嬉しくない。しかし殴られた郁が言うのもなんだが、なかなかいい音がしたようなしないような。
「ぼさっとしてんな」
上官が不機嫌な原因は重々承知。
つまり郁が、気を抜いていた事が悪いのだろう。実際どうでもいい思考に気持ちが行き過ぎて、手元の作業が疎かになっていたのだから怒られても仕方ないだろう。
「すいませんでした〜」
「もっとちゃんと喋られないのか貴様」
「さーせんッしたー!」
体育会系の謝罪には、すかさず拳骨が飛んできたのは言うまでもない。



そして思考は遡る。
こんなに面白味のない人だ、人生が平坦でつまらなくないかしらん?いや、特殊部隊に身を置いている時点で平坦とはかけ離れているのだが、そこはそれである。各々の性格までもは変えられないだろう。
そう。郁は堂上を、言う事は至極もっともなれどつまらないワーカホリック的な人間だと思っている。違うだろうか?いやいやいや……。
いつも冷ややかな眼差しで郁を刺し、余計な動きにレーザー光線の如き殺傷力の視線を投げかけてくるのだ。
確かに無駄は仕事の妨げになるだろう、否定はしない。
だけれど無駄こそが、人生を彩る余興であると郁は信じているのだ。
嗚呼、哀れ堂上。そういう意味では人生に置いて三分の一を切り捨てているようなものである。勿体ないお化けもやる気をなくすレベルだ。どうしてくれる。

そんな事を考えながら、時折仕事が上手くいった時にくれる頭ポンについて考えてみた。









「……」
「……」
頭をかき混ぜる堂上の掌からもたらす心地よさにぼうっとしながら、やっぱり郁は考え続ける。
味噌っかすの郁が稀に仕事が上手く行った時。少し落ち込んでいる時。
決まって頭を撫でてクシャクシャにするこの行為は、無駄が嫌いな堂上篤がもたらす、唯一の無駄なのではないかと。
「どうした?」
怪訝そうな表情を悟られて、慌てて手を振る。
「な、なんでもないです!」
そして続けて下さい!
なにせ堂上という男が若干苦手な郁だが、これだけは嬉しく受け入れられる事なのだから。



――――だから、もっと撫でて下さい……。














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