冬の間、深々と降る雪と寒さしかない時期に何をするかと言えば、もちろんスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツか代表格であろう。
だがしかし、忘れてはならないが行事が各市町村である。

雪祭りだ。

札幌などに目を奪われがちだがそうではない。
オラが町の雪祭りこそ、最も盛り上がるのだ。






最初に地元雪祭りに着目したのは中兄だった。
「なあなあ、ちょっとコレ見てみろよ」
ピラリと食卓テーブルに置かれたのは一枚のチラシ。
「吹雪祭り?」
「そ。いっぱいゲームあるけどさ、雪像コンテストにみんなで出てみねえか?」
指さす記事を読んでみると、有志参加者による雪像コンテストを募集するとの事。参加賞あり、三位、準優勝までの景品は無難なのに、優勝景品だけは某有名温泉地にある高級老舗旅館にペア宿泊券というもの。
「不憫を極める篤にこれをやろう」
「余計なお世話だッ!……つか、優勝したら親父さん達にやればいいじゃないか」
確か還暦祝いがまだのはずだ。特別親不孝などしていない笠原兄弟ではあるが、ここは両親にプレゼントするのが妥当だろう。篤と郁の方は――――まあ、時間が経てば機会も訪れるだろうし。

それは置いといて。

「で?名に作るんだ」
制作期間は一週間のうち各自自由。道具は会場に設置された小屋にあるという。
雪像作り初心者の篤が神妙な顔つきで訪ねたのに対し、小兄は不敵な笑みを作って両手で肉まんのような形を作った。
「俺達が作るったら、これだべ」
「?」
わからない。
しかし答えは会場の雪柱前にて発表され、あまりの提案に眩暈がしそうな篤だった。









「お先に失礼しま〜す!」
「はい、お疲れ様〜」
背中で支店長の労いを受け止めつつ手袋をはめた郁は、白い息を零しながら近くにある公園へと足を伸ばした。
歩いて五分の距離。そこは週末吹雪祭り会場として今週一週間は、いろんな人が夜遅くまで作業をしていた。
兄達と篤もその中のひとり。
雪像を作ると意気込んだわりには、何を作るかは絶対教えてくれない。会場に行こうとすれば、課業終了と同時にすでに篤が迎えにきている。
結局何を作るのか。
今日はそれを暴くべく、暇だったのも手伝っていつもより二十分早く仕事を上がった。案の定、篤はまだ来ていない。
だから郁は、こっそり会場を訪れる事に成功したのだ。

さて件の男どもはどこにいるのか?

キョロキョロを見回すと、一番端の丸みを帯びた雪柱を囲んで、見覚えのある男どもがドームのような雪像の表面をひたすら撫でていた。
「……」
それは雪の表面を滑らかにする作業だと知っている。知っているが、篤と思しき人影がドームの天辺にポツリと乗っている小さな玉のような雪玉を、くりくりと指先で摘んでシゴいている光景に身体中がカッと熱くなった。
情熱とか羞恥なんて、生易しいものではない。

それは怒りにも似ていた。

一瞬で湧き上がった激情は、郁に誰のものかわからない固い金スコップを握らせると、自慢の脚で一気に笠原ズの元に走り出したのだ――――。



「これが柔らかかったらなぁ……」
「雪像なんだから仕方ないだろ」
半ば無理矢理付き合わされている篤は、ため息を付きながら雪像の表面を懸命に撫でた。たちまちツルリとした卵肌になってくる。
そういえば天辺が疎かだった。
手を伸ばし、小さく突き出した雪玉を指先で少しずつ少しずつ滑らかにしていく。
これで少しは、彼のおっぱいプリンに近づいたであろうか?
大きさは十分、触り心地はかたいが、見た目がなかなか美味そうな出来に仕上がった。
せめて天辺の乳首部分がピンクに色づけできたなら。……思い切ってスプレーを自腹で購入しようか?

そんな事を考えていた篤の背後から、鋭い切っ先がすり抜けたと思ったら、せっかく形を整えていた乳首部分が金スコップでえぐり取られたのだ。
「……あ?」
人間本当に驚くとリアクションが薄くなりすぎる。しかし受けたショックは重大すぎた。
「誰だよッ!」
咄嗟に怒鳴りながら振り返り、それから男達は固まってしまったのだ。

なぜなら目の前には、気炎を上げた郁が鬼の形相で立っていたからだ。
哀れ、おっぱいプリン。






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