ガタガタって窓が鳴って、子ども心にそれは物凄く怖い事だったのに、私はいつから平気になったんだろう?

そのうち平気になって見知らぬふりが出来るようになって、それに慣れ始めた頃だったかな。


――――私はその恐怖すらも感じる事が難しくなったの…………。









踏み出そうとして動かした足は、しばらく躊躇したあと、やっぱり思い直して元に戻った。同時にため息。安堵と、そして諦めの後味。

だって私の世界は何も響かなくて、自分の声さえ上手く聞こえない。微かに聞こえる音が、かろうじてひとりじゃないって教えてくれるだけ。

私から世界の音がこぼれ始めて、もう何年経っただろう。慣れることなんてない、他の人と違うって事はいつだって緊張する。

頼れるのは目に映る物と手に触れる感触だけ、それから――――。


『大丈夫?』


そっと指に硬い何かが触れて、視線で捉えたそれが指だとわかる。わかって、私の何かが綻んだ。機械越しに聞く声は無機質なのに、なぜか温かい。


「幹久さん」


柔らかな微笑みが、今は私を見てくれる。ずっとずっと欲しかった、大好きな人の。

指が自然と絡まる。熱が混じりあって、最近初めて知った、大好きな人は私よりも少しだけ肌の下が熱い事。今はそれを知る事が出来る関係になったのが、気恥ずかしくも嬉しくて。


――――あのね、…………大好き


そっと胸の中でだけ呟いた筈なのに、瞳の中をじっと覗き込んでいた小牧の口元が不意に緩んだ。そして耳に唇を寄せて、


『俺も』

「…………ッ」


音にはしなかった気持ちを掬われて、?が一気に燃え上がる。こんなのって、不意打ち――――。


『わかんないと思った?子どもの頃からずっと見てきた毬江ちゃんの事なんて、なんでもお見通しなんだからさ』

「どうせ子どもだもん」


膨れたら笑いながら頬を潰される。


『子どもだったなら、もっと楽だったんだけどね』

「え……?」

『もう子どもになんて見えないから、俺はイイ大人のフリするのが、凄く大変』


返す言葉は唇で塞がれた。意味を汲めない程、もう子どもじゃない。

イイ大人なんかじゃなくてもいい。

服を掴んだ手に力を込めて、ようやく追いついたこの人からもう離れたくないと願った――――…………。





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