ガタガタって窓が鳴って、子ども心にそれは物凄く怖い事だったのに、私はいつから平気になったんだろう? そのうち平気になって見知らぬふりが出来るようになって、それに慣れ始めた頃だったかな。 ――――私はその恐怖すらも感じる事が難しくなったの…………。 ※ 踏み出そうとして動かした足は、しばらく躊躇したあと、やっぱり思い直して元に戻った。同時にため息。安堵と、そして諦めの後味。 だって私の世界は何も響かなくて、自分の声さえ上手く聞こえない。微かに聞こえる音が、かろうじてひとりじゃないって教えてくれるだけ。 私から世界の音がこぼれ始めて、もう何年経っただろう。慣れることなんてない、他の人と違うって事はいつだって緊張する。 頼れるのは目に映る物と手に触れる感触だけ、それから――――。 『大丈夫?』 そっと指に硬い何かが触れて、視線で捉えたそれが指だとわかる。わかって、私の何かが綻んだ。機械越しに聞く声は無機質なのに、なぜか温かい。 「幹久さん」 柔らかな微笑みが、今は私を見てくれる。ずっとずっと欲しかった、大好きな人の。 指が自然と絡まる。熱が混じりあって、最近初めて知った、大好きな人は私よりも少しだけ肌の下が熱い事。今はそれを知る事が出来る関係になったのが、気恥ずかしくも嬉しくて。 ――――あのね、…………大好き そっと胸の中でだけ呟いた筈なのに、瞳の中をじっと覗き込んでいた小牧の口元が不意に緩んだ。そして耳に唇を寄せて、 『俺も』 「…………ッ」 音にはしなかった気持ちを掬われて、?が一気に燃え上がる。こんなのって、不意打ち――――。 『わかんないと思った?子どもの頃からずっと見てきた毬江ちゃんの事なんて、なんでもお見通しなんだからさ』 「どうせ子どもだもん」 膨れたら笑いながら頬を潰される。 『子どもだったなら、もっと楽だったんだけどね』 「え……?」 『もう子どもになんて見えないから、俺はイイ大人のフリするのが、凄く大変』 返す言葉は唇で塞がれた。意味を汲めない程、もう子どもじゃない。 イイ大人なんかじゃなくてもいい。 服を掴んだ手に力を込めて、ようやく追いついたこの人からもう離れたくないと願った――――…………。 |