唇に残る余韻は甘くて切なく、堪えきれない渇きをみるみる呼び寄せる――。









恥じらいを含んだ嬌声はほんのりと堂上の耳朶をなで上げ、鼓膜を震わせる甘さは深い疼きとなって身体の芯を蕩かせてやまない。

それは散々病室の隔離された小部屋で聴く喘ぎ声とは違って、緊張と恥じらいを存分に滲ませていた。

慣れていないわけではない。口づけは個室の中で慣らしたはずだ。唇の合わせ方や舌の絡め方、呼吸に性感帯の刺激の仕方まで、時間は余るほどあったから。そして郁は教え込めば教え込んだ分、忠実にあとを辿って堂上を悦ばせた。

もちろん元来恥ずかしがり屋の郁だから彼女から求めてくる事はまずないが、こちらが欲すれば嬉しそうに応じてくれる。「キス、嬉しいです……」と。

そしてそんな可愛い彼女に欲情しないほど、堂上はちっとも枯れていない。むしろ少し抜いた方が郁の負担にならないんじゃないかと思うぐらいガッツいている。初心者の相手の事を覚えているのは最初だけで、口づけが深くなるにつれて、そんな生易しい気休めなどどこかへ飛び立ってしまうのだ。

今日とて、気づけば追い立てるように激しく熱を交換したものだから、唇を離した途端、郁がガクガクと膝から崩れそうになったのを受け止めた。

普段男らしい彼女のオンナの表情を唯一見られる身としては、絶対他の奴らに可愛い顔を見せたくない一方で、自分は更に郁の全てを暴きたい。暴きたいのは表情だけではない。未だ拝んだ事の無い服の下に隠れた柔肌や、身体の奥底までも。

いつかの夜、服の上から身体の線をなぞったことがある。冬の寒さに凍えない様に着込んだジャケットを掻い潜り、柔らかなフリースの上からなだらかな丸みを掌で感じたくて。

途端に身体を固くした郁だったが、一向に止まない口づけに次第に抵抗を失っていった……――。


つい先程まで交わしていた熱は、燻って堂上の胸の辺りをじりじりと焦がす。

付き合い始めた頃はふたりきりの場所に困らなかったから求めるままに口づけて、その代わり身体の不自由は多大にあった。

今は違う不自由が、だがそれは熱を高める不自由でしかない。

今はまだキスだけで――。

しかし素肌の滑らかさが知りたくなってきている自分がいる事も無視できない。渇望を埋めるために求めた触れ合いが、更なる渇きをもたらすだなんで知らなかった。

虹色の未来を夢見て、鈍色の溜息を落とす。

堂上は今晩も逢瀬の余韻と深くなる飢えを抱えながら、独り寝の夜を過ごすのだ。






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