「え〜、アンケートに基づいたところですね……」
こほん、と咳払いしながらこちゃこちゃと書き殴られたメモ帳を読み上げる郁に、すかさず手塚のツッコミが入る。
「なんのアンケートだよ」
「うっさい手塚、柴崎から回ってきたんだから黙れ」
「ぐっ…………」
柴崎からの仕事と言われるだけで、無条件に反発と同じくらいの抑圧を勝手に感じる手塚である。
小牧にすればいいように躾られているなと思うところだが、そこは敢えて言わないでおこう。弄ると可愛い部下だが、時に面倒くさいから。
「色々みんなに聞いてたけどなんなの、そのアンケートって?」
「これはですね〜、新隊員募集とかの時に、業務部防衛部でそれぞれこんな部活とか活動してたら有利ですよ〜って。なんかそういうのをまとめて提示したらいんじゃないかってヤツが」
「そんな簡単なモンか?」
「いいんじゃない?そういう情報でも、あれば嬉しいでしょ」
この際、新規隊員に対する募集率は置いといて。
「で、です。やっぱり特殊部隊の方たちは、部活と言えば柔道がほとんどですね。あとは剣道、レスリング……変わったところで相撲部とか」
「武道系は強いよ、やっぱり。俺も中学から柔道やってたしね。堂上と手塚もそうでしょ?」
「俺は柔道と剣道をやらされてましたね」
手塚家は年の離れた長男の影響が大きそうであり、幼い頃を想像するとなんだか微笑ましくなる。手塚に言ったら仏頂面になりそうだけれど。
「俺も小学三年から柔道をやっていたな。性に合ってたみたいですぐハマったのも大きい」
「やっぱりですか〜。そうなるとあたしの陸上って、結構異色なんですね」
「いいんじゃない?武器は人それぞれだもん、笠原さんは笠原さんの長所を伸ばして活かせたってことで」
「えへへ〜、ありがとうございます小牧教官!」
「お前が筋肉つけたからって、なんの役にも立たんだろうが」
「堂上教官の意地悪!」
ぷー、と頬を膨らませて膨れる郁だったが、何か思い出したように小首を傾げながら堂上を見た。 「そう言えば小さい頃から筋肉付けすぎると、背が伸びないそうですよ。知ってましたか?」
「……!」
明らかな暴言である。筋骨隆々なこの肉体が余計だと言っているようなものなのだから。
しかし最近仕入れた知識をひけらかす事に夢中の郁だけが気づかない。

「堂上教官は頑張って鍛えてきたから、背が低いんですね」

語尾にハートでもつきそうな調子だが、周りからしてみればあまりにもキツイ。
隣りで手塚が思わず後ずさる。小牧は上戸に入りかけるのを必死で堪えて腹を押さえている。
そして堂上は深くなる一方の眉間のシワを隠すようにどんどん俯いていった。
己の発言のまずさに気づかない郁だけが、ニコニコとしながら重くなっていく空気に首を傾げるのだった。



この後、むちゃくちゃシゴかれた――……。








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