「お疲れさまでした〜!」
長い長い一日をようやく終えた郁は、会場スタッフに深々と頭を垂れ、満面の笑みで感謝を伝えた。
いつもの事ながら、いちデザイナーでしかない郁がどう頑張ったところで、小規模はいえひとつのショーを成功させられるわけがないのだ。その陰には事務所スタッフと集まったモデルと、この場を快く設営してくれた係員がいるからこそ。
その事を常に忘れずに誰に対しても同じように腰を低くして親切に接する郁の事は、スタッフ全員が好感を持って受け入れてくれる。ただ一人、仏頂面の同僚を除いては。

「いい加減へらへら笑うのはよせ」
「へらへら笑ってないし!っていうか、堂上さんこそもっと愛想良くしてみたら?一応営業なんだしさ」
「バカ笑いで仕事をとってこれるんならそうするんだがな」
どこまでも素っ気ない事務所の営業課長は、仏頂面がトレードマークの癖に羨ましい程仕事が出来る奴なのだ。
今回の企画だって郁の手がけるウェディングドレスとトップモデル柴崎とのタイアップを早々に取り付けて企画を立ち上げ売り込んだ。
そもそも郁のデザインするドレスは親友である柴崎に着せる為に線を引いた物がほとんどで、柴崎もそれをわかっているからいつも快く仕事を引き受けてくれるのだが。




「・・・そろそろ柴崎の為のドレスはやめたらどうなんだ」
会場をあとにする郁の後ろを、むっつりとポケットに手を突っ込んだままの堂上が呟く。ささやく程度の音は拾いきれるかどうか、しかし生憎と受け取ってしまった郁は堂上よろしく眉間にしわを寄せながら振り返った。僅かに踵を上げるヒールの分、いつもよりも見下ろす格好になるのが気まずい。
「あたしが誰をイメージしてドレス作ろうが勝手でしょ?」
「たまには他の奴に着せたい物作れ。例えば・・・お前とか」
「あた、し!?」
突拍子もない事を言われて思わず吹き出した。
彼氏いない歴歳の数で、恋愛の「れ」どころか「ら行」にさえ引っかかりそうもない郁に、自分に着せたいドレスはないのかと。それは笑い話でもあり、同時に郁に対しての嫌味か。
「違う」
「何が!」
だだ漏れの感情を否定した堂上の言葉を否定して、そして自分の頬が冷たく濡れている事に気づいた。


――恋は何度もしてきた。


叶わなくて、ただ追いかけるだけで。胸の高まりのまま好意を言葉に乗せたそれらはことごとくはねのけられて、そのうち恋をする事に臆病になっていった。


女らしくない自分。


だから美しく、誰からも愛される女らしい容姿を持つ柴崎に自分の夢を重ねるようにたくさんドレスをデザインしてきた。自分が思い描く、決して自分が着ることのないドレスの数々を。




「どうせあたしは彼氏いた事ない女らしくない大女で、でかいぐらいしか取り柄ないけど、」
「話聞けって」
「だからって人前で似合わないドレス着せられる罰ゲームには乗れない!」
「お前に似合いのドレスをお前が着ないでどうすんだ!!」
「わけわかんない事言わないでッ」
「じゃあこう言えばわかりやがるか!!」
人通りの少ない裏道とはいえ完全に誰もいないわけではない。怒鳴りあいにひかれた不躾な視線に気づいた堂上が小さく舌打ちをこぼし強引に細い手首を引くが、抗う郁は大きく腕を使ってそれを振り解く。
にらみ合う視線。
先にひとつ吐息を解いたのは堂上で、郁を力づくで人気のない所へ連れていくのを諦める代わりに腰を引き寄せて距離を詰めた。その近さに郁は大きく目を見張る。未だかつてこんなに近くで堂上の顔を見下ろしたことなど、ない。
「ッ、なにを・・・」
「俺の為に着ろ」
「え?」


「お前に似合いのドレスを俺の為に着て、隣に立って欲しい」
「・・・!!」


大きく跳ねた心臓からあっと言う間に血が上る。火照った頬を両手で隠しながら、不安な上目遣いで自分よりも視線の低い堂上を覗きこんだ。
「・・・わかったか?」
「それって・・・・・・やっぱ、あたし無理です、無理!絶対無理!!」
「・・・・・・ッ」
一瞬歪ませた表情をなんとか堪えるように口元に力を入れて乗り切ると、そうかと短く呟いて郁を引き寄せていた腕の力を緩めた。力なくだらりと両脇に垂れ、俯く表情は全く伺えない。
「・・・わかった。悪かったな、笠原」
「あたしこそ・・・。でもホント、そういう企画には乗れませんから」
「企画?」
反射的に下からぎろりと見上げてくる鋭い眼光が怖い。
「え。だって、次のショーの話・・・ですよね?」
「アホか貴様!!俺の全力の直球をファウルすんな!!デッドボールしに来い!!」
「んな事したら痛いだけでしょーが!!」
「じゃあ次の直球は当たりに来いッ」
「いやだっつってんでしょーが」
「――お前が好きだから」
「痛いのやだ・・・ん?」

「お前が好きだ。俺の為にお前の似合いのウェディングドレスを着て 隣に立ってくれ」




唇の代わりに口づけを落とされた掌を抱き込みながら、真っ赤にな った郁は再び堂上に抱きすくめられたのだった。








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