公休日のお約束デート。

 いつもと違う場所に足を運べば、思いがけず縁日に行き当たった。






「こんな季節に縁日なんて、珍しいですね〜」

 土地勘のない場所に足を踏み入れた不安もぶっ飛んだように、軽やかな足取りで神社の境内を見て回る可愛い恋人。そのはしゃぐ姿を見て、知り合いがいないであろう事が堂上の頬筋をいつもより緩ませる。

「こら、人にぶつからないようにしろよ」

「あたしは子どもですか!」

 子どもな訳がない。むしろぶつかられて郁に何かあった時の心配をするほど、堂上は郁に対して過保護だ。

 そんな事も露とも知らず、郁は堂上を控えめに伺いながらも雑踏の中に足を踏み入れていく。


 焼きそばとお好み焼きが醸し出すソースの香ばしい匂いに誘われて、クレープの甘い香りに頬を緩ませる。飴細工に素直に歓声を上げ、射的では思わずムキになって肩に力を入れる。




 全てが素の彼女で、その隅から隅までが全部が愛おしい。




 今までこれほど明確に己の感情をつかんだことはあっただろうか?いつも拘りなく流されて、気がつけば知らないうちに自分は誰の物になっていた。


 その、なんと愚かしいことか。


 こんなにも愛おしい感情を無理矢理押さえ込み、見て見ぬふりをしてきただなんて。抗う事を止め、自分の気持ちに素直になった今ではとうてい無理な事である。




「教〜官!ホラ、見て下さい!!」

 細い指が指し示す先にはおもちゃのアクセサリーが陳列した屋台があった。

 いくら男勝りであると内外から言われたとて、そこは歴としたオンナノコであり標準以上に乙女な郁の事。例えおもちゃとわかっていてもキラキラとした物を見る目は年齢よりも幼く輝いている。

「なんか欲しいのか?」

「いぃ〜や〜・・・おもちゃだし。あ、でもこれとか可愛い〜!」

 手に取ったのは白い花を乗せたゴールドのリング。もちろんメッキなのに、郁が持つとなぜが他の物より輝いて見えるから不思議だ。


 つき合い始めてまだ日は浅い。夢見がちな郁ならば指輪を贈ればきっと喜んでくれるだろうし、虫よけに丁度いいかも知れない。このおもちゃの中から好みの傾向をリサーチして後日きちんとしたファッションリングを贈ったら・・・。

 きっと最初戸惑って、それから幸せそうに頬を染めて笑う彼女の表情が容易に想像できて、自然と堂上の口角も上がった。


 郁が喜ぶことならば、なんでもしてやりたい。


 例え恋は盲目と言われようが、そこは世の中の彼氏の立場にある者であれば全力同意をもぎ取る自信がある。




「入院ばっかでロクに構ってやれなかったんだ、そんぐらいはさせてほしいんだがな?」

 からかう口調で言ってやれば器用な上目遣いでこちらを伺ってくる様が可愛くて、衆目の中であるにも関わらず抱きしめたくなる衝動をなんとか抑え込んだ。

 本当に小悪魔という言葉はこいつの為にあるのだと思ってしまうほどに、毎回翻弄されてしまう。

「・・・いいんですか?」

「どんなやつでもいいぞ?」

「じゃあ・・・・・・コレ」

 そう言って郁が細い指先で優雅に示したアクセサリーを見て堂上の口元が若干強ばったのを、テキ屋のオヤジは見逃さなかった。






「あの、笠・・・原さん?ま、また・・・変わった指輪、つけてる、ね・・・ブッ」

「この間堂上教官に買ってもらっちゃったんですよ、小牧教官!」

「・・・・・・これ、を・・・どじょ、が・・・?ぶはっ」

 笑いを堪えきれなくなった小牧を不思議そうに見上げながら、可愛らしく小首を傾げた郁は眉を寄せて指輪のハマった己が指を見つめる。

「・・・可愛いのに」




「可愛いの基準は十人十色だがよぉ、堂上。もうちっと、せめてまともな指輪買ってやれよ・・・」

 からかいを通り越して最早哀れみの目で肩に手を置き見つめてくる進藤に、内心全力で放っとけ!と叫びながら苦虫を百匹は噛み潰した顔で堂上は呻いた。






 郁の所望した指輪・・・それは艶々とした大トロが堂々と乗った食玩リング、それはとてもとても美味しそうで。

 このあとしばらく先輩方に甲斐性ナシと罵られることになる堂上であった。







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