服も、決めた。
 顔も、出来るだけ作った。
 見えないおしゃれも・・・何となく下着も頑張った。



 

 でも、なかなかついてこないのは往生際の悪いこの心だけ・・・。





「堂上教官、ちょっとかわいいかも」
「お前こそ」
「はい?」
「顔が違う。いつもと」
 やっぱり自分の拙いメイクじゃどこかおかしかったんだ!
 そう思うといてもたってもいられない。慌てて席を立とうとしたら手を掴まれて、その事と堂上の手の熱さにおののく。
「な、何がですか!どこがですか!」
「いつもより女っぽい」
「そ、それは・・・・・・!」
 手で覆った頬が熱をもって火傷しそう。だって、まさかそんな事いわれるとは思わなかったから!
「プライベートで外出するんだからお化粧くらいしますよ!でも薄くだし・・・・・・!変ですか、変なんですかあたし!?」
 気合いが変な方向へ空回りしたのだろうか?もしかして色が明るすぎたとか?首と顔の色が違ったとか、チークがおかめみたいだとか・・・不安になりだすときりがない!
 こんなに大事な日なのに。堂上に少しでも女らしく見られたいとした努力が裏目に出るだなんて、あんまりだ。
「ちょっとトイレで確認っ・・・・・・」
 半分泣き出しそうになりながらすでに中腰になっていた郁の腕を掴むと、更に引き寄せて堂上はその真っ赤になった耳元に低く艶のある声を吹き込んだ。
「おかしいとは誰も言ってない」
 まるで耳から身体の中を愛撫するかのような声音に、郁の背筋に甘い疼きが走った。内側から熱が滲むような。今顔を見られたら死んでしまいそうなほど、きっと恥ずかしさで酷い事になっていると思う。
 郁の細い腰を抱き寄せた無骨な手が背中を撫でながら頭へとあがり、いつものようにポンポンと弾む。
「可愛いから。俺の為に綺麗にしてきてくれたのがわかるから、泣くな」
 ―反則。そんなに甘い顔で甘い声で、女の子に接するようにあやすだなんて、まるで・・・。




 恋人みたいで、勘違いしてしまいそう。




 そして件のカモミールティーを二人で飲む。

 堂上はいたく気に入ったように飲み、その様子に郁も胸をなで下ろした。
「ハーブティーっていうのを飲んだことがないから分からんが、飲みやすい。やっぱり緑茶に似ているような気が・・・・・・」
「気分を落ち着ける効果があって、グッドナイトティーともいわれてるんですって」
 珍しく堂上に知識を披露できる事に優越感を感じながら饒舌にしゃべる郁をじっと見つめる。優しい眼差しはそのままにしておもむろに堂上は郁の小さな手に自分のソレを重ねた。
「・・・教官?」
 突然の事に頬を染める郁の薬指を弄びながら、
「お前、明日から毎日飲め」
「うわ、厭味!」
 ドギマギする気持ちを悟られないようにわざと軽口をたたくが、堂上は全く絡めた手を離してくれる気配はなく。
「そんで明日から毎日、俺にも同じものを淹れて欲しい」
「え?」
 真っ直ぐ真摯な視線で郁を射ぬいたまま堂上は弄ぶ手を口元に運び、その華奢な指先に唇を落とした。
「・・・ッ」
「笠原・・・いや、郁」
「は、・・・はい!?」
 視線に囚われたままだったから変な声が出た。恥ずかしい、きっと顔はリンゴよりも真っ赤だ。






「俺と、結婚して欲しい」





 言われた意味が分からない。言葉が脳に届くまで今しばらく。


「・・・ッッ、ぅぇえ・・・〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?」
「うるさい黙れ騒ぐな」
 叫び出すタイミングで郁の口を大きな手が塞ぎ、大声は盛大にくぐもって堂上の手に吸い込まれた。
 騒ぐなと言う方が無理だ。だってそんな事、今まで片鱗さえ見せたことがなかったのに。それを今、ここで。堂上が、郁に。
「手、離すぞ?いいな?」
 こくこくと小刻みに首を縦に振り了解の意を伝えると、そっと温もりが離れてしまう。それを名残惜しく思っている郁の口元から完全に指が離れてしまう直前、硬い指先がそろりと唇をなぞり下唇をつままれた。そのまま親指を薄く開いた唇の中に僅かに忍ばせると、戸惑いながら上目遣いで堂上を伺う郁の舌先がそれに触れ、指先から電流が走ったような痺れを堂上は感じる。
「・・・きょう、かん」
 太い指をくわえたまま潤んだ瞳でそう呼ぶ郁の破壊力に、堂上の疼きは大きくなるばかり。
「どし、て・・・?」
「ずっと好きだった。お前が欲しくて堪らなくて・・・だから誰かに盗られる前に、結婚して俺の物にしたいと思った」
「・・・」
「嫌だったら諦める。お前がこの後班に居づらいんだったら移動だって考える」
「そんな事・・・」


「お前が、好きだ。それが全て」
 

 ―嘘みたい。

 やっと自覚した恋心がこんな形で実るだなんて信じられない。連戦連敗の結末がハッピーエンドだなんて、ホント大がかりなどっきりみたいで。


「・・・・・・キス」
 ようやく言葉がこぼれた。
「して・・・貰えます、か?」
 ぽろぽろ溢れる涙は悲しい訳じゃない。嬉しくて舞い上がって、止めたいのに止められなくて。
 涙の後を堂上のかさついた唇が追う。舌で舐めとり眦を軽く吸うと、まるで壊れものにするかのようなささやかなキスを郁の唇に落とした。
 ここが店内だとか人目につくとか、そんな事は吹き飛んでいた。本当は声が出るほど深く貪りたいのを鋼の理性でぎりぎりと抑えつけ、触れるだけの口づけのみで名残惜しく離れて・・・それが正解だったと知る。
 郁はぼうっとしたまま、だけれども心底幸せそうに微笑んでいた。その顔が切ないほど綺麗で、息を飲むぐらい。この顔を見ずに本能のままに郁を貪るだなんて、もったいない。
「きょう、かん」
 蜜を含んだような囁きがようやく堂上を現実へと引き戻し、ハッとして口元を押さえた。頬が赤い自覚は十二分にあった。
「あたしも・・・」
 ゆっくりと動く唇に視線が釘付けになる。




「堂上教官が、好きです」




 叶うわけがないと諦めていたこの恋を。
 夢だけ見れればいいと思っていたこの恋を。
 捨てられずにいて・・・捨てなくてよかった。

 



 カミツレの帰り道、そのままジュエリーショップを覗いて婚約指輪も結婚指輪も決めてきた。
 恋人期間をすっ飛ばして婚約を果たした二人だけども、この恋が終わらないと信じてる。


   

 最初で最後の、君と僕とで恋をしよう。







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