本来ならば今日は郁達堂上班は公休日のはずだけど、優秀で頼まれた仕事は言われた倍にしてきちんとこなす郁の大好きな旦那様は昨日のうちから休日出勤が決まっていて。
 だから昨日のうちからおかずを下ごしらえして、今朝は珍しく堂上よりも1時間早起きしてお弁当を作ってみた。
しかもこの間柴崎に習った、いわゆるキャラ弁と言うやつ。
 料理下手の郁でもなんとかかんとか仕上げられるおかずをチョイスして、細心の注意を払いながら桜でんぶで明るく色を添えていく。そう言えば昔お母さんが作ってくれたお弁当は全体的に茶色いと抗議をしたら、茶色なのは栄養があって身体にいいおかずが多いからよ、とか言われたけど、今ならあの時の自分に膝詰め説教でお弁当のありがたさをとつとつと言い聞かせるな。


 ―本当にご飯を作るって大変…。


 お弁当の中身が悪くならないように十分冷ましたら蓋をして、ハンカチでつつんで完成。
「…よし」
「何がヨシなんだ?」
「ぅ、わぁッ!?あ、篤さん?お、はよう、ございマス…」
「おはよう。…なに挙動不審なってんだ?何した?」
 慌ててお弁当を袋に突っ込むと、お茶を入れた水筒も添えて堂上につき出す。
「お、お弁当作っただけです!なんであたしがなんかした前提で話すんですか!!」
「弁当?」
「だって今日、休日出勤でお昼いるでしょ?」
「…飯ぐらい帰ってくればいいだろ」
「…だって。少しは奥さんらしい事、したいんだもん…」
「……」
 口を尖らせながら上目遣いで堂上をジト目で睨めば、まじまじと顔を覗き込んだ堂上は口を押さえて視線を外す。どういう事かと思考を巡らせれば旦那様の耳がみるみる真っ赤に染まっていくのを見て、郁はついつい吹き出してしまった。
 意外にも堂上の感情が駄々漏れであると知ったのは婚約をしてからだ。曰く、年上の意地とかプライドは酷く馬鹿げているくせに実りが少ないらしい。余程婚約前の一ヶ月にも及ぶ冷戦が応えたのか、それ以降の堂上は別人のように素直に感情をぶつけてくれる。時々子どもっぽくて手を焼くが、そこも含めて可愛くて仕方ないと思っているのは内緒だ。
「そんなに愛妻弁当嬉しいですか?」
 わざとニヤニヤとしながら聞けば、煩いよお前と言いながら器用に片手で郁の両頬を潰すと、こちらもニヤリとして耳元に唇を寄せてきた。
「ああ、せいぜいどんな具合か期待してる」
「…嫌みですか」
「可愛い奥さんが苦手な早起きまでして頑張って作ってくれたんだ、嬉しくて堪らんな」
「どーせ篤さんの方が上手に作れますよーだッ!」
「拗ねんな、可愛いだけだ。ありがたく食わせてもらうよ」
「午後からも元気になれるようなお弁当にしてみました!」
 えへへ、とハニカミながら頬を染める姿は実年齢よりも幼く見えて、結婚してからよく聞く綺麗だとかの賛辞もこうしてみると、可愛いの一言に尽きる。まぁこんな表情は自分の前だけで披露してくれればいいのだが…。
「…それよりも、郁、なにか忘れてないか?」
「なにか?ってなにが?」
 心当たりがなくて腕を組む郁の唇を掠めるようにさらった堂上は、ツラッとした顔でそのまま新妻を抱き締める。
「なに、を…!」
「朝の挨拶を忘れるとはいい度胸だな。忘れないようにこの可愛い唇に教え込むとしたもんだろう?」
「ぅええぇッ!?」
 濃厚な朝の挨拶をみっちり教え込まれた郁が立つのも困難なほどに喘いだのは後日談であるー…。




※ ※ ※




 …遠くからけたたましい音が近づいてくるのを聞きながら、初めて郁はリビングのラグの上で転た寝している事に気づいた。
 そうだ、せっかくの晴天だからと大物を洗って干して、ついでに一息と思ったのが寝てしまったのだ。勿体ない。時計を確認すれば僅かに正午を過ぎたばかり。
 ともすれば朝、堂上に持たせたキャラ弁の事を思い出してひとりにやにやする。

 今頃はすでに食べ始めているだろうか?

 …しかしなんだろう、この地響きのような盛大な音は。もしどこぞの誰かが立てている物であるならば苦情のひとつくらい言われても仕方がな………ちょっと待て。
 ラグ越しとは言え床に直接耳をつけて寝転がっている郁には、この騒々しい物音が外から官舎の中に入り込み、どうやら我が家に近づいているように感じられるのだ。
「え、ヤダ、怖…」
 ホラー的なものは心底苦手な郁が身体を起こして両肩をぎゅっと抱き込んだと同時に、我が家の玄関が破壊されんばかりの勢いで開けられ、ついでに雪崩れ込むように肩で息をする顔中汗まみれの堂上がリビングに転がり込んできた。
 その様子に目を白黒させながらも恐る恐る近づいた郁の細い腰を無理矢理引き寄せると、言い様のない鋭い眼光で堂上が郁を睨み付ける。
「あ、あ、あ、篤さん!???」
「…お前、あれどういう嫌がらせだ?」
「は?嫌がらせ…?」
「とぼけんな、あの弁当だッ!!」
 言うが早いか小袋に入れていた弁当箱を取り出すと、郁にこれでもかと突きつけた。
「…これが、なに?」
「おい…………作った本人がわからないとかやめろ。いや、柴崎に教えてもらったんだったな?」
「そうだよ!篤さん、この頃お疲れだから元気の出るようなアイディアない?って」
「だからってこりゃないだろが!!事務所で俺がどんだけ恥ずかしかったかわかるか!?」
「え〜?あたしのは小さいから、満足出来るように大きくしてみたのに。お、おっぱい弁当…」
「わかって作ってんのか!!」
「元気になれなかった…?」
 不安げに器用な上目使いで見上げてくる郁に、堂上は暫く黙りこむと思考の末に僅かに口角を上げた。
「…元気には、なったな…」
「ホント!?よかった〜ッ」
「あぁ、元気になったから是非とも発散させてくれ」
「………ん?」
 イマイチ意味がわからない妻をよそに家では暴君の夫が上着を脱ぎネクタイを抜き取り始めると、ようやく危機を感じた郁が後ずさり始めるが、あいにくここは狭い官舎だ。すぐに背中が壁に退路を阻まれると、ワイシャツのボタンを外しながら近づいてくる堂上にあっという間に組伏せられる。
「ご、午後から仕事…!!」
「あんな弁当を事務所で披露したんだ、午後の仕事はお役御免でしっかりお前を可愛がって来いと言われたわッ」
 欲求不満なんじゃないかとのからかいには頷かなかった。不満に感じるほど毎度余裕なんぞ残してやれないで反省してるぐらいなのだから。
「元気になったぞ、責任とれ」
「元気の意味違うし〜!!…アンッ」





 果たしておっぱい弁当の効果やいかに?






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