「あ〜、まぁ問題はだなぁ、何を見繕うかなんだよな」
「そうそう。ありきたりな物じゃ、タスクの名が廃るってもんよ」
「かといって気負いすぎてもアレだろが?」
 いいおっさんたちが額を合わせてうんうん唸っている所に助け船を出したのは、微笑みの貴公子と図書館使用者に呼ばれている小牧だった。
「俺、凄くいい案があるんですけど?」
 その案を聞いた途端、特殊部隊事務室に集まっていた隊員達は一様に背筋を凍らせた。


 ―小牧・・・そいつは貴公子どころか笑いの仮面を被った悪魔なのかもしれない・・・。






「へぇ〜、今四ヶ月なんですか!全然妊娠してるようには見えない〜!!」
「そうかな?これでも少し出てきたのよ?」
「毬江さん、細いから」
「郁ちゃんだって細いでしょ?でも、ちゃんとここにいるんです」
 そう言って幸せそうにまだまだ平べったい腹をさする表情はすでに母親のそれだ。
 郁と毬江の様子をダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら眺めていた堂上と小牧はその和やかな雰囲気に微笑んでいたが、ふと堂上が何かに気づいたように小首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや・・・計算が合わんと思って」
「・・・・・・」
 小牧と毬江が入籍したのが二ヶ月前、四週間を一ヶ月と数える妊娠週数と照らし合わせてもいささか計算が合わないのだ。
「お前・・・」
 ごくりと堂上の喉が鳴る。
 対する小牧は穏やかな頬笑みをたたえたまま視線すら寄越さない。・・・いや、堂上の思考を正しく読みとったからこそわざと視線を合わさないのだ。それが逆に怖い。
「周りが年齢で反対したって、既成事実があれば仕方ないよね?なによりも俺たちはいい大人だし?」
 ―いい大人が既成事実とかいうな!
 本気で小牧の人格を疑いそうになったが、この男ならやる。有言実行とは小牧のような人間のためにある言葉なのだろう。そしてこの男につき合っている毬江も、恐らくは一筋縄ではいかない人物なのかもしれない・・・。

 ちょっぴりご近所づきあいを躊躇う堂上だ。

「あ。もうこんな時間だ!帰ろっか、晩ご飯の準備もしなきゃだし」
 壁掛けの時計を見ながら郁がそろそろ暇を告げる。
 新婚さん所帯に長くいて小牧に小言をねちっこく言われるよりは、すぱっと早めに切り上げた方がいいとの判断だ。伊達に二年間特殊部隊の同班で過ごしてきていない。
「じゃあまた明日ね」
 小牧家に挨拶をして向かうのは一ヶ月前から二人の新居になった官舎の一室。こうして手と手を繋いで同じ場所へ帰れる幸せを噛みしめている二人なのだ。
「今日なに食べようね、堂上?」
「・・・名前」
「ッあ、と・・・ごめん。あ、篤」
 まだ慣れない名前呼びをする度に可愛らしく頬を染めあげる新妻に、堂上の方も脂下がるのは仕方ない。ここが歩けば数分で自宅につく官舎で心底よかった。
「で、なに食べる?」
「郁」
「ッァホか!!」
 いつもの軽口、いつもの鉄拳。
 しかしこの先に波乱を起こす贈り物が投げ込まれるとは予想だにしなかった。

「・・・あれ?玄関の前になんか届いてない?」
 見れば堂上家の玄関ドアに立てかけるようにして包装された小箱が置かれている。
 しかしお互い荷物に心当たりがない。不審に思いつつも近づけば、送り主は「関東図書基地特殊部隊一同」とある。「結婚祝い」とも。
 官舎に入居する為に先に入籍だけ済ませた二人の披露宴は年度末の再来週に予定されていて、どうやらそれに先駆けて結婚祝いを寄越したらしい。
 それにしても・・・。
「なんだろう?」
「わからん。・・・軽いな、食器類ではないみたいだが」
「お揃いのエプロンとかだったら可愛いよね!」
 日頃は戦闘職種の大女と自分を卑下する郁だが、その思考はたいがい乙女だ。しかしそれに自分で気づかない所も郁の可愛さのひとつだと思う。

 ―というかこいつの存在自体が可愛いんだがな!!

 だからきっと郁に嫌われたら堂上が立ちゆかなくなるのだろう。


 とりあえず自宅に入って玄関でお互い「ただいま」「おかえり」のキスをして(これはどちらともなく自然にやりはじめた)、リビングで包みを解き始めた。
「なんにも聞いてないの?小牧君とか」
「何も。しかしおっさんらが相手だからな、きっと素直に喜べな・・・」
「・・・・・・なにこれ?」
 持ち上げればひらりとはためく真っ赤な布が二枚。それになにやら図解説明書がひらりと添えてある。
「これって・・・」
 ごくりとなったのはどちらの喉か。
 おずおずと上目遣いにこちらを伺ってくる郁と目があって非常に気まずいが、堂上は仕方なくそのブツの名称を図解説明書の中から拾って言い当てた。

「褌、だな・・・」
「はぁぁぁあああああああ!?」

 郁の絶叫は独身寮の柴崎の所まで聞こえたという。


 

「だから、気分だッ!!」
 がはっと言い放った玄田は腕組みをしながら堂上と郁ににやにや笑いばかりを寄せる。
「気分で結婚祝いに褌贈られる身にもなって下さい!」
「普通下着ってったら赤いトランクスとか赤いショーツでしょーがッ!!」
 赤い下着を贈る意味合いは新婚夫婦に遠回しに子作りしろというけしかけなのだが、赤い褌を贈られてもとてもじゃないがそんな気なんぞ起こらない。
 ―寧ろ萎えるだろ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「小牧・・・」
「それにさ、随分前になるけど堂上も言ってたじゃん。女の褌姿も萌えるって」
「はぁぁぁああ!?おまッ、デタラメぬかすな!!」
「覚えてないの?飲み会で同意したじゃん」
 全力で覚えていない。それ何年の何月何日何時何分何秒の発言だ、書類揃えて証明して見ろ!
 しかし堂上がひとしきり憤ったにも関わらず、そう言えば郁の抗議が途絶えている事を不審に思った堂上が様子を伺い、次の瞬間一緒に小牧の言を聞いた事を後悔した。

 半眼無表情・・・。
 ヤバイ、非常にヤバイ。

「お、おい、郁・・・」
「触らないで」
 腕を取ろうとしたら強かに弾かれた。堂上の中で警告音どころが注意報がガンガンなっている。
「・・・堂上にそんな趣味があるとか、マジサイテー」
 職場では公私の区別を付けるためにお互い名字で(郁は旧姓を)呼び合っているが、それがこの時ばかりは幸いした。
 おそらく名前呼びでサイテーとか言われたら、堂上はしばらく寝込んだであろうところを辛うじて踏みとどまる。
 しかしその努力も空しく、郁は無情にも更に爆弾を投げ込んだ。

「あたし、しばらく柴崎んトコに行くから。つーか変態とは暮らせないわ、マジで」

「郁・・・」
「短い間でしたがお世話になりました」
 突然の展開に特殊部隊事務所が静まり返り、ひとり堂上のガタリというひざを突く音だけが嫌に響いた。





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