「堂上副隊長、肋骨にヒビいって左腕に銃弾の裂傷だけですって?よくもあの銃撃がそれだけで済んだわよね?」
カラカラと笑いながら、自室にて柴崎が紅茶を淹れてくれた。
この香りはカモミールティー。郁なら美味く淹れる自信が無いからティーパックを使うが、柴崎は葉っぱから実に美味しく淹れてくれる。
「そうだよ。しかも胸コルセット付けて翌日退院してくるなっつの!」
「何者よソレ。逆に怖いわ?」
「でしょでしょ?もう不死身かっつの、あのおっさん」
「でもさ?、加齢臭連発はないわよね。いくら照れが限界来ててもさ」
「うッ……」
どこからその情報を拾ってきた。あの戦場で、あの状況で、しかも聞いていたのは――――小牧か。
「アンタの事が心配で心配で守りたかっただけなのに、不憫よね?」
シミジミ言われるといたたまれなくなって、せっかくの紅茶を一気に煽った。それでも喉の乾きは止まらない。変な汗が出てきそうだ。
「……別に守ってくれっつってないし」
そんな自分を認めたくなくてわざとぶっきらぼうに呟くと、柴崎にこれみよがしなため息を吐かれた。
「お子ちゃまみたいな事言わないの。本当は嬉しかったクセに」
「……」
やり返せば図星と言ってるも同義。しかして黙っているのも癪である。もうそろそろ折れ時なのかも知れない。
ペタリとローテーブルに突っ伏した。
こうしていると、堂上が上に被さって弾道から守ってくれた事を思い出す。ひとりよりふたりでは、上になった方が高い分危険だというのに。
生命をかけてくれたのだ。それを認めないと、さすがに堂上に惨い。
そして認めてしまうと、一端のオンナノコみたいにそれを嬉しいと思ってしまう自分がいた。
「顔赤いですけど?」
「ほっといて!」
「そろそろ素直になった方がいんじゃないの、笠原?」
「……なにそれ」
ジト目で睨むも、柴崎はこれで終いとばかりにすでに雑誌を広げている。ヒントもくれないらしい。う?と唸っても無視だ。
仕方なく身体を起こすと、ノロノロとベッドに移動してそのまま寝転がった。
ベッドの上には思い出深い本が数冊、小さなウサギのぬいぐるみが置いてある。その片隅に、白いスマートフォン。
何気なく手に取って、画面を開く。検索サイト、カメラアプリ、それからSNS……。
スクロールすれば特殊部隊メンバーがすぐ出てきた。その中のひとつに視線が止まって、胸がキュンと小さく鳴いた。まるでそこから毒が回るかのように、じわりじわりと疼きが広がっていく。
この感覚は久しく忘れていたけれど、確かに郁は知っている。


それがドキドキに変わる頃、生まれたての熱に意識を移すように、ゆっくりと瞼を下ろした。











「堂上もさ、無理しなくてたって良かったのにねぇ」
書類を整えながらそれを目の前に置くと、顔を顰めながら堂上が小牧を睨んだ。
「んな事しとったら、どんだけ仕事が溜まるかわからん」
「ホント素直じゃないんだから。ただ笠原さんに会いたいだけだって言えばいいじゃない」
「どこをどうやったら、そんなオメデタイ話にすり変わるんだ!」
鼻息荒く噛み付けば、くすくす笑いながら小牧は腕を組んだ。
「あのね、堂上。アンタは娘同然って言い張るけど、笠原さんはアンタの娘じゃない」
「当たり前だろうが。要するに、気分の問題だ」
「そこがね、間違ってるよ」
「何?」
「見て見ぬふりして後悔するぐらいなら、俺はきちんと向き合った方がいいと思うけどな」
それだけ言うと、小牧はさっさと事務所を出ていってしまった。
後に残された堂上は、渋面のまま頬づえをついて外に視線を放る。


郁をなぜ大事にしていたいのかなんて、そんなの――――。


「堂上副隊長!」
意識が宙に浮く前に、特殊部隊に似つかわしくないアルトが堂上を呼んだ。声の主など見なくてもわかる。わかった瞬間、無意識に口角が上がった。
そしてそんな自分自身に気づいて、一層眉間にシワが寄るのだ。
「なんだ」
わざと突き放すように言葉を投げるが、ものともせずに郁はまっすぐと副隊長席に向かって歩いてくる。
「あの、これ……!」
「?」
ずいと突き出されたのは拳、ではなく可愛らしい包装紙に包まれた、なにか。
疑問が顔に出たのだろう。すぐさま敬礼しながら郁が説明を始めた。
「その節は戦場の最中、生命の危険も顧みず身を呈してかばって頂きありがとうございました!」
「お、おう」
「あと、奥多摩の時も飴持たせてくれて・・・・・・いい気分転換になりましたッ」
「そうか、よかったな
「これ、お礼です!」
言いたいことだけ一気に言うと、今度は一目散に事務所を出ていってしまった。全く脚だけはどの現場においても速いものだ。
郁が完全に事務所を離れたのを確認してから、ようやく苦笑する。本当にアイツときたら忙しなくて猪突猛進で、見てるこっちの方が疲れてしまうのに不思議と目が離せないんだから堪らない。
廊下を見回してから席に戻り、郁がくれた袋を開けた。
中から出てきたのは、見慣れた花がラベルに描かれた小さな小瓶。カモミール、と書かれたアロマオイルだ。
――なんだアイツ畜生、加齢臭どうにかしろって事かよ。
若干のイラ付きを覚えつつも、一緒に入っていた手紙に気付き無造作に開いて――……。




ガタタッ




突然上がった固い音に、事務所にいた数人の隊員が何事かと一斉に振り向いた。
ところがさっきまで座っていた堂上がいないではないか。イリュージョンか。
それからよくよく見てみると、どうやら堂上は椅子から滑り落ちているのがわかった。表情も身体も硬直している。
「大丈夫ですか、堂上副隊長?」
恐る恐る聞いてきた隊員に手を振って返すと、堂上はゆっくりと椅子に座り直した。そして両手で顔を覆ったが、唯一隠せなかった耳だけが燃えるように赤かった。


――あんにゃろう。なんなんだ、あんにゃろ……。


ブツブツと呟く堂上の手に握られた郁からの手紙。そこにはお礼の言葉とお詫びも兼ねたアロマオイルの事、それからたった一言、




――――堂上副隊長の事が、好きです




丁寧な字で記された感情の言葉に、堂上は顔が緩むのを覆った掌の中で自覚した。






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