- 611 名前:風と木の名無しさん:2007/01/21(日) 17:32:40 ID:0448DlLVO
- 数日ぶりに来たら良作がたくさん来てて嬉しいw
吸血鬼たん、テュランたん、ハントたんGJ!
- 612 名前:ハント 16:2007/01/21(日) 20:28:51 ID:bB2p2/+B0
- 以下、残酷な描写が出てきます。(特に20〜22)
苦手な方は読まないで下さい。
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私は、自分の鞄の中から、特別に作らせた金属製の密封容器を取り出した。
蓋を開けると、それまでピクリとも動かなかったミハイルが身じろぎ、
苦しげな呻きを漏らした。私が箱を手にしてベッドに戻ると、
ミハイルは体を捻って後ずさった。
「よせ……それを私に近づけるな。よさないか……!」
牙をむき出し、瞳をぎらつかせて、ミハイルは私に命じた。言葉は勇ましいが、
従う者のない命令ほど惨めなものはない。
私はベッドに乗り上げると、ミハイルの丸い膝頭を捕えて引き寄せた。
ミハイルが呪詛の声を低く長く吐き出す。耐えられないと言うように、
強張った体をほんのわずかでも私から離そうともがいている。
箱の中身は、ニンニクだ。旧い時代からずっと、魔除けとして
人が軒先にぶら下げてきたあれだ。ヴァンパイアがなぜニンニクを嫌うのか、
まだ解明されていない。私がヴァンパイアから直接聞き出しただけでも、
「臭い」「熱い」「痛い」「怖い」と、返った答は多種多様だった。
恐らくはヴァンパイア自身でもハッキリとした理由など知らないのだろう。
わかっているのは、これがヴァンパイアの力を弱めるということだけだ。
私は、ミハイルの腹の上で箱をひっくり返して、ニンニクをぶちまけた。
ニンニクは皮を剥いてある。長い期間を通して護符がわりに使うのなら剥かないが、
ヴァンパイアに直接用いるのであれば、剥いた方が効果が強烈なのだ。
腹の上にニンニクを撒かれ、ミハイルが、火の粉でも被ったかのように
顔を歪めて身を捩った。コロコロと転がったニンニクを手に取って、
私は改めてミハイルの後孔を眺めた。私がズタズタに引き裂いたそこは赤く爆ぜて、
未だ止まらぬ血に湿っている。傷に塩を塗り込むのと似たようなものなのだろうと
想像しながら、私はニンニクを1つ、ミハイルの後孔に押し当てた。
- 613 名前:ハント 17:2007/01/21(日) 20:29:25 ID:bB2p2/+B0
- 「やめろっ、いやだ! やめろ、ああ、やめないか……!」
さすがにミハイルも度を失っているのか、上擦った声を出す。私はニンニクを
ミハイルの中に押し込んだ。ミハイルの体が大きく跳ね上がった。押さえつけて、
2片目を押し込む。ミハイルが感電したかのように硬直する。苦しいのだろう。
血の気を失った顔が凄まじく歪み、引き攣っている。私は次々にニンニクを
ミハイルの孔に詰めていった。今やミハイルの体は激しく痙攣し続けている。
目は白目を剥かんばかりで、食い縛った歯の隙間からは泡を吹いている。
ひゅうひゅうと漏れる息は、もう悲鳴を上げる力すらないことを示していた。
半分を尻に詰めてしまうと、私は残りのニンニクを手に持って、
ミハイルの顔の方へと移動した。食い縛っている歯を、ナイフでこじ開ける。
その隙間から、ニンニクを口の中へと押し込んでいった。つややかに光る牙に
ニンニクをこすり付けてやると、ミハイルが、さしもの私でも背筋が寒くなるような
凄惨な声を上げて抗った。私はミハイルの額を膝で押さえつけながら、
ニンニクの最期の一片までを口の奥へと落とし込んだ。それからタオルで
猿轡を噛ませ、仕上げに銀の細い鎖をタオルの上から巻き付けて固定した。
- 614 名前:ハント 18:2007/01/21(日) 20:29:58 ID:bB2p2/+B0
- ミハイルは目を大きく見開いて虚空を睨み、ガクガクと首を振っている。
しなやかな体がベッドの上で幾度も跳ねる。全身から、声のない悲鳴が迸っている。
心の中では誰かに助けを求めているかもしれない。来るはずのない助けを求めて、
恋しい男の名を呼び、泣き叫んでいるのかもしれない。
私は、自分の雄が昂ぶってくるのを感じた。いけない、いけない。
もう私の楽しみの時間は終わったのだ。今は仕事中だ。さかっている場合ではない。
私は、ミハイルの首をベッドに結わえ付けている鎖の具合を確かめた上で、
携帯電話を取り出して依頼人を呼び出した。通話が終わってから、
水で濡らしたタオルで簡単に自分の体を拭う。シャワーを浴びたいところだが、
ミハイルから完全に目を離すのはいくらなんでも危ない。
私が衣服を整えて身繕いを済ませてすぐ、依頼人がドアをノックした。
ドアを開け、依頼人を招じ入れる。
依頼人は、友人のテオだ。顔が青ざめ、口元がぴりぴりと痙攣している。
無理もなかった。この国に生まれ育ったとは言っても、テオはヴァンパイアに
実際に接するのは、これが初めてなのだ。一般人なら当たり前のことだった。
私がニンニクを使ったのはこのためだ。ずぶの素人をハントに関わらせるなら、
事故予防措置には神経質なほどに気を遣わねばならない。
「口枷は絶対に外すな。噛まれたらひとたまりもないぞ。首と手足の鎖もだ」
私がそう言うと、テオは私を見ようともせずに頷いた。目はベッドの上で
のた打ち回っているミハイルに据えられている。
- 615 名前:ハント 19:2007/01/21(日) 20:31:04 ID:bB2p2/+B0
- テオは、持ってきた鞄を床に下ろした。中に何が入っているのか、想像は
ついていたが、数が想像とは違っていた。太い木の杭が、2本。
2本も、どうする気なのだろうか。私は口を出さずにテオを見守った。
何をどうしようと、テオが無事に本懐を遂げられたらそれでいい。
テオは、杭を1本掴むと、ミハイルに近寄っていった。ミハイルは、
大きな目でテオを見つめている。テオは、ミハイルの横に立つと、
それこそ悪鬼が取り憑いたような顔をして、ミハイルの全身をねめつけた。
「お前が――お前が、トライアンを――」
ぼそぼそと呟いた言葉の意味など、ミハイルにはわかるまい。
トライアンは、テオが一緒に暮していた恋人だ。行方不明となった同性愛者たちが
ヴァンパイアの餌食になったようだと言い出したのは、トライアンだったそうだ。
テオが私に連絡を取り、私が情報を集めたり実地検分したりしているうちに、
トライアンも姿を消した。沼のほとりで見つかった干からびた死体が、
捜索願いが出ていたトライアンだと警察から連絡が入ったのは、先週のことだった。
もう少し早く私がミハイルを探し当てていたらと、心が痛まないでもない。
だが、腕に覚えもないのにヴァンパイアの名を口に上らせたトライアンも悪いのだ。
それでもトライアンは、私の大切な友人の、大切な伴侶だった。義理はある。
- 616 名前:ハント 20:2007/01/21(日) 20:31:53 ID:bB2p2/+B0
- テオは、杭を持ち上げると、見せ付けるようにミハイルの上にかざしてから、
尻の間へと持っていった。先端は、思ったほど尖らせてもいない。
この国に育った人間として、テオも、何百年も前に行われていた処刑方法を
よく知っているわけだ。鋭利な刃より鈍らな刃で斬られる方が痛いのと同様に、
尖っていない杭で抉られる方が痛みが激しい。2本使うつもりであることを
考慮して、私は一つだけテオに念を押した。
「知っているだろうが、杭は斜めに押し込んでいけ。心臓を傷付けたら終わりだ」
テオは静かに頷くと、杭の先をミハイルの後孔にあてがった。
ミハイルの目は恐怖を顕にして今にも飛び出しそうだ。それでもミハイルは、
命乞いをする素振りは見せない。助かるわけがないと悟っているのかもしれないが。
何にせよ、ミハイルが取り乱さないのは私にとっては嬉しいことだった。
どれほど残忍な目にあわされようとも、ヴァンパイアたるもの、人間ごときの前で
醜態を晒さずにいて欲しい。私の勝手な理想に過ぎないことは百も承知だが、
私が葬ってきたヴァンパイアのほとんどは、その理想を具現化してくれていた。
私がミハイルの態度に陶酔を覚えている間に、テオもまた頭に血を上らせて息を荒げ、
片手でミハイルの腰を押さえると、杭を持つ手に力を込めた。
「思い知れ、化け物…!」
その言葉と共に、テオは杭をミハイルに突き入れた。
- 617 名前:ハント 21:2007/01/21(日) 20:32:25 ID:bB2p2/+B0
- ミハイルが仰け反った。めりめりと音が聞こえそうなほど大きく孔が開かれ、
裂け、血が吹き出した。当たり前だが、私が犯した時などとは比べものにならない。
それでも、まだ3分の1も入ってはいない。杭は、ミハイルの胴と同じ程に長い。
これから杭は腹を抉り、胸を掻き割り、鎖骨を折り砕いて肩を突き破るのだ。
ミハイルが、美しいヴァンパイアが、今から壊れていく。
目に映るはずの光景を脳裏に描くだけで、腰の奥に疼きが生じた。
だが、荒くなる息を押さえて待っているのに、杭がなかなか動こうとしない。
時間をかけて嬲るつもりかとテオを見やると、テオは真っ青になって、
瘧にかかったかのように震えていた。ヒッヒッと妙な息を漏らしている。
私はすかさず頭を切り替えて、テオの肩を抱いた。
「無理はするな。もう充分だ」
そう言ってやると、テオは顔を覆って崩れ落ちた。それを抱き止め、
部屋の隅に置いてある椅子に座らせる。
「すまん――俺は、何と無様な――」
すすり泣きながら言うテオの肩を、私は優しく叩いてやった。
「まともな人間ならこれが普通だ。気にするんじゃない。トライアンだって、
お前につらい思いをさせたいなんて思っちゃいないさ」
今は群雄割拠の戦国時代ではない。見せしめのために捕虜を串刺しにして野に晒し、
丸二日かけて死に至らしめた、そんな時代ではないのだ。今の時代にそんなことを
平気でできるようなら変質者だ。――私のような。
「どうする。もう1本は? 自分でするのか?」
私が問いかけると、テオは弱々しくかぶりを振った。
「すまないが、お前がやってくれないか。俺は、こいつが死ぬのを見届けられたら
それでいいから」
「朝まで放っておくと言う手もある。この状態で朝日に当てれば同じことだ」
「いい! 今、止めを刺してくれ」
「わかった」
私は、床に転がっていたもう一本の杭を手に取った。
- 618 名前:ハント 22:2007/01/21(日) 20:33:03 ID:bB2p2/+B0
- 見下ろしたミハイルは、とてつもなく美しかった。
血の気を失って透き通るような白い肌。燃え盛る血の色の瞳。
同じ色が、私を散々楽しませてくれた尻に華麗な模様を描いている。
その模様の中心に突き出した杭の醜怪さも、ミハイルと共に在れば至上の美だ。
誘惑に勝てず、私はその杭をつかんでぐいぐいと揺すってみた。
ミハイルが激しく体を揺らし、出せない声で絶叫する。尻の中で潰れたのか、
不意にニンニクが強く匂った。ミハイルの苦痛に、急に親しみともいうべき感情を覚えて、
私は薄く笑った。不老不死のヴァンパイア。だが彼らでも、傷を負う。
そしてその傷は、台所の匂いがするのだ。
私は新たな杭の、鋭く尖らせた先端を、ミハイルの心臓の上に当てた。
映画ではここで聖句の一つも詠唱するところなのだろうが、聖句も聖水も十字架も、
そこに強い祈りが込められて初めて役に立つ。目の前に現実に存在しているものを
存在するはずがないと否定し、存在から無へと事実を捻じ曲げようとする祈り。
その祈りは絶対的な悪意と拒絶であり、呪いなのだ。自分の信仰するものによって
ヴァンパイアを排除しようとする人にとっては強力な武器となるらしいが、
あいにくと私は不可知論者だ。だから私はただ、心でこう語りかける。
――私は人間なんぞよりもずっと、あなた方ヴァンパイアを愛している――
ミハイルは私の愛など望むまい。侮蔑と嫌悪に溢れる目で私を睨み付けている。
しかし今その目に何よりも色濃く宿っているのは、憎悪だった。
魔物の存在を否定する宗教施設にヴァンパイアへの呪いが渦巻いているように、
ヴァンパイアから憎しみを注がれてきた私を、彼らの呪いが包んでいるといい。
今私を睨んでいるミハイルのこの憎しみが、ミハイルが消えた後でも
私の周りに淀んでいてくれることを、私は切に願う。
私は、ミハイルが最後に見るものが自分であることに深い満足を覚えながら、
杭の頭に槌を打ち下ろした。
- 619 名前:ハント 23:2007/01/21(日) 20:33:34 ID:bB2p2/+B0
- 空気が波のようにうねった。ミハイルの断末魔の無言の叫びが、私の全身を打ち、
突き刺さった。錯覚などではない。テオは身を竦めて掠れた悲鳴を上げた。
ミハイルの体が、まるでTVの画面がぶれるようにぐずぐずと震える。
程なく、それは色をなくし、形をなくし、小さな粒となって砕けていった。
灰と表す人も多いのだが、私の目にはむしろ乾いた土くれのように見える。
長い時を生きてきたであろう命、他のすべての命を超越した命、私が屠らねば
世の果てまでも永らえたはずの命が、消滅した。
私はしばらく息をするのも忘れてその土くれに見入った。
腐敗し悪臭を放つこともなければ、汚らしく溶け崩れることもない、
優雅にして潔い最期は、ヴァンパイアにのみ許されているものだ。
生も死も、ヴァンパイアにまつわるすべては厳かなる奇跡だ。
小さく溜息をついたのを最後の賞賛として、私は、ベッドの上に残った土くれを
シーツでくるんで鞄に突っ込んだ。研究するのだそうで、こういう物を欲しがる
連中がいるのだ。シーツにはミハイルの髪やら血やらその他の体液やらが
染み付いているし、さぞかし良い土産になるだろう。世界中のヴァンパイアを
一息に殲滅する方法など編み出されては困るが、その心配はなさそうで安心している。
私は、まだ椅子にへたり込んだままのテオに声をかけた。
「さ、長居は無用だ。出るぞ」
テオはのろのろと顔を上げた。目はうつろで、眼窩が落ち窪み、
10分で10歳も年を取ってしまったかのようだ。私はテオの肘を取ると、
むりやりに立たせた。こんな場所にテオを長く置いてはおけない。
私にとっては香気となるものが、テオには瘴気だ。
受付で、シーツをひどく汚したのでと言訳していくらか余分に払い、
私はテオを引き摺って霧の立ち込める通りへと逃げ出した。
- 620 名前:ハント 24:2007/01/21(日) 20:34:36 ID:bB2p2/+B0
- 3つ隣の町まできて、小さなホテルにテオと共に落ち着いた。もう夜は遅く、
テオの住む町に行く列車に乗るには、夜明けを待たねばならないのだ。
深々たる闇に沈んだ小さな町は、白いベールをかぶって息を潜めている。
酒場から瓶ごと買ってきたウィスキーを、洗面所に備えてあったグラスに注いで
テオに差し出した。テオはそれを手にしたまま、しばらく動かなかった。
手首を掴んで口元にグラスを押し当ててやると、無意識のようにグラスを傾けて
ウィスキーを舐め、それから一気に呷った。
ローストチキンが好きな人間は多いが、経験もない人間にいきなり鶏を絞めて
羽を毟れと言うのは、いささか無理がある。羽虫であれば気にもなるまいが、
自分に近い生き物になればなるほど、自ら手を下すことは難しいものだ。
テオが、うわ言のように呟いた。
「あれは、あれは化け物だから――トライアンを殺したんだ、だから……」
「ああ。あれは人に害を為す魔性の獣だ。だから狩るんじゃないか」
聞きたい言葉を言ってやると、テオは幾度も小さく頷いた。
テオは、私がハントを楽しんでいるとは気付いていないことにしたらしい。
それを責めようとは思わない。
ヴァンパイアは人を狩って糧とする。人はそれに抗ってヴァンパイアを狩り、
生き易い世を作る。どちらも正しく、自然なことだ。
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