- 691 名前:吸血鬼13:2007/01/27(土) 09:31:48 ID:NPvA1Db/0
- ランプの芯がジジッと音を立て、オレンジの
灯りが生み出した影が揺らぐ。
この城の主である青年、吸血鬼バルドは
無表情で侵入者を見やった。
バルドがゆっくりとヤンに向かって歩き出す。
ヤンは、緊張で胸が激しく動悸し始める中、
バルドから目をそらせないまま一歩後退した。
傍らのカウチにはクラウスの汗ばんだ裸身が
力なく仰向けになっている。その瞳は何も
映さず、ただうつろに虚空を見上げていた。
バルドの金色の瞳が一瞬それに向けられ、
一度瞬いてヤンを見据える。
眼光が増したように見える瞳からは
何の感情も読み取れないが、ヤンは心臓を
わしづかみされたように総毛立った。
距離が狭まっていく。
落ち着け。
額から汗が滑り落ちるのもそのままに、
バルドの背後に視線をやって、サイドボードを見る。
ヴァンパイアを傷つける事が出来る銀の短剣は遠い。
丸腰でやりあえるとは思っていない。
今は逃げる事が先決だろう。
肩越しに入り口を振り返り、すぐに視線をバルドへと戻す。
闇をまとった青年。
そのこちらを見据える金の輝きから
視線を外すのが怖い。
背中を見せて駆け出す事も出来ず、
息を荒げて一歩、また一歩と後退して、
ついに足がもつれて尻餅をついてしまう。
- 692 名前:吸血鬼14:2007/01/27(土) 09:32:47 ID:NPvA1Db/0
- 「ヒッ」
顔をあげると目の前にバルドの顔がせまっていた。
身をかがめたバルドの両手がゆっくりと
ヤンの顔にのびる。色白の指が恐怖で
引きつった頬に触れ、輪郭を滑った。
ヒヤリと冷たい指が体温を奪うように頬をはう。
バルドが片手をヤンの顔に添えたまま、もう片方の
人差し指を形の良い唇でくわえて歯をたてると、
皮膚が少し裂けて鮮やかな赤がプクッと
盛り上がり、指に筋を引いていった。
その指でヤンの唇を紅を引くように撫で、
再び口に含んで己の血を艶かしく
舐めとったバルドは、両手でヤンの頬をささえた。
「なっ、な、何を‥‥‥」
目を見開き恐怖にわめくヤンの唇にバルドの唇が重なる。
バルドの舌が、かちかちとなるヤンの歯を
なぞってこじあけ、口内へと侵入し舌を絡めとった。
暗い部屋にちゅくっと音が立つ。
緊張で乾いたヤンの口内に暖かい唾液が流し込まれ、
あふれたそれが口の端から顎を伝い落ちていく。
唾液に混ざった錆の味が口内に広がる。
上顎がなでられ、舌をくすぐり吸われる。
バルドの舌先が生み出す快感にいまや恍惚をうかべ、
自ら舌をからめていたヤンの表情が、突如苦痛に歪んだ。
ヤンの上唇をひっぱるように啄み、
ちゅっと音をたててバルドの唇が離れた。
「ひっ、あああっ」
バルドから解放されるとともに身をひねって悲鳴をあげる。
喉が焼けるように熱い。
バルドの血が喉を焼いていた。
- 693 名前:吸血鬼15:2007/01/27(土) 09:33:37 ID:NPvA1Db/0
- 呼吸するたびに激痛が走る。
「ひうっ、ああうう」
強烈な痛みに全身を震わせて、喉をかきむしり、
その幾筋もの赤い傷から血が流れ、爪を赤く染めていった。
のたうち回るヤンの顎が色白の指に軽く
持ち上げられて、金色の瞳とかちあう。
その奥に宿る赤い炎がヤンの心臓を跳ね上げた。
「[俺]とおまえは繋がった。‥‥血の契約だ」
艶のある甘い声色で、普段は使わない一人称で己を呼び、
嫣然と微笑んだバルドの口がヤンの耳元に寄せられた。
「[あれ]を使うといい」
甘くささやく赤く濡れた唇が耳をそっと挟み離れる。
突然、体の感覚がなくなった。
あんなに痛かった喉の痛みが鈍くなり、
夢の中にいるような浮遊感に襲われる。
視界に入る己の手足がまるで幻覚であるように
自分の意思で動かせない。
バルドの血がヤンの体を乗っ取っていた。
「な、なにを‥?」
体が勝手に動き出した。
立ち上がり、バルドの脇を通り、
ランプの灯りに誘われるように歩いていく。
テーブル横のアドルフをまたいでいき、サイドボードの前へ。
仄白く輝く銀の武器がランプの灯りを遮った己の影に包まれる。
指先を赤く染めた手が迷い無くのびていくのが視界に入った。
バルドの意図を読み取ったヤンの目が大きく揺れる。
「や、やめ‥‥っ、やめろおっ!!」
二本ある短剣の一本を右手でつかみ両手でかまえた。
己の心臓に向けて。
- 694 名前:風と木の名無しさん:2007/01/27(土) 09:33:39 ID:DF8N0vhCO
- 篭っていたのに引きずり出したのはこっちじゃん。
- 695 名前:吸血鬼16:2007/01/27(土) 09:34:40 ID:NPvA1Db/0
- 倒れたヤンから赤い血が丸く伸びて床を汚した。
部屋に広がった錆びた匂いが、体の奥底に潜む
本能を刺激するのを感じて、バルドは不快そうに
目を細めたが、瞬き一つで表情を消しクラウスに目をやる。
首もと、鎖骨、胸元、脇腹、体のあちこちに残る鬱血の跡。
すでに乾き始めている精液と汗でべとべとの体。
太股には幾筋もの血と精液が伝った跡が生々しく残っていた。
バルドはカウチに腰掛け、少年を抱き起こした。
途端にうつろだったクラウスの目がこれ以上ないほどに
見開いて、腕の中でもがき暴れだす。
その指がバルドの頬を掠り、うっすらと血がにじんだが、
瞬く間に傷が消えていった。
「も‥‥い‥や、あぁっ、ぃ、やだっ」
バルドは暴れる腕をとらえて、肩口にクラウスの頭を
ひきよせると耳元でささやいた。
少年の名を。
「クラウス」
抱いた少年の体がビクっと震えて、静かになった。
暗い部屋にしばしの沈黙が訪れ、二人を包む。
やがて、のろのろとクラウスが顔をあげ、
バルドの顔をまじまじと見つめた。
「バ‥‥‥ルド?」
小さく頷いたバルドを見つめる瞳が歪んだ。
ふっと息がこぼれて堰を切ったように涙がこぼれる。
「バルド、バルド‥っ」
かすれた声で名前を呼びながら、しがみついてくる
クラウスの頭をかかえ、しばらくそうしていた
バルドがそっと瞳を閉じた。
「すまなかった」
- 696 名前:吸血鬼17:2007/01/27(土) 09:36:20 ID:NPvA1Db/0
- 二人も人間が帰ってこないとなったら、
捜す者達がここに乗り込んでくるだろう。
今までここにいられたのは、ひとえに
バルドが人間を襲わなかったからだ。
薔薇とワインで生きていける。
それは間違いではない。
だが、本能はやはり血を求める。
現にこの部屋に立ちこめる血の香りに
酔いそうになっている自分がいる。
吸血鬼の仲間には、人間の血を好きなように
吸い、住処を転々としているものもいる。
ただ、そうするのが自分にあわないだけ。
静かに過ごしたいだけだった。
人間にとって牛や豚等が餌であるように、
吸血鬼にとって人間は餌でしかない。
この腕に抱く少年でさえも、そうであったはずなのに。
あの晩、クラウスをこの城に招き入れたのは
単に気まぐれであったが、自分の身を守るため
でもあった。それだけのはずだったのに、
他の人間に対する感情と違ったものを、
クラウスに感じている。
毎夜城にやってきてはその日の出来事を
おもしろおかしく話し、笑顔で対してくれた。
そして今、その小さな体で助けようと
してくれた少年が愛しい。
もう、傷跡も残っていない己の頬。
少年と自分との違い。
その違いがなくなればと思ってしまう。
だからこそ‥‥‥
「クラウス、私はここを出る」
- 697 名前:吸血鬼18:2007/01/27(土) 09:37:13 ID:NPvA1Db/0
- 「バルド‥‥‥?」
クラウスは冷水をあびたように体が冷めていくのを感じた。
今、バルドは何て言った?
「な、に‥?わからないよ」
うまく息を吸えなくて声が震える。
瞳が見たいと思った。
バルドの瞳は閉じられ、長い睫毛の影が落ちている。
どうしようもない焦燥感にとらわれて、息が荒くなる。
胸に何かがつっかえているようで苦しい。
「な‥ん、なんで‥どこにいくんだよ」
「‥‥クラウス」
「いやだ‥」
苦しい。苦しい。苦しい。
息が出来なくて。
胸が痛くて。
心が泣いてる。
バルドをつかむ手に力がこもる。
「いやだっ!ここにいろよっ、俺があんたを守るから!」
全く説得がない事はわかっていた。
離れたくない。
ただそれだけの感情があふれている。
ああ、その目を‥‥
物鮮やかな瞳が見たい。
「どこかに行くっていうなら、俺も一緒に‥‥っ!!」
「クラウス」
欲した煌めきがまっすぐクラウスに向けられた。
「住む世界が違う」
- 698 名前:吸血鬼19:2007/01/27(土) 09:38:15 ID:NPvA1Db/0
- 静かな宣告にクラウスは瞠目して息を呑む。
あんなに見たかった玲瓏たる瞳が、冷たいものに
感じてゆっくりとうつむいた。
しがみついていた腕の力が抜ける。
時が止まったかのような静寂に、テーブルのランプの
灯りだけが時折ゆらりと揺れていた。
「‥‥‥だったら、俺の血を吸ってほしい」
やっとの事で絞り出した声は自分でも驚く程低い。
「‥あんたと同じになれば連れていってくれるよね」
返事は、ない。
応えないバルドにいらだちが募る。
目頭が熱くなり、一度止まった涙が再び
あふれそうになるのを必死でこらえる。
蹂躙された跡が残る自分の体。
こびりついた精液に吐きそうになる。
後ろにまだ何かがはさまっている感じがして痛い。
「じゃあ‥さ、慰めてよ‥‥‥せめてさ」
本気で言ったのではない。
ただ、こう言えば何か返してくれると思った。
確かに自分を抱いてくれてる腕があるのに、
この部屋には自分しかいないみたいだ。
相手を困らせるだけだとわかっている。
これは自分のわがままだ。
けれども言葉は止まらない。
「‥‥‥‥‥‥こんなに汚れた俺なんか抱けないか」
- 699 名前:吸血鬼20:2007/01/27(土) 09:39:07 ID:NPvA1Db/0
- 突然凄まじい力でカウチに押し倒された。
衝撃で息がつまる。
肩を強く押さえ込まれて痛みが走った。
「っ!いた‥っ」
「簡単に言うな」
ささやく声は恐ろしい程に冷たい。
「俺と同じになるだと?
どういう事かわかって言っているのか」
聞き慣れない一人称に違和感を感じて
バルドを見上げる。
金の瞳にともる赤。
激しい感情が荒れ狂っているようなその色に、
怒っているのだろうかと思う。
常に「私」と称していたバルド。
激情のままに我を忘れている。
だが、クラウスもここで引き下がる
ワケにはいかなかった。
肩に食い込む爪に負けそうになりながらも
しっかりとバルドを見返した。
「わ、わかって‥‥っ!!」
バルドの腕に力がこもり、クラウスの口から
小さく悲鳴があがった。
「おまえは何もわかっていない」
バルドはクラウスにのしかかると、
その足を抱え上げた。
今日はここまで
- 700 名前:風と木の名無しさん:2007/01/27(土) 10:56:32 ID:hcwShHc00
- 吸血鬼タンGJ!!
バルドかっこいいよバルド
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