An encounter



 女から誘われて、断る奴は男じゃない。
 それがなかなかの美女二人組みだったら、尚更だ。
 だから俺がノコノコとついていったのも、男だったらごく自然のことだろう。
 だけど…美味い話などそう転がっているわけもないということを、俺は後でたっぷりと思い知らされることになった。
 触れた肌がふたりそろって冷たすぎる所で…もしくは俺のことを傷つけたがるところで、俺は気がつくべきだったのかもしれない。
 けれど男の悲しいサガの前では、そんなささいなことにまで気が回らなかった。
 女たちはかなり積極的で、俺は思いっきり楽しませてもらった。
 まさか、美女二人ともが吸血鬼だったとも知らずに。
 十分俺が堪能した後…女たちはいきなりその本性を露にした。
 俺が正体に気づいて叫ぶひまも無く、二人そろって俺の腹に噛みついてきやがったのだ。
 ああ…これならお約束のようにヒモが出てきて、金を取られるほうがマシだったかもしれない。
 痛みと…飛び散る俺の血。
 女たちはさも美味そうに、喉を鳴らして俺の血を飲んでいる。
 ホント…勘弁してくれ。
 こんなところで死んじまうのかよ。
 それとも、俺も吸血鬼になるんだろうか。
 やば…視界が暗くなってきた。
 流石に楽天家の俺も諦めかけたその時…弾かれたように女たちが顔を上げるのと、その後ろに人影が立ったのはほぼ同時だった。
 まるで闇が人の姿を取ったような…黒尽くめの男。
 しばらく男と女たちはにらみ合ったかと思うと、女たちは無言のまま男に飛びかかった。
 だがその時すでに、男の手には鉄製の杭のようなものが握られていた。
 男が素早く動いたかと思うと…女たちはあっけなく骨と灰になって散っていく。
 めまぐるしい展開に、出血でぼやけた俺にはついていくことすらできない。
 気がつけば…黒尽くめの男が俺を見下ろしていた。
 サングラスをかけていても、その瞳が俺を見つめていることはわかる。
「噛まれたのか?」
 ガタイによく似合った、低い声。
「ああ…腹をね」
 血は…止まる気配を見せない。
 このままでいたら死ぬことは間違い無い。
 それとも…吸血鬼に変化するのか?
「俺…死ぬの?」
「さあな…」
 まったく興味無さげなその声。
 人が死にかけてるってのに、冷たすぎやしないか?
「なぁ…助けてくれないのか?」
「何故だ?」
「まだ死にたくないし…吸血鬼にもなりたくないからさ」
「吸血鬼になったら、すぐさま殺してやるよ」
 男はいつのまにか出した杭を、俺の目の前に突きつけた。
 どうやらこいつは…吸血鬼を目の敵にしているらしい。
 哀れな犠牲者である俺も、例外じゃないってことか。
 思わず…笑いがこみ上げてきた。
 ちいさく声を上げて笑う俺をみて、男が怪訝そうな顔をする。
「だったら…もう少しほって置いてくれればよかったのにな」
 それが、今の俺の本音。
 助けるつもりがないなら、もっと後に出てきてくれりゃ良かったんだ。
 そうすりゃ俺は女たちに血を吸い尽くされて死ねたかもしれないし、吸血鬼に変化することも出来たかもしれない。
 助かるかも…なんてヘンな期待を抱かずにも済んだかもしれない。
 ましてや、殺されるのがわかってながら変化していくなんて目にも合わずに済んだのだ。
 どうせ最後だからと全部言ってやったら、男の顔にさすがに途惑ったような表情が浮かぶ。
 そんな表情をさせることができて、なんだか少し…気が晴れた。
「お前…死にたいのか?それとも助かりたいのか?」
「バカなこと聞くなよ、助かりたいに決まってるだろ。でも死ななきゃならないなら、楽に死にたかったっていってんのよ、俺は」
 一気に喋ることが出来たなんで、死にかけてるのに元気だね、俺。
 それにしても…背筋がゾクゾクする。
 そのくせ体が熱くて仕方が無い。
 マジで吸血鬼に変化しちゃってるのかよ、おい。
 まったく…ツイてないよな。
 けど…。
「最後に吸血鬼とは言え、美女二人を同時に相手に出来たってことでヨシとするしかねぇか…」
 俺がしみじみと呟くと、男は失礼なことに笑い出しやがった。
 まったく…人が死にかけてるのに、不謹慎な奴だぜ。
「変わった奴だ…」
 笑いながら、男は俺を掴むと軽がると肩に担ぎ上げた。
「気に入った…助けてやる」
 俺を担いでいることすら感じさせぬ、軽い足取り。
「だったら…もったいぶらず、最初から助けろよ」
 俺がそう言うと…男は再び笑い声を上げた。


 それが…おれとブレイドの出会いだった。

なんだか…ギャグタッチになっちゃった
でもこんな軽い出会いがらしいと思うのですが、どうでしょう?

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