Dark Side



 ブレイドと別れたあと、俺はまっすぐねぐらへと戻った。
 はっきり言って…狭いし汚いしジャンクだらけだが、やっぱりここが一番落ちつく。
 シャワーでも浴びてもう一眠り…そう思ったとき、いきなり背後の闇から伸びてきた手に掴まれた。
「!」
 びっくりして暴れようとした俺は、どこか聞きなれた含み笑いに動きを止めた。
 まったく…悪ふざけが過ぎるぜ。
 それにしても、今日は後ろを取られることが多い日だな。
「ラインハルト…脅かすなよ」
 まったく別な意思を持って身体を這いまわる手を引き剥がし、俺はゆっくりと振り向いた。
「昨夜はどこ行ってた?」
「別にいーだろ、どこだって」
 あんたにゃ関係無いって言外に含ませると、ちょっと怒ったような顔になる。
 けっこう、わかりやすいよな、こいつ。
「そういや…お前のマスター、死んだみたいだな」
「ああ…とっくに聞いたよ。それが?」
「ってことは…お前はフリーってことだ」
 誰かの所有物である人間に他の奴が手を出すのは、タブーだ。
 そんなことしたらそいつのマスターである吸血鬼と戦わなければならない。
 だが…マスターが死ねば別である。
「さっそく昨日、他の吸血鬼にやられそうになったぜ。まぁ、俺がマスター持ちって知らないみたいだけどな」
「おい…飲まれたのか?」
「飲まれたら…いまここにいねぇよ」
 それもそうだな…とラインハルトは納得したように頷いた。
 心配してくれてるのかと思ったが、そんなことがあるわけないとすぐに気づいた。
 なんてったって、こいつは根っからの吸血鬼で極めつけのサド野郎だ。
 たかが人間を心配するなんて心があるわけない。
 あるとするなら…お気にいりのおもちゃを誰かに奪われたくないっていう独占慾くらいだろう。
「んで…わざわざそんな話をして、何がいいたいワケ?」
 ハッパに火を突け、深く吸いこむ。
 やっぱ、いい。
 この感覚が薄れるくらいなら、吸血鬼なんかにゃなりたくないね。
 そんなことをこいつに言ったら、殴り倒されるかもしれないけどな。
「新しいマスターを見つける気はないのか?」
「ごめんだね」
 きっぱりと否定してやると、ラインハルトは渋い顔をした。
 他の奴らのように、俺は吸血鬼になりたかったわけじゃない。
 誰かの持ち物になれば、他の吸血鬼に襲われるなんて余計な心配をしなくて済む。
 ただ、それだけ。
 だから…マスターとしちゃ悪くなかったな、あいつは。
 俺を束縛することもなかったし、自由にさせてくれた。
 俺みたいなやつには、最高だったのかもしれない。
 バカな夢に踊らされちまったみたいだけどな。
「しかし…ホントに死んだのかね」
「信じられないか?」
 思わず呟いた俺を、ラインハルトが意外そうに覗き込む。
 別にマスターを失って悲しいってワケじゃない。どちらかといえば不便になったという思いの方が強いだろう。
 けれど。
「殺しても、そう簡単に死ぬようなタイプじゃなかったろ?」
「そりゃ、そうだ」
 ラインハルトが豪快に笑う。
「だが…デイ・ウォーカーに完全に滅ぼされたらしいぜ」
「デイ・ウォーカー…か」
 吸血鬼の天敵。
 自らもその血をひきながら、敵対する男。
 闇がまるでそのまま人の姿をとったような…。
 思わずその姿を思い出していた俺の腰を、ラインハルトが引き寄せる。
 そのまま近づいてきた唇を、俺は逆らいもせずに受け入れた。
 だが次の瞬間、ラインハルトが俺を突き飛ばして離れた。
「てめぇ…なに仕込んでやがる!」
「すけべな吸血鬼よけ、さ」
 俺は笑いながら、舌を突き出した。
 俺の舌の上にのっているのは、寸前に口に含んだ銀。
 吸血鬼の数少ない弱点だ。
「きいたか?」
「くそったれ…舌が焼けちまった」
 突き出したラインハルトの舌は、白い煙を上げていた。
 その姿を見て笑う俺を見つめるラインハルトの目に、危険な光が宿る。
「今日はその気になれねぇよ、怪我もしてるしな」
 怒らすとかなり厄介なので、俺は腹の怪我を晒してやった。
 ふさがりつつはあるものの…まだ生々しいその傷を見たラインハルトが眉をひそめる。
「誰にやられた?」
「さっき話した…俺を襲った吸血鬼に」
 微かな怒りを含んだその声。
 こいつは自分が傷つける分にはかまわないらしいが、他人が俺を傷つけるのは我慢ならないらしい。
 サディストってぇのは、そんなもんなのかね。
「噛まれたが…助けられたんだよ、件のディ・ウォーカーにね」
「マジか?」
「ああ…襲われてるのを助けられて、ついでにワクチンってのを打ってもらったぜ」
「ふん…」
 ふいに真面目な表情をしたラインハルトが、何事かを考え込む。
「おい」
「なに?」
「おまえ…あいつに近づけ」
 いきなりの言葉に、俺は思わずラインハルトを見つめた。
「上が…とうとうあいつを殺すことに本腰をいれる。そのためのチームも作り始めたし、ほかにも何か持ちあがってるらしいが…それは俺に関係がない。おまえがあいつの仲間になれば、俺達は苦労せずにあいつの情報を得ることができる。そうなりゃ…」
「あんたのお手柄になる?」
 ニッとラインハルトが笑う。
「どうだ?」
「それで…俺のメリットは?」
「とりあえずは、おまえの身の安全。ホントにあいつの仲間になることができたら…何でも叶えてやるよ。金でもクスリでも、好きなだけな」
 マスターを失った俺には、それは確かに魅力的だった。
 普通の人間よりも…俺はこいつらの側にかなり近い。
 今までは、それでも良かった。マスターとその掟が俺を守ってくれた。
 だが、いまはそうはいかない。
 吸血鬼の存在を秘匿するために、あまりにもそちらの世界を知りすぎた人間をほっとくわけがない。
 その危険性にはうすうす感づいてはいた。
「ホントに俺の安全を約束できるのか?」
「ああ…俺が上に話を通しといてやる。もしあいつを上手く排除できたときには、誰にも手を出せないようにしてやるよ」
 こいつも俺のマスターと同じでかなりの野心家だ。
 一度口にした事は、必ず守るだろう。
 ならば…俺の取るべき道は一つしかなかった。
「いいぜ」
 更に深い闇のなかへと、足を踏み入れてしまったような気がする。
「商談成立だな」
 ラインハルトが笑う。
 いちど闇の領域に踏みこんでしまったら、2度と光の世界へと戻る事はできない。
 なぜかラインハルトの笑顔がそれを告げているような気がした。


話としてはAn enconterとreunionの間ってトコかな?
スパイスカッド誕生の巻(笑)
いや、ダマスキノスとパトロン関係ってのもそそられるんだけど
当分はマスター別っていうオリジナル設定でいかせていただきます

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