Bloody Memory 2



 薄汚れた部屋に飛び散る、場違いなほど鮮やかな血の色に俺は見とれていた。
 すぐ傍にいる俺に降り注ぐ血が、ヤケに暖かい。
 その血を浴びながら……俺は自分がひどく愚かだったことに気がついた。
 どうして、愛されたいなんて願っていたのだろう。
 散々ひどい目に合いながらも、あの二人に愛されたいと思っていたのだろう。
 それがひどく間違っていたことに、ようやく気がついた。
 壊れた人形のようにありえない方向に曲がって転がる体。
 壁と言わず床といわず、飛び散った血。
 白い肌を血で赤く染めた黒髪の男がゆっくりと振り返る。
 その顔に浮かべられているのは、どこか優しげな微笑。
「これで……おまえは自由だ」
 俺に向かってゆっくりと差し伸べられた手。
 俺は、その手を取った。



 目を開けば、視界に飛びこんできたのは見なれた部屋。
 どうやら夢を見ていたらしい。
 それも……あの日の夢を。
 夢は良く見る方だった。
 だがあの日の夢を見るのは、久しぶりだ。
 どうして今更……あの日のことを夢になんか見たのだろう。
 何気なく動かした視線の先に映った、一本のビデオテープ。
 ブレイドにで会う前にひょんな事から手に入れたものの、すっかりその存在を忘れていた。
 けれど昨日パワパフを録画しようとして、空きビデオを探していたら偶然に見つけてしまったもの。
「これのせいか……?」
 いっそ捨ててしまおうか……そんな考えがよぎる。
 だがこれを捨てたところで、なにも変わりやしない。
 なによりも無数にこの世に出回っている内の1本を捨てたところで、過去さえも捨て去れるわけじゃない。
 ならば……無駄というものだ。
「おい、いつまで寝てるんだ!」
 怒鳴り声とともにドアを開けて表れたのはウィスラーだった。
 最近助けられて仲間に戻ったこの爺さんとは、どうもあまりウマが合わない。
 まぁ……むこうも多分俺の事をそう思っているのだから、御互いさまかもしれないが。
「ブレイドは?」
「ヤツらの溜まり場を見つけたらしく、昼の内に様子をみてくると言ってでかけた」
「ふん……」
 吸血鬼を一匹残らず抹殺することが最優先のこの生活。
 俺にはブレイドのように大層な使命感など持ってないが、この生活は気に入っていた。
 爺さんとはウマが合わなくても…できることならば続けていきたい。
 けれど……時折、なんだかどうでもいいような気分になる。
 すべてを投げ出して、壊してしまいたくなる。
 過去の夢を見たときには、尚更。
「なぁ……あんた、俺がどうして奴らの仲間になったか聞きたがってたよな?」
 いきなりの俺の言葉に面食らいながらも、爺さんがうなづく。
「今も聞きたいか?」
「……ああ」
 俺は煙草を引き寄せると、火をつけてゆっくりと吸いこんだ。
「助けられたからっていうのは、話たっけ?」
「聞いたが、信じられん。奴らがそんな事をするとは到底思えないからな」
 爺さんが過去に吸血鬼に家族を殺されたというのは、ブレイドに聞いてはいた。
 だからこそ奴らの側についていた俺を、未だに信頼していないことも知っている。
「まぁ……あいつには、そんな気はなかったろうな。暇つぶしみたいなもんだったと思う。けど……それで俺が助かったのは事実だよ」
「一体何をして……助けられたんだ?」
「知りたい?」
 焦らすように尋ねると、爺さんはあからさまにムッとした顔をした。
 ホント、怒りっぽいよな。
 この爺さんがアレを見たら……一体どう思うのだろう。
 あまり良くない考えだとわかっていたが、止められなかった。
「なら、そこにあるビデオを見てみろよ」
「ビデオ?」
「そいつを見れば、あんたの知りたいことがわかるぜ」
 爺さんは首を傾げながらも、俺が指差したビデオをとるとデッキに押し込んだ。
 劣化した画面。
 砂嵐。
 そして唐突にそれは始まった。
 画面にに映し出されたのは、どこか怯えたような6・7才の少年の姿。
「なんだ、これは?」
「見りゃわかるよ」
 画面の端からいきなり表れた男が、少年の手を掴んだ。
 明かな恐怖をその顔に浮かべ、少年は男の手を振り払おうともがき出す。
 だが抵抗も空しく、少年の服は男の手によって引き裂かれた。
 画面と同じ劣化した、服が引き裂かれる感高い音。
 カメラは素っ裸にされた少年の全身を舐めるように映し出す。
 怯えたような表情も、まだ子供特有の丸みを残した身体も、毛の生えてない股間すらもあますところなく。
 カメラが十分に少年の姿を映し出すと、男はゆっくりと少年に近づいた。
 そして少年の前に立ち、自らのジッパーを引き下ろしてすでに勃起したコックを取り出した。
 どこか諦めたように少年の目が閉じられる。
 男はそんな少年の髪をつかむと、自らのコックを少年の唇へと突き入れた。
『……ぐぅ、ぇ』
 荒い音声から漏れる、苦しげなうめき声。 
 男の手は少年の頭をしっかりと固定し、容赦なくその喉の奥へとコックを突きたてる。
 カメラは無理やりコックを咥えさせられた唇のアップと、そこから出入りするグロテスクなコックと、少年の苦悶に歪んだ表情を映し出す。
 容赦なく喉を突かれ、苦痛の涙とよだれでぐしゃぐしゃに歪んだ表情。
 喉を塞がれ呼吸すらままならずにもがく少年を、男の手はしっかりと押さえ込み更に激しく腰を突き上げる。
 やがて男はその唇からコックを引きぬくと、少年の顔に向かって勢い良くザーメンを放った。
 まだ幼い顔を汚す、白濁した液体。
 男は笑い声を立てながら、嫌がる少年の顔全体にそれを塗り広げていく。
 いきなり突き飛ばされて、少年の体が床へと転がる。
 男は床で激しくむせつづける少年の足を掴み、カメラによく映るようにその両足を大きく開かせた。
 まだ毛も生えていない小さなコックとピンク色のアナルが、余すところなく画面に大きく映し出される。
 その小さなアナルにまだ大きく勃起したままの男のコックがあてがわれる。
 そして次の瞬間、コックはアナルへと突き刺さった。
『―――っ!!』
 スピーカーを引き裂く、音が割れるほど大きな悲鳴。
 背骨が折れたかと思うほど、限界までのけぞる小さな体。
 大きく見開かれた瞳から零れ落ちる、大粒の涙。
 文字通り体を引き裂く苦痛から逃れようともがく体を押さえ込み、男は腰を動かし始めた。
 悲鳴。
 カメラは上から、下から、横からとせわしくなくアングルを変え、少年の裂けたアナルとその血に濡れた男のコックを鮮明に映し出していく。
 男は次々と体位を変えながら、少年を犯しつづける。
 すでに声も枯れ果てたのか……大きく開かれた唇からは悲鳴すら漏れなくなっていた。
 男が腰を突き上げるたびに、ガクガクと揺れる小さな体。
 段々とその領域を広げていく、鮮やかな血。
 ビデオを見つめるウィスラーの顔から血の気が引いていくのを、俺はじっと見つめていた。
 やがて……男は大きく吼え声を上げて果てた。
 コックがゆっくりと抜き去られても少年のずたずたに引き裂かれたアナルは、その形を残すようにぽっかりと穴をあけていた。
 そこからザーメンと血が入り混じったピンクの液体が流れる様を、カメラは容赦なく映し続けている。
 そしてそこから舐めるように身体を這いあがり、少年の顔のアップを映し出す。
 まるで壊れた人形のようにピクリとも動かない体。
 薄く開かれたままの唇
 頬をつたう、いく筋もの涙のあと。
 ガラス玉のように、空ろに開かれた青い瞳。
 汗と涙とザーメンで汚れた、くすんだ金髪。
 そして映像はいきなり途絶えた。
「……」
 爺さんが信じられないようなものを見るような目を俺に向ける。
 その視線を真正面から受けとめて、俺はニヤリと笑った。
「まさか……これは……」
「そっ、俺だよ。他にもあるぜ」
「止めろ」
「遠慮するなって……ほら、これなんかどうだ?」
 俺はカセットを取り出して、新しいカセットを突っ込んだ。
 途中から始まったビデオは、さきほどと同じ少年が二人の男を相手にしているシーンから始まった。
 後ろから貫かれながら、前に立つ男のコックをしゃぶるその姿。
 どこか諦めきったその表情は、少年がこの行為になれていることを告げていた。
 その証拠に後ろから男が腰を突き上げるたびに、コックをしゃぶる少年の口からは喘ぎともつかぬ声が漏れている。
「……止めろ」
「何で? これからがイイところなのに」
「頼むから、止めてくれ」
「マニアの間じゃ、結構人気あったんだぜ、これ。今でも高値で取引されてるってぇのに……」
 俺がビデオを止めると同時に、爺さんは大きく息を吐いた。
 やっぱ刺激が強すぎたのか、その顔色は今にも倒れそうなほど真っ青だ。
「なんで……どうして、こんな……」
 混乱しきったその様子が、なんだかおかしくてたまらない。
「最初のビデオに出てきてた男、あれは誰だと思う?」
 応えを求めるように俺を見るじいさんに、俺は更に笑みを深くした。
「俺の親爺だよ。まっ……オフクロは娼婦やってたから、ほんとうにあの親爺の子かは怪しいもんだけどな」
「まさか……」
「最低なヤツだったよ。幼児愛好家で…イタズラはしょっちゅうだったけ。あのビデオも、自分の趣味と金儲けを狙って撮られたものさ。かなり売れたらしくて、あのあと調子にのって何本も撮られたよ」
 それこそ、ありとあらゆる事をやらされた。
 レイプから始まって、輪姦物からSM、それ以上に過激なことも。
 オヤジはともかくおフクロまで、それを笑いながら見てたっけな。
「それでも俺は運が良かったんだ。どっかのスナッフに売られる前に助けられたんだから……」
 成長するに従って、オヤジは興味を無くしていった。
 ビデオもペド物という売り物がなくなって、あまり売れなくなった。
 もし、あの時マスターに会わなければ、俺は間違いなくビデオでテメェの死ぬ姿を撮影されてたことだろう。
「あんたの言う通り、助けるとかいうつもりはなかったんだろうな。同情とかかわいそう……なんて感情を人間程度に抱くやつらじゃないしね。気まぐれっていうのが、一番近かったかもな」
 最初は、ただの獲物にしか過ぎなかった。
 だけどまったく抵抗しない俺に……むしろ死にたがってる俺に、あいつは興味を抱いた。
 そしてきっかけは何であれ、俺を自由にしてくれた。
「どうやって、助けたんだ?」
「殺してくれたよ、一人の残らず……オヤジも、オフクロも、ビデオを撮影したやつも、俺の目の前で」
 あっさりといった俺の言葉に、爺さんが絶句する。
「……おまえ、止めなかったのか?」
「どうして?」
「どうしてって……おまえの実の親だろう?」
 ああ、奴らに殺された爺さんの家族は、本当にいい人達だったのだろう。
 爺さんを育てた親も、まともな親だったのだろう。
 だが、俺は違った。
「ガキの頃からレイプしつづけたオヤジを、なぜ俺が助けなくちゃならないんだ? 助けを求めても助けようともせずただ嗤ってたオフクロを、なぜ俺が助けなくっちゃいけないんだ? 子供どころか……暇つぶしの道具としか、金儲けの商品としか思ってない奴らを、なんで俺が?」 
 それでも……あの頃の俺は、二人に愛されたいと願っていた。
 街で見かける普通の家族が、うらやましくてならなかった。
 いつかは俺も二人に愛される日がくるかもしれないと、儚い夢を抱きつづけてきた。
 それが、どんなに無駄なことかも知らず。
 目の前で二人が殺されて……その血を浴びて、ようやく気がついた。
 二人に愛されたいと願うことが、どんなに愚かでバカらしいことか気がつくことができた。
「きっかけはどうであれ、俺は結果的に助けられた。最悪な日常から、抜け出すことができた。たとえそれをしてくれたのが吸血鬼でも、俺には神様のように思えたよ」
 俺に向かって差し伸べられた手。
 それまで誰も、俺を助けようとはしてくれなかった。
 この生活から抜け出す方法なんて教えてくれなかった。
 たとえ助けるつもりなんてこれっぽっちも無かったとしても、俺にとっては救い以外のなにものでもなかった。
 だから、俺はその手を取った。
「だから俺はそのままあいつのものになった。他の吸血鬼に手をだされないようにって、こいつも貰った」
 俺は下唇をめくり、そこに刻まれた刻印をさらした。
「あいつらの仲間になった理由が、これでわかっただろ?」
 もう言葉にする気力すらないのか、爺さんは小さくうなづいただけだった。
 やっぱ……すこし刺激が強すぎたかね。
「なんか、長話して腹減ったな」
 なんか食い物を探すために、部屋を出ようとした俺の背中に爺さんが声をかけた。
「おい」
「なんだよ?」
「その話は……ブレイドにしたのか?」
「は?」
 なぜそんな話をわざわざブレイドにしなければならないのだろう。
 それともブレイドもまた爺さんと同じように俺が奴らの側だと疑っているとでも言うのだろうか?
「なんで旦那に話さなくちゃならないんだ?」
「どうして、話さない?」
 疑問に疑問で返された。
 たぶん爺さんもそうした方がいいと思うだけで、理由など別にないかもしれない。
「話したって……仕方ないだろ? 話したところでなにも変わりはしないんだからな」
 爺さんは大きく息を吐くと、ちいさく首を横に振った。
「おまえは……そう考えるのか」
「なぁ、なに言ってんだ? もういいだろ? 腹減っちまって仕方がないんだけど……」
「もう、いい。行け」
 爺さんが何を言いたいのかわからなかった。
 なんだかそれが気にはなったが、空腹のほうがそれに勝った。
 だから俺はそのまま部屋を出た。
 俺の背中に、爺さんの視線を感じながら……。


なんか、ワケわからなくなってきた。
それでも…多分、こんな感じで続きそうな予感。
次はフロストあたりの話しかなぁ。
ちゃんとネタを練りましょう、自分。

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