Bloody Memory



「くそっ!!」
 感情の赴くまま、テーブルの上のジャンクをなぎ払う。
 落下する派手な音が、やけに耳に障る。
 何もかもが、気に食わなかった。
 忘れ去っていた過去を突きつけられたのも、それで俺を自由にしようとするのも。
 忘れたのは…それが必要の無い記憶だったからだ。
 それなのに、何かを勘違いしたような…あいつの優越感に溢れた笑いがひどくムカついた。
 あの程度で俺を自由にしようとするのも、気に食わない。
「畜生!」
再び振り上げられた手を、後ろから誰かに掴まれた。
「おいおい…荒れてんな」
「ラインハルト! テメェ、勝手に入ってくるなって言っただろ!」
 俺のプライバシーなんておかまいなしに、勝手にやってきては好き勝手にする。
 吸血鬼にそんなことを求めるのが間違いかも知れないが…腹が立つことには変わりない。
「俺は好きなときに、好きなことをするだけだ」
 ニヤッと笑った顔は悪びれもなく…それだけの力があることを誇示している。
「で…どうしたんだ? ん?」
 ごつい手のひらが俺の頬を包み、触れるだけのキスをされた。
 ひどく自分勝手なくせに、時折ひどく優しくなる。
 吸血鬼特有のきまぐれといってしまえばソレだけだが、俺はそんなこいつが嫌いじゃない。
「なぁ…ちょっと付き合ってくれないか?」
「どこに?」
「あんたに新鮮な血を…プレゼントしてやるよ」




 ドアが開いて表れた男は、俺の顔を見た途端に顔を崩れさせた。
「なんだ…ようやくその気になったのか?」
 酒くさい息が近づいてくる。
 俺はそれを押しやると、きつく男を睨みつけた。
「そいつは…ビデオが本物かどうか確かめてからだ」
「疑い深いな…まぁ、いい。入れよ」
 男にふさわしい、汚く散らかった部屋。
 そこにはほかにも二人、別な男達がいた。
 どこか見覚えがあるのは…バーでこいつらがつるんでいるのを見たことがあるからだろう。
「ちょうど…みんなで楽しんでたところさ」
 言われなくても…音でわかっていた。
 テレビに映し出されていたのは、確かに記憶にあるものと同じ。
 画面から俺に移動した3人の視線が…視姦するように俺の体に絡みつく。
 こいつらが何を想像しているかは、考えなくてもわかる露骨な眼差しだった。
「これ…一本だけか?」
「いや…ほかにもあるぜ」
 下卑た笑い。
 記憶を探る為に画面を見ていた俺の身体に、男の手が後ろから絡みついてくる。
「なぁ…こいつをばら撒かれたら、おまえも困るだろ?」
 明かな意思を持って這いまわる手。
 俺はそのなれなれしい手を振り払った。
「なんか…勘違いしてねぇ?」
「なんだと?」
「なんでばら撒かれたら…俺が困るんだ? こいつは人気があったから、無数に世の中にでまわってるんだぜ? いまさらその数が増えたところで…なんで俺が困るんだ?」
 挑戦的に睨みつけると…男の顔色がみるみる変わっていく。
 険悪な雰囲気が伝染したのか、俺達を見守っていた残りの男達の顔も険悪になっていく。
「こんなのをタテにしたくらいで、俺が自由になるとでも思ってたのか? ハッ…そうだったらずいぶんおめでたい奴だな。てめぇみたいな下司野郎…何をされたってごめんなんだよ!」
 男の顔が怒りに赤くそまる。
「てめぇ…下手にでてれば、いい気に為りやがって」
 男が動くと同じに、後ろにいた男達も追随するように両脇から俺ににじり寄ってくる。
「一人で俺達にかなうとでも思ってんのか?」
 力づくでも欲望を遂げようとするその姿に、最後に残っていたためらいも消えた。
「残念ながら…連れがいてね」
「ひっ…!」
 俺が言った瞬間、左から迫っていた男が悲鳴を上げる。
 思わず振りかえった残りの男たちの顔色が一瞬でかわる。
 いつのまにかその背後に立っていたラインハルトが、男の首を掴んで宙吊りにしていたからだ。
 ラインハルトの目が伺うように俺を見た。
 俺が頷くと同時に、ラインハルトは掴んでいた男の首筋に牙をつきたてた。
 飛び散る…鮮やかな赤。
 悲鳴の変わりにごぼごぼとにごった男を起てながら、男の体が痙攣する。
 いまにもちぎれそうなほど噛み裂かれた首から、床へと湯気を立てながら滴る大量の血。
 それをラインハルトが嚥下するのを、俺は何の感情も持たずに眺めていた。
「うっ…うわぁぁぁぁ!!」
 我に返った男が、悲鳴をあげて逃げ出した。
 ラインハルトは死体を放り出すのと同時に、ドアのほうへとかけていく男に吸血鬼の素早さで追いつき、更に追い越して前に回ると唯一の脱出経路であるドアを男の前で音をたてて閉めてしまう。
 目の前の救いを塞がれ立ちすくんだ男の胸に、ラインハルトの手が吸い込まれていった。
 何の抵抗もなく引き戻された手に握られた、ヒクヒクと蠢く赤黒い肉塊。
 心臓だ。
 心臓を抜き去れた男は、無言のまま床へと転がり断末魔の痙攣を繰り返す。
 ラインハルトはまだ脈打つそれを愛しげに撫で、滴り落ちる血を見せつけるように唇で受け止める。
「ひぃっ!」
 残された俺を脅迫しようとした男は、完全にパニックに陥っていた。
 目の前で知り合いが二人殺されたのだ、当然といえば当然だ。
 出口は塞がれているのにもかかわらず、それでも逃げようと男はあがく。
 だがそのたびにラインハルトは男の逃げようとした方向に先回りしていく。
 どうやら…遊ぶことにしたらしい。
 恐怖を感じさせれば感じさせるほど、その血は甘くなるのだと聞いたことがある。
 サディストのラインハルトがやりそうなことだ。
 俺はラインハルトにまかせて、ビデオのデッキへと向かった。
 映し出されたいたテープを取りだし、そこいらにあったテープをつっこみ、男が言っていた残りのビデオを探す。
 すべてのテープをチェックして目的のテープ見つけだし、そこいらに落ちてた袋に突っ込んで振りかえってみてみれば、ラインハルトはまだ遊んでいた。
 口からワケのわからぬ言葉を撒き散らす男の目は、極限まで見開かれ狂気の光を宿していた。
 どうやら…発狂寸前まで追い詰められているらしい。
 狂い掛けた頭で何を考えたかしらないが、男はいきなり向きを変え俺の方へと突っ込んでくる。
 そいつがだんだん近づいてくるのを、俺はまるで他人事のように見つめていた。
 たどりつくことができないことが…わかっていたから。
 俺を掴むよりも早く、ラインハルトの手が男を掴むのが早かった。
 そしてラインハルトは、男の喉を横一文字に引き裂いた。
「―――っ!!」
 空気が抜けた声にならない悲鳴。
 切り裂かれた首から勢いよく吹き出した血が、俺に向かって降り注ぐ。
 むせ返るような血の匂いと…全身を濡らす生暖かな感触と、唇に忍び込む鉄くさい味。
 それが妙に甘く感じたのは、俺がやつらの側に近づいている証拠なのか。
 男の首から止めど無く溢れる血潮を、ラインハルトがさも美味そうに喉を鳴らして飲み干している。
 俺は…どこか懐かしく思いながらその光景を眺めていた。
 そう…こんな光景見るのは、初めてじゃない。
 忘れ去られていた記憶が甦る。
 これと同じ光景を…俺はあの時も目にしていたはずだ。
 俺の中で封じられていた何かが、音をたてて外れたのを俺は確かに聞いた。
「血まみれだな…」
 気がつけば、ラインハルトが目の前に立っていた。
 その冷たい指が俺の頬をなで…冷たい舌が顔を濡らす血を舐めとっていく。
 ゆっくりと近づいてきた唇を、俺は自ら開いて受け入れた。
「んん…」
 体が熱い。
 心臓が激しく脈打つ。
 もう…とまらなかった。
 俺は自ら舌を差し入れ、ラインハルトの舌に絡みついた。
「ふっ…ぅん」
 舌が激しく絡み合い、飲みこみきれぬ唾液が喉をつたって流れ落ちる。
 次の瞬間、俺は死体から流れ出した血溜まりに押し倒されていた。
 ごつい手が俺の服を引き裂き、まだ暖かい血をあらわになった肌へと塗りこめてくる。
 むせ返るような血の匂いに…俺は酔っていた。
 ラインハルトの唇から覗くいっそう伸びた牙が、俺の肌を甘く刺激する。
 血まみれの乳首に舌を絡められ、牙で刺すように甘噛みされ…俺はたまらず悦びの声を上げていた。
 今の俺はどこに触られても感じてしまう。
 どんな刺激にも体は快楽をすくいあげ貪欲に貪り尽くす。
 すぐ傍には死体が三つも転がっていることも、まったく気にならなかった。
 むしろ…死の匂いに満ちたこの部屋でファックすることが、逆にひどく興奮させる。
「ラインハルト…」
 自らその頭を引き寄せ、再び激しくキスをする。
 鋭く伸びた牙が俺の唇や舌を傷つけるのも構わなかった。
 ラインハルトは幾度となく俺の体に血を塗りたくり、冷たい舌でその血を舐めとっていく。
 そのたびに俺は嬌声を上げ、体をふるわせ、湧きあがる快楽に身をゆだねた。
 ラインハルトは血溜まりから血を掬い取ると、すでに硬く起ちあがった自らのコックに塗り広げた。
 そしてそれを…俺のアナルに突き刺した。
「ひっ…ああ!!」
 痛みと…それを遥かに上回る、快楽。
 激しい抜き差しに俺は体を痙攣させながら、その快楽を貪った。
 もっと深く受け入れる為に足をラインハルトの腰に絡め、動きに合わせるように自ら腰を振った。
 グチュグチュと抜き差しのたびに漏れる…濡れた卑猥な音。
 頭の芯までも突きぬけていく悦楽。
 何の刺激も与えられていないのに、硬く起ちあがり先走りの液をあふれさせた俺のコック。
「あっ…ぁん…イイ…」
 ラインハルトの舌が俺の顔を這いまわる。
 固くしこった乳首をきつくつままれ、刺激にアナルが勝手に収縮する。そのせいで俺を穿つラインハルトのコックを形すらわかるほど生々しく感じとってしまい、俺は身体をふるわせてラインハルトにしがみついた。
「ひ…あっ…」
 わざと浅く…前立腺のあたりを擦り上げるように突き上げられ、呼吸すらままならないほどの快楽が走る。
 もう、何も考えられなかった。
 ただ与えられる快楽だけを、俺は貪りつづけた。
「もっ…だ、め…イクぅ」
 言うが早いか、俺はコックからザーメンを吹き出していた。
 意識がふっとびそうなほど、目も眩むような快楽。
 だが…その余韻に浸っている暇など無かった。
 まだ達する気配すら見せないラインハルトは、俺の背中に手を回すと自らの膝にのせるように俺の身体を抱え上げた。
「ひ―――っ!」
 自らの重みで更に深く貫かれ、度を過ぎた刺激に体が痙攣する。
 助けを求めてラインハルトに縋りつくと、含み笑いが俺の耳に忍び込む。
「ほら…動け」
「だ…め、無理…だ」
「なら、いい」
 力が入らぬ俺の身体をラインハルトの手が掴み、自らの快楽をもとめて俺の身体を激しくゆする。
 引きずり上げられ、次の瞬間には重力と共に深く貫かれ、俺は声も出せずにその身体の上でのた打ちまわる。
 度を過ぎた快楽は苦痛にも近く、俺はすすり泣きを漏らしながらただラインハルトに翻弄されつづけた。



 幾度達したのか、もうわからない。
 ようやく解放された時…俺は指一本動かすことすら出来なくなっていた。
 どれだけ長い時間が過ぎたのか…暖かかった血はすっかりと冷たくなって床へとわだかまっていた。
 転がった死体もすでに死後硬直が始まったのか、血の気を失って固まった姿は人形のようだ。
 俺の体は血とザーメンと汗でどろどろになっていた。
 シャワーを浴びたくても身体は動かず、服を着ようにも引き千切られたせいで布着れと化していて、もはや服の役目は果たしていない。
「も…最悪」
 掠れた声で悪態をつくと、ラインハルトが俺を見てニヤリと笑う。
「そうか? そのワリにはずいぶんと楽しんでたじゃねえか」
 バカにしたような言いかただが、床から起してくれたラインハルトの手はひどく優しかった。
 こいつとのファックはいつもサディスティックで最低だが、なぜか終ったあとはいつも優しい。
 汚れるのも構わず自らのコートを脱いで俺の体を包み込むと、ラインハルトは俺を抱き上げて立ち上がった。
「ちょっ…あいつ、の、ビデオを」
「どれだ?」
「あの…袋にはいってるヤツ」
「これでいいか?」
 俺がテープを突っ込んだ袋を取り上げ袋を拾ったラインハルトに、俺は肯定するようにうなずいた。
 もう…喋ることすらおっくうだった。
「なら…用は済んだな」
 なんとなく気になって部屋を見ると、ラインハルトが俺の目を手のひらで覆った。
「安心しろ…手をまわして何もなかったことにしてやる」
 吸血鬼の存在をしるものは、彼ら自身が隠しているので少ない。
 何かがあれば、すぐに彼らの手がまわり証拠は完膚なきまで隠滅される。
 この後始末も自分自身の為なのか…それとも俺のためなのか…だが疲労しきった頭ではこれ以上考えることは出来なかった。
 だが…。
「今日は楽しませてもらったからな…ちゃんとねぐらに運んでやるよ」
 まるで俺の考えを読んだかのように、ラインハルトが俺の耳に囁いた。
 その言葉に安心して、俺は目を閉じた。
 閉じたまぶたの裏に血の赤が、焼きついているような感じがした。



また修羅場から逃避しちゃいました(笑)
まだ…残ってるのにね、でも…書きたかったんだよぉ!
しかし、初のエロがラインハルトとスカッド…(汗)
あれ?私ってブレスカじゃなかったっけ?
まっ、いいか(笑)

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