Intersection point


A wet dream




 吸血鬼達に壊されたのを機に、アジトを引っ越すことになった。
 スカッドが引っ越してまずしたのは、運びこんだ道具を片付けることでもなく、足りない道具をそろえることでもなく……新しい店の開拓だった。
 マリファナが手放せないスカッドとしては、新しい購入先を見つけなければならなかったのだ。
 そのためにはガラの悪い……居心地のよい店を見つける必要がある。
 スカッドはブレイドの目を盗みつつ、日々そんな店の開拓に励んでいた。
 いまスカッドかいるのも、そんな新しく見つけた店の一つであった。
 音楽、酒、マリファナをはじめとする各種のクスリ。
 ありとあらゆるものが揃ったこの店は、スカッドが見つけ出した店の中でもピカイチだった。
 すでに顔見知りになった奴と挨拶を交わしながら、限りある夜を楽しんでいたそのとき……いきなり腕を掴まれてスカッドは慌てた。てっきりブレイドに見つかったのだと思ったのだ。
 しかし振りかえったスカッドの目に飛び込んできたのは、ブレイドとは似ても似つかぬブロンドとアイスブルーの瞳を持つ白人の男。
 そいつがひどく驚いた表情をしていることに、スカッドは気がついた。
「マーフ?」
 次の瞬間、男の口から出たのはまったく別人の名前。
「なんで……おまえがここに?」
「はぁ?」
 驚きの表情で溢れたその顔を、スカッドはまじまじと見つめた。はっきり言って、知らない顔。呼ばれた名前も知らない名前だ。
「あんた、誰?」
「何言ってんだよ、マーフ」
 掴まれた腕を振り払おうとしたが、男はそれを許さない。
 ようやくスカッドは男が自分を誰かと勘違いしていることに気がついた。
「なんかさ……勘違いしてない? 俺はマーフじゃないんだけど……」
「違うのか?」
 信じられない……といいたげに男の目は確かめるように、上から下までスカッドを見つめてくる。
 世の中には似ている奴が3人?とかいうけど、そんなに似ている奴など本当にいるのだろうか?
「本当に?」
「残念ながら……」
 男の言うマーフと違うところを見つけたのか、ようやく納得したようだった。
 スカッドはそれでもまだ自分の手を掴んだままの男の手をチラリと見た。
「いつまで掴んでるつもり?」
「あ……悪い」
 男はすまなそうな顔をして、慌てて掴んでいた手を離してくれた。
 体つきは細身の癖に、ヤケに力は強かった。掴まれたところが痛むくらいだ。
「じゃ……」
 勘違いもわかったことだし、スカッドは男から離れようとした。
 夜はまだまだ長いが、スカッドが自由に過ごせる時間は誰かさんのおかげで短いのだ。 
 だが再び腕を掴まれ、スカッドは仕方なく振り向いた。
「なに?」
「いや……」
 無意識の内の行動だったのか……男は自分の取った行動に自分自身が驚いているようだった。
 途惑いが露に浮かんだその顔を、スカッドはまじまじと見つめた。
 よくよく見れば……かなりいい男である。細いわりには逞しいところも、なかなかポイント高い。
 スカッド自身に似ている奴にも興味はあったが、いまはこの男自身に興味が湧いてくる。
「もしかして、ナンパしてる?」
「俺は、そんな……」
 からかうような言葉に、素直に慌てる不器用な姿にひどくそそられた。
 スカッドは笑みを浮かべて男を見つめた。
「なぁ、あんた。金もってる?」
「それなりには」
「なら……行かないか?」
「どこへ?」
 途惑う男に、スカッドは更に笑みを深めた。
「二人っきりになれるところに、だよ」
 男が乗るかどうかは、賭けだった。




 そしてスカッドは、その賭けに見事に勝った。





 連れこんだのは、近くのホテル。
 それ専用でスカッドも時たま利用しているところだ。
 男は落ちつかなげに、部屋の中央に立ったまま辺りを見まわしている。
 男がこういう場所にも、事にも、慣れていないのは明らかだった。
「あんた、名前は?」
「コナー」
 男は……コナーは、頑ななまでにスカッドの顔をまともに見ようとはしない。
 直視できないほど、そんなにコナーのいう「マーフ」にスカッドは似ているのだろうか?
「そんなに……俺はあんたの知り合いと似てるかい?」
「ああ」
「顔が?」
「髪の色以外は、そっくりだ。声までも、な」
「ふーん」
 そこまで似ているとなると、一度くらいお目にかかってみたいものだ。
「で……そいつとはどんな関係なんだ? 恋人」
「……」
 無言。
「友達?」
 やはり、無言。
 まっ、答えたくないことを根掘り葉掘り聞くのは性にあわない。
「それより……おまえの名は?」
「ナイショ」
 スカッドはゆっくりとコナーへと近づいた。
「おい……」
「俺の名前なんかどうでもいいだろ?」
「けど」
「あんたの……好きな名前で呼べばいい」
 スカッドはコナーに近づき、その顔を覗きこんだ。
「そいつのかわりでも、俺はかまわないぜ?」
「俺はそんなつもりじゃ……」
 狼狽を隠しきれないその頬に、思わず手を伸ばしていた。
 触れた途端、ビクリと震えるその姿がヤケにスカッドを興奮させた。
「じゃあ、何で誘いにのったんだ? 仲良くお喋りでもするつもりだったのか?」
 一歩あとずさったコナーを追うように、スカッドは一歩踏み出した。
「抱きたかったんだろ、そいつを?」
「……違う」
「好きなんだろ、そいつのことが」
「そうじゃない……違う、違うんだ」
「だから、俺の誘いにのったんだろ?」
「俺は、俺は……」
 コナーが混乱しているのが、手に取るようにわかる。
 コナーがスカッドと同じ顔をした「マーフ」という奴を、大切にしているのは間違いない。
 多分……好きなことも。
「なぁ、コナー。素直になれよ」
「……止めてくれ」
 小さな、怯えたようなその声。
「どうして?」
 小首を傾げ、スカッドはコナーを見つめた。
「違う……違うんだ。俺とあいつは、そんな関係じゃない」
 コナーは苦しげに顔を歪めながら、スカッドから逃れるように目をそらしてしまう。
「そんな関係にはなれない。なっては……いけないんだ」
 どうやら本当に、コナーはそいつに手をだしてはいないらしい。
 苦痛に満ちたその表情が、それを告げている。
 だがスカッドには、なぜコナーがそこまで否定するのか理解できなかった。
 コナーがそいつを……「マーフ」を好きなことは疑いようがない。
 それなのに、なぜ何もしないのか。告げようとしないのか。
 好きならば、そう言えばいい。
 好きだと言って、キスしちまえばいい。
 キスして、抱いちまえばいいし抱かれちまえばいい。
 なのに、なぜためらうのだろう。
 自分の気持ちを誤魔化してまで、守らなければいけないものなどあるのだろうか?
 スカッドには、わからなかった。
「……コナー」
 逃げるように後ずさるコナーを、スカッドは追いつづけた。
 逃げる内にベッドの端に躓きその上に倒れこんだコナーに、スカッドはすかさずのしかかった。
「おい、どけよ!」
「どかないよ」
 逃げられぬよう四肢を封じ込めながら、スカッドはコナーを見下ろした。
「好きなんだろ?」
「……」
「抱きたいんだろ?」
「……」
 コナーは、無言のまま。
 その強情さに、思わず笑みが漏れた。
「なぁ、コナー……夢を見たみたことは?」
「夢?」
「そいつを抱く、夢」
 ほんの一瞬、コナーの顔に狼狽が走ったことをスカッドは見逃さなかった。
 コナーは答えなくても、その態度がyesと告げていた。
「なら……これも夢だと思えばいい」
 アイスブルーの瞳を見つめながら、スカッドは艶然と微笑んだ。
「あんたの都合のいい夢を、みてるだけだって思えばいい」
 スカッドはゆっくりとコナーにキスをした。
 固く閉じられたその唇を、自らの舌でなぞり上げる。同じように固く閉じられた心までも解きほぐそうとするかのようにゆっくりと、執拗に。
 半ば強引に唇を割って舌を差しいれると、ほんの少しだけコナーの口が招くように開かれた。
「……ん」
 その隙を逃さず、スカッドはコナーの口腔内へすかさず侵入を果たした。
 奥に縮こまったままのコナーの舌を誘うように軽いタッチを繰り返しているうちに、ほんの僅かだがコナーの舌がスカッドに応える様に動いた。 
 それに満足して離れようとしたスカッドの頭を、拘束を振りきったコナーの手が掴んだ。
「コナー?」
 無言のまま、重なってくる唇。
 コナーはさきほどとは打って変わって、激しく舌を絡めてきた。
 キスは大して上手くは無かったが……その情熱がこもったひたむきさにスカッドは昂ぶらずにはいられない。
 それに応える様にスカッドもまたコナーの頭を抱き寄せ、激しく舌を絡め続けた。
 勢いそのままに、コナーの手ががむしゃらにスカッドの服を脱がそうとする。
「がっつくなよ」
 宥めるように、スカッドはコナーに向かって微笑んだ。
「この夢は……そう簡単には覚めたりしないから、さ」
 焦るコナーを宥めつつ、互いに互いの服を脱がしあった。
 露になったスカッドの肌を、コナーの手が確かめるようにゆっくりと這いまわる。
 途惑い……スカッドにはそれがコナーの手から伝わってくるような気がした。
 男なんて抱いたことがなどないに違いない。
 スカッドは再びコナーをベッドへと押さえつけた。
「おい……」
 抗議の声を、触れるだけのキスで封じ込める。
 そのまま唇をすべらせ……首筋、鎖骨、逞しい胸板へと柔らかなキスを繰り返し、コナーの情欲を刺激する。
 どうしたらいいかわからず硬直するコナーに、スカッドは優しく囁きかけた。
「夢だよ……全部、夢。ただ、素直に身をまかせればいい」
 綺麗に割れた腹筋を愛おしむように舌でなぞり上げ、更にその下を目指していく。
 抵抗されるまえに、スカッドは僅かに鎌首をもたげたそのコックを自らの口へと招きいれた。
 スカッドはわざと音をたててコナーのコックをしゃぶりあげ、くびれにキツク舌を絡めた。時折、先端を舌でえぐるように愛撫しつつも、唇をすぼめて全体を擦り上げることも忘れない。
 スカッドの口の中でコナーのコックはみるみるウチに膨れ上がり、反り返らんばかりに勃起していた。
 頭上から聞こえる荒い息づかいが、コナーの快楽の深さを物語っていた。
 喉の奥まで飲みこみながら、顔をゆっくりと上下させる。
 引いた時に舌でカリ首のあたりを刺激する……得意のバキュームフェラを繰り返しながら何気なく目を上げれば、スカッドを見つめているコナーと視線があった。
 コックを加えたままスカッドが笑ってみせると、コナーのコックがさらに口の中で膨れ上がるのがわかった。
 コナーの手がスカッドの頭を掴み、その髪を激しくかき乱してくる。
「く……ぅ」
 掴んでくるその力と手のひらの熱さが、スカッドの興奮を掻き立てる。
 スカッドはサイドボードに手を伸ばすと、そこに常備してあるlubeを取り出した。フェラチオをしながらも片手にそれを搾り出し、自らのアナルへと塗りこめる。
 男相手は初心者なのに、準備をさせるのは酷だろうし……不安だったからだ。
 どちらからともなく漏れる、濡れた音。
 自分の準備が整ったころ、ようやくスカッドはコナーのコックから唇を離した。
 どこか不満げに吐息を漏らすコナーに、これみよがしに唇を舐め上げながら上目遣いで見つめてやる。
「どうする……このままイク? それとも――」
「おまえを、抱きたい」
 最後まで聞かずとも、返ってきた答え。
 スカッドは再びサイドボードへと手を伸ばし、そこからゴムを取り出すとそれをコナーのコックにかぶせてやった。
 遊び人にもルールは必要。後で揉めたくなければ、セーフセックスは欠かせない。
「コナー」
 体をいれかえるようにベッドに横たわり、スカッドはコナーに向かって手を差し伸べた。
「抱いてよ、コナー」
 コナーがスカッドの足を抱え、そのアナルに自らの猛ったコックをあてがう。
「はっ……ぁ」
 いくら慣れているとは言え……本来ならば他者をうけいれるようには出来ていないそこに、コックを迎え入れる衝撃は薄れる事はない。
 だが僅かな痛みもすぐに快楽へととって変わられ……スカッドはコナーの首に手をまわし自ら引き寄せた。
「動いて……」
 促され、コナーがゆっくりと律動を刻みはじめた。
 固く張り詰めたコックに内壁をすりあげられる感触は、間違いなくスカッドに快楽をもたらした。
 最初は躊躇いがちだったコナーの動きが、段々と激しさを増していく。
 コナーの手はスカッドの腰を引き寄せ、深く深くスカッドを突き上げてくる。
「あ…ん……もっと」
 演技などではなく、スカッドの唇からは自然に声が漏れていた。
「…い、い…コナ……ァ」
「マーフ……マーフ」
 コナーの口から漏れるのは、愛しき者の名前。
 その思いをあらわすかのように、スカッドを抱きしめてくるコナーの腕。
 幾度となく触れてくる唇。
かわりでも構わないと言ったのは、他ならぬスカッド自身。
 コナーが愛してるのはスカッドではなく、マーフという存在だということもわかっている。
 それでも……熱のこもった愛撫に、貪り尽くすような求め方に、まっすぐに向けられる想いに、勘違いしたくなる。
 コナーの想いに、引きずられそうになる。
 それらすべて、スカッドには無縁なものだったから……。
 スカッドは自らのコックに手を伸ばし、コナーの動きに合わせるように激しくしごき上げた。
 一気に増した快楽に、ただ溺れる。
 体は快楽に素直に反応を示し、勝手にスカッドの中のコナーを追い詰めていく。
 コナーの体がブルリと震え、コックが一瞬だけ膨れ上がった。
「くっ……ぁ」
 どうやら、耐えきれずに達してしまったらしい。
「……悪い」
「いいよ、別に」
 行き場を失った熱がスカッドの体中を駆け巡っていたが、心底すまなそうなコナーの顔を見てしまったら何も言えなかった。
 とにかく、この熱をどうにかしなければ辛くて仕方が無い。
 スカッドは自らのコックに手を伸ばしかけ……それを見ているコナーに気がついた。
「見る?」
 わざと大きく足を開き、見せつけるように自らのコックに愛撫の手を走らせる。
 突き刺さるようなコナーの視線が、スカッドを更に興奮させる。
「ん……ふぅ」
 スカッドは目を閉じても、コナーがどこを見ているかわかるような気がした。
 こういうのを、まさに視姦とでも言うのだろうか。見つめられているだけなのに、手で触れられているような錯覚すら起しそうになる。
 先ほどまでの行為で十分に昂ぶらされていた体は、あっというまに限界を迎えようとしていた。
「イ、ク……ッ」
 喉元が露になるように、スカッドは体をのけぞらせた。
 同時にコックを包む手のひらの中に、生暖かいザーメンが溢れでる。
 快楽の余韻にひたりつつコナーを見てみれば、ひどく真剣な目と視線があった。
「なに?」
 コナーの手が、無言のままスカッドの肩を掴んだ。
 予感と共に視線を舌へと向ければ、コナーのコックが再び力強く鎌首をもたげているのが目に飛び込んできた。
 どうやら自ら慰めるスカッドを見て、またその気になってしまったらしい。
「その……いいか?」
 ためらいがちな言葉に、思わず笑みが漏れる。
「いいよ……俺も、もっとコナーが欲しい」
 言い終わらぬ内に唇を塞がれ、スカッドはその甘さに素直に酔いしれた。






 夢と言ったからには、いつかは終りを迎え覚めなければならないときがくる。
 脱ぎちら貸した服をかき集め、スカッドはそれを着こんでいた。
 本当ならば朝までゆっくりとしたいところだが……このところ遊びつづけてきただけに、朝帰りなんてした日にはブレイドに何を言われるかわからない。
 すべて服を身に着けるのを待っていたかのように、スカッドの腰をコナーの手が抱き寄せる。
 はじめに比べてずいぶん大胆になったなぁ……と苦笑しながらも、スカッドは抱き寄せられるがままコナーに身を寄せた。
「また……会えるか?」
 ためらいがちな、言葉。
 きっと言うタイミングをずっと図っていたに違いない。
「いい夢は……時々しか見れないからこそ、輝くんだぜ?」
 途端にコナーの顔が落胆に染まる。
 こんなに素直に感情が顔に表れるのに、コナーが本当に愛するマーフにはその思いを本当に隠しきれているのかと心配になる。
 スカッドは微笑みながら、コナーの頬に軽くキスをした。
「会いたくなったら……あの店にくればいい。もし上手く会えたらその時は……」
「その時は?」
 それには答えず、スカッドはコナーに向かって微笑んだ。
 どちらからともなく唇が重なるのに、そう時間はかからなかった。

とうとうやってしまいました!禁断のクロスオーバーネタ!
それもコナー×スカッド!!
おまけに……まだ続くんです、これ。
しかも今度は……多分、スカマフ。
何でもオッケーていう人だけ読んでくださいね!
ちなみに文月は、書くのがとても楽しかったです(笑)

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