ズルイ女

--------優しい人がいい。

寂しい時に側にいてくれて。
優しい言葉だけをかけてくれて。
ひと時の安らぎを与えてくれる。


--------薄情な人がいい。

私がどこの誰でも構わないような。
私を抱いたすぐ後に、
平気で他の女を抱けるような。

決して私を愛したりしないような。


--------そんな男がいい。


「あ・・・はっ・・・はぁん・・・!」

昼も夜もなく、暗く締め切られたホテルの一室に、
ピチャピチャという水音と荒い息遣いと女の嬌声が響き渡る。
大きなベッドの上で、男は女の股間に顔を埋め、
仔犬のように熱心に、飽くことなく溢れる蜜を嘗め上げていた。

「ああっ!・・・あっもう・・・」
女の指が、もどかし気に男の頭髪を弄る。
「もう、イきそう?」
「く・・・」
下半身に渦巻く苦しい程の快楽の逃げ場を求めて、
女は四肢をこわばらせた。
その瞬間、男が女の下半身を解放し、ついと身を起こす。
「や・・・っ」
突然に放り出され、快感に潤んだ眼を向けると、
男が楽しげな表情で女を見下ろしていた。
「今日は凄く感じやすいんだね、香」
「・・・ね、もう・・・」
「だめだよ。久しぶりだから、もっと香の感じてるところを見せて」
耳元で甘く囁きながら、触れるか触れないかの微妙なタッチで、
豊かな白い胸を掌全体で撫で上げる。

「ああ・・・」
そのもどかしい動きに、女の体がプルプルと震える。
「可愛いよ、香・・・」
「あ」
男の親指の腹が固く勃ち上がった先端を掠め、女の体が小さく跳ねた。
「だめ・・・ねえ・・・もう・・・だめ」
「何がだめなの?どうして欲しい?」
両方の胸の先を柔々と摘みながら問いかける。
「あ・・・もう、触って・・・」
「触ってるよ」
ほら、とでも言うように、両指に力を加え、
痛いほど紅く勃ち上がった乳首を捻り上げる。
「きゃ・・・ああ、もう・・・もう・・・」
女の体が大きく上下に波打った。
「ふ・・・このまま、胸だけで、イっちゃう?」
「やっ・・・ねえお願い・・・ちゃんと、触って・・・中に・・・頂戴・・・」
消え入りそうな女の哀願に、男は小さく笑った。
「----分かったよ。香のお願いなら、何でも聞いてあげる」
軽く女の頬に口付けを落とし、男はいったん体を離した。

間を置かず、男の長い指が、女の蕩けきった下肢の狭間へと伸びる。
「ああっ・・・!」
人差し指と中指を揃えて一気に中に突き立てると、
女の体が、ひと際大きく跳ね上がった。
わざと音を立てるように、ぐちゃぐちゃと中をかき回す。
内部の上壁の感じる部分を探りながら、
親指で大きく膨れ上がった剥き出しの花芽を刺激する。
「あ・・・ああっ!」
限界まで張り詰めていた女の体は、
一気に快楽の淵へと駆け昇った。


「自分だけ満足して、ズルイな・・・」
完全に気をやり脱力しきった女の体を、男の手が容赦なく拓く。
「あ・・・」
男は熱くそそり勃った自身を、
まだビクビクと痙攣を続ける女の部分にあてがい、軽く入り口を刺激した。
「あ・・・ちょ・・・ま・・・」
「でも香のここは、欲しいって言ってるよ?ほら」
ぐっと腰を突き出し、亀頭の部分を押し込むと、
女の内部は中へ中へとそれを引き込むように蠢いた。
男は微笑んで、一息に己の全てを女の中に捻じ込んだ。
「ああっ!・・・・はぁあん!」
休む間もなく立て続けに大きく体を揺さぶられる。
強過ぎる刺激に、女ははらはらと涙をこぼし、甘い声で鳴き続け、
ただ、ひたすらに、男から与えられる快楽のみを追い続けた。

熱いシャワーを浴びて、髪を乾かし、
気だるさの残る体にゆっくりとした動作で服を纏っていく。

時間の感覚のない部屋で、ベッドサイドのデジタル時計を見る。

もう夕方だ。早く買い物をして帰らなきゃ。
昨日終わった依頼の報酬が振り込まれているはずだから、
普段よりちょっぴり高いお肉を買おう。あいつも喜ぶ。

そんなことをつらつらと考えながら身支度を整えていると、
バスルームから彼が出て来た。

「早いね。もう、行っちゃうの?」
「うん、行っちゃうの」
「たまには、夕飯でも一緒にどうかと思ったんだけど」
「ごめんね。また今度」
「残念。じゃあ、また今度」

さして残念でもなさそうに、あっさり見送ってくれる。
彼のこういう所が好きだ。

彼は何も聞かない。
私が何者かも、二人の関係のことも、次の約束のことも。
その優しさに感謝のキスを送り、
軽く手を振って部屋を後にした。


建物を出ると、眩暈を起こすほど強い西日が、容赦なく体を射抜いた。
アスファルトに長く伸びる自分の影を追いながら、
あいつのことを考える。

昨夜依頼が終わったばかりだから、
どうせ今日は昼過ぎまで寝てたでしょうね。
それからまたいつものナンパかな。
朝昼兼用の食事を作って出たけど、
あの程度の量じゃ、きっともうお腹を空かせてる。
でかい図体して、万年欠食児童みたいに、
腹減った腹減ったと大騒ぎするんだから、あいつ。

まあでも、この商売、体が資本なんだから、仕方ないわよね。
昨日だって、あいつ独りで・・・

----ああ、やめたやめた。暗く考えても仕方ない。
とりあえず、今日は美味しいお肉を、いっぱいあいつに食べさせてあげよう。


背後からオレンジの日差しがぐんぐん自分を追い立てる。

早く、買い物をして家に帰らなくちゃ。
早く、早く。
あいつが帰って来る前に。

温かな食事と、柔らかな寝床を用意して。

「おかえりなさい」を言ってあげる。


そうやって、ずっと--------あいつのママでいられればいい。




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