紅い弾丸
突然雰囲気の変わった俺に、本能的恐怖を感じたのだろう。
香ははっと身を強張らせ、俺から距離を取ろうと後退った。
しかし、所詮は密室のベッドの上。
俺は素早く立ち上がると、目の前のテーブルを軽く跨ぎ、
ベッドの上に乗り上げて、易々と香をベッドヘッドに追い詰めた。
「・・・・・・水臭いなぁ、香ちゃん」
我ながら、下卑た声だ。
「・・・」
訳も分からず不安な眼を向ける香の両手首を強引に掴み、
そのままベッドに押し倒す。
「男が欲しいのなら、俺に言えばいいのに」
「!・・・やめてっ!」
ようやく俺の意図を察し、青くなった香が、
俺の手を振り解こうと、暴れ出す。
「何でだよ。今日も男が欲しかったんだろ?
だからあの男と会ってたんだろ?邪魔して悪かったなぁ。
お詫びに俺が、あの男の代わりに、慰めてやるよ」
嫌がって顔を背ける香の首筋に、ねっとりと舌を這わせる。
香は大きく身を竦ませた。
「離してっ!」
「ラブホで男と女、やることは一つだよな・・・」
逃げられないよう、己の体重で香の下半身を押さえ込み、
左手で香の両手首をひとつに纏め上げ、頭の上に縫い付けた。
空いた右手で、手早く香のシャツのボタンを外し、脱がしにかかる。
「いやっ!やめてっ!」
尚も激しく抵抗しようとする香に苛立ち、残りのボタンは放棄して、
強引にシャツを引き裂いた。
「いやぁあっ!」
繊維が裂ける引き攣った音と、香の悲鳴が重なる。
黒のレースに包まれた豊満な胸が、剥き出しになった。
「色っぽい下着付けてんじゃん。こんな下着で、男を誘惑しようとしてたんだ?」
香はもはや、込み上げる涙を堪えることも出来ず、
ぽろぽろと涙を溢し、身を固くして、与えられる恥辱に耐えていた。
-------初めて見る香の痴態に、俺は、信じられないくらいの興奮を覚えた。
「あんま暴れられて、怪我されても困るからな」
先ほど引き裂いた香のシャツで、
香の両腕を手早く一つに縛り上げ、その一端を、
頭上のベッドヘッドに固定された金属ランプの脚に結び付ける。
淡いピンクの灯りに浮かび上がる香の肢体は、この上なく扇情的で、美しかった。
恐怖で言葉も出ない香に、酷薄な笑みを向け、更に容赦ない言葉を浴びせかける。
「こういうプレイは初めてか?安心しろよ。滅茶苦茶気持ち良くしてやるから、な」
香の眼に絶望の色が浮かぶ。
ほんの少し前まで、家族として信頼していた男に、手酷く裏切られたのだ。
--------可哀相に。
まるで人事のように、そんな考えが頭を過ぎる。
しかし、そんな感傷を嘲笑うかのように、俺の中の黒い欲望は、
更に勢いを増し、目の前の哀れな贄に襲い掛かった。
諦めたように大人しくなった香の身体に残る衣服を、一枚一枚剥いでいく。
すらりと伸びた長い手脚、張りのある豊かな乳房、その先に淡く色付く突起、
きゅっと括れた腰、そこから続く円やかなライン、控えめな茂み-----その全てが暴かれていく。
香の身体は、どこもかしこも真っ白で、シミ一つなく、美しかった。
既に男を知っているとは思えないほど、清らかで純粋だった。
俺は目を細め、しばしその身体に見惚れ、そして徐に、
その純白の肢体に己の標を刻み付けるべく、猛然と喰らい付いた。
「あ・・・痛っ」
首から鎖骨、胸、二の腕、ウエストライン-----噛み付く勢いで、次々と所有の証を残していく。
ひと通り付け終わると、一旦身体を離し、陶然と、その痕を眺めた。
---------俺のものだ。
香は自分の身に何が起こっているのか分からない様子で、
満足げに見下ろす俺を、ぼうっと焦点の定まらない眼で見上げている。
俺は、その眼の奥の真実を知りたくて、強い視線で覗き込む。
「こんなに俺の痕を付けて、それでも平気で、他の男に抱かれる・・・か?」
「え・・・?」
「あの男は、お前に痕を残したりしなかったのか?」
慌てて自分の身体を見下ろし、その意味を理解した香の顔が、かっと紅くなる。
「あの男は、どんなふうにお前を抱いたんだ?」
「いやっ」
香は聞きたくない、と言うように、激しく首を左右に振った。
その小さな頭を両手で押さえ込み、耳元に舌を這わせながら、低い声で囁く。
「なあ・・・教えろよ・・・香」
香は固く目をつぶり、身体を強張らせ、全身で拒否の姿勢を示した。
「なんだよ・・・答えてくれねえのかよ」
頑なに口を閉ざす香に、理不尽な怒りを覚え、俺は乱暴にその唇を奪った。
急に呼吸を奪われた香が、苦しげに眉をしかめる。
わざと隙間を作り、香が堪えきれず息継ぎをしたところに、
強引に舌を割り込ませ、口中を貪る。
-----------これが香との最初のキスか。
頭の片隅の冷めた部分で、ぼんやりそんなことを考えていると、
舌の根元辺りに、鈍い痛みが走った。
「ぐっ」
香が俺の舌を噛んだのだ。
思わず離した唇の間から、大量の唾液と、僅かな血が、混じり合い溢れ出た。
「やってくれるじゃねえか、香ちゃん」
唇を拭いながら、冷たい笑みを浮かべる俺に、香はまた、新たな涙を滲ませた。
手を縛られたままでは、自分で顔を拭うことも出来ない。
涙と唾液でベトベトに汚れたその顔は、痛々しく哀れだった。
香を泣かせているのは俺自身なのに、
その涙の跡を消してやりたいと思う、矛盾。
すっと香の頬に手を伸ばすと、
香はあからさまにビクンと身を竦ませ、小さく震えた。
「・・・そう怖がるなよ。悪かった。-----気持ち良くしてやる約束だったな」
俺はなるべく優しい声で、宥めるようにそう言うと、
嫌がる香の頬に手を添えて、その眼元に口付け、顔中にキスの雨を降らせた。
涙と唾液で汚れた跡を、丁寧に嘗め上げていく。
香の身体からも、徐々に力が抜けていった。
それを見届けると、俺はいよいよ、香の秘められた部分へと、侵略の手を伸ばし始めた。
恐怖に萎縮した身体は、解れるまで時間が掛かった。
それでも、その内面と同じく元来素直な香の身体は、
ひと度ほころび始めると、敏感に俺の愛撫に答えていった。
「あ・・あ・・あん」
右の乳首をチロチロと舌先で転がしながら、もう片方の乳首を右手で軽く摘み上げる。
香は上半身を反らし、焦れたように甘い声を上げた。
その背中の隙間に左手を滑り込ませ、腰のラインをそっと撫で下ろす。
すると今度は、くすぐったそうに身を捩り、切ないため息を吐いた。
「はぁ・・・ん」
敢えて強い刺激は与えず、優しく蕩かすように、柔らかな愛撫だけを加える。
腰の割れ目辺りを撫で回していた左手も、肝心な所には触れないまま、また背中へと戻した。
もどかしい愛撫に、香が身体をくねらせる。
「どうした?香」
香の顔を覗き込みながら、意地悪く聞くと、香はぱっと頬を紅潮させ、慌てて顔を逸らした。
俺は笑みを浮かべ、肝心な部分は避けたまま、更に身体の隅々まで、愛撫を施した。
俺の愛撫に素直に反応し、仔猫のようにプルプルと身を震わす香が、可愛かった。
「ね、ねえ・・・リョウ」
香が熱っぽい、掠れた声で俺を呼ぶ。
「何だ?香」
香の脇腹を手と唇で辿りながら、上目遣いで聞き返す。
「手・・・解いて」
香の潤んだ眼が、じっと俺に注がれる。その艶かしい視線にゾクゾクする。
どうやら俺が落ち着きを取り戻したと見て、何とか現状を脱却しようと考えたらしい。
「やだね」
しかし俺はそれをきっぱりと拒否して、香の柔らかな脇に強く吸い付き、痕を残した。
「ひゃ」
痛みからか、香の身体が小さく跳ねた。
「ね・・お願い・・・逃げたりしないから」
それでも香は、尚も必死で食い下がる。
「逃がしゃしないけどさ」
俺は体を上方にずらし、香の脚の間に己の下半身を強引に割り入れた。
左腕を香の腰に回し、身体ごと抱き込んで、動けないように固定して、
間近で香の顔を見下ろす。
「でも暴れるでしょ。香ちゃん」
「あ、暴れないよ」
「そうか?」
俺は徐に、香の脚の付け根に手を伸ばし、薄い茂みをさわさわと撫でた。
「はぁあん」
先程までのもどかしい愛撫で敏感になっていた香の身体が、魚のように跳ね上がる。
それを己の体重で押さえ込みながら、意地悪く笑ってみせた。
「嘘ばっかり」
「だ・・・だってリョウが・・・」
「俺が?」
今度は茂みを掻き分け、柔らかな中へと指を伸ばした。
予期していた通り、そこは既にトロトロに溶けていた。
包皮に包まれたままの芽を探り当て、そろりと撫で上げる。
「ひゃぁあ・・あ!」
鋭い快感をやり過ごそうと、香が大きく身をくねらせる。
「やっ・・・やぁ」
愚図る子供のように、頭を左右に振る。
「嫌なもんか。ここはこんなに喜んでるぜ」
重なり合う花弁を二本の指でぱっくりと開くと、歓喜の蜜が溢れ出た。
「ほら、ぐちゃぐちゃだ」
わざと音を立てて、その入り口をぐるりと掻き回すように親指を動かす。
ピチョピチョという水音が、生温い空気を震わせる。
「や・・・ん・・・」
その濡れた音が恥ずかしいのか、香は震えながら固く目を閉じ、
声を殺そうと、必死に歯を食いしばっていた。
「いやらしい身体だ」
俺は更に香を煽るように、包皮をめくり、剥き出しの芽を刺激した。
香の身体がビクンビクンと跳ね上がる。
追い討ちをかけるように、香の腰を支えていたもう一方の手を、
背後から秘所へと回し、愛液で濡れそぼった花芯と蕾とを、同時に刺激した。
「はあっ・・・も・・・やぁ!」
与えられる快感の波に堪えきれず、嬌声が上がる。
香の身体は、急速に高みを目指して駆け上ろうとしていた。
あとほんの少しの刺激で、逝ってしまうだろう。
そのギリギリの瞬間を見計らい、俺は、一切の愛撫を止めて、香の身体を放り出した。
眼前には、全裸で手を頭上に縛り上げられ、身体中にいやらしい痕を残され、
恥ずかしい部分を余す所なく晒した香が、身を震わせながら横たわっている。
眼に涙を溜め、紅潮した顔に、信じられないという表情を浮かべ、
呆然と、俺を見つめている。
俺はたっぷりとその姿を堪能してから、冷たく言い放った。
「そんなに嫌なら止めてやるよ」
香はショックを受けたようだった。
当たり前だ。快楽の極みを目の前にして、突然放り出されたのだから。
香の腰が切なく揺らめく。
手を縛り上げられていては、自分で慰めることも、逃げ出すこともできない。
「俺に抱かれるのは、嫌なんだろう?」
手を伸ばし、一瞬だけ、その固く立ち上がった芽を人差し指でノックした。
「あっ!」
限界まで昂っていた香の身体は、面白いように反応した。
香の脚の間に体全体を割り込ませ、両の太腿の内側に手を添えて、大きく開かせる。
もうすっかり開ききった花芯が、紅く充血した花弁の中央で、ヒクヒクと泣いている。
「でも、香ちゃんの身体は、嫌がってないなぁ」
その中を覗き込むように顔を寄せ、中心に息を吹き掛けるようにして喋ると、
香は堪らないというように、妖しく腰をくねらせた、
新たな蜜が、とろりと花芯から零れ出す。
「く・・・ふぅん。リョ・・・リョウ・・・」
切ない声で、俺を呼ぶ。
快楽の虜となり、俺の手の中に堕ちた香。
それにある種の満足感を覚えながらも、
暗い衝動に支配された俺は、香を追求する手を弛めなかった。
-----------許さない。
俺は香の花芯を乱暴に弄りながら、詰問した。
「別にいいんじゃないのか?男なら誰でも」
香は激しく首を横に振った。
それは、俺の言葉を否定しているようにも、
俺自身を拒絶しているようにも見えた。
俺は、吐き捨てるように、更に残酷な言葉を投げ付けた。
「男が欲しくて、惚れてもいない男と、平気で寝たくせに!」
「・・・!」
香の顔が、悲痛に歪む。
-----------我ながら、最低の男だと思う。
俺に香を非難する資格はない。
責められるべきは俺だ。
香の優しさに甘えきっていた俺だ。
それでも、あの男が、香に触れたのだということが------
俺の知らない香を知っているのだということが------
------どうしても、許せなかった。
「なあ、あの男とは、どういうSEXをしたんだ?」
無雑作に香の中に指を突っ込みながら、先ほどの質問を繰り返す。
「はっ・・・」
心と身体はバラバラだ。
香はあまりの恥辱に泣き震えながらも、
身体はそれを裏切り、俺の指を歓喜をもって迎え入れた。
「そんなに、良かったのか?」
クチュクチュと、指で香の内部を探りながら、尋ねる。
「・・・・・・っ!」
香は息を詰め、必死で快楽の波に耐えていた。
「なあ、教えろよ」
俺は一旦指を抜き、更に別の指を添えて、香の入り口に宛がい、
軽く刺激してから、再び奥まで穿とうとした。
-----堪りかねたように、香が叫ぶ。
「か、彼は優しかったわ!」
俺は、ピタリと動きを止めた。
「いつも、優しい言葉を掛けてくれて。
私を傷付けるようなことは、一切しなくて!」
香はしゃくり上げながら、尚も言葉を続けた。
「は、初めてのときも、私が初めてだって知ったら、
凄く驚いて・・・私の身体のことを気遣って・・・本当に、優しくしてくれた・・・」
-----------やめろ。これ以上聞きたくない。
自分で無理矢理聞き出したことなのに、
香の告白は、思った以上に、激しく俺を打ちのめした。
心臓が握り潰される程に苦しい。目の前が真っ暗になる。
俺以外の男に、抱かれた香
-----------それでも、知っていたかった。香のことなら、全て。
それが、子供じみた独占欲に過ぎないのだとしても。
それが、香を傷付けると分かっていても。
そして俺は、まだヒクヒク泣いている香に、最後の質問を投げ掛けた。
「-----それでも、好きじゃなかったんだろう?」
香は、どこか遠くを見つめるような眼をして、小さく、ぽつりと答えた。
「・・・好きだったわ」
-----------予想通りの答に、俺は、深い安堵と、果てしない絶望を覚えた。
やはり、香は香なのだ。
男なら誰でもいいような、そんな軽い女じゃない。
元来情の深い女だ。
一度でも身体を許した男に、何の好意も抱かない訳がない。
例え最初は体だけの関係であっても、何度か情を交わし合えば、
そのうちに、濃やかな男女の愛情を育んでいけたかもしれない。
そうして二人は、やがて幸せな恋人同士になっていたかもしれない。
「-----だが、もう遅い」
俺は低い声で呟くと、ゆらりと重い体を起こした。
香の膝裏に手を掛けて、その両脚を大きく割り開く。
赤黒く膨れ上がった醜悪な己自身を、何の躊躇もなく、その柔らかな中心へと宛がう。
「や・・・やめ・・・」
これから自分の身に何が起ころうとしているのかを理解した香が、
全身を強張らせ、最後の無駄な抵抗を試みる。
「・・・力抜けよ」
俺は構わず、腰を進める。
「う・・・うそ・・・そのまま?」
香が何を懼れているのかを悟り、俺の中に、昏い喜びが湧き上がった。
「生は初めてか?」
「や・・・ね・・・お、お願い。付けて・・・」
香の悲痛な願いも、残虐な蛇の虜となった俺には届かない。
「お優しい彼氏は、いつでもSAFE SEX・・・か」
香の哀願を無視し、香の脚を抱え直して、更に上へと持ち上げ、押し開いた。
「や・・・や・・・」
ガクガクと震えながら、消え入りそうな声で、拒絶の声を漏らす香。
-----------本当に、可哀相だと思う。
-----------俺なんかに、愛されて。
「でも生憎俺は優しくないんだ」
自虐的な笑みを浮かべて、俺は情け容赦なく、熱くそそり立つ己の欲望を、
香の最奥まで一気に叩き込んだ。
「あっああ!いやぁああっ!!」
香の絶叫が、閉ざされた空間に響き渡る。
------------大切な女。愛しい女。何としても、守りたかった女。
「ほら、存分にくれてやるよ!」
休む間もなく、激しく腰を打ち付ける。
「あ!ああっ!」
香は一瞬意識を飛ばし、糸の切れた操り人形のように、
ガクガクと、俺に揺さぶられるままになっていた。
------------その女を、今、犯している。
「香・・・」
俺は一旦動きを止め、香の意識が回復するのを待った。
香の中は狭く、力の抜け切った四肢とは裏腹に、
その内側は、激しい収縮を繰り返し、ぎゅうぎゅうと、俺の肉棒を締め付けていた。
「リョ・・・リョウ・・・」
夢現の狭間で、俺の名を呼ぶ香。
香の温もりに包まれていることを実感し、
俺は、狂おしいほどの快感と、
泣きたいほどの切なさに、打ち震えた。
------------俺は今、香を抱いているんだ。
どうにも堪らない新たな感情が湧き上がり、
俺は、香の背に腕を回すと、きつくきつく、その身体を掻き抱いた。
「あ・・・はぁ・・・」
香が苦しそうに喘ぐ。
その吐息すら奪うように、激しく口付け、再び腰を動かし始めた。
汗で滲む視界の先に、熱に浮かされた眼で、俺を見つめる香が見える。
-------------そうだ。
俺は、ずっと、こうしたかったんだ。
香を守りたいと思うようになってから。
香に守られていると実感するようになってから。
俺は、香に対する己の醜い欲望の全てを、腹の底に、固く封印した。
怖かったんだ。
あの幸福な日々を失うことが。
香を失うことが。
どうしようもなく、怖かった。
本当はずっと、香を一人の女として求めてた。
香とひとつになりたかった。
俺は、香を抱く腕に更に力を込め、
空気すら入り込めないくらいに身体を密着させ、二人の隙間を埋めた。
香! 香! 香!
言葉にならない声で、その名を叫び続ける。
「リョウ・・・リョウ・・・」
それに呼応するかのように、香がうわ言のような声で、俺を呼ぶ。
(香!)
俺の、見栄も、プライドも、狡さも、弱さも、独占欲も。
その全てを洗い流し、心の奥底から、想いの本流が溢れ出す。
愛してる! 愛してる! 愛してる!
頭の中が、その想いだけで一杯になる。
俺は何かに突き動かされるように、激しく腰を振り続けた。
「あっあっああっ!」
尽きることなく湧き上がる、香への想い。
俺の内部に留まりきれないほどに溢れ返ったその想いは、
やがて出口を求め、急速にせり上がり、香自身へと向かって行く。
(愛してる!)
------------俺は、その想いの全てを、香の中にぶち撒けた。
「香・・・!」
「リョウ・・・!」
絶頂の最中、俺の名を呼ぶ香が、堪らなく愛しかった-----------
それから何度も交わり、香の中に己を注ぎ込み、
俺の名を呼ばせ-----それは、香が完全に気を失うまで続けられた。
蒼白な顔で、ぐったりと横たわる香の腕の戒めを解いてやる。
手首に残る、赤黒い痕が痛々しい。
そっとその手首を取って、その痣に口付けても、香は何の反応も示さない。
かすかに感じる脈で、香が生きていることを実感し、ほっとする。
狂おしいほどの激情が去った後、訪れたのは、激しい後悔だった。
-----香をこれ以上ないという程に傷付けてしまった。最悪の形で。
ピンクのライトに照らされた、香の全身に残る夥しい陵辱の痕。
俺は一刻も早くこの狂った空間から逃げ出したくて、
その華奢な身体を抱き上げ、バスルームへと運んだ。
広いバスタブの中に静かに香を横たえて、
ぬるめのシャワーで、優しく全身を洗い清めていく。
それでも香は、何の反応も示さないまま、
まるで死人のように、ピクリとも動かなかった。
手早く身支度を整え、清算を済ませ、部屋を後にする。
-----この数時間の代償に、いったい俺は、どれだけのものを失うのか。
それを知るのが、怖い。
未だ完全に意識を手放したままの香を、俺のジャケットにすっぽりと包み込み、
大切に抱え込んで、赤いクーパーへと乗り込む。
何があろうと、俺にとって、帰る場所はひとつしかない。
そこがもはや、香にとって、家と呼べない場所でも。
薄暗い駐車場から抜け出すと、世界は深紅に染まっていた。
俺は一瞬、それは己の狂気が見せる幻影だと思った。
-----しかし、それは現実だった。
紅く燃ゆる太陽が、西の空を飲み込んで膨れ上がり、
街も、人も、全てを焼き尽くし、闇に沈めようとしていた。
---------全て燃えて灰になってしまえばいい。
---------香を傷付けるこの身も。この想いも。