「総統も悪趣味だよな」
「ああ、いくら恨みがあるからってなぁ……」
「この女冴羽も手出してないって噂じゃないか。」
「それはないだろうよ」
「その噂が本当だとしたら処女だって事か？」
「いや、それはわからんがなぁ」
「しかし結構ウブそうじゃないか」
「そんな女に限って毎晩咥えこんで喜んでたりするもんさ」
「相手は冴羽ってか？」
「だろう、他の男は手はだせんだろうしな」
「冴羽は女好きで名が通ってるじゃないか」
「一つ屋根の下にいるんだろ？ありえんよ手を出さないなんて」
うす暗い倉庫の中で男たちは指示を待ちながら下らない推測話に花を咲かせていた。
男達が沸き立つのも仕方があるまい。
背後では縛られたまま服をはだけた女が息も荒く潤んだ瞳で空を見つめてた。

「女の様子はどうだ……」
高級な黒いスーツに身を包んだ恰幅のよい男が現れ男達に報告を促す。
「はっ！我々にも色目を使う有様であります！」
部下たちの報告に満足げに男は頷くと女にちらりと目をやり、下卑た笑いを浮かべ指示を出した。
「やはり催淫効果は覿面だな、よろしい。準備を開始しろ」
過去、某国の独裁者であったこの男は、クーデターを阻止するため先導者を暗殺を企んだが
リョウの手によってそれを遮られ国を追われていた。
男の狙いは、リョウのウィークポイントである香をならず者達の手によって開発し
喜びの声を淫らにあげる香を目の前で見せる事であった。
冷静さを失ったときこそ人間は弱さを見せる。
絶望的な怒りに打ち震え、弾丸に崩れ落ちるリョウを想像し、男は唇を歪ませ笑い声をあげた。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


薄暗い酒場で、グラスを傾けるリョウとミックの姿があった。
ミックは酒瓶に刻まれた薔薇の刻印を指でなぞり、カウンターに目を向けたまま口を開く。

「なぁリョウ……。カオリとは未だにやってないのか？」
「……ｸﾞッ！？ｶﾞﾊｯ……！な、なんだ急に！！！」
「教えろよ。俺とリョウの仲だろう？」
「お前に教える筋合いはないし、誰があの男女とやるかってんだ」
「あいかわらず酷い言いようだな……また、俺が香をもらうって言ったらどうする？」
「……しらん！」
「まーどろっこしいなああ！！すーきーなーんーだーろーー？」
「ちがっ…アイツは親友からの預かり物でな！それになっ！」
「おーおー、まだそんな事いうのか。百回くらい聞いたわそのセリフ。」

堅気ではないことは明らかな男が二人、酒場で高校生のような恋愛話を繰り広げ騒いでいる。
はたから見ると異様な光景である。
テーブル席に座る客の怪訝な視線に気づきミックは声のトーンを落とした。

「リョウ。お前がいつまでもその調子なら、　　　…今度こそ俺が落とす。」
「おまっ！かずえさんがいんだろがっ！！」
「それとこれとはべ・つ。いつからおまえそんな堅い男になったんだ？いやぁバージンって俺久しぶりなんだよなぁｗ」
「いいかげんにしろ！」

軽そうな笑顔に張り付かせたまま、鈍い光を放つ目をしたミックに、
リョウは声を荒げグラスをカウンターに叩きつけるように置くとミックを睨みあげた。
沈黙と重い空気が場に広がる。
一触即発の空気をやぶったのは店員の声だった。

「…お取り込み中に申し訳ありません。先ほどお帰りになったお客様よりこれをこちらにと…」


差し出されたのは写真が入った封筒だった。
写真の裏には湾岸にある倉庫の住所と開始時間AM00:00とだけ記されている。
映し出されていたのは、顔を隠され肌蹴た服から下着を覗かせる女の姿。

「おぉっスタイル抜群もっこりちゃん！新手のデートのお誘いか？」
「らしいな…」

茶化すようにミックが肩を組んで写真を覗きこむと、リョウは表情を固めたまま手を払いのけた。

「…ん？おいリョウっ！そのブラってカオリの…？」
「あぁ、ったく。面倒かけるやつだ」

抑揚の無い声で言い放ち席を立ち店をでていくリョウをミックは追った。
香がさらわれるのは今回が初めてではない。
だが過去の誘拐は香が女としての弱点をつかれた事はなかった。
香自身の色気のない服装のせいもあるが、ハンマーによる反撃によって事なきを得てきたのだ。
安心しきっていた自分に気づき、リョウは己自身に苛立ちを隠すことができない。
抵抗した様子もなく力なく服を肌蹴た姿が脳裏にちらつく。

「そうだ…」

路地裏を歩くリョウが思い出したかのようにミックへ振り向いた瞬間、ヒュンッと音を立てて
片手に持っていたバーボンの瓶がミックの顔面に命中した。

「いって！なにすんだリョ…！」
「なーんで香の下着なんぞお前が知ってんだ！」
「あー、結構無防備に洗濯物ほしてるからな。つうかお前ってほんと独占欲強いのなぁ…。」

振り返りもせず歩き進めるリョウの後姿を眺め、ミックは肩をすくめて後を追った。