無題
アタタタ。頭痛い…。ここ何処だろう?
目を覚ますと朝日が差し込むホテルの一室に一人で横になっていた。
昨夜、美樹さんとホストクラブでしこたま飲んだのは覚えてる…。
窓の外には、ホテルの周りには見慣れた町並み、遠くかすかに東京タワー…。
なんでこんなところにいるんだろ…?
こんなところにいる原因だろう、昨夜のきれぎれの記憶をたどってみる。
ホストクラブで、男たちに持てはやされて…結構飲んだけど、記憶なくすほどじゃなかったと思うんだけど…。
美樹さんと泊まったってわけじゃないわよねぇ…?
「あっ!!」
鏡を覗き込んで思わず声を上げた。首筋に紅く残る一片の痕…。
それが、誰かにつけられる何かの証である事はアタシでも知っている。
あわてて体を確認する。あ、アタシ処女よね!!?
経験したら記憶無くてもわかるわよね!?べ、ベット!ベットにも痕は…無いけど。
男性経験が全くないアタシにはなんの確証もなくて、とてつもない不安に襲われる。
それより…っ。この痕…どうしよう。
朝帰りなら、どうにか言い訳はつく。でも、こんな痕は僚に見せられない。
あわててシャワーを浴びて身支度を整えようとしていると、部屋にノックの音が響いた。
と、とりあえず首の痕…タ、タオル首にかければ見えないわよね…?
この部屋にいることを知っているであろう人物、きっと美樹さんがきたんだわ!
何の躊躇も感じずドアを開けると、不機嫌な僚が、そこには立っていた。
「今日は依頼人と待ち合わせがあるんじゃなかったっけ。
なーんで俺がお前を迎えに来なきゃいけないわけ?」
きっと美樹さんがここに泊まった事を、僚に話して迎えによこしたんだ。
だけど、こんなにも無防備な状態で僚と話すわけにはいかない。
「あ、あは、ごめん。今行くから〜」
笑ってごまかしてドアを閉めようとするも、僚は足をねじ込んで部屋に入ってくる。
恐ろしく血の気のない冷え切った顔で。
新宿内の香の行き先なら、俺の情報網を利用すれば容易く調べ上げる事は出来た。
居場所が大ガード脇の高層ホテルの一室であることがわかると、俺の頭の中で虫が一層激しく這いずり回る。
ホストと…香…、結びつくはずもない生き物が重なりあう姿が頭にちらつき、指先から全身が冷えていくのがわかる。
考えもまとまらない虫に支配された頭。体は勝手に香の元に向かっていた。
行ってどうする?どうも何も、香は槇村から頼まれた大切な預かり物だ。
それをなんだ?こともあろうに、ホストに大切な処女をかっさらわれるなんて…。
だったら早いうちに俺がやっとけばよかった…。
ホテルの扉を開けた香は、濡れた髪のままでおびえた目で俺を見上げる。
とりあえず平静を保って愚痴をこぼすと、俺を廊下に残したまま部屋に戻ろうとしやがる。
まだ、お相手は中にいるってことか…。
グラリ、世界が歪んだ気がした。虫に食われた脳が体を動かす。
香に手を出した男…。守る事を口実に触れないでいた女。
全てを壊したい衝動で、部屋に入り込んだ。
「ちょ、ちょっと僚!!!まだ着替えが!!」
なにか香が喚いているが気にしない。
部屋には香と俺の他、誰もいない。
ベットには一人分の寝崩れた痕…。
冷静になって見てみればタオルも一組しか使われていないし、枕も一つしか乱れていない。
行為が行われた後の部屋とは言いがたいものだった。
このボケ…。酔っ払ったんならまっすぐ家に帰れよ…。
ヘロヘロと気が抜けて、ベットに腰をかけて深く安堵のため息をついた。
それにしても、なんて人騒がせな!嫌味の一つでも言ってやらなきゃ気がすまない。
「そっかー香ちゃん…。昨夜はここでお楽しみだったわけかー」
「ちが! …ち、ちがくない。そうよ?素敵な夜だったわ!」
香の嘘…ははぁん。俺にやきもちをやかそうって腹か。
ムカツク。血相変えてきたくせに…急に普段の顔に戻っちゃって。
それともただ単に、依頼の件で腹が立ったから来たってわけ?
ーまったくもって僚の考えてる事がわからない。
「そっかー香ちゃん…。昨夜はここでお楽しみだったわけかー」
ーちがう!言いかけてから、僚の言葉を反芻して頭を氷で掻き混ぜられた錯覚に囚われた。
アタシが誰を愛しているのか知っているくせに。あんた意外ありえないのに。
それを知っている上で、こういう言葉を簡単に吐く男。
そんなに女としてのアタシを突き放したかったら突き放せばいい。
「…ち、ちがくない。そうよ?素敵な夜だったわ!」
目を見開いて、僚は普段どおりアタシをからかうように言う。
「それは驚きだ!!香みたいな男女にもっこりしちゃうなんてなぁ。人類学的に興味があるぞ!!どんな奴なんだ?」
「くっ、…それは、えと、素敵な彼でね…。」
「…はぁん。それでそれで?」
どうせ…あんたの目から見たら、アタシはホストにも相手にされないような女だわよ!
鼻先で笑う僚をみて、顔が赤くなる。耳まで赤くなる。
ー本当に酷い男。
もういや。惨めだわ。嫉妬させるだなんて、どだい無理な話だったのよ。
「もう!どうでもいいでしょ!?着替えるから出て行ってよ!!!」
駄々っ子のように頭をブンブン振って声をあげる。今すぐアタシの前から消えて、早く出て行って。
目をあわす事もできないままで、僚を外へ追い出そうとするも。
動く気配がない。敵に対峙した時に僚が発する空気。
何が怒ったのか分からないまま見上げると…僚の表情が固まっていた。
さっきまでの血の気の無い顔に戻っている。僚からこんな冷たい視線を向けられたことは無かった。
「香…それ…?」
…僚の視線が左の首筋に注がれている。
!!!!
どうやら頭を振った時にタオルがずれていたらしい。
誰につけられたのかも、記憶に無い紅い痕。それが僚の冷たい視線の理由だと気づくと
この視線は嫉妬心から来るものならば、誰かに抱かれたと思われたら困る。
ーきっと、僚は許してくれないから。
自分でも把握しきれない感情に、勝手に口は言い訳を吐きはじめる。
「えと、えと。虫に食われちゃったみたいね!?かゆくてねっこれっ。」
「へぇ…。こういう痕残す虫…知ってるけど?」
右手をとられ、引き寄せられた。
手の甲にねっとりと舌を這わせてたかとおもうと思い切り吸い付かれて、拒絶を忘れる。
「…ほら。虫に食われた。」
カッと全身に火がついたように熱くなったのがわかった。
こんな風に確認をとられても、アタシに何を言えと言うのだろう。
「そそれが…ど、どうしたって言うのよ!僚には関係ない事でしょ?」
「…本気で関係がないなんて言ってるのか?」
そんな言葉が僚から出てくるとは思わなかった。
関係が無い。そんな風に見ていたのは僚でしょ?違うの?
ーでも、本当は分かっていた。女として愛されているという事。
兄貴に義理立てして、触れられないでいること。
家族としての期間が長すぎて、今更女としてどう扱っていいのか分からないでいる事。
アタシもそうだから。
だからこそ早く、僚から恋人として女として扱ってもらいたかった。
それが無理でも少し嫉妬をしてもらえれば、それで充分だった。
冷ややかで悲しい目をする僚に見つめられ、背中に嫌な汗が伝うのがわかる。
ホストクラブに行って嫉妬させようとしただけ。それが、覚えてないとはいえ多少の接触を許してしまった体。
急に自分が汚く見えて、僚の悲しい視線に耐えられなくて。
…本当の事を言いたい。
「…ご、ごめんなさい。抱かれたって言うのは…嘘…。う、嘘?
えと…ちがくて。酔っ払っちゃったみたいで、気づいたらここにいたのっ!
でも、してないと…思う。多分。」
形跡はないから…と言おうとしてみるものの、涙が顔を伝って言葉にならない。
駄目。なにがなんだかもう、ボロボロだ。
「どーだか。」
そんなアタシを見て僚は冷たく言い放って、抱きかかえられてベットへと運ばれる。
何が起こったのかわからず、アタシは冷ややかな声に体を硬くするしかなかった。
バスローブにかかる濡れた髪、水分を吸った直後のつややかな肌。
その細い首筋に、紅く染め上げられた痕を見つけて呆然となる。
さっき消えたはずの虫が。一瞬のうちに頭の中を這いずり回りはじめて。
香の言葉に嘘はないのはわかった。覚えてないなんて嘘がつける女ではないのは知ってる。
ただ、悪い虫がいたのは確かなんだ。
いつまでも穢れない体。美しい氷の彫刻。触れば解けてしまう、そんな気がして触れないでいた体。
その女が今、汚されたかもしれない不安に震えている。
俺だったら痕つけただけでストップなんて荒行、無理…だから。
何処まで悪い虫に食われたのか。調べ上げたい衝動が俺を突き動かす。
ベットに組み敷いてバスローブに手をかけると、怯えた様子で拒絶しやがる。
「な、ちょっとやめて!!!」
他の男には許したかもしれないくせに。
「無理。他に虫に食われてないか調べないと」
体を小さくして、脱がせようとする俺の指を拒絶する香に腹が立って、
半ば強引にバスローブを剥ぎ取った。
初めて眺める陶器のような白い肢体。横になっても崩れない上を向いた胸。控えめの突起。
脇から美しく流れる線は、ウエストで素晴らしい括れを見せている。
−この体が汚されたかもしれない−
衝動は止まらない。
濡れた唇を指でなぜあげて、唇を重ねる。
「消毒。」
俺の言葉で苦しみに耐えかねたように、声をあげて泣く香に情けない感情に縛り付けられる。
昨日止めていれば。いや、もっと早く恋人として扱っていれば。
この不器用でドジな女を俺の物にしていれば。
虫に食われた痕をくまなく探すために、耳の裏から、輪郭、首筋、美しい肢体へと指を滑らせる。
体を強張らせる香を押さえつけて、この激情を悟られないようにゆっくりと。
痕は見つからないものの、疑念は収まらない。
濡れる頬をに唇をよせて、涙を掬ってから再度唇を重ねる。
硬く閉じる唇を舌で無理やりこじ開けて、歯列をなぞると驚いたように舌の侵入を許した。
貪るように唾液を交換して、苦しげな表情の香を眺めて虫に支配された己を呪う。
いつも俺は傷つけてばかり。すまないと思う。でも。確かめずにはいられない。
唇に集中する香に気づかれないよう、茂みに指をかき入れる。
「や、やだ!!僚お願い止めて!!!」
不意をつかれた香が非難の声を上げているが関係ない。
男の侵入を許したのか否か。核心の部分。
強引に花弁は開いて指をねじ込むと、クチュと淫靡な音たてるも侵入を頑なに拒む。
…そこは。昨夜、男を知ったばかりの場所とは明らかに違うものだった。
「ーーーーーーー。」
一気に力が抜けた。張り詰めていたものが全て消え去っていく。
なんだ……。脱力。安堵。うなだれて大きなため息をつく。
よかった…香はまだ、男を知らない。誰かに体を許してない。
冷静に考えてれば、酔っ払っている香にちょっかいを出した虫は、特大ハンマーでも食らうに間違いない。
そんな考えも、虫の痕を見ただけで思いつきもしなくなるなんてな…。
いつも香の事となると取り乱してばかり。ほんと、俺って…なさけねー。
…で、安心したのはいいが我に返ると、目の前には嗚咽をこらえきれずに泣く香…。
なにやっとたんだ俺。なんだこれ。どうしたらいいんだ。この空気。
いままで散々放置して傷つけてきた女を、後先考えないで、無理やりこの仕打ち。
涙でグチャグチャになった香の顔を眺めて、また途方にくれた。
頭の奥が…しびれてる。
僚に押し倒されて、普段の粗忽な手から想像も出来なかった繊細で優しい指使いで体をなぞられて。
経験した事がない、触られる度に微弱電流に当てられたような感覚。
自分自身、昨夜誰かに触れられていない事は確信できた…と思う。
こんな感覚があったのなら、気づかないわけが無い。
僚も何かに確信したみたいで脱力して呆けている。
愛した男に初めて触れられたのは、処女か否かの確認作業…。
な、なんだろう…悲しすぎる。
ずっと、前から僚のものなのに。ずっと、触られたかった。
ずっと、求められるのを待ってた。
恨めしくってむかついて。泣けて泣けて。ドジばっかり踏む自分が情けなくって。
こんな事でこんな事になって。女として見て貰っていた事を今更思い知らされて。
どうしたらいいのかわからないと、困った様子でいる僚の胸に顔を埋めて泣いた。
「あー。おまえなぁ、無頓着すぎるからちょっかい出されんだよ。
男ってのはな、隙あらばもっこりチャンスを狙ってるんだか…んぐ」
唇で僚の言葉を封じた。今更お説教しようったって知らない。
考えるのはもう止めよう。このまま僚のものになりたい。僚の一部になってしまいたい。
どこの誰かわからない男に痕をつけられた事を、無かった事にしてしまおう。
浮つく事など二度と出来ないよう。縛り付けてもらうの。
…卑怯だけれど。
「…全部消毒…して?」
…我ながら酷い誘い文句だと思った…。
思いもよらない、香からの誘惑。
…消毒…俺が激情に流されて吐いた言葉を使って。
汚すのが怖くて恋人になることを逃げ、女としてみる事を恐れ、触れられないでいた女。
誰にも触れさせたくない。傍から離したくない大切な女。
大きな矛盾を長年抱え込んで、こんな簡単なきっかけで俺の衝動は弾けとんだ。
そしてまた、俺の勝手で傷つけた。なのにこいつはまだ、俺の傍を望むのか…。
俺からまた、唇を重ねる事で答えを伝える。ぎこちなく口をあけて、俺の侵入を許す。
舌を絡めて熱を持った口中をかき回してやる。
唇を離した途端、切なげな目で熱い吐息つく香と、目をあわすのが無性に居心地が悪くって、
服を脱ぎ捨てて香の肢体に貪りついた。
お前の望みどおり、消毒してやろう。消毒‥にならんかもしれんが。
むしろ汚している気がするが…。まぁいい。
くまなく吸い付いて俺の痕をつけてやる。お前は俺のものだから。
たった一つの虫の痕なんて、わからないほどに俺の痕で埋めてやる。
舌で絹のような感触を確かめながら、半ば強引に貪ると香は痛みに声をあげる。
「っ!りょ………」
さっきまで、激情に流されて冷静に見ることが出来なかった、香の肢体を眺めて改めて息を呑んだ。
引き締まったバストとからかっていた胸は、陶磁器のようにハリと瑞々しさを誇り、頂に淡いピンクの突起。
豊満なウェストと讃えたはずのそこは、美しい括れを見せて丸みを帯びたヒップへと続いている
程よく肉の付いた脚はスラリと伸びて、その付け根には艶やかに光る茂み…。
んー俺よく長年我慢できたな…。その根性に褒めてつかわす。俺。
たまらず胸にむしゃぶりついて、突起を舐めあげて甘噛みする。
「…ひゃっ…ぁ」
電撃にでも打たれたように仰け反る背に腕を回して指を滑らして
快感を煽ってやると、戸惑いながら指から逃げようと体を捩じらせる。
香の体に触れば触るほど、いまだ誰も足を踏み入れていないことが一層揺るぎないものに変わっていった。
それと同時に、この可愛い女を虐めたくなる。香をからかうのはもともと俺の趣味だから。
「なぁ香…こういうこと、された?」
両手のひらで左右の胸に円を描いて、淡いピンク色の突起を刺激する。
「…っつ!?わっかんないわよ!!!だっ、から消毒してって言ってるんじゃない!」
おろろ。こんな言葉に体まで真っ赤にさせて…。
わかんない…か。そんな事、もう自分でもわかってるくせになぁ。
その上、こんな状況でも消毒しろなんて言葉がでてくんのか。
抱いてほしいなら素直にそう言えばいいのに。かーいくねぇなぁ…。
…でもそれに便乗しない手は無い。
「…消毒ね。了解」
形よく丸い尻を手のひらで包みこんで、太ももまで撫ぜ回し、膝を立ててやると下半身で脚を割った。
一層、緊張に硬くなる体をほぐしてやるように、爪先から優しくキスの嵐を上昇させていく。
脚の付け根まで唇を到達させると、香の手ががっちりと行く手を阻みやがった。
「…んっ!…んなとこ…っぁ…や!」
却下だそんなの。なんせこれは消毒だから。
香の指の間から無理やり舌の侵入を試みる。手で隠し切れないほどに、既に蜜は溢れて出ている。
舌先を僅かに届くクリトリスに摺り寄せた。
「っ!!…あぁぁっ!!!」
徐々に指の力が抜けていくのがわかった。
ご、ご開帳…v
僚の舌が執拗にアタシの中心を舐め上げてくる。
か、噛まないでよ。吸わないでよ。そんな音たてないで。
初めての感覚。死ぬほど恥ずかしくって、天井が霞んで見えて、どっかにいってしまいそうで、
不安にかられて中心から手を離して僚の髪を鷲掴みにする。
手を離した途端、アタシの顔を見上げると中心から舌が下がっていった。
こ、こんな顔、見ないで…。
「…!…」
別の生き物のような熱をもった侵入者に驚きで声もでない。アタシの味をたしかめるように入り口を無理やり押し入って来る。
アタシの体液で濡れた右手で体と胸をなで上げられて、突起をひねられる。
左手には中心を小刻みに震わされ…得体のしれない全身の快感。これ…本当に僚、腕二本でやってる…?
「 …ぁっ…ふぁっ! あぁっ… ん…」
ずっと我慢してきた声が吐息と液体を叩く音と混ざって部屋に響く。もうやだ。恥ずかしい。
この痴態を僚にされていると思うと、見られていると思うと、聞かれていると思うと。
もう、脳みそが痺れたように思考回路がショートする。
そんなことはお構いなしで僚の行為は止まらない。
「あっ…んっ… ひゃっ!」
思わず声を上げるたびに刺激はどんどん強くされていく。
刺激が全身を息をつく間もないまま続いて、何がどうなっているのかわからなくなって。
ー遂に体の奥から熱いものがこみ上げてきたかと思うと、電流と変換されたそれは全身に駆け巡った。
本当に電流に当てられたみたいに勝手に体がガクガクと震える。
その様子を確認した僚はもう一度アタシの中心を撫で上げて、体が跳ね上がるのを喜んでるみたいだった。
「香…。もう逝ったんだ?」
?!いっちゃったって何よ…?この快感の電流みたいな事?…な、なんでそんな事言うかなっ!
本当に無神経な男。
アタシの小さなムカつきにはきづかない様子で、僚は体に満足げにキスをしながら体勢を変える。
目の前に僚の顔、こんなに近くでじっと見つめられるのは初めてなのかもしれない。
見つめあう。僚の優しい視線。は、恥ずかしすぎて死ねる…。
ギュッと目をつぶって視線から逃げようとすると、僚の唇で口を塞がれた。
さっきまでのキスで注がれた唾液とは、明らかに違う液体を口中に注がれる。
アタシの体液。僚の唾液。アタシの唾液。全てを混ぜ込むように僚の舌がかき回す。
なんか…。これ…とんでもなく変態くさくない…?
それでも、僚の腕の中に包まれているのは幸せを感じないでいられない。
左手で髪を梳かれて、右手が体を触れるか触れないかの繊細な指使いで降りていく…また中心部へ…
今度は指の侵入者。指で押し広げられてゆっくりと少しずつ侵入される。
「…いっ!」
中の皮膚が裂ける痛み…。ちょ、ちょっと待って?この痛みって…
!!!指で処女喪失なんてありえない!
「…やだっ!そんなの入れないでよ!!」
「…こんなのっておまえ…いきなり俺のモッコリを咥えられんだろ?」
…確かに…。今まで僚に絶え間なく快感を与えられて考える間もなかったけど、
言われて初めて見て驚愕した。こんな大きかったっけ…?こんなん入るの…?
で、でも、そんなことより指に処女膜貫通させられるなんて!!!!
「…やっ!そ、そんな僚の指が初めてなんて…やだっ」
…こいつたまに凄い事言うよな…。指で処女喪失なんて発想どっから来んだ?
男経験は無いのは…わかってるが…。この俺と何年も暮らしてそういう情報がまったく入っていないんか。
エロ本だってエロDVDだってそこらじゅうで目に入るはずなのに…。
ん、もとい。
「…馬鹿タレ。これはな、お前がなるべく痛くないようにやーらかーくしてあげてんの。」
「そ、そうなの?…本当に?」
「…んな嘘つくか!!ボケ。」
憎まれ口を叩きながら、拒む香を体で押し付けて口を口で塞いだ。
再度、擦りつけるようにクリトリスを刺激して、柔らかくなった内部に指をそろりとねじ込む。
「 っ!…んぁっ…!…」
納得したのか、今度は香は非難の声を上げない。
前後に動かすとクチクチと厭らしい音をあげて、刹那の表情で体をくねらす香。
熱く、きつく、纏わりつく肉と蜜…指だけでも気持いい気がしてくるから不思議だ。
…にしても。どんなにしても痛みに泣くんだろうな、嫌なもんだよな…
だが、やめない。
「香。」
名前を呼んで口づけをして、少し怯える瞳を覗き込む。
覚悟を決めたように歯を食いしばって目をつぶる姿がなんだか本当にかわいくて。
優しく抱きしめて、耳に口づけしながら香が何よりも一番喜ぶ言葉を囁く。
ー愛してるー
喜びに潤む目。今その目をしないでくれ。これからまた酷い事すんだから…。
ーどうか壊れないでくれー
そんな事を祈りながら、なるべく痛くないようにゆっくりと香に己自身を突き進めた。
「 …!っ…ぁっ!」
痛みの声を堪える香をよそに、俺自身ときたら少しの侵入だけで快感に打ちひしがれていた。
…やばい。俺、本気で愛した女を抱いた事なかった…。
本当の愛情と欲望が一緒になった快感は、今まで味わったものとは全く違う。
体の底から愛おしさと快感が混じり合わさって、香に向けて流し込んでいるような気になった。
「りょ…っ! っはぁ…んっ…」
俺を呼ぶ声にどうしようもないせつなさを覚える。
初めて行為を知った少年のように、目の前にいる女を抱きしめずにはいられない。
いやらしく体を眺めながら突き動かすような事、できない。
壊しているのに壊れてほしくなくて…胸に香をかき抱いた。
それに答えるように、香も俺の背に手を回して懸命にしがみついてくる。
ゆっくり、ゆっくりと奥まで突き当たって、苦痛に歪む香に平気かと声をかける。
「ん…っ… だ、いじょぶ…。」
そんなに食いしばって涙を滲ませて言っても、信憑性ゼロだって。
やめてやりたい、引き抜いてやりたいけど。もう無理。
重なって響く鼓動に耳を済ませながら香の中に入ったまま、動かないでいる。
俺の血液が流れ込む度に、全てを呑み込みたいとでもいうようにギチと締め上げられた。
…やばいな…。気持ちよすぎだ。
恐る恐る腰を引いてみると、グチョと厭らしい音と纏わりつく感触に
全身から刹那さが一点に集まっていくのを感じて、全ての感情が麻痺する。
「っい!…はぁんっ!んぁっ あぁっ…!!!」
ごめん香、無理だ。
悲鳴を聞くのが怖くて、唇で口を塞いで舌を吸い上げて、唾液を注ぎ込んでどうにかその声が聞こえないようにと願う。
制御を忘れた体を本能のままに突き動かして。
…そのまま果てた。
……?
はやっ!!!っ俺はやっ!!!!
大きさと回数で新宿の種馬の異名を持つ俺が…※速さまでっ種馬レベルに…
(※僚ちゃん豆知識:馬の交配は約30秒で終了します)
これが当たり前なのかな、と思う。
そう、こいつは特別な女なんだから、他の女と違うのは当たり前だ。
目の前でぐたりと、切なげに息をついている香を抱きしめて甘い髪の匂いを吸い込む。
むくりと頭もたげる愛棒と供に…。
…うむ。やっぱり俺は種馬だな…。
散々、僚に抱かれて気づけば部屋に夕日が差し込んでいた。
確かに望んだのはアタシだけど、体中の痛みに後悔を覚える。
でも僚の満足気な表情で眠るのを見て暖かい気持で一杯になった。
それでも限度ってものがあるわよねー。依頼人と待ち合わせだってあるのに…ん?
「…んあっ!!僚起きて!依頼…依頼人との待ち合わせ!」
「んーボキちゃんまだ寝るぅ〜」
「…冗談じゃないっ。今月はピンチなのよ!!」
枕を抱えてぐずる僚をたたき起こして、待ち合わせ場所のキャッツアイに急いだ。
店にいると…やっぱいないか。当たり前よね。待ち合わせは午前中だもの…。
あぁ…。今月の食費が飛んでいった…。
ガックリきてカウンターに顔を埋めて、顔を上げると美樹さんに右の首筋を指差されていた。
「ねぇねぇ香さん、あたしこんな所にキスマークつけたっけ?」
ぬぁっ!僚ってばこんな目立つところに…!!!
「…いっ?いやっこれは虫刺され…って……美樹さんっ!!?」
「あれ、覚えてないの?ホストクラブで王様ゲームやってー
あたしが香さんにキスマークつけるって事になったじゃない。」
「 …… 」
と、時が止まった。
僚は口に含んでたコーヒーを忘れて開口しきってる。
「は、はしたないっ!!」
「いいじゃない。ホスト相手にしたわけでもないのに〜。ファルコンってば、香さん相手に妬いてるの〜?」
「じゃぁっもしかしてアタシがホテルにいたのも…!?」
「香さん酔っ払っちゃって寝ちゃうんだもの。女一人で家まで運ぶの無理でしょ〜?
冴羽さんには、焼きもちやかそうとちょっとからかったら慌てて店出ていくんだもの。
あの後、何処いったの?…ってあれ?」
そのせいで、二人が修羅場を迎えていた事もしらないで…
僚はとなりでコーヒーをたらしたまま口をパクパクとしてる。
美樹さんはただならぬ空気にキョトンとしてから誤魔化すようにアハハと笑った。
思わぬ犯人の登場に、脱力しきって二人で店を後にした。
「それにしても香さんってお酒強いのねぇ…冴羽さんより強いかもv」
「っみ、美樹お前まさか…!」
「スピリタスボトル一本混入させてやっと潰れてくれたのよ?すごいわよねぇ」
「…。」
美樹さんと海坊主さんがこんな会話をしているのもアタシ達は知るすべもなく…。