夢幻の可能性


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side-R

お前と離れてもうどの位になるのだろう。
どこで何をしていても、何を見ても、何を聞いても、お前の顔が思い浮かぶんだ。
我ながら女々しいと思う。
もう3年も経つっていうのにな。

お前には幸せになってもらいたいんだ。
…それだけを俺は願ってるよ。

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奥多摩での一件以来、香には簡単な護身術から射撃訓練、ある程度の裏社会における
知識を教え込んでいた。
もう手放すことが出来ないのなら、一緒に生きる為には香を裏の色に染めてしまう事になる。
香はそれを微笑んで受け入れた。
だが…お前は本当の闇を知らない。知らないからそんな風に簡単に受け入れられるのだ。
一度闇の中に落ちてしまえば、もう抜け出すことは出来ない。
無知ゆえの無邪気さ。
それに救われてもいたが、歯痒くもあった。

そして初めてお前を抱いた時―
俺に貫かれながら涙を零した香。
必死で俺にしがみ付いてくる香。
身体中全部が香という存在で満たされる。
足りなかった部分が満たされる、今まで感じたことの無い感覚。
それは快楽をもたらした後、強い恐怖心へと変わっていった。
この幻のような時間はいつまで続く?…夢はいつか覚めるものだ。

事が終わった後、まだ瞳を潤ませたまま、
「あたし、もっとリョウのパートナーに相応しくなれるように頑張るから。
2人でシティーハンターだもんね。だから、…だからどこにも行かないで。ずっと一緒よ」
そう言ったお前は、俺がいつかこうすることを予感していたのだろうか。



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あの日、俺は新たに台頭してきた海外麻薬シンジケートの壊滅、
という冴子からの依頼を受けていた。
敵の規模から判断して、まだ早いと考え香は同行させなかった。
同業者としておかしな話だと思うが、海坊主や美樹ちゃん、
ミック達が香のことは任せろと言ってくれた。
香はなかなか納得してくれなかったが、状況をきちんと説明し、
必ず帰ってくるからとキスを一つ落とすと、
紅い頬で「誤魔化されないんだから」と呟いて大人しくなった。
「帰ってきたらもっとたくさんキスしてやるよ。すっげー濃い奴」
「結構です」
「遠慮しちゃって、香ちゃんたら〜」
「してませんっ。…でも、早く帰ってきてね」
あの頃の俺は柄にも無く浮かれていたのかもしれない。
似合わない幸福という幻に魅せられていた。
それが油断を招いた。
最後の敵が敗北を悟り、倉庫街ごとの自爆を図ったのだ。
俺は必死に脱出を試みたが、激しい熱風に吹き飛ばされ、そこで意識を失った。

**********************

俺が目を覚ますとそこは、薬品臭い部屋のベッドの上だった。
狭い部屋に押し込められた医療機器の数々。
どうやらここは正規の医療機関ではないようだ。
身体を動かしたいのだが、身体がいうことを聞いてくれない。
こりゃあ重傷だな、と人事のように考えていると部屋の外から足音か近づいてくるのが聞こえた。
神経を研ぎ澄ませるも、身体が動かないのでどうしようもない。
ドアノブを回す音がする。
「やれやれ、やっとお目覚めか」

**********************

どうやら俺は3ヵ月も眠っていたらしい。
「驚いたぜ、リョウ。あんな所でお前が血まみれで倒れてるんだもんな」
俺を拾って治療してくれたのは、中米にいた頃教授の下にいた軍医リチャードだった。
年は俺より一回り以上上だったが、よき話し相手でもあった。
こんな所で再会するとは思わなかったよ、と笑うリチャードは今、
俺が3ヶ月前(になるらしい)ぶっ潰した組織の反対勢力で専属医をしているという。
「お前も一丁前になったもんだ。俺も老けるはずだわな。
…カイバラの事は風の噂に聞いたよ。お前とカイバラは、本当にソックリな親子のようだった」
俺が何も答えずにいると、リチャードは話を替え、
「お前、今はニホンに落ち着いてるらしいな。教授はどうしてる?」
「相変わらずだよ。ピンピンしてる」
「ははは。そうか…それはそうと、お前の今のパートナーはなかなかいい女らしいじゃないか」
どこからの噂か知らないが、リチャードはなかなか情報通らしい。
「怖ーい暴力女だよ」
リチャードはニヤニヤすると、
「…お前、良くなったよ。顔つきが穏やかになった。幸せなんだな」

それは俺が香を抱いてからずっと心に引っかかっている事だった。
それでスイーパーとしてやっていけるのか。
自分が傷つこうが死のうが構わないが、生温い幸せに浸かりきってしまった心で香を守り通せるのか。
一瞬の判断が生死を分ける世界だ。今回のようにミスを犯せば即死に繋がる。
…怖いのだ。香という幻を失ってしまうのが。
いつか覚める夢ならば。
ここら辺が潮時なんじゃないだろうか。

「リチャード、迷惑かけついでに頼まれてくれないか」



*************************

冴羽リョウは死んだ。

裏社会にこんな情報が流れ、急速に広まった。
すぐに新宿まで届くだろう。
あいつは俺を待っているんじゃないだろうか。泣いているんじゃないだろうか。
だが、どれだけ時間がかかっても、香ならいつか立ち直れる。
そして俺の事など忘れて、まっとうな男と結婚して、子供を生んで、幸せになってくれ。
お前にはそういう幸せが似合ってる。
俺みたいな男に縛られていい女じゃない。
俺は、お前が持っていた無限の可能性を片っ端から撃ち抜いてきた。
何度もお前に期待だけさせて、待たせて、泣かせて、苦しませて。
手を繋いで街を歩くカップルや、公園で楽しそうに遊ぶ親子をお前が見つめていた時、
俺は内心怖くて仕方なかった。俺が与えてやれないものばかりだったから。
いつも軽口を叩いてお前を傷つけた。
俺にはお前からもらっただけの幸せを、お前に返してやることも出来ない。
お前を幸せにしてやれる方法が、これしか見つからないんだ。

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「本当に良かったのか、リョウ」
「ああ、これでいいんだ。リチャード、世話になったな」
「なに、昔のよしみだ」

怪我のリハビリに思った以上に時間を取られ、リチャードのもとを離れたのはあの依頼から――
香と離れてから10ヶ月が過ぎた頃だった。
もう帰る場所などない。昔のように世界各地をふらふらするだけだ。
適当に仕事をこなし、適当な女を抱き、怠惰な生活を送る。
ふとした瞬間に香との記憶が甦って来る。
思い出すと何かが壊れそうな気がして、アルコールで自分を誤魔化す。
自分から勝手に離れたくせに、女々しい男だ。

そして1年過ぎ、2年が過ぎた。


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side-K
ねえ、リョウ?死んだなんて嘘よね?
いつもみたいになんでもないような顔して、ひょっこり帰ってくるんでしょ?
そしたらあたしもなんでもないような顔して「おかえり」って言うから
ねえ、早く帰ってきてよ…

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あの日、麻薬シンジケートを潰すという依頼を受けて海外へ行ったリョウは、
予定していた日になっても帰ってこなかった。
次の日も、その次の日も、いつまで経っても帰ってこなくて、不安で眠れない日々が続いた。
海坊主さんも美樹さんも、ミックも皆私の身体を心配してくれたけど、
いつリョウが戻ってくるかわからないもの。ちゃんとおかえりって迎えてあげたい。

…でもリョウは1ヵ月経っても、2カ月経っても戻ってこなかった。

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海坊主さんやミック達が裏の情報を、冴子さんが表からの情報をいろいろ調べてくれたけれど、
分かったのはリョウは組織を壊滅させるのには成功したということ、
組織が使っていた倉庫街一帯が激しい爆発で吹き飛んだということくらいだった。
リョウの安否は依然として分からないまま、3ヶ月が過ぎた。

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冴羽リョウは死んだ。

そんな噂が新宿に流れてきた。
嘘でしょ?ねえ、リョウ…だってリョウが死ぬわけないじゃない、帰ってくるって言ったじゃない

あたしの中で張り詰めていたものが音を立てて壊れていった。
皆が遠くで何か言ってる。
あたしの意識はそこで途切れた。

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倒れてしまったらしいあたしは、教授の家で精密検査を受けた。
此処のところずっと体調が良くなかったのは確かだったけど、
リョウに会ったらきっと治っちゃうから、だから早く帰ってきて。
あたしの心の中はぐちゃぐちゃだった。

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検査の結果、あたしは妊娠していることが分かった。
お腹の中に新しい命が宿っている。リョウとあたしの遺伝子を受け継いだ子。
周りの皆は大喜びしてくれた。
でも、皆リョウの生死の話には触れないようにしている。
あたしを気遣ってくれている。
…あたしは強くならなくちゃいけない。リョウにそう約束したもの。
この子をちゃんと育ててみせる。

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リョウがいなくなって3年が過ぎた。
リョウがいないのに、朝はやって来て、夜になって、夏が終わって、街は変わらず目まぐるしく動いている。
日に日に成長していく子供はとても可愛い。
この子がいなければとてもあたしは生きていられなかったと思う。
この子の成長を見守ることが今のあたしの生きがいだった。


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side-R

香と離れて3年が過ぎた。
相変わらず堕落した生活を送っている。
普段は日付など気にも留めないが、毎年3月になるとどこか落ち着かない自分がいる。
親友の顔が浮かんでくる。
香、お前は今幸せにやっているんだろうか?

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3月26日。
3年ぶりに日本に来た。
香に姿を見せる気は無い。
俺は死んだ事になっている人間なのだ(元々そうなのだが)。

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日本へ来たのは墓参りをする為だけだったから、俺は誰かに見つからないうちに
早く目的地へ行こうと車を走らせていた。
新宿近辺に差し掛かる。
正直なところ、香のことを全く考えていなかったと言えば嘘になる。
勝手に突き放したくせに、遠くから姿だけでも見たいと願っている。
身勝手な自分に吐き気がした。

信号で停まる。
相変わらずの人混みだ。だが、ふと一組の親子連れが目に入った…


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その親子は歩道の人の流れを避け、脇に寄って楽しそうに話していた。
まだ小さくて、父親の周りをちょろりょろして構ってもらっている子供。
それを見守る、女性にしては長身の、優しい笑顔の母親。
見間違える筈が無い。






…………香。幸せになったんだな。
穏やかな日常、暖かな家族。
俺が絶対に与えてやれなかったもの。
…これが俺の願った事だ…

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槇村の墓を訪ねる。…すまない、槇村。
俺は最低の形で香を突き放してしまった。
だが香は今幸せに暮らしている。
表の世界で幸せに…

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side-K

今日はアニキの命日。
毎年リョウと一緒にアニキのお墓を訪ねて来たけれど、今はこの子が一緒だ。
アニキ、…リョウ。この子、こんなに大きくなったのよ。

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墓地に向かって子供と歩いていると、キャッツアイの常連さんと偶然出会った。
海坊主さんたちの好意で時々アルバイトさせてもらっているから、何人か顔馴染みのお客さんもいる。
彼もその一人だった。
あたしが一人で子供を育てている事を知って、時々子供の面倒を見てくれたりする。
告白されたけれど、あたしはリョウのことが忘れられないからお断りした。
じゃあお友達でも構いませんから、と彼は言ってくれた。

明るくて優しくて、子供もよく懐いている、とても良い人。
皆はお付き合いしたら良いのに、って言うけれど、
あたしはどうしても、リョウがいつか帰ってくると信じていたい。
リョウでなければ駄目なのだ。

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墓地に着いた。
子供は興味深々であちこち騒ぎたがるのを宥めながら歩く。





―――――え?
…アニキのお墓の前に、誰かがいる。あの後ろ姿は…


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「リョウ!リョウなんでしょう!?…ねえっ!」
あたしは子供を抱き上げて走った。
リョウが驚いた顔をする。
そういえばリョウの驚いた顔なんてあんまり見た事なかったな、と頭の片隅で思う。
リョウが逃げようとしたけれど、
もうあたしはリョウの服の裾を掴んで握り締めていた。
「…リョウ!リョウっ!」
混乱してただ名前を呼ぶ事しか出来ないあたしに、黙ったままのリョウ。
「怪我とかしてないの!?…今までどこにいたの!?どうして帰って来なかったの!?」

「…お願いだから、何か言ってよ!もうどこにも行かないで…!ずっと待ってたんだからあっ!」

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「…香」
3年ぶりに聞くリョウの声。
あたしを呼ぶ声。


「………俺は…お前と一緒にいる事は出来ない」

「なんで!?どうして!?」

「…パートナーは解消だ」


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side-R

俺の事をずっと待っていたという香。
それに喜びを感じる俺は、最低な男なんだろう。

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「嫌よ!ちゃんと話して!分かるように説明して!」

「…お前は表の世界で幸せになるべきなんだ」

「何今更勝手に訳わかんないこと言ってるのよ!表の世界とかそんなのいらない!
2人でシティーハンターだって言ってくれたじゃない!!!」

「…俺みたいな汚れた男と一緒にいてお前にいいことは一つもない」

「俺みたいなってそんなこと言わないで!あたしは!…あたしはあんたじゃなきゃ駄目なの!
ぐーたらで女に見境無くてすぐビラ配りサボって口が悪くてナンパばっかして
何でもすぐ一人で抱え込んじゃってっ、誰よりも優しくてっ、あたしはっ、全部まとめて冴羽リョウ
ってひとが好きなの!!あんたが必要なの!一緒にいたいの!」

涙をぼろぼろ零しながらまくしたてる香。
…俺は。

俺は―――

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side-K

しゃくり上げながら喚いたあたしを、きょとんとしている子供ごと、
リョウが抱きしめてくれた。
ずっと、この瞬間を待ってたの。

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「どうして、お前は…本当に馬鹿だ」
「馬鹿って何よ!そういうあんたも馬鹿よ!
馬鹿同士でお似合いでしょ!だからっ、もうどっか行っちゃわないでよ…!」
リョウはとても苦しそうな顔をしている。
「…悪かった。…本当に、すまなかった」


「…ママー?」
リョウの腕の中で、子供がきょとんとしながらあたしたちを見ていた。

…この子のこと、リョウはまだ知らないんだ。
あたしとリョ――

「香、お前…その、なんだ、結婚してるんじゃあ、ないのか?」
「…は?」
「いや、さっきさ、偶然見ちまったんだ。お前と、この子と遊ぶ男」
「…え?」
一瞬何の事か分からなかったけど、すぐにリョウが誤解していると分かった。。

「違うわよ!あたしは結婚なんてしてませんっ!
 …それに!この子の父親はリョウなんだから!」

唖然とするリョウ。…そうよね。いきなり父親って言われても驚くわよね…

恐る恐る子供の顔を覗き込むリョウ。
子供はけらけら楽しそうに笑ってる。
この子の顔を見ればすぐ分かる筈なのよ。

…だって、リョウそっくりなんだもの。

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その後キャッツに寄ると、店はもう大騒ぎになった。
自分の事の様に泣いて喜んでくれた美樹さんとかすみちゃん。
リョウは海坊主さんにさんざん殴られた後、ミックのダーツと冴子さんのナイフに磔にされ、
さらに麗華さんと唯香ちゃんに質問攻めの刑にされちゃった。いい気味よ。皆にたくさん心配掛けたんだから。

そして教授とかずえさんも駆けつけて、みんなでお祭り騒ぎ状態。
こんなに心の底から楽しかったのは久しぶりだわ。
素敵な仲間がいて、この子がいて、リョウがいて、凄く幸せ。

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3人でアパートに歩いて戻る。
子供は最初戸惑ったようだけど、あっという間にリョウと仲良くなった。今はリョウの肩車でご満悦だ。

食事を済ませ、入浴を済ませると、3人でリョウの部屋に行く。
(子供のベッドはリョウの部屋にあるのだ)
子供が寝付くと、自分のベッドでぼーっとしているリョウの隣に腰掛けた。
「久しぶりの我が家はどう?」
「…我が家、か」
「リョウの部屋、ちゃんと綺麗なままでしょう?一番丁寧に掃除してたんだから」
「布団からお前の匂いがする」
「…あ、リョウが居ない間私がずっと使ってたから…」
「…そうか」
なんだか会話がぎこちない。話したい事、聞きたい事はいっぱいあるのに。
ふと俯いていた顔を上げると、リョウが真剣な顔をしてあたしを見つめていた。

「…香」
「なあに?」
「…俺は、お前と出会ってから離れるまで、…ずっと怖かった。お前といる夢みたいな時間が終わった時の事を思うと、怖くて堪らなかった」
リョウが慎重に言葉を選んで話してくれているのが分かる。
「…お前にはたくさんの可能性があるはずなのに…俺みたいな先の見えない、薄汚れた男に関わったばかりに、
…お前にたくさん辛い思いをさせてきた」
聞いていられなくて、ぶんぶん首を振る。そんなこと言わないで。
「あたしはリョウと一緒にいて、辛いなんて感じた事ない。リョウがいなかった間の方が、辛くて苦しかったよ…」
「…香…俺は自信が無かった。俺はお前を幸せに出来るのか…お前に何がしてやれるのか。
あの時の俺は、お前を俺から解放してやるのがお前にとって一番の幸せだと思った」
「…だから、戻ってこなかったの?」
「…そうだ」

…なんかあたし、だんだん腹が立ってきたわ…
勝手にいなくなって、心配ばっか掛けて!
あたしは怒りの100トンハンマーを繰り出した(うーん、久しぶりだわ)。

「ぐええっ」
「ちょっとリョウ!耳の穴かっぽじってよーく聞きなさいよ!
あたしはあんたに幸せにしてもらおうなんて思ってないわよ!」
呆然とするリョウ。まったく間抜け顔だわ。
「あたしたち!パートナーでしょ!生きるも死ぬも一緒の、パートナー!
幸せだって一緒に作っていくもんでしょうが!それを何!?勝手にいなくなってっ!全くもう!
あたしの幸せは!あんたがいなきゃ始まらないんだから!
そりゃああたしだって怖いわよ!1度幸せを感じちゃったら、それがなくなるなんて考えたくない…
でも!その幸せを維持できるように努力することは出来るわ。
とにかく、あんたみたいな後ろ向き男には、あたしみたいなのがくっついてないと駄目なんだから!
…一緒に!一緒に幸せになるのよ!」
一気に言いたい事をまくしたてると、とってもすっきりした。
「リョウ!これ以上何か言いたい事はある!?…って、リョウ…?」

リョウは俯いてしまって、表情が見えない。…でもなんだか、肩が震えてない?
「…くくっ、あっはは…」
笑ってる?
「ちょっと、なにが可笑しいのよっ」
もう表情を隠さず笑い出すリョウ。
「…すげー女だよ、お前は。――――さすが、俺のパートナー殿だ」

その後は、2人で色んなことを語り合った。お互いずっと言えなかった事、離れていた間の事、子供の事。
思えば、向かい合って本音をぶつけ合うことなんてしたことなかったね。
なんだか初めて、ちゃんとリョウに近づけたような気がするの。

「あのさ、あの子、すごくリョウに懐いてたね」
「…自分のミニチュアみたいなのが、お前に甘やかされてるのを見るのはなんだか複雑な気分だ」
「ふふっ。じゃあ、リョウも甘やかしてあげようか」
「なーに言ってんだよ」
「…いいんだよ。」
「何が」
「リョウはもっとあたしに甘えてもいいんだよ。…あたしじゃ頼りないって思うかもしれないけど、
あたしだってちゃんと成長したのよ。『母は強し』っていうでしょ?あたし、リョウが
疲れたときには寄りかかっても大丈夫なくらいに、もっと強くなるから。見てなさいよ!」

リョウはなんでも一人で背負い込んでしまうから、私がそれをちょっとだけでも
軽くしてあげたいな、と思う。
あたしはリョウの、パートナーなんだから。
2人で、ううん、3人で、幸せをたくさん作ろう?

「そうだ、まだ言ってなかったね」
リョウが不思議そうな顔をする。
「…リョウ、お帰りなさい」

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side-R
「帰ってきたらキスしてくれるんでしょ?」
3年も前の約束を健気に覚えていた香。
一緒に幸せを作るんだと言った香。
いつまでもグズグズと逃げ続けた俺とは違って、お前はちゃんと前を見据えて歩いている。

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「今日は、あたしにさせてほしいの」
約束通りキスの雨を降らせると、とろんとした顔のまま香が言った。
「お前がする…っておいっ」
俺が意図を図りかねていると、なんと香は俺の着ている物ををいきなり脱がせにかかった。
「おい、香…どうしたんだよ」
積極的なもっこりちゃんはそりゃあ大好きだが、3年前までの香は恥ずかしがってばかりで、
(それはそれで燃えたのだが)自分からキスをすることすら躊躇う奴だった。
「今日はあたしがリョウを気持ちよくしてあげるの」
一体どうしちまったんだ。…まあこれはこれで楽しいのでされるがままになる事にする。
上着を脱がされ、ヘッドボードに上半身を預ける。
香の眼は真剣そのもので、まるで戦いを挑むように気合が入っていた。
苦笑していると勢いよくズボンとパンツを引きずり下ろされた。
眼に飛び込んできた息子に顔を赤らめる香。
「おーい、香ちゃん。俺だけすっぽんぽんなのに香ちゃんだけ服着てるなんてずるいなあ」
「う、うるさいわねっ。こっちにも順番があるのよっ」
…何の順番だ。などと考えていると、いきなり息子が生暖かい物に包まれた。
「おいっ、香」
真っ赤な顔の香が、俺自身の先端に吸い付き、口に含んで舐め回したのだ。
それだけでは終わらず、頭を上下に動かして扱き始めた。
時折、鈴口を舌先で突かれると、目の前がくらくらする。
添えた手で付け根や袋を撫でることまでした。。
堪らない射精感が込み上げるが、眉間にしわを寄せつつぐっと堪える。

すると香は涙目になりながら、俺のを銜えたまま、上目遣いで、とんでもないことを聞いてきやがった。
「きもひよくない?」
咥えたまま喋んな!
そりゃあテクはどこかぎこちなくて稚拙なのだが、それをしているのが香だというのが重要なのだ。
すげー気持ちいい。だがそれを素直に伝える事ができずに黙っていると、
香は俺のから唇を離してしまった。透明な糸が俺たちを繋いでいる。
そして伏し目がちになった香は、またまたとんでもない発言をしやがった。
「ちゃんと出来るように勉強したんだけどな…」
勉強?…まさか実地でお勉強か?
結婚はしていないと言っていたが、こんなにいい女に男が寄って来ない筈が無い。
3年も勝手に香を突き放したくせに、他の男と幸せになれと思っていたはずなのに、
この存在を欲しいままにした男が他にいると思うと、激しい嫉妬心が沸いてくる。

「…香、もう1回銜えろよ」
「…ん。」
「もっと奥まで銜えて、唇で扱け」
「んっ」
従順な香に何だか堪らない気持ちになる。他の男にもこんな風にしてやったのか?
俺は香の頭を掴むと、無理矢理上下に動かした。
「んーっ、んっ、ん」
苦しそうな香。綺麗な眉を顰めて、涙を零す。
「…出すぞ」
香の口の中で果てた。
「…はあっ、は…っ、けほっ」
唇の端から白いものを垂らしながら、苦しそうに息をしながら、
それでも香はまっすぐ俺を見つめた。
俺と眼を合わせたまま、見せ付けるように着ているものを脱ぎだす。
生まれたままの姿になって、唇の端に付いたものを妖艶に舐めとる香。
こいつは本当に俺の知っている香なんだろうか?


香はもう一度俺を口に含んで扱く。
それはすぐに硬さを取り戻した。
そして無言のまま、香は俺に跨って、自らの秘部に俺を擦り付けた。
香のそこは充分に濡れそぼっていて、熱く俺を包もうとする。
俺の肩に両手を掛けると、香はゆっくりと俺を呑み込み始めた。
涙と俺のものにまみれて紅潮した頬で、時折熱い吐息を漏らす香の動きが
ひどくじれったくて、俺は腰を突き上げた。
「ああっ!…んぅっ、リョウは、動いちゃ駄目…あたしが、するの…」
なんでだよ。…前の男は香に奉仕させるのが趣味だったってわけか。
面白くない。俺は香の肩を掴むと、いきなり落として突き刺した。
激しく腰を突き上げる。
「ああん!あっ、んっ、はあっ、だめぇ!ゃっ」
もう我慢なんぞ出来ない。俺に跨っていた香を押し倒し、今度は上から
香の中をめちゃくちゃに突く。
「いやぁっ!だめなのっ、んっ、っっあんっ」
香は声を殺すために自分の指を噛み出した。
「んぅ…ん!っう!」
熱い吐息が漏れる。感じてるんだろう?
それなのに俺を拒むかのように時折首を大きく振る。
それが許せなくて、香の口から指を外し、1本1本丁寧にしゃぶってやった。
もちろんもう片方の手も押さえつける。声を抑えるもののなくなった香はぼろぼろ泣き出した。

「もっと滅茶苦茶にヨくしてやるよ。前の男のことなんか忘れちまうくらいに」
腰の動きを早める。香の悲鳴のような嬌声が聞こえた。
さらに両手を一纏めにして押さえると、香の全身を愛撫する。
綺麗な形の乳房、くびれたウエスト、何より俺を締め付けて離さない秘部は、
子供を1人生んだとは思えない程、3年前と変わらない。
「ああっ!あん、あん、っ、りょ、んぅ、はあんっ」
繋がった場所からぐちゃぐちゃと卑猥な音がする。
「いやっ、だめ!おかしく、なりそ…」
「なっちまえよ」
無理矢理に腰を進める。香の身体がびくんと跳ねた。
最奥を深く抉るように何度も突くと、香は声にならない声をあげて締め付けを強めた。眼の焦点が合っていない。
俺も限界に近づいてきた。
香の中に限界まで押し入って強く抱きしめる。
「…!」
唇を塞いで、香の吐息を呑み込んで、俺の唾液も精液も思いも香の中に流し込んで、お互いの体液にまみれて達した。

気を失ってしまった香を抱きしめたまましばらくじっとしていた。ずっと離したくない。
…お、ようやく香が目覚めたらしい…っておい!

ドッカーンと、3年ぶり2発目のハンマーが炸裂した…何故だ。

「変態、嫌って言ったのに無理矢理あんなに滅茶苦茶にするなんてサイテー!
声出したら子供が起きちゃうから堪えてたのにっ!」

いや、喘ぎ声よりハンマー炸裂音とお前の怒鳴り声の方がヤバイと思うんだが…

「今日はあたしがリョウを気持ちよくしてあげるって言ったでしょ!
大体前の男って何の事よ!?…あんたまさかあたしが他の男とこういうことしてたって思ってるんじゃないでしょうね!
酷い!サイテー!あたし、リョウのことずっと待ってたのにっ。さっきのだって、リョウのコレクションで勉強したんだから!
それなのにあんたは…」

…俺のコレクションで勉強?

「俺のコレクションって…」
「あんたのやらしいスケベ本やらビデオに決まってるでしょ!大体あんたは部屋中あんなもんで埋め尽くして!
子供の教育に良くないでしょうが!」
「お前あれ捨ててなかったのか…?」

昔はあれ程捨てろだとか売って来いとか言ってただろう?

「…リョウの物、1つも捨てたりしてないよ。スケベ本だって、シャツだって靴下だってパンツだって、全部。
リョウは絶対戻ってくるって信じてたから。もし捨てちゃったりしたらさ、なんかもう2度とリョウが帰って来ないような気がしたんだ…」

でもやっぱりスケベ本は捨てても良かったかな、とわざと明るく笑うお前を、俺はただ抱きしめる事しか出来なかった。


「香、ごめんな…」
「リョウ…」
泣くのをを堪えて俺にしがみ付いてくる香。俺は最低な男だ。
香の為、と言いながらその実自分が傷付くのを恐れて逃げただけなのだ。
こんなに俺の事を想ってくれる女を3年も置き去りにしてしまった。


「ここにちゃんと仕舞ってあるんだ」
ヘッドボードの板を1枚外すと、エロ本とビデオがきちんと並べられている。
「子供に絶対見せないでよね!あんたみたいな色欲魔人になっちゃったら大変だわ」

…ん?几帳面に揃えられたビデオの奥に、何かあるぞ。
これは、これは…あの頃の俺がいつか香に使ってやろうと思っていたバイブだった…ははは。
「香ちゃん、これ見ちゃったのね…」
「…見ちゃったわよ…」
頬を赤らめる香。
「いや、これはだね香ちゃん、そうだ!今から実地で使い方を教えてあげようじゃないか」
「い、い、いいわよっ!」
「またまた〜遠慮しちゃって。もしかして使った事あるのかな香ちゃん」
「なっ、な、つ、使ってなんかっ」
何の気なしに聞いたのだが。おい。この反応は。香は真っ赤になって否定しているが、…分かり易い。
「だってっ、だってリョウがいなくて、1人で寂しくてどうしようもない時があって、それで…
でも、そんなのもういらないから、」

香は、本物の俺が欲しい、と言った。

***************************

その後はもちろん、張り切って御奉仕しまくってやった。
お互いに気の済むまで貪り合うと、香はぐったりと横たわったまま動かない。
俺も全身気だるくてしかたなかった。
このまま一眠りしようと、しっかり香を抱きしめる。
と、眠っていると思った香が小さく身じろぎした。
「悪い、起こしたか?」
「ううん…でも、もう、あんたの底なしの体力にはついてけないわ…
四捨五入したら四十のオジサンなのにねぇ…」
「オジサンいうな!それをいうならお前だって四捨五入したら三十のオバサンじゃねーか」
「…あんたそれ、世の中の三十代の女性を敵に回す発言よ…あたしはまだまだ若いんですから。
あんたの方こそ、四十のオジサンがナンパなんかしたってもうもてないわよーだ…」
まどろんだまま上手く回らない舌で憎まれ口を叩く香。
こんな時間がとても心地いい。
今日は、いつもの様に照れ隠しで軽口を叩いて怒らせるより、少し素直になってみようか。
「…いーんだよ、俺はたった一人の女にだけもててれば」
すると香は微笑んで、すうっと眠りに落ちた。

*******************************

「…んあー」
どうやら今度はチビのお目覚めのようだ。…もう朝か。
「ママー」
チビ用ベッドの上で、でっかい目をぱちぱちさせて香を呼んでいる。
香は当分目覚めそうにない。…どうすりゃいいんだ。
とりあえず近づいて抱き上げてみる。
するとチビはけたけたと笑い出した。
「…あー、香はまだ起きられねーんだ。えーと、…お前、メシか?トイレか?」
子供を育てた経験なんぞありゃあしない。
困り果てていると、チビは「ママ、ママー」と香の方へぶんぶん手を振り回した。
どうやら香の傍に行きたいらしい。
眠っている香の隣に降ろしてやる。
チビは「ママ、ねるのー」と香の隣でころんと横になると、反対側にいた俺の手を
ペタペタ触りだした。
俺と香の遺伝子を持った子供。
小さな両手が、俺の指を一生懸命に掴む。
チビはそのまま寝入ってしまった。
掴まれたままの指先から伝わるぬくもり。
「3人でたくさん幸せをつくろうね」と香は言った。
あどけない2人の寝顔を見つめた俺は、その中に、永遠に消えない幻を見た。

ふわふわと落ち着かない、暖かな感覚。
今の俺なら、この感覚を素直に受け入れることが出来る。
幸せに怯えることなく溺れ、それでも両足をしっかり地につけていられるだけの強さを、
…家族を守れる強さを、俺は手に入れたのだ。

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