w.

winter sleep





































































































事の始まりは、侍がアジトの居間に大抱えに持ち込んだ、大きな荷物だった。
「何だそれは」
一人きり、ソファに寝転がっていた黒猫次元はむくりと起き上がると、得体の知れないそれに興味津々で寄ってくる。
「少し待っていろ」
五ェ門は笑いながら、自分の手元を覗き込む黒猫を傍らに座らせ、瞬く間に板状のそれを組み立てた。
床に薄く大きな布を敷き、その中央に低い卓状のそれをセットする。そしてもう一枚その上に今度は柔らかな布団を掛けると、それを落ち着けるようにさらに板を置いた。卓状のそれから伸びるコードのプラグをコンセントに差し込み、コードの中程のスイッチをかちりと押した。
「出来たぞ」
五ェ門が振り返る。だが黒猫次元は首を傾げるばかり。
その様子に笑いながら、五ェ門は卓の上に掛けたやわらかな布団を捲ってみせた。オレンジ色の光が、そこから溢れた。
「へえ・・・・・・」
黒猫次元は吸い寄せられるように、おずおずとその光に近づいていった。










黒猫次元の冬ごもり









「・・・何やってんだ、お前ら」
戻ってきた世界一の怪盗は、自分がおらぬほんの少しの間に、アジトがなにやら奇妙な状態になっているのを発見した。
ここはフランス、当り前のように洋風の居間の真ん中には、何故かこたつが鎮座ましましている。
卓状のその物体に首まで入った彼の愛猫は、とろんとした目で彼を見上げた。そして彼の主を見つけて慌ててその中から飛び出してくる。
(いつもだったらすぐに気付いて表まで出迎えに来るくせに・・・)
ルパンはすこしむっとしながら、それでもそれを押し隠しながら黒猫次元に言った。
「いったい何なんだ、こいつは」
何故こんな物がここにあるのかを聞いたつもりだった。だが彼の黒猫は、彼の言葉をすこし違うふうに受け取ったようだった。
「へえ、お前でも知らないことがあるんだな」
「こたつは知ってるって。何でここにあるんだって聞いてるんだ」
言い返すが次元は腕組みしながら「意外だな」だの「ルパンがなあ・・・」などとぶつぶつ言っている。
(・・・聞いちゃいねえ)
ルパンはため息をついた。
「何やってんのよ、あんたたち────あら、おこたつじゃない」
ルパンの背後から、不二子がひょいと顔を出した。
いつもなら不二子のおとないには目くじらを立てる黒猫次元だが、今日ばかりは様子が違った。
「不二子も知ってたのか」
「そりゃあね」
「すげえな」
黒猫の不二子を見る視線も尊敬の眼差しだ。ルパンはさらに面白くない。
「五ェ門も知ってたんだ」
でしょうねえと頷く不二子。黒猫はさらに続けた。
「俺とルパンは知らなかった」
次元のまるい目がルパンに向いた。ルパンは不承不承頷く。
胡座をかいたその膝に、黒猫次元が伸し掛かる。ルパンの腰に抱きついて、硬い腹に頬を摺り寄せる。良いだけあまえ掛かると、上目遣いにルパンを見上げた。
「俺たち、おそろいだな」
黒猫は、嬉しそうに笑った。





「おそろいって、お前・・・」
不意を突かれたルパンが目をしばたたく。だが黒猫はニコニコと笑うばかりだ。
(・・・しょうがねえ奴)
ルパンは黒猫を抱き上げると膝の上に乗せた。次元は素直にルパンの腕の中、額を嬉しそうに主人の首筋に擦りつけた。
そんな一人と一匹に、呆れて不二子がため息を吐いた。
「バカップルここに極まれりってところかしら」
不二子の言葉、だが黒猫次元は少々別のところに食いついた。
「カカカカップルって何だ?!」
ルパンの膝から慌てて飛び降りた黒猫次元、頬を赤くしてばたばたと手足をばたつかせ喚いた。
「お、俺はルパン三世の相棒だぞ」
首を傾げた不二子が、空っとぼけて言葉を返す。
「愛猫?」
「相棒だ、あ・い・ぼ・う!」
いよいよ真っ赤になった次元が必死に怒鳴る。 ぎゃーぎゃー喚き合う二人を尻目に、五ェ門が言った。
「しかし猫はこたつが好きだとは思っていたが、ここまで喜ぶとはな」
「お前が持ち込んだのかよ」
「ああ先日、日本から持ち帰った」
「わざわざご苦労なこって」
ルパンが肩をすくめる。そのルパンを横目に、五ェ門は意味ありげな含み笑いをした。
「しかしお主、これからしばらく苦労することになるぞ」
「何がよ」
「いや何」
五ェ門はついにたまらず声を上げて笑う。
「猫はこたつでまるくなるのが冬の相場。あの次元といえど、お主と天秤にかけてもこたつを取る日々がしばらく続くことだろうよ」
「冗談はよせって」
ルパンは苦笑した。
確かに今日はめずらしく出迎えにも来ずこたつに夢中だったようだが、それは物珍しさも手伝ってのことだろう。
次元がルパンを粗略に扱うことなどあるはずがないし、いつもの気紛れを考えたって、明日には飽きてしまっても不思議はない。
そのときのルパンは、そんなふうに気楽に考えていた。










だが、五ェ門のこの「予言」は物の見事に的中し、ルパンはその冬、自分の恋人をいかにこの「恋敵」から引き剥がすかに苦労させられることとなるのだが────それはまた別の話。









end















Text top

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル