L.

love halation





































































































「飲もうぜ、兄弟・・・!」
その夜の次元は陽気だった。
アジトのリビングで、ルパンと五ェ門を引き留め、酒を片手に賑やかに浮かれ騒いだ。
程なくしてルパンが出掛けてしまったあとも、五ェ門を相手にはしゃぎ続けた。
まるでハレーションでも起こしているかのように、一種異様なほど。
自分でも、その自覚はあった。
だが、はしゃいでいないと、自分の中の意気地がくずおれてしまいそうだった。










love halation









クライベイビィ────泣き虫ジョニーが逝った。
いっぱしの殺し屋になりたくて、ことあるごとに次元に勝負を挑み、だがどうあっても殺し屋に向いていなかった、あのやさしい意気地なしが。





次元は空笑いをしながら、隣の五ェ門をこっそりと窺った。
侍は、遅くまで強引に酒に付き合わせる次元に文句を言うでもなく、ロングソファ、次元の傍らに端然と座している。
東洋の技で心身を鍛えぬいたこの男は、次元が魔に魅入られたのだと言った・・・





あるときを境に、ジョニーは変わった。敵味方関係なく撃ち殺す死神へと変貌した。
救世主と「契約」したのだと、ジョニーは言っていた。
そして、狙った標的は必ず撃つという、その「契約」を違え────ジョニーは死んだ。
冴えない眼鏡の中年の小男。
ジョニーを惑わし、死に至らしめたあの男は、次元が何発鉛玉をブチ込もうと、平然と立ち尽くしたままだった。
そして次元にも、「契約」を望むかと誘いかけた────





────ご用命の際は、是非。
────私は、どこのクロスロードにもいます。





「どうした?」
掛けられた声に、次元は我に返った。
気がつけば、五ェ門が心配げな表情で覗き込んでいた。
いつの間にか、黙り込んでしまっていたらしい。
「ああ・・・何でもねえ」
「次元、お主────」
杯をテーブルへと戻し、次元へと向いた五ェ門が、はっと視線を次元の背後に向ける。
「な・・・何だ?」
「──────」
振り返っても、窓の外、そこはただ闇。
五ェ門はしばらくじっとその暗闇を見つめていたが、やがて次元に向き直ると首を横に振った。
「いや・・・何でもない」
どう見ても、何でもないってことはねえだろう?!
次元の方へ向きはしたものの、いまも明らかに表の様子に気を配っている五ェ門のさまに、次元はソファの上で身をすくませた。
「安心しろ、大事ない」
五ェ門の目が、次元を安心させるかのようにやわらかく微笑む。
(嘘くせえ・・・)
そう思いつつも、その笑顔に背中を押されるように、次元は躊躇いがちに五ェ門に身をすり寄せた。
「次元・・・」
息を飲んだ五ェ門が、かすれた声で次元の名を呼ぶ。
その目を見ることも出来ず、次元は素知らぬ振りで視線を逸らした。
ふと触れた指を、そっと絡める。
こうして五ェ門に触れるのは、どのくらいぶりだろう。
懐かしいぬくもりに、泣きたいほどの安堵を覚える。





不意に五ェ門が立ち上がった。
「次元、そろそろ休んだ方が良い。明日に障る」
緩く触れ合っていただけの指は、あっさりと離れてしまう。
次元は思わず、目の前の袂をぎゅっと掴んだ。
「どうした?」
ふっと次元を振り返る、その五ェ門の黒々とした目から感情を窺うことは難しかった。
「もう少し・・・・・・」
五ェ門の視線が、あらためてちらりと窓の外に流れる。
「もう、大丈夫だとは思うのだが」
(────もう?!)
五ェ門の言葉に、次元の頬が引きつった。
もうってどういう意味だ、さっきまでは大丈夫じゃなかったってことなのか?!
しかも大丈夫だと“思う”って・・・大丈夫ってのは実は不確かなことなのか?!
次元は思わず五ェ門の腕にひしと縋りつく。
途端に、五ェ門の身体がびくりと強張った。
思わず見上げた次元に、五ェ門は何度か言い淀んだ末、躊躇いがちに言葉を紡いだ。
「・・・これ以上傍にいると、おそらくお主の望んでいないであろう事態になる」
望んでいない事態・・・?
次元は首をかしげた。五ェ門は切なげに微笑む。
「半年前のことを・・・もう忘れたか?」
(あ──────)
次元は頬をほのかに赤らめた。





半年前、五ェ門に抱かれた。
この純情な侍が何を血迷ってか、次元に惚れたと言い出したのだ。
事情が良く飲み込めぬまま、流されるように一度だけ関係を持った。
以来次元は、ふだんどおりに五ェ門に触れることさえ、出来なくなっていた。
こうして手に触れることさえ、懐かしいと感じるほどに。





「あれ以来、お主はずっと拙者と二人になることを避けてきた。疎まれることは承知の上だった、仕方がないと思ってきた。だが、このような素振りをされると────」





そうじゃない。五ェ門を疎む気持ちなどあるはずもない。
そう言おうとして、次元は言葉を詰まらせた。
なぜ避けたかなど、口が裂けても言えない。言えるはずもない。





あの夜、自分でも知らなかった自分自身を引きずり出された。
子供のように泣かされ、女のように喘がされた。
それでも嫌いにはなれなかった。だが、いまよりも惹かれてしまうのも怖かった。
これ以上、傍に近づくと困ったことになってしまう。自分が自分でなくなってしまう。





「今宵、これ以上ともに居ようと言うならば、拙者はお主に触れずにはいられなくなる────あの夜のように」





また、あの夜のようにされてしまう。
それは次元がこの半年のあいだ、最も恐れてきたことだった。
だがいまこのとき、五ェ門より頼りになる人間がいないのもたしかなのだ。
すべてを、そしておそらく魔をも断つことができる、玲瓏たる剣士。





「それでも、良いか?」
ひたりと、見据えられる。静かな声は、決然たる響きがあった。
次元は俯き、そしてちいさくつぶやいた。
「それでも────かまわねえ」
五ェ門は息を呑んだ。
そして次の瞬間次元は、ソファから掬い上げられるようにきつく抱きしめられた。










シャワーを浴びることも、服を自分で脱ぐことも許されなかった。
リビングから抱え上げられ、連れ込まれた五ェ門の居室のベッドの上で、次元は懸命に五ェ門の肩に手を掛けた。落ち着くまでのほんの少しの間が欲しかった。
だが、むしるように服を剥ぎ取られ、素肌の見えた先から唇が這う。
「あっ・・・」
脱がせかけられたままのシャツに腕を取られ、性急に伸し掛かってくる身体を押し留めることも叶わない。
思わず身をよじるが、そのたびに露になる肌に五ェ門の舌が執拗に這い回る。
煌々と点けられたままの室内灯のもとで、ただ為されるがままで。
次元の身がすくむ。羞恥と途惑いが言葉としてこぼれた。
「明かり・・・・・・」
「消したいのか?」
ふと顔を上げ、五ェ門が次元を見つめる、その意図を問うように。
次元は咄嗟に首を横に振った。あの十字路で、闇に飲まれかけた瞬間の恐怖にぶるりと身を震わせる。
だが瞬間、五ェ門の目に常とは違う興奮の色が走るのを見て、すぐに後悔した。
指や舌ばかりでなく、熱の篭った視線にまで煽られて、次元は荒らぐ息を押し殺しながらつぶやいた。
「やっぱり消してくれ・・・」
「駄目だ。お主を見ていたい」
上ずった声が、次元の言葉を言下に退ける。
その視線におかしくなりそうなのだと口にしそうになるが、こんなときでさえ次元の自尊心はそれを許さなかった。すぐに後悔するとわかっているのに。
言葉通り、五ェ門は次元の顔を見つめながら、指で次元の肌を探る。
半年前、ただひとたびの逢瀬を、五ェ門が忘れることはなかったらしい。
その指は的確に次元の弱みを煽り立ててゆく。
次元は必死に唇を噛み締めた。そうでなければ、みっともないほどの高い声をこらえることさえ出来ない。
不意に、口づけられた。
やわらかな唇に食まれ、噛み締めた唇がほどける。
さらりと清らかな舌が、次元の舌に絡みつく。唇を離すと、五ェ門が囁いた。
「噛むな。お主が苦しいだけだ」
だが────
次元は口を開きかけたが、どう言葉を継いでいいのかわからず、また視線を伏せた。
しかし五ェ門は次元の躊躇いなどとうに見通しているようだった。
「お主は無心でいれば良い。さすれば魔も退けられる」
五ェ門は苦く笑った。
「それでどのような姿を見せることになろうとも────それは拙者が勝手にしているだけのこと。お主に咎はないのだから・・・」
その笑顔に、胸が痛んだ。
次元は身体から力を抜くと、そっと目を閉じ、すべてを五ェ門に預けた。





「あっ・・・ああ・・・・・・」
あの清らかな口内に自身の雄を含まれ、きつく吸われる。
しなやかな指は、五ェ門が入り込もうと望む其処に潜り込み、ことさらに弱い箇所を執拗に撫で上げている。
「あっ、そ・・・こは、ヤバイ・・・・・・ああっ」
舌の動きに誘われるままにあっさりと、次元は五ェ門の口に自らを解き放った。
五ェ門が嚥下する音がことさら大きく聞こえる。次元はいたたまれなさにシーツに顔をうずめた。
だが、五ェ門はそんな次元に頓着する様子もない。
すぐに脚を開かされ、男の堅い身体が割り込んでくる。中に熱いものが押し入ってくる。
「──────!」
声もなく、次元の身体が痛みにたわむ。
五ェ門の手がなだめるように次元の髪を撫で、そしてすぐに動き始めた。
次元の身体がきつく強張る。
「もっと・・・ゆっくり・・・・・・ひ・・・っ!」
だが五ェ門は、頑なな次元の其処にこじ入れるように、強引に腰を突き動かす。
顔をしかめ、息を荒げ、汗をばたばたと吹きこぼしながら、次元の奥へと入り込む。
「手加減など・・・出来るか。幾月ぶりだと、思っている」
五ェ門の声は、いっそ腹立たしげな響きすらある。
「だって・・・・・・だってよぉ」
子供のように次元が泣いた。
「あまり、泣くな。もっと酷く・・・したくなってしまう」
その目に浮かぶ濃い欲の色に、次元は身をすくませた。
だが、それもいっときのことだった。
いつしか次元の泣き声に、知らずあまい響きが混じり始めた。
奥から湧き上がる疼きに、身体がわななき始める。
「あ・・・あ・・・・・・」
「次元・・・いいのか・・・?」
耳元に吹き込まれた五ェ門の言葉に、次元は堪らず身をよじる。
途端に中の男を締め付けてしまい、五ェ門が低く呻いた。
ならばと、五ェ門の指が次元の性器に絡みつく。
その動きにつれて、五ェ門の腰の動きも早くなる。
二人はすぐに、極みへと登りつめた。
五ェ門は中に入り込んだまま、放出に震える次元の身体を、きつく抱きしめた。
「次元────好きだ」
荒い息の狭間に囁かれた言葉。
その意味を考える間もなく、次元は自分を抱きすくめる男の背に手を回した。





息が整うころ、五ェ門が身体を起こした。
ぼんやりとする次元の目の前で、ベッドから滑り降りようとする。
次元は咄嗟に、まだ震えの残る指で、五ェ門の手に触れた。
五ェ門が振り返った。そしてそのまま次元の手を取る。
今度はその手を払われないことに、ほっと吐息がこぼれた。
手ぬぐいを取りに行くだけだと五ェ門は言った、まるで子供に言い含めるように。
「お主も汗くらい、拭いておきたいだろう?」
たしなめるような五ェ門の言葉。
だが次元は、力の入らない指を必死に五ェ門のそれに絡めた。
なぜかはわからないが、そうしていたかった。
きっと怖いからだと、ぼんやりとした意識でそう言い訳をして。
「仕方のない奴だ」
五ェ門は苦笑すると、また次元の横に戻った。そして次元を引き寄せる。
力ない身体は、なされるがままに五ェ門の腕の中に納まった。
「今夜は、ずっとこうしていてやるから」
その言葉に次元は安堵し、やがて眠りに落ちた。










ずいぶん無体な真似をしてしまった。
五ェ門は、疲れきって眠る思い人の頬をそっと撫でた。
明るく振舞っていても、今夜の次元が見えなきものの影に怯えていることくらい、すぐに知れた。
そうしたときに次元が頼ろうとしたのは自分だった。
そのことに五ェ門は、驚きと共に深い喜びを感じずにはいられなかった。





次元が自分を憎からず思っていることくらい、色事に通じていない五ェ門でさえわかる。
そもそもは、無理を承知で思いを告げた。
だがその後、自分に対する嫌悪ではなく、むしろ羞恥心から自分を遠ざけようとしているのだと気付いたときは、思わぬ成り行きに胸が躍った。
それは時間を掛ければ綻ぶであろう、花の蕾のようなものだったから。
そうした次元の身持ちの堅さも挙措に見られる恥じらいも、どちらも五ェ門にとっては好ましく感じられるものだ。





五ェ門は、ふと視線を窓の外に流した。夜の闇のほか、そこには何もない。





しかし五ェ門とて木石ではない。
ならばこうした機会を存分に利用したところで、そう責められるものではないだろう。
そう────ありもしない気配を、まるでそこにあるかの如きに振舞うくらいのことは。





(それにしても、怯える次元はことのほか愛らしかった・・・)
本人が聞いたら怒り心頭であろう言葉を、胸の内でそっと噛み締める。
今回のことは、次元にはたしかに気の毒なことだった。
だが、五ェ門にとっては少々趣が違った。





「うむ・・・思わぬ僥倖であった」





そう静かにつぶやくと五ェ門は、腕の中に眠る恋人をぎゅっと抱きしめた。
そしてふだんの彼らしくない、いささか人の悪い笑みを口元に浮かべたのだった。










end










Mル「CROSSROAD」ネタ。




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