M.

Midnight Crisis





































































































ミッドナイト・クライシス









ああ、いつもの夢だ。
腕の中にぬくもりを覚え、五ェ門は夢の中、嘆息をついた。
つれない思い人のおとないは、いつもこうした夢ばかりだ。
夢の中、彼の恋人は彼だけを見つめ、彼だけに微笑む。
それが現し世の彼でないことは知りつつも、五ェ門は、夢の彼に触れずにはいられなかった。
五ェ門の身体に重なる堅い痩身。
そして触れる、思いのほかやわらかい唇。
(次元──────)
狂おしい心のまま、その身体を掻き抱く。
その手が空を切るとは知っていても、そうせずにはいられない。
たとえ空蝉の如く、手にするのが彼の抜け殻であったとしても。
(────ん?)
違和感に、寝惚けたままの五ェ門の眉が寄る。
(感触が────ある)
確かめるより先に、感情が先走る。思わずきつく抱きしめると、腕の中の身体が小さく呻いた。
しかしすぐ、その腕はほどかれてしまう。
そのまま腹に感じる重み。
「──────?!」
いつもとは何かが違う。
五ェ門は飛び起きた。
「ああ、何だ。起きちまったのか」
だしぬけに無遠慮な声が響く。五ェ門はぎょっと目の前の黒い影に目を凝らした。
夜の闇に慣れた目が、ようやく像を結ぶ。
いつもどおりの安ホテルの一室、この狭苦しい部屋の大半を占めるベッドの上。
その鼻先が触れそうなほどのほんの間近。
次元が、五ェ門の身体にまたがったまま、にやりと笑った。
「な・・・何故、お主がここに」
何が起きているのかさっぱりわからない。
五ェ門は呆然と次元を見つめた。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、オレンジのシャツの釦を喉元から二つ三つ開けただけ、だがその下肢はすっかり衣服をほどき、裸になっている。
ごくりと、五ェ門の喉が鳴った。
「恋人に会いに来るのが、そんなに奇妙なことかい?」
笑みをかたどった唇が寄せられる。
するりと滑り込む薄い舌。彼の吸う、煙草の香りが口に広がる。
寝起きで反応の鈍い五ェ門を、煽るように、からかうように、次元の舌が五ェ門の口中を遊ぶ。
「────ん・・・」
ようやく舌を吸い返す。次元の息も上がる。
抱き寄せようと腕を伸ばすと、次元はするりと逃げる。
途惑う五ェ門にかまわず、次元は五ェ門の浴衣の裾を捲り上げると、下帯を緩めた。
そして兆しを見せる五ェ門の性器に指を絡めた。
「じ、次元、待て」
「待たねえよ」
くすりと笑うと、次元は五ェ門の下肢に身をかがめる。
二、三度手の中の雄を扱き上げると、それをいきなり口に含んだ。
「──────!」
止める間もなくねっとりと這わされる舌。
濡れた音が夜の闇に響く。
口をいっぱいに広げ、喉の奥まで五ェ門を咥えこみ、次元は懸命に首を動かしている。
五ェ門は歯を食いしばった。
気付けば、次元の指が、自らの其処を慣らしている。
目の前で、其処に入り込む指が二本へと増やされる。
その淫靡な光景に、五ェ門は息を呑んだ。
いきなり膨らんだそれに喉を突かれ、次元が低く呻いた。
やがて次元は顔を上げた。
そしてふたたび、五ェ門の腰にまたがる。
次元は息を吐き出すと、五ェ門の目の前でゆっくりと腰を落とした。
熱い内壁に包まれ、五ェ門も嘆息を漏らす。
自身の重みでいつもより深く飲み込んだ次元は、短く荒い息を繰り返す。
やがて馴染んだ頃合を見計らい、次元の腰が揺れ始めた。
五ェ門の堅さを味わうように上下に動き、そしてもどかしげに前後にも動き、五ェ門の鍛えられた下腹に自分の性器をこすりつける。
その姿は、五ェ門を煽るに充分な淫らさだった。
五ェ門は身体を反転させると、次元の身体をシーツに縫いとめた。
微かに目を見開く次元にかまう余裕もなく、腕の中の身体を激しく突き上げる。
「ああ・・・・・・っ」
高い声を上げ、弓なりに反る身体を抱きすくめ、何度も腰を叩きつける。
オレンジのシャツ越しの肌に噛み付き、身をすくませたところをさらに突き上げる。
安物のベッドがぎしぎしと音を立てた。
その音にも煽られるのか、次元は何度も首を振りながら、焦れたように身悶える。
シーツに身を擦り付けるようにもがきながら、ビクビクと身体を震わせた。
「ああ・・・・・・あっ、ああ・・・ん」
「いいか・・・・・・次元・・・?」
「あ、いい・・・いい・・・」
次元の性器に指を絡めれば、途端にさらに締め付けられた。
それを堪え、さらに腰を動かす。身体のぶつかり合う音が辺りに響く。
「あっ・・・もう」
行く、と切なげに次元が囁く。間をおかず、五ェ門の指が熱く濡れた。
それを待って、五ェ門も次元の内側に放った。
「・・・熱い・・・・・・」
次元は目を閉じたまま、ちいさくつぶやいた。
その頼りなげな声に、五ェ門はきつく恋人の身体を抱きしめると、激しく唇を吸い上げ、その吐息までも奪った。





唇が離れると、次元ははあと大きく息を吐いた。
さらに抱きしめようとする五ェ門の胸を押し返すと、さっさと身体を離してしまう。
「ごっそさん。上手くなったな、お前」
言いざま、するりとベッドから降り、次元はとっとと落ちていた下着を身に着けている。
その後姿には、後朝の情感を惜しもうという気持ちなど、これっぽっちもない。
「き・・・貴様という奴は」
次元はいつもこうだ。
情がないわけではないのだろうが、情緒というものにはてんで欠けていた。
五ェ門はどうにも感情の噛みあわないやるせなさに肩を落とす。
「ほら、行くぞ。早く準備しろよ」
手早く身支度を整えると、五ェ門を振り返る。侍は首を傾げた。
「マフィアのアジトへ800万ドル分捕りに行くんだが、手が足りなくてな」
ちょっとつきあえや。
夕涼みの散歩に誘うような気楽さで、次元が言う。
五ェ門は目を剥いた。
「何ゆえ拙者が・・・」
「俺が雇ったからさ。いま“賃金”を受け取ったろ?」
にやりと次元が笑う。
それがこのセックスのことを差すのだと気づいて、五ェ門はさっと頬を紅潮させた。
いまさらこの男に余情を期待しようなどという儚い夢は持たないにせよ、これはあまりの言い草ではないか。
五ェ門もさすがに腹を立てた。
「そ、そもそも押し売りではないか!」
「自分も楽しんだくせによく言うぜ」
だが、次元はそんな五ェ門の激昂なぞ、どこ吹く風だ。
「前払いだ。いい雇用主だろ、感謝されてもいいくらいだぜ」
あくまでも惚けた調子を崩さない次元に、五ェ門は返す言葉もなく、ただ苦虫を噛み潰すほかない。
ベッドから動こうとしない五ェ門に業を煮やしたか、次元がふと歩み寄る。
いつも器用に銃を操る指が、いまは五ェ門の浴衣に掛かり、そっと襟を直す。
そして耳に落とされる、切なげな囁き。
「・・・一緒に来てくれないのか?」
はっと次元を振り向いた。
だが目の前にはしてやったりの得意満面の笑顔。
(この男は────!)
五ェ門は真っ赤になった。
「声色を使いおって・・・!」
卑怯だと睨めば、次元は心外だと口を尖らす。
「泥棒に何言ってやがんだ」
ぎりと奥歯を噛むと、五ェ門は低く呻いた。
「泥棒の相棒、だろうが」
あてこすりに、次元が一瞬怯んだ。
珍しいその様子に溜飲が下がる。
だが、それは同時に苦い感情も五ェ門にもたらした。





どれほど恋うても、次元はその五ェ門の感情に、肉欲以上のものは認めようとはしない。それ以上の感情があってはならないと、まるで五ェ門に諭すように振舞う。
どれほど夜を重ねようと、その肌を知ろうと、それは最初の逢瀬から少しも変わることはなかった。
その癖、次元の魂はいつも相棒の元にある。
触れもせず、恋いもせず、ただ共に在る二つの魂。





「お前は・・・・・・いつか行っちまうじゃねえか」
感情の色のない、次元のつぶやき。
五ェ門ははっと恋人の顔を覗う。だがその静かな表情も、何ら五ェ門にその心を気取らせるものはなかった。
ルパンと次元と、こうして三人、共にいること。
それがかりそめのものだと、誰もがわかっていることだった。
まず敵として対峙した五ェ門が、いまは強い絆で結ばれているとしても、いずれ自らの行く道を見つけるであろうこと、その道がいずれ二人と別れたものになるであろうことは自明のことだった。別れは遠くない未来に確実に待ち受けている。
そして次元は────ルパンと共に行くのだろう。
五ェ門もそれでも、自分の道を行くほかないのだ。





「次元」
五ェ門は次元の腕を引いた。素直に腕の中に納まる身体を、五ェ門は折れよとばかりに抱きしめる。
そして、その耳元にそっとつぶやいた。
「────いつまでと、約束はできない。だが、少しでも長く、お主の傍にいる」
次元の顔が、五ェ門の肩口に伏せられる。
「・・・・・・ああ」
ひとたびきつく、ぎゅっと五ェ門にしがみついた手は、すぐに離れた。
そして顔を上げた次元は、もういつもどおり、五ェ門に隙を見せない、厄介な年上の男の顔に立ち戻る。
「行こうぜ、五ェ門」
今度は次元も穏やかに笑う。
「────ふん」
どうせ断れやしないのだ。こんな対価を貰わずとも。
五ェ門は目の前の唇に噛み付いた。
「んっ・・・」
次元の目が驚きに見開かれ、そしてすぐに閉じられた。
その舌を絡め取り、存分にむさぼる。次元の息が上がっても、容易に口づけをほどこうとはしない。
やがて肩に縋った指が、かりりと布越しの肌に爪を立てたのを戦利品と受け止め、五ェ門はようやく唇を離した。
次元は五ェ門にもたれ、手の甲で自分の唇を拭う。
そして顔を上げると、五ェ門の濡れた唇を指で拭ってやった。
その指を取って口づけると、五ェ門はやっと頷いた。
「わかった────行こう」










深夜、埠頭。
五ェ門はひとり車のベンチシートの真ん中に身を預けていた。
そこにルパンと次元、二人が駆け戻ってくる。
マフィアの偵察と、その車への小細工。仕事の準備にぬかりなし、というわけだ。
言葉を交わさずとも、二人は難なく目的をこなす。
相変わらずの水も漏らさぬ相棒同士、その姿を見せつけられて、五ェ門の機嫌は下降の一途をたどった。
まったく我ながら修行が足りない。そんな自分にも腹が立つ。
「おまたー・・・何だい、まだ怒ってるのかい?」
五ェ門の右隣に腰を下ろしたルパンが、不機嫌な侍の様子に首を傾げる。
「・・・寝ているところを起こされたのだ。機嫌がいいわけがないだろう」
「ほお。その怒りをマフィアの連中にぶつけてくれや」
五ェ門の左隣、運転席に滑り込んだ次元が、五ェ門の取り繕いに飄然と笑う。
「貴様が言うか・・・!」
「んー? どったの、五ェ門ちゃん」
押し殺した五ェ門の声を聞きとがめて、ルパンが身体ごと振り返った。
「・・・何でもない!」
言えるか、こんなこと。
まして────次元が一番に気を掛けている男になど。
むっつりと黙り込む五ェ門の視界に、肩をすくめる次元が写る。
どうせ見透かされているのだ、自分のつまらない焼きもちなど。
「とっとと出せ!」
腹立ち紛れに男の脛を蹴り上げれば、次元は声を上げて笑い、マフィアのアジトである倉庫に突っ込むべく、そのまま車を発進させた。










長い夜は、まだ終わりを見せない。










end










パースリ第34話「マンハッタン・クライシス」ネタ。




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