C.

Common Love





































































































ありふれた愛









帰る不二子を、ルパンが山荘の玄関先まで見送る。
彼の相棒は、自室に篭ったまま出てこようともしない。





「アレは放っておけよ」
三人でいたときの軽妙さが嘘のように、ルパンは低い声でつぶやいた。





彼の相棒が、奪った獲物をまるごと彼女に与えてしまうルパンに憤慨し、彼女を怒鳴り散らすのはいつものこと。
だが今日は、不二子も必要以上に彼との言い合いを楽しんでしまった。
それは気まぐれ、たぶん。





彼の相棒は、ルパンと不二子の間にある、暗黙の密約を知らない。
互いの野心のために、時に対峙し、時に協力しあう。
二人にしかわからない貸し借りは、こうしたかたちで清算される。
だがそれは、彼は知らなくてもよいことなのだ。
ルパンの持つ闇に、気づきもしない彼には。





「俺が適当に言いつくろっておくからよ。次に会うときにゃ、けろっとしてるさ」
まるで釘を刺すような言い草。
でも、それはどちらに?





「そうね。あなたがちょっとかまってあげれば、あの人、すぐ機嫌を直すんでしょうね」
皮肉を込めた言葉にも、世界一の怪盗はそ知らぬ顔で笑う。
「まあな。無欲で可愛い男だろ」
「そうかしら。私には世界で一番欲深く思えるわ」
不二子はルパンを振り返った。





「世界一自由な男の魂をがんじがらめに地上に縛りつけて、まだ足りないともがいている。これほど強欲なことが他にあるかしら」





「不二子」





立ち止まった、二人の視線が絡んだ。





かつては、この男とともに、どこまでも飛べると思っていた、空翔る鳥のように。
だが男は、彼と地上を歩くことを選んだ。
ありふれた、ただひとつのものと引き換えに。





「ルパン、私はあなたの轍は踏まない。私はただ一人で駆け抜けて見せるわ、天までだってね」





二階の窓辺に、ちらりと黒い影が見える。
見咎めた不二子の様子に気づいたルパンが、軽く肩をすくめて見せた。





不二子は微笑んだ。誰の目をも魅了するためにかたどられる、蠱惑的な笑みを浮かべた。
ルパンの首を引き寄せる。そして、抗うことのない男の、その頬にゆっくりと口づけた。
黒い影は弾かれたように室内にその姿を消した。





不二子は、手の中の指輪を目の前に翳した。
大粒のダイヤモンド、それは陽を浴びて、艶やかにきらめく。
「じゃあね、ルパン。この指輪、ありがたく頂戴するわ」
「へいへい」
ルパンは苦笑を浮かべた。頬についたままの、赤いルージュを拭おうともしない。
これもルパンにとっては、あの男の心をさらに絡め取るためのアイテムのひとつに過ぎないのだろう。
胸の片隅がかすかに軋んだ。
だが、不二子は笑みを浮かべたまま、ルパンに背を向けた。
それは彼女には必要のないものだ。
どれほど美しいものであろうとも、それがありふれたものであるというだけで、彼女にとっては何の価値のないものなのだから。





大事なのは、ルパンが彼女と対峙するときに見せる、あの禍々しいまでの狂気と野望。
それだけだ。





庭先に止めておいたバイクにまたがる。
ライダースーツのジッパーを下げると、胸の谷間に、手に入れたばかりのダイヤモンドを無造作にねじ込んだ。
その冷たい感触。それは彼女がこの世で一番愛するもの。





冷ややかな欲望を肌に受け、不二子はバイクのエンジンを掛けた。








end










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